連載:ECのマーケティング

第7回
ECとSOHOの関係

カードウェーブ:98.8(A1−07)


 最近はすっかりSOHO(Small Office Home Office)ブームとかで、筆者のような単なる個人零細事務所もすっかり時代のトレンドである。SOHO本を書いたことも影響し、立派な大企業からはSOHOを見学したいなどの取材申込があり、小さなマンションの1室を大まじめな顔をして写真を撮っていった。コンピュータの機種や、ISDNの使用状況などを詳しく尋ねられ、案外ローテクなのにがっかりしたようである。筆者の場合、SOもHOも両方あり、HOの方は最先端だが、SOは単なる接客場所と物置にすぎないのだ。
 また文明評論家のような方の来訪があり、筆者のマンションが飼い犬の写真と好きなモーツアルトの絵で埋め尽くされているのを眺め、「仕事と個人の価値観の両立こそ次世代型ワークスタイルの象徴である」とのご託宣を賜った。
大企業の取材が一巡したと思ったら、次は女性雑誌の取材が続いた。それもキャリアウーマンのお姉さん方が読むような雑誌ではなく、美容院に置いてあるような週刊誌タイプである。何でも地方のお母さんやお姉さんのニーズが強いのだという。この取材の後、「私もソーホーしたいんですけど」てな電話が相次ぎ少々閉口したわけである。
 さて今回はこのソーホーを取り上げたいと思う。一体何故脚光を浴びているのか、それがECとどんな関係があるのか、それはマーケットとして成り立つか、というようなことをまじめに考えてみよう。
今は様々な企業がSOHO市場を狙っているとかで、試作品を見せて貰ったりする。概して落第である。最も多いのがTAやルーターなどで、単にSOHO向けと銘打っただけで、何の工夫もされていない。今SOHO市場と大騒ぎしているのは、通信機器、オフィス機器等の大メーカーが多いが、およそSOHO的ワークスタイルとはかけ離れた人たちが開発担当者である。何もSOHOのことはSOHO に聞けというわけではないが、少しは理解度を高めた方がよいと思う。そこで今回はQ&A方式でSOHOについてとらえてみよう。



Q1:一口にSOHOといってもイメージが沸きませんが、どのようなタイプがあるのですか?(37才;銀行員)

A;いきなり始めからいい質問ですね。SOHOといっても真性とSOHOもどきとがあります。また自律的にSOHOを選択するタイプと強制的にSOHOを余儀なくされているようなタイプがあります。一般的には企業所属のSOHOと独立自営型のSOHOとに分けるのがよいでしょう。前者の方はアメリカと異なりまだ必然性に乏しく、今のところ、裁量労働性の適応を受ける専門職の人、成果が数字で把握できる営業職の人が中心です。中には「明日からSOHOをやれ!」などという強制型もあります。1つの屋根の下で働くことの必然性が低下し、それが結果的に企業所属のホームワーカーを生み出したアメリカと比べると、日本では企業型SOHOの前途は多難です。SOHO的ワークスタイルと日本的経営との間には多くのフリクションが存在します。一応図示しますと図1にようになるでしょう。


Q2;従来の零細企業やパパママストア、例えば近所の八百屋さんもSOHOなのですか?
(26才女性;百貨店)


A;これは少し難しい質問です。単に金がなく零細を余儀なくされている人とは区別して考えましょう。ネットワーク時代のキーワード「スモールイズスマート」を主体的に選択している人たちと考えましょう。もっとも今はどさくさにまぎれて誰でもSOHOを名乗るのが得策というものです。


Q3;主体的に仕事をしていきたい人がSOHOならば従来の脱サラとどこが違うのですか?(家電メーカー;52才)

A;いわゆるベンチャー志向の人、脱サラ志向の人とはわけて考えましょう。今日的SOHOの条件とは次のようなものでしょう。
1)オプティマム(最適)サイズ志向で拡大志向でない
2)従来のサクセスストーリーになじまない(従業員を増やし、きれいな秘書のお姉さんがいて、自社ビルの1つでも建てて、ベンツにふんぞりかえり、ネオン街で「社長」と呼ばれることを志向しない。名や見かけより実を取るタイプ。倉庫やガレージの一角が事務所であっても一向に構わない)
3)手に職を持つ;資金を投じて事業を起こす、あるいはコンビニの店長になるというよりも、体1つで商売が可能な「専門職の肉体労働者」に向く
4)情報ネットワークを活用する;情報ネットワークの支援があるからこそSOHO が成り立つというのもある意味で真実。結果的に固定費が少なくてすみ、低コスト経営が可能。人件費より通信費の方が高いくらいである。
5)アウトソーシング志向;何もかも自分で抱え込まない。というより抱え込んでいてはSOHO は成立しない
なお筆者が作成した「あなたはSOHOに向いているか」という35項目のチェックリストがあります。余程暇な方はお問い合わせください。


