連載:ECのマーケティング

第4回
ウェブリテイラーの成功要件

カードウェーブ:98.1(A1−04)


 お役所関係のEC実験も佳境に入っている。とはいえ日本の実験はモールを前提とした決済実験が多いので、世界のインターネットビジネスの流れの中では継子の様なものである。 決済ノウハウとモールノウハウが多少入手できたとしても、それがECの成功に寄与する確率は高くはないのだ。買いたいものがなければ決済システムの整備も猫に小判であるし、モールがウェブのビジネスモデルの主流となる可能性はこれまた高くはない。
 ウェブビジネスの成功要件はモールではなく個別の店のノウハウから得られつつあるというのが、世界のウェブビジネス関係者の常識である(と思う)。
そこで今回はウェブリテイラーの成功要件についてまとめてみた。



●ウェブリテイラーの10の成功要件

 筆者は情報サービス系は苦手で専らショッピングを専門に見ているので、以下は主にリテイラー(小売業)の成功要件である。

(1)売れるビジネスモデルの選定

 第一の条件はこれである。いかにすれば儲かるかのビジネスモデルが大分分かってきた。これは次のような順位である。

・一獲千金を狙う→インターネットオリジナルな技術・ソフト分野で大儲けする(残念ながら日本企業はほとんどかやの外である)
・規模のビジネスを目指す→マッチングビジネスを手がける(売ります、買いますの掲示板のようなもの:事例auto by tel)
・年商100億円クラスを目指す→大量在庫+検索システムを前提とするスーパーストア型専門店を開業する(アマゾンのようなもの:ただし適性商品は本、CD,ワイン、パソコン関連等サーチ&バイ型に限定される)。
・年商数千万円クラスを目指す→在庫数数十点だがニッチな専門商品、あるいはハイタッチな専門店を開業する

 今のところ3番目のスーパーストアが小売業でいえば売れる方程式である。このスーパーストア型の店と4番目のニッチあるいはハイタッチな専門店との間には、深い溝が存在する。この間をつなぐような業態がまだ生まれていない。というより存在しない。
 最近はあちらこちらで、「オンラインショッピング」や「ウェブリテイリング」に関する表彰システムが登場したが、この2つのモデルをごちゃごちゃにして表彰しているところが多くナンセンスである。


(2)売れるMDの選定

 第2の条件はマーチャンダイジングである。こと小売業に関する限り、ウェブ向きのMDは限定されている。

・最も向くもの→検索をいとわない商品群、あるいは大量在庫+検索が消費者利便につながる商品群
・次に向くもの→日常商圏では入手できない商品群、ウェブならではの商品群、個人仕様化を前提とする商品群

といった具合で、ウェブオリジナルの要素がやはり必要である。一頃「インターネットで背広を買った」というCMを某社が行っていたが、あれは大うそでウェブは背広の販売にはまだ向かない。カジュアルファッションはそこそこ売れるが、ハイファッション品は売れていない。ファッションが売れ始めなければマーケットは伸びないが、ウェブはまだファッション販売に耐えられるメディアではない。
 買っている方はこの原則にかなりのっとっているが、売っている方は無原則である。図はウェブリテイラーの扱い商品をあげたものだが、第1位はフード&ドリンクだ。一方買っている方の1位は書籍雑誌であり、そのミスマッチが目立つ。


(3)ローテク・ハイコンテンツ

 某紙でウェブ情報サービスの成功要件としてこの言葉が上がっていた。まったくもって言いえて妙なので盗用させて頂く。
 今の売れているウェブリテイラーのほとんどはローテク・ハイコンテンツである。あるいはローテク・ハイタッチといってもよい。要するに始めに商品、サービスありきで考えており、ハイテクの要素はそれが必要だと判断された場合のみに限定して利用されている。 ウェブの商品販売においてハイテクの要素は、双方向性、サーチプロセスといったより重要な条件に比べればはるかに位置づけは低い。
 ここでいうハイテクの要素とは、いわばマルチメディア特性とでも言い換えることが出来る。音、動画、3D等の要素であり、特にアイテム紹介画面での利用をさしている。結論からいえば、ウェブでは視聴のできるCD店より親切な検索システムを具備している店の方がはるかに売り上げは大きい。

