|

|
|
|
|
第6回 |
|
ネット上の購買行動とは
カードウェーブ:98.6(A1−06) |
|
|
|
最近自宅付近でケーブルテレビによるインターネット接続サービスが開始された。ISDNの100倍以上の速さという触れ込みである。早速入会し、「常時接続・使い放題・月3千円あまり」というぜいたくなネットワーク環境が実現した。
これはこれで結構なことであり、重くかつ遅くて閉口したサイトアクセスもストレスなしに実施できる。常時接続により流行のプッシュ型情報サービスも活用範囲が広がってくる。
とはいえこのネットワーク環境の好転がネット上での購買意欲を喚起したか、という点になると答えは全くNoである。もたもたせずに、それこそビシバシとページがめくれてもちっとも買い物をする気にはならない。
これまでインターネットのオンラインショッピングが爆発的に普及しない理由として、「今のアクセススピードでは購買意欲が妨げられており、将来はこれが好転するので技術が解決する問題だ」という解釈があったが、これははっきり言って嘘であることが証明された。とはいえ例により個人的体験による個人的感想であはあるが。
確かに接続速度は一見重要な購買阻害要因のように見受けられる。もたもたしていては買いたいものも買わなくなるのは事実だ。だがネット上ではもっと他に重要な要因がある。それがネット特有の購買行動や価格意識であろう。今回はこうしたネット上の購買行動モデルについて考えてみよう。 |
|
|
|
●購買行動モデルとプロセスモデル
マーケティングを少し勉強した人なら、購買行動モデル、とか購買プロセスモデルという名前を聞いたこと位はあるだろう。有名な例ではハワード・シェスモデルてなものもあり、人が物を買うには、問題の認知→情報探索→情報評価→購買決定→購買後行動(満足度の形成とアクション)というプロセスをたどる、なんてことを習うわけだ。
一方AIDMA、あるいはAIDAの法則なんてものもある。営業マン教育の初歩では、アテンション(注意喚起)→インタレストの形成(興味の獲得)→欲望(ディザイア)の獲得→アクション(実購買)への移行というプロセスが重要だなどということを勉強する。営業マンたるもの、このプロセス全てにおいて最高のパフォーマンスをあげねばならない。
さてこの購買行動モデル、あるいはプロセスモデルがネット上ではどう変わるのか、リアルの世界と比べてどこがどう異なるのか、ということが極めて重要である。
そこでまずAIDA理論に沿って整理してみると次のようになる。
1)ネット上ではアテンション獲得の手法は限定的かつ初歩的である:
今のところアテンション喚起の方法として用いられるのがバナー広告やアニメーションなどである。これはリアルの世界に比べると手法としては実にプリミティブだ。大体アニメーションで注意を喚起するなどという初歩的手法はリアルの世界では想定しにくい。バナーにしても広告の種類でいえば「突き出し広告」ほどの意味合いしかない。今騒いでいるネット上の広告手法は冷静に考えてみると実に幼稚なものが中心である。一方でプッシュ型によるアテンション喚起の手法に移行すれば、それが適切なニーズに基づくものでないかぎり、ノイズになる確率が高まる。
2)ネット上ではアテンションからインタレストに至るステップが分断されがちである:
これもネットの弱点である。仮に何らかの手法で注意を喚起したとしても、そこからインタレストのレベルにもっていくまでのステップが分断されてしまう。バナー自体の表現力は乏しく、クリックしない限りインタレストを引き起こすほどの情報提供は難しい。原則的に注意さえ引き起こせば直ちにインタレストに至らしめる情報提供が可能なリアルの世界とは異なることになる。確率的に考えれば、クリックというステップが入る分、購買モデルとしては弱点を背負うことになる。
3)インタレストからデザイアに至らしめる情報提供面で優位性、随意性が高い:
これがネットの大きな利点でもある。一端注意を喚起した後の情報提供の形は、リアルの世界に比べ圧倒的に質、量ともに優れたものにすることも可能だ。
例えばこれを書いている今、隣のモニターはニュースのサイトにつながっている。その下には保険会社のバナー広告がある。(もちろんこれは従来型の保険会社ではなく、カタカナ系のニュータイプの保険会社である)。これをクリックしてみると、その内容の豊富さには結構驚いてしまう。比較広告的な内容やライフスタイルに合わせたシミュレーション的情報も可能で、従来保険情報として消費者が手に入れることができるプアな紙のパンフレットに比べれば雲泥の差である。保険という情報収集が重要な商品において、いかにこれまで消費者は的確な情報を与えられず保険加入していたか、ということが一目瞭然である。
4)デザイアからアクションへ直結する確率が高い:
これもネットの利点である。ひとたび欲望を喚起すれば、購買意思を伝えることはリアルの世界に比べ圧倒的に低コスト、かつ短時間で行うことが可能だ。
こう考えてみると、ネット上では様々な利点もあるものの、どのようにしてアテンションを喚起するか、がやはり最大の課題なのだ。これが「ネットプレゼンスの確保」というテーマになるのだがこれはまた別の機会に取り上げる。
さて次は購買プロセスモデル(図1)にあてはめて見よう。
1)リアルの世界に比べ情報選択の幅、手段、深さは圧倒的に広まる;
ハワードシェス等のモデルでは情報探索というステップが極めて重要である。ここでの情報入手は、人に尋ねる、パンフレットを集める、体験する、といったことが含まれる。このいずれにおいてもネットの有利さはリアルの世界に比べ段違いだ。
何らかの問題意識をもちある製品について関心をもったとしたら、ネット上ではその商品について調べるのは実に簡単である。逆にあまりに情報過多になり、情報の取捨選択が自立的に行いにくいという欠点が生まれてしまう。
2)情報評価の方法が多様化する;
ネットでは様々な情報評価の方法が提供されている。価格比較を行い最も安いものを提案するサイトもある。また検索機能を用い、絞り込んだニーズに対する情報探索を行うことも、一種の情報評価である。
また顧客間インターラクションという事態も発生する。顧客同士が勝手にネット上でコミュニケーションを持ち、それが何らかの購買決定に影響を与えることになる。(余談だが、一部のEC関係者、学者はこの顧客間インターラクションの話が大好きである)
3)購買後のアクションがネットではリアルの世界以上に重要かつ影響大;
購買後アクションの代表例は口コミである。「あれは良かったわよ」といった評判はネットではリアルの世界とは全く比べ物にならないほどの速さで伝わっていく。また満足、あるいは不満を持ったあとの企業に対する具体的アクション(苦情を言う、意見を言う等)も容易に起こりやすい。
なにゆえかくも長々と購買プロセスについて述べたかもうおわかり頂けたと思う。要するにECとはただモールを作り、店を集め、商品を並べ、決済システムを具備することではないからだ。いかに事前に注意を喚起するか、情報探索の手段、比較手段を与えるか、購買前後の顧客コミュニケーションをどう構築するか等々、ネット特有の購買プロセス全てを含んだトータルなシステムとして検討すべきなのである。今EC実験と称して行っていることがいかに的外れであるかがここからもわかるだろう。
リアルの世界のマーケティングでも消費者の購買プロセスの理解こそ成功のための基礎であると説かれる。ましてそれが未知数のサイバースペースではまずは購買プロセスの理解こそ、重要なのだ。
●ネット上での購買行動
さて次にネット上での具体的購買行動について検討しよう。普段われわれが物を買う状況を当てはめてみればよいのだ。例えば「特定のブランドを指定してものを買う」「定期的に購入する」「衝動買いをする」「ウィンドウショッピングを行う」「何か安くて価値のあるものを探す」「そろそろ暑くなってきたので、涼しげなTシャツを探す」といったことを普段行っている。こうした様々な購買行動のどれがネット向きでどれが向かないかを吟味する必要があるのだ。
1)サーチ&バイ:何といっても最もネッと向きな購買行動はこれである。具体的にはかなり絞り込んだ購買ニーズに合う商品を膨大な情報源の中から見つけだす場合が相当する。「今日は三石玲子氏のインターネットで失敗する方法という本を買おう(こんな本は書いてません)」などという場合に最適である。何度も書いたが今のトップリテイラーのほとんどはこの購買行動に合わせた販売方法を提供している企業である(書籍、CD,パソコンショップ等)。残念なことに人間の購買行動の中で、サーチ&バイが起こる確率はせいぜい10%位であろう。
2)コンペア;文字通り比較することである。ネット上ではこれは「価格比較」という形をとることが多い。図2の文字通りCool Compareというサービスは同一商品の中からネット上で最も安い店を探すサービスだ。ネットではサーチとコンペアが結びつく時、最強の形を取ることが予想される。ただ、現状ではこのコンペアの手段はそれほど豊富に提供されているわけではない。また個別ショップが提供する手法としては、問題を残すのも当然である。モール等における1つの購買サポート手段として定着していこう。
3)クロスバイ;売る側から言えばクロスセル(関連購買の促進)である。今のウェブではこのクロスバイが実に行いにくい。ブラウザーを2つ開いて比較する手もあるが、「さっきのブラウスとこのスカート」といった極めて当たり前の買い物が行いにくい。これが解決されない限り、ウェブショッピングはまだまだ間抜けなショッピング形態でしかない。