Q4;それではパソコンやインターネットの活用は不可欠なのですか。逆にそれを揃えれば誰でもSOHOになれますか?(32才;商事会社OL)

A;いいえ。なれません。環境整備は重要ですが、金を稼ぐのは全く別問題です。ちなみに女性SOHOのイエローブックみたいな本もありますが、実際に行っている仕事はほとんどがデータ入力、清書、校正等が多く、従来の内職とあまり変るものではありません。
ただ誰でもSOHOになれる、起業家感覚を楽しめる、在宅ワークが可能・・といったコンセプトは特に女性や定年後のシルバー層、リストラ候補お父さんにとっては魅力的です。 SOHO 市場開発を考える企業はもっとこのニーズに目を向けた方がいいでしょう。まだ数も少ない真性SOHO市場向けにルーターやOA複合機を売るより、SOHO入門市場、SOHOごっこ市場の方がはるかにビジネスチャンスは大きいでしょう。


Q5;なんでECとSOHOが関係あるのですか?(49才:カード会社企画担当)

A:これこそ今回のテーマなわけです。はっきりいって直接的な関係はありません。ただ次のような点は指摘できるでしょう。
1)ワークスタイルの点で情報ネットワークとの関係が強く、情報ネットワークの恩恵を最も強く受けているクラスターの1つ
2)結果的にECのユーザーターゲットとして魅力的
3)ワークスタイル、ライフスタイル双方の面での需要が見込め、通常のユーザーターゲットに比べ効率的開発が可能
4)SOHOがEC市場を引っ張っていったアメリカの先例の存在


Q6;ボリューム的には今どの位の人数がいるのですか?(32才;通信機器メーカー)

A;はっきりいってわかりません。SOHOセンサスがあるわけではなく、通説ですが300万人説と600万人説が流れています。アメリカでは自営含め4800万人、その内情報ネットワークと密接にリンクしている層が2000万人という調査データがありますから、マーケットの差はまだ大きいようです。
またアメリカのECの主要な担い手は夫婦共働きで、時間はないが金は有る、好みはうるさいというスマートショッパー層ですが、これの相当部分が一方でSOHO的ワークスタイルの実践者です。こうした消費者クラスターは日本ではまだマイナーな存在で、この厚みがいつ出てくるかが、日本でのSOHO市場発展の条件なわけです。これは働くことの価値観や体制に係る問題で結構時間を要すると見るのが妥当でしょう。いずれにせよ数百万の単位ではまだ商売にはなりません。むしろ
1)在宅ワークという言葉に敏感に反応する女性マーケットを狙う
2)サラリーマンのふろしき残業のホームオフィス需要を狙う
3)タイムコンシャス、スペースコンシャスなな真性SOHOの高付加価値需要を狙う
といった方向が短期的に狙い目でしょう。


Q7;アメリカでSOHOが発達したのはどういう原因があるのでしょうか(62才;食品会社)

日本とアメリカは大きな違いがあります。今でこそ景気は絶好調ですが、アメリカは10年程前は不況先進国でした。結果的に企業はダウンサイジングに取り組み、オフィス経費の節減やアウトソーシング化を含む人件費削減が加速したのです。またベビーブーマー世代の厚みも無視できません。ベビーブーマー世代(日本とは定義が異なります)の家庭環境がSOHO的ワークスタイルを発達させたという説もあります。
またアメリカにはフェデラル・クリーン・エア・アクト(大気汚染防止法)という法律があります。排ガス規制のために南カリフォルニアでは社員の一定数は1台の自動車に数人が乗りあって通勤する、あるいはテレコミューティングを行うのいずれかの手段を義務づけれられているといいます。女性の社会進出は一方で自動車通勤事情の悪化をもたらし、これも相まって、テレコミューティングが必然的に増えたというわけです。またサンフフランシスコ地震によりテレコミューティングを余儀なくされ、これが結構役立つものだ、という体験をしたのも影響していると指摘する人もいます。いずれにせよ、SOHO化を推し進める企業、家庭、社会環境の3つの条件がそろったのがアメリカの背景でしょう。


Q8;SOHO的働き型にはメリットもデメリットもあると思いますが?(48才;シンクタンク勤務)