 今のECプロジェクトの中には、静止画、動画等を比べどれが売り上げが大きいか、等の実験を行っているが、実験をするだけ無駄であろう。人がモノを買うということはどういうことなのかが分かっていない。言っておくが、日本では(アメリカでも)ラジオショッピングという不思議な通販で、真珠のネックレスがぼんぼん売れたりしているのだ。モノも見ないで、触りもしないでである。理由は簡単で「だって高嶋さんが勧めるのですもの」ということなのだ。高嶋さんとはラジオのパーソナリティのことである。人がモノを買うということはこういうことなのだ。今の日本の売り方は「ハイテク・ローコンテンツ」の見本である。


(4)双方向性の有効活用

 成功している店は双方向性を有効に活用している、という当たり前の結果に過ぎない。しかし双方向性の活用こそ店舗リテイリングやカタログリテイリングに比べたウェブリテイリングの本質でもある。
 圧倒的低コストかつバイネームでアプローチができることの優位さを、今の日本企業がどれだけ真剣に考えているのかは疑問である。
 双方向性といえば、電子DM、アンケート、クイズといったものばかりが重視され、いわば、販促や顧客情報収集に役立つものばかりに目が向きがちだ。しかし今やウェブアンケートの回収数は劇的に低下しつつある。双方向ではない一方的な情報収集にユーザーが嫌気を覚えてきたからだ。双方向であるということは情報の対等な交換であるという厳然たる認識が欠けているからだ。ちなみに双方向機能を重視したサイトの代表例のようなゴディバのサイトでは「あなたは我々のチョコレートのことを十分お知りになりましたね。それでは今度はあなたのことを教えて下さい」と書いてある。

 双方向性とは顧客サービスや顧客コミュニケーションの視点から柔軟に設計すべきで、それはお茶会、担当者別のヘルプデスク、FAQ、ファンレターの公開、オークション、書評、ご用聞き等様々に工夫出来る。まずは自社の商売にあった双方向性のコンセプトをきちんと設計すべきだ。


(5)サーチプロセス

 目的商品までの到達プロセスである。これが長いのが階層構造を有するウェブの欠点でもある。この工夫とは
・トップページでの近道の提供(検索、販促・イベントメニューの提示・・)
・明確な商品分類の設計
・すっきりしたかつ自由度の高いページナビゲーションの提供
・情報を読ませて退屈させない

等の事例がある。少なくとも2クリック、3ステップで目的商品に到達するようなページデザインを前提とすべきだろう。
はやりのone to oneもDM等直接的販促のみが重視されているが、サーチプロセスにおける工夫を手がけるべきである。


(6)トップページデザイン

 売れる店のトップページと売れない店のトップページには明らかな差がある。その条件とは

・文字の情報量が多い
・利用者別(サーファー、シーカー、リピーターといったニーズの異なる人たち)のナビゲーションの選択肢を提供している
・階層構造を活用し、トップページで豊富なイベント、プロモーションメニューを提案している(あのアマゾンのトップページイベントメニューは数十もある)
・アクション指示に向けてのアイコン・ボタン、コントロール盤等のデザインレベルが高く、かつ配置の工夫されている
・マルチメディア表現が必要不可欠なものに絞り込まれている

といった点である。トップページに妙なグラフィックやマルチメディア技術を盛り込むことがいかに無駄であるかが分かる。筆者勧めのトップページデザインはウエブの老舗、Internet Shopping NetworkやOnSaleのものである(図)。


(7)パワーショッパーの吸引

 パワーショッパーとは極めて目的意識の強いユーザー、あるいは店へのロイヤルティが高まったリピーターのことである。
これらのユーザーをいかに創出するかがウェブリテイリングの基本である。単なるサーファーやビギナー相手ではビジネスは成立しない。となるとこれはページデザインやマーチャンダイジング、プロモーションの設計にも影響してくる。ビギナー向けのこけおどかしの技術はどんどん姿を消し、結局はリピーターやシーカー(目的買いの人)向けの検索メニューが充実している店が増えている。
 アメリカのサイトにはウェブリテイリングとは「忙しい人向けのスマートな買い物」であると割り切って展開している店が多い。忙しいスマートショッパーの厚みが少ない日本との差もあるが、これがウェブリテイリングの本質でもある。この代表例はカタログビジネスの大手Spiegelのサイトが参考になる。


(8)顧客不満への配慮

 ウェブで成功していると言われているビジネスのほとんどがこの発想から出発していることは前回も取り上げた。既存の販売方法の時代性のなさ、嘘っぽさをいかに解消するかが創業の原点である。この最適の手段としてウェブが選択されているのだ。この点が日米の大きな差でもある。日本でも百貨店が運営するモールなども登場しているが、百貨店の持つ対面販売の嘘っぽさ、リーテイルエンターテイメントのレベルの低さを解消する仕上がりには全くなっていない。女性のウェブユーザーの間では中小企業のサイトの方がむしろ評判良いが、それも店のオヤジさんの自然なCS志向が評価されているからだ。そろそろ欲ぼけや実験志向を早く卒業し、本格的なCS志向の店の登場が待たれる所である。


