連載:ECのマーケティング

第8回
ロイヤルティマーケティングとサイバースペース

カードウェーブ:98.10(A1−08)


 ロイヤルティ・マーケティングに対する注目が集まっている。本誌でも度々特集を組んでいるし、セミナーや雑誌記事も増えてきた。
だが中には大きな誤解もある。カード会社が行っているようなFUPは一見ロイヤルティマーケティングのようであるが、実際には貢献度は少ない。今回はこのテーマを取り上げながら、サイバースペースで行われているロイヤルティ・マーケティングの現状についてまとめてみた。



1)ロイヤルティ・マーケティングとは何か

●全ての顧客は平等ではない

 ロイヤルティとは文字通り忠誠心を意味する言葉である。日本ではポイントカードを発行することが、ロイヤルティ・マーケティングであると誤解されているが、意味は異なる。ロイヤルティ・マーケティングでは次の点を目標とする。
1)もっとも重要な(かつ利益を生み出す)顧客を引き留める(維持の関係を目指す)
2)その下のランクの顧客についてはより上位のランクに育ってもらう(育成の関係を目指す)
3)企業にとってワーストの客についてはコストが発生しないように注意し、他店に去ってもらう(排除の視点を取る)
 つまりロイヤルティ・マーケティングの本質は「全ての顧客は平等ではない」ということを実践するプログラムなのである。この点日本の百貨店がロイヤルティ・マーケティングと称して行っているものは、多数の顧客に平等なサービスと称して割引を与える単なるディスカウントプログラムに過ぎない。日本でロイヤルティ・マーケティングの視点が明確なものは、西武百貨店が行っている「クラブ・オン・メンバーズシステム」位である。これはアメリカの高級専門店のロイヤルティ・マーケティングの方式をほとんど踏襲した形である。


●フリークェンシープログラムとカードを伴う

 さてロイヤルティ・マーケティングを行うには原則2つのものが必要である。1つがフリークェンシープログラムであり、もう1つがカードである。フリークェンシープログラムについては、周知の通り、小売業であればFSP(フリークェントショッパーズプログラム)、ホテルであればFGP(フリークェントゲストプログラム)、エアラインであればFFPという言葉が使われる。
 カードについては必要不可欠な道具ではないが、顧客接点を持つ企業では購買履歴を把握するにはあったほうが良い。
 誤解の第一はフリークェンシープログラム=ポイント制と思われていることである。 アメリカで最もロイヤルティ・マーケティングが成功したと思われている業界は意外なことにスーパーマーケットである。単なる安売りを武器にした業態から今では高い利益率を誇る収益性の高い業態に変身した。
 全米では5900のスーパーでFSPが展開されており、カード利用客の比率を8割に高めれば、粗利益は1%向上すると言われている。こうしたスーパーではFSPのメリットの主力はレジでの「ダイレクトディスカウント」や「電子クーポン」である。これに次ぐものとしてポイントが位置づけられている。ダイレクトディスカウントや電子クーポンはいずれもメーカーとのタイアッププログラムで、これがあるからこそ、利用者に高いメリットが還元できるようになった。


●ロイヤルティ・マーケティングの中身

 スーパーマーケットでのロイヤルティ・マーケティングとは例えば次のようなものである。

1)顧客履歴に基づきランキングを行う。この手法としてデシル(顧客をランキングに基づいて10の同数のグループに分ける手法)分析等が行われる。
2)デシル分析等に基づき抽出した顧客ランクに基づく顧客マネジメントを実施する(最重要客に対するスペシャルサービスの設計等)
3)ピーナツバターを購入した人に対して、優良客にはバター入れが無料提供され、次のランクの客には1ドルの割引クーポンが提供される。さらに次の客には25セントのクーポンが提供される。こうした結果一律に50セント割り引くよりはるかに高い効果が得られる(アイテム別プロモーションへの利用)
4)最優良客の購買行動パターンに合わせて、従業員の配置をコントロールする(レイバースケジュールへの応用)


●ロイヤルティ・マーケティングに向く業種

 ロイヤルティ・マーケティングには全ての企業が適性を持つわけではない。ロイヤルティ・マーケティングが最も向く業種とは「顧客の重要性の差がはっきりしており、かつ顧客ニーズが多様でカスタマイズした提案が向く業種(百貨店、専門店、都市ホテル等)」がまず第一に上げられる。しかも顧客が企業に対し「トータルリライアンス」(この店には全ておまかせしてもよいと思うこと)が高くなければならない。これが高くなければ、企業側から色々な提案をしても「大きなお世話」になってしまうからだ。アメリカで何故スーパーマーケットでロイヤルティ・マーケティングが進んだかは品揃えや鮮度の点で「トータルリライアンス」をかち得やすい業態であったからである。この点「百貨」や「総合」を標榜する企業はそれだけ活用度は低くなる。