A;おっしゃるとおりです。SOHOはかなり個人の価値観と専門能力が問われる労働形態ですから、まず向き不向きがあります。会社で皆と働くことが好きな人にはまずもって向きません。また数字より働きぶりが問われる企業の人にも向きません。「あいつは遅くまでよくやっている」などという褒め言葉はSOHOには通用しないのですから。
このメリットとデメリットについては図2を参照してください。
この他に個人的な実感ですがメリットとしては
1)日本は中小零細企業=弱者の概念が普及しており、この貸ししぶりの時代でも「親会社がつぶれそうでして・・」などと従来型零細企業のふりをすると結構手厚い保護を受けられたりする。
2)気に入らない上司の顔を見ないですむ
3)働く空間を自分好みに設計できる(前勤めていた会社は銀行子会社であったせいもあり汚い机、ださいカレンダー、センスの悪いインテリア等かなり美的でない空間でした)
が実感されます。
逆にデメリットとしては、健康リスク、無限に仕事をしてしまう、いざというときのリスクマネジメントシステムが不可欠・・といった要素があります。
なお余談ですが、アメリカではSOHOの増加により
1)離婚の増加(亭主の働きぶりを家で目の当たりにし、自分もそれなりのキャリアウーマンである奥さんが幻滅する)
2)自律神経失調症の増加(自己管理が厳しく要求され、体調を崩す)
3)隠れ家ニーズの台頭(会社でも家でもない第3の場所を探し1人になりたい)
等の現象が報告されているそうです。


Q9;具体的にはSOHO向けにはどのようなビジネスが有望そうですか(42才;金融サービス)

A;インターネット人口は1千万人に到達したそうですが、いずれこれは2千万ににすぐなるでしょう。つまりネットワークが特定層のものでなく、一般層に広がったとき、その影響はどうなるか、ということでもあります。
先例を見ても、ネットワーク関連需要およびその派生需要はワークスタイル、ライフスタイル双方に必然性があるターゲットが台頭したとき、飛躍的に増加しています。パソコン市場などが好例でしょう。ただ年賀状が作れます、インターネットが出来ますでもダメ。一方で家で仕事が出来ますでもダメ。仕事にも趣味や生活にも密着した時始めて需要は本格化するのです。この点から考えてSOHO はまさに今後のネットワーク社会における市場開発の試金石のようなものでしょう。
次のようなマーケットが有望です。
1)ドレスダウン関係(ジーンズ、カジュアルウェア、ヒゲ用品、スニーカー・・)
(アメリカでまずSOHOの増加の恩恵を受けたジャンルです)
2)ホームオフィス関連(机、イス、パソコンデスク等の他、通信設備、情報機器等が含まれる)
3)ホームファーニッシング関係(DIY関連;ホームオフィスを創設する、あるいは家庭内の居住時間の増加によるホームファーニッシングの再考による需要増)
4)ペット、ガーデニング関係(SOHOにとってペットは最高の友達。ペットもガーデニングも無機質なパソコン画面に向き合うストレスを癒してくれる、いわばヒーリング市場)
5)移動関連(定期券はすたれるが、逆に出張市場は付加価値化している。快適な出張、ホテルへのニーズ大。一方で今はダサいものの筆頭である熱海での社員旅行などは逆に価値を生みそう)
6)オフィスサービス(いわゆるキンコスなどオフィスサービス支援業態。キンコスは始め名古屋に出店したが、名古屋にはSOHO は少ないと見るべきだった。今のところオフィス街での出店が目立つが、将来的には住宅街への出店が不可欠)。
7)文具宅配ビジネス(個人的にはアスクルとオフィスデポがないと生きていけません。それにオフィスデポの実店舗の品ぞろえと価格にはやはり仰天する)
8)宅配便(我が社のバーチャルパートとの書類のやりとりはネットを使うが、かさばるものは宅配便。システム的にはヤマトが断トツにSOHO向き。ついでに荷物の預かり・保管サービスも始まるとgood)
9)コンビニの高度化;(SOHO支援サービスが脆弱な日本ではSOHO はコンビニがないと生きていけません。妙な電子キオスクなどはどうでもよいから、品揃えとサービス体制<低価なカラーコピー、荷物預かり、軽印刷・・>を充実してネ)。
10)保険(日本では全く遅れている分野; SOHOには色々なリスクがあるのに、保険会社は全く対応していない。 そのくせSOHO についていやに熱心に勉強中。早く商品開発をしないと外資にマーケットをとられそう)。
11)カード(カード会社も従来型のビジネスアカウント位しか商品がない。特にHO市場開発にはカードの整備が不可欠なのに。概して金融サービス企業の人は、SOHO的価値観とは対極の人が多いので、無理なのであろう)。
12)オンラインスーパー;オンラインスーパーを筆頭とする時間便宜性、利便性を売り物とするバーチャルストアはSOHO向け有望業態の保守本流でもある。人口的にはまだ時期尚早だが、仕組みの開発は早いもの勝ちの様相を呈してきた)

とうわけで、SOHO 市場はネットワークやパソコンばかりでないことがおわかり頂けたと思います。ECとSOHOの関係も上記のコンセプトをネットを活用するという視点から見直すのが妥当でしょう。


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