この点に関してはこと日本に関しては売る側の努力不足である。そもそもマーチャンダイジングが貧弱でクロスセルに足る商品がそろえられていない。またページデザインでも関連購買の促進を狙っている例にはお目にかかったことはない。客単価の低いオンラインショッピングでは、クロスセルの手法が定着しない限り、ショップの規模は拡大しないのだ。いかに関連購買を勧めるかを真剣に検討すべきだ。
4)ワンストップショッピング
だがこのノウハウも生まれつつある。例えばリアルの世界では当たり前の手法としてワンストップショッピングが行われる。もしあなたが気の利いた結婚式場を運営しているとすれば、当然そこで新婚旅行も、新居の家具も勧めマージンを確保したいと思うだろう。あるいは保険の提案や結婚記念日のギフト提案までするかもしれない。これがウェブで起こりつつある。それはリンク機能を活用してもよし、スペシャルモールとして展開してもよし。顧客の購買行動から考えれば当たり前なリアルの世界のノウハウが、やっとサイバースペースに入り込みはじめた。
5)リピート:大体日用品の買い物は習慣性である。女性はスーパーの買い物でも楽しいものだが、御父さんの靴下、トイレットペーパーを買いながらいつも楽しいわけでもない。 想像力を刺激されないこうした買い物こそウェブ向きである。「いつものあれ」で注文できるオンラインスーパー、オンラインコンビニの世界だ。SOHO向け文房具のオンラインショッピングなどもこの範疇だ。先のサーチ&バイと並んで、オンラインショッピングの世界の保守本流のジャンルでもある。
アメリカの百貨店ではストッキングや必需品のオンライン販売を始め、1度頼めば定期的に送ってくるサービスを行っているところもある。これなども人間の購買行動で出現率の高い「リピート」へ対応しなければ、市場の拡大が難しいことに気づいたからだ。
6)サーチ&ファインド;サーチ&バイとまぎらわしいが、これこそ人間の購買行動の本質である。「そろそろ秋になってきたので、何かおしゃれな服が欲しい」「父の日にあげる素敵なギフトが欲しい」といったニーズである。
大体人間の買い物のほとんどはこうした漠然としたニーズが背景となっているのだ。今のインターネットはこのニーズに対して実に無力である。
これを解決するにはやはり検索機能の高度化が前提となる。
7)オーダーメイドあるいはカスタマイズ
自分仕様の製品を注文する形式だ。インターネットの本質が低コスト、高効率でone to one を実現する場であることを考えれば、このニーズに対応したジャンルはビジネスチャンスがあって当然である。
8)オークション:最近の注目ジャンルがこれである。有名なOnSaleの例があるが、リアルの世界では人は必ずしも「競り」のニーズを顕在化させているわけではない。これをネットならではの形で顕在化させたのがオークションなのだ。ネットオークションの登場により人間の購買行動に新たな選択肢が付け加わったと言ってもよい。
9)バーゲンハンティング
人間の購買行動には必ずこれがある。何か安いものを買いたいというニーズだ。こういう志向を強く持った人をバーゲンハンターと呼ぶ。なおまたまた余談であるが、カード戦略において割引を無条件で提供するサービスの形がある。これは顧客の中のバーゲンハンターを引き寄せる効果が前面に出てしまい、顧客政策としては落第である。
いずれにせよこのバーゲンハンティングの手段としてはウェブは最強のものの1つだ。ウェブはリアルの世界に比べても本来的に低価格品を提供することを期待される。事実アメリカの調査会社Ernst&Youngのレポートによれば、リアル店舗に比べインターネットショップでの販売価格は73%の商品群において安いという結果が示されている。
もっともディスカウント価格を定常的に提供できる(すなわち商品調達の仕組みを持つ)企業を除いては、ウェブリテイリングで低価格戦略だけを掲げることは必ずしも得策ではない。これについてはいずれネット上の価格政策として別の機会に取り上げる。
こうして整理してみると、今ウェブリテイリングでトップに立っているサーチ&バイ型の小売業は人間の購買行動からみれば極めて限定的なニーズしか満たしていないのだ。今でこそトップリテイラーだが、その規模は高々数百億円のオーダーで頭打ちだろう。小売業として規模のビジネスを目指すには、まずは「コンペア」か「サーチ&ファインド」を、そしてセカンドベストとして「リピート」あるいは「クロスバイ」への対応を考えていく必要がある。
さて冒頭に取り上げたケーブルテレビのインターネットであるが、新たななる問題を発見した。情報は探索してこそ情報足りえるという事実である。常時接続してたまに最新ニュースが入ってきても、それが何だという感じである。プッシュ型サービスも始めのうちは新鮮だが、定常化してしまうと飽きてくる。と同時に情報価値も低減するのだ。
人間にとって情報価値とは何かを考えさせられる今日この頃である。 |
|
|