●ロイヤルティ・マーケティングに踏み込む必要がない企業

 無理にロイヤルティ・マーケティングに踏み込む必要がない企業もある。「顧客の重要度の差が少なく、ニーズの多様性も少ない企業」がそれである。例えばファーストフードやコンビニでは、重要客と最下位ランクの客の差はつけにくい。一方でニーズも一様でそれほどカスタマイズされた提案が必要なわけではない。こうした業態では顧客をランキングするようなロイヤルティ・マーケティングの視点はほとんど必要ない。ここでは単に販促目的の強い「再来店率向上を目指すポイントカード」で十分で、顧客情報活用の必要性もない位である。
 「顧客重要度の差はあるが、ニーズは単純」な商売もある。国内線のエアラインやガソリンスタンドが代表例である。リピーターとそうでない人の価値の差は大きいが、顧客ニーズはまずは価格に代表される。こうしたジャンルの企業では、ランキングも2種類位で十分で、高度なロイヤルティ・マーケティングの展開は不要である。
むしろこのジャンルでは、フリークエンシープログラムの展開がそのまま割引競争になってしまう危険性をはらんでおり、今の国内線エアラインはまさにこの状況に陥っている(ついでながら、筆者は今の国内線のFFP競争に関してはその効果を200%否定する)。


 ●ロイヤルティ・マーケティングに関する日本企業のエラー

日本企業のエラーとは次のようなものである

1)全ての顧客は平等であるという神話にしがみつきたがる
2)ワースト顧客を排除するという発想が取れない
3)フリークエンシープログラムの実施が目的化している
4)顧客ランキングとそれに対する個別アプローチが実際に行われていない
5)ロイヤルティ・マーケティングには適性のない企業まで顧客情報活用の幻想に陥る
6)ロイヤルティ・マーケティングの第一ステップであるカード戦略でつまづく

(上記については近著「ロイヤルティマーケティングとカード戦略」をご参照頂きたい)


2. サイバースペースとロイヤルティ・マーケティング

 さてリアルの商売の場でかくも熱心に行われているロイヤルティ・マーケティング及びカード戦略であるが、それはサイバースペースを前提にすると実に色あせて見えてしまう。何故なら圧倒的にコストや効率が異なるからだ。
 ロイヤルティ・マーケティングの手法の1つにはDMがある。なおアメリカの成功例でのDMとは「カスタマイズされたDM」のことで、日本のような一律のお知らせのようなものはここには含まない。優良客には特別な案内やクーポンが同封される仕組みである。 だがカスタマイズされようとそうでなかろうと、このコストは膨大である。このデメリットを解消しようと、DM型のロイヤルティ・マーケティングを止め、店内でのキオスクで顧客ランキングに応じたスペシャルクーポンが発行される仕組みにした店もある。
 これがサイバースペースになると事情は一変する。電子メールコストは比較にならないほど安く、またホームページを使えば、様々な告知も可能である。クーポンの発行も自在である。こうしたサイバースペースを目にしてしまうと、リアルの世界で成功例と称されているものが実に色あせて見えてしまう。
 特に日本の百貨店等が顧客情報活用と称して行っているDMは、「高コスト低効率」のようになってしまった。何故ならロイヤルティ・マーケティングの視点が乏しく平面的なDMであるし、まして業態の店舗吸引力も低下している。トータルリライアンスも低い業態だ。今どき百貨店に全てをお任せしようとする消費者は存在せず、おまかせしようと思っている部分は、せいぜいギフトかブランドである。
こうした業態からロイヤルティ・マーケティングもどきの案内がくると、サイバースペースのそれに比べ、思わずため息が出てしまう。
さらにリアルの世界ではロイヤルティ・マーケティングの手法はフリークェンシープログラムが主役だが、サイバースペースはさらに様々な手法が利用可能だ。そもそも顧客が始めから特定化され、インターラクティブ性を持つ場であるから
・ニーズに基づきカスタマイズあるいはフィルタリングしたお知らせの提供
・ギフトやブライダルのレジストレーションプログラム
・e-mailによる個別販促提案
・ウェブを利用してのご用聞き
といった様々な組み合わせが本来的に活用可能である。