(9)ネットプレゼンスの確保

 店が増えれば増えるほど、かつユーザー数が増えれば増えるほど、今のままではビジネス効率は低下する。お互いにハッピーに出会える確率が低下するからだ。これがウェブリテイリングの致命的な欠点でもある。
 今巷でネットプレゼンスの向上策として言われている、懸賞、クイズの類いはアクセス数を高める1つの手段ではあるが、それを維持する手段でも、優良顧客を創出する手段でもない。このノウハウを構築すれば間違いなく大金持ちになれるのだ。
 基本的にはオフライン、オンラインにおける徹底的したプレゼンスマーケティングと口コミしかないのだが、オンラインにおける最も基本的な手段の1つである検索エンジンへの登録1つとってみても、キーワードに知恵を絞っている気配のある大手ショップは少ない。
身もふたもないようだが、手段を駆使して初期のプレゼンスを高めたあとは、ひとえに
「CS向上」→「信用形成」→「評判システム」あるいは「販促システム」によるフォローといった当たり前の工夫しかないのである。


(10)起業家である

 アメリカと日本の違いはこの違いでもある。ウェブ上で会社をおこし、他に逃げ場がない人とそうでない人との違いでもある。
他に逃げ場がない故に、熱心である(当たり前だが)。まず顧客心理から研究し、本来的に顧客負荷の高いフィールドであるウェブをいかに使いやすいものにするかの研究を怠らない。しかもインターネットや技術の専門家ではなく、むしろその商売の専門家、あるいはパワーユーザーであったりする。技術やインターネットのことより商売をよく知っている。従って、顧客サービス、リピーター作り、といった普通の商売の基本をより熱心に展開する。
 トライアル&エラーが基本である。トップページデザイン、マーチャンダイジング、ナビゲーション等を大胆に変更する。
というような条件に当てはまるサイトは日本ではごく少数である。
日本の構図は、

1)ECの名のもとに立場上関わる大企業関係者
2)ウェブを有力チャネルと判断し、人、モノ、金を投じてまじめに商売している中堅企業(パソコン販売、書店などに多い)
3)生業を持っておりそのノウハウや資源をウェブで展開する中小企業
4)参入障壁の低さからウェブで商売を始める中小企業や個人

といった具合である。
 要するに日本ではリーダー不在である。2)や3)の人たちは、最近はあちらこちらの講演会に引っ張り出され、人気者であるが、それでもリーダーとして市場を引っ張るいは力不足だ。1)の人たちにはほとんど期待出来ず、また起業家精神も欠如している。


●インターネット的かつきわめて非インターネット的

過去3年、インターネットビジネスなるものを眺めてきた結論はこれである。インターネットビジネス、ウェブリテイリングで成功するにはインターネット的な条件をフルに活用するしかない。それは

・大量在庫の展開
・柔軟な検索システム
・データベースの連動
・双方向性を活かしたone to oneの展開

といった要素である。だが成功の根源は非インターネット的なところにある。

・親切なサービス
・顧客心理への配慮
・当たり前の商売のセンス

といった要素である。要するに知恵とセンスがものを言うという当たり前の結果が検証されたに過ぎない。

さて成功要件はこの他にもたくさんある。
若干重複するが最後にまとめておく

・明確な事業戦略をもつ
・ウェブオリジナルな商品展開を行う
・専門店ビジネスに特化する
・ターゲットをきちんと選定する(デモグラフィック的選定、サーファーかシーカーか)
・商圏が広い(グローバルコマースを展開できる)
・優れたサーチプロセスの提供
・無駄のないウェブページデザイン
・優れたマーケティング企画力(情報発信、インターラクティブプロモーションの企画力)
・電子DMの有効活用
・関連購買を促進する商品表現の工夫(ライフスタイルに関わる情報を提案し、そのシーンの商品群をまるごと提案するといった工夫)
・ファッションを効果的に売る工夫(ワードローブ提案、コーディネート提案等:Gapのサイトが参考になる)
・事業拡大のシナリオを持つ(多店舗展開ができないウェブでいかに事業拡大を行うか→アマゾンの戦略が参考になる)
・スマートショッパーへのスマートな販売提案を貫く
・サービスの質で勝負
・フルフィルメント部分での差別化が可能


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