●サイバースペースでのロイヤルティ・マーケティングとは

 それでは実際にサイバースペースでどのようなロイヤルティ・マーケティングが行われているか見てみよう。ここではロイヤルティ・マーケティングの中身をフリークェンシープログラムに限定してみていこう。
その種類だが次のようなものがある。
・ウェブ上でクーポン等を発行しリアル店舗への集客促進を図るもの
・ウェブ上でフリークェンシープログラムを展開しているもの
・第3者がウェブ上でフリークェンシープログラムを異業種を集め展開しているもの
・ウェブの場は、リアル店舗で行っているフリークェンシープログラムの会員制度の案内やオンライン入会の場に留めているもの


1)ウェブ上でクーポン等を発行しているもの;これについてはロイヤルティ・マーケティングというより販促貢献を狙った視点である。
セーフウェイはロイヤルティ・マーケティングの成功で日本でもすっかり有名になったボンズという店の親会社である。リアルの店舗では「セーフウェイクラブ」というFSPを実施しており、
・メンバーだけのディスカウント
・抽選等のサプライズインセンティブ
への自動参加等が主なメリットである。これにはウェブ上でも入会可能で、この場合は、e-mailを通じたクーポン配付等に同意するかどうかの確認が行われる。住所、名前、電話番号、生年月日程度の申し込み用紙をプリントアウトし内容を記入し店に持っていけばカードをくれる。その後のクーポン配付等の一部がウェブに移管されるようである。
ウエブ上のクーポンは、対象商品一覧表から希望を選ぶと、クーポンが表示されこれもそのまま店頭に持っていくだけの話である。
オンライン店舗も展開しているが、今のところフリークェンシープログラムの仕組みとは連動していない。ウェブの場はリアル店舗のフリークェンシープログラムのサポートといった役割と、ウェブ上でのクーポン販促の展開といった意味合いが強い。


2)ネットグローサーのポイントシステム
 ウェブ上のオンラインスーパーとして有名なのは1つはピーポッド、もう1つがネットグローサーである。
ここでは1度でも利用すると自動的にポイントが加算される。これを「The NetGrocer NetRewards Program」と読んでいる。もちろん会費は無料である。
ポイントは
・シルバーコース、ゴールドコース、プラチナコースに分かれ、1ドルにつき100ポイントが与えられる。プラチナコースは年間30万ポイント貯めた人が対象で、この場合はボーナスポイントが10万ポイント加算され、その後の買い物は20%のボーナスポイントが毎回加算される。貯まったポイントはウェブ上で確認が可能で、またポイントは航空券とも交換可能である。
ロイヤルティ・マーケティングの基本に忠実なプログラムで優良客へのスペシャルサービスが狙いとなった形式である。(図1)


3)高級専門店の場合
 リアルの場ではロイヤルティ・マーケティングでスーパーマーケットと並び有名なのは高級専門店である。日本では百貨店と呼ばれているが、実際にはターゲットも商品もセグメントされた高級専門店で、日本の百貨店のイメージとは異なる。ニーマンマーカスの「インサークル」、サックスフィフスの「サックスフィフスファーストクラブ」はいずれも超優良客へのスペシャル対応で有名である。またブルーミングデールズの「リウォードプログラム」も同様で、ロイヤルティ・マーケティングのお手本どおりのクラブ運営そ行っている。もっとも高級専門店として明確であるだけにウェブの場の活用に逆に悩んでいるようなところも見受けられ、フリークェンシープログラムに関しては、リアルの店舗での紹介程度の扱いに過ぎない。


4)異業種提携型のインターネットフリークェンシープログラム(図2)
 本来フリークェンシープログラムは異業種との提携によりポイントのメリットがより訴求できる仕組みである。これをウェブ上で展開し始めたシステムがある。MyPointsという名前のシステムで、提携企業のウェブサイトで
・買い物をする
・アンケートに答える
・バナー広告をクリックする
・e-mailを読む
といった行動ごとにポイントをくれる仕組みである。この貯まったポイントは提携企業で使うことが可能で、物販ほ他、旅行会社、ホテル、電話会社、等が参加している。
ポイント発行企業にとっては、集客力アップ、マーケティング活用に役立たせることが狙いで、ポイント発行コストは広告費としてみなしていることになる。
入会は無料、貯まったポイントの確認はウェブで可能である。

 ウェブの場でのフリークェンシープログラムの展開はまだ緒に就いたばかりであるが、ポイント情報の確認の行いやすさ、コストメリット、異業種提携の容易さ等様々なメリットを持っている。今後ネット上でのロイヤルティ・マーケティングの展開が1つの差別化手法になってくることは間違いないだろう。


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