| 第10回 | |
| 書籍サイトの日米比較 カードウェーブ:99.01(A1−10) |
|
| 書籍はウェブリテイリングの中で最も適性のあるものの1つだ。事実インターネットビジネスの成功例と言われるAmazon.comは最も有名な事例でもある。日本でも書籍販売は続々ネットをチャネルとして活用しており、それは最早実験段階ではなく、ビジネスのレベルに達している。 だが日米のウェブ書籍販売には大きな格差が見受けられる。今回は書籍販売の事例を通じて、日本のECの問題点も合せて浮き彫りにしてみよう。 |
|
| 1. 書籍は何故ネット販売に向くのか 書籍は何故ウェブリテイリングのキラーカテゴリーとなったのか、まずはこの基本的なところから復習してみよう。 ECの売れ筋商品の調査は各種調査機関が行っているが、日本では日経マルチメディアが継続して行っている。この結果では書籍購入率は98年6月時点で22.8%。堂々の第1位である。 一方米国の調査では大手どころForrester,Jupiter Commnication,eStatsといったところで、いずれも現時点では3〜5位程度のランキングである。2001年頃には、トラベル、PC関係、グローサリー、金融といったジャンルの市場の台頭が予想されるが、それでもウェブの売れ筋であることには変わりないとの予測である。 Amazon.comの創業者はベゾスという人だが、「世界中、単一のカテゴリーで本よりも種類が多いのは昆虫しかない」と冗談を言ったそうだ。本に次いで種類が多いのはCD等でこれでも20〜30万種類しかない。 これが本がキラーカテゴリーとなった理由の第一である。「膨大なデータベースと親切な検索」これがウェブの第一のビジネスモデルなのだ。 一方アメリカの大型書店の扱いアイテム数は通常20万点弱である。Amazon.comは「地球最大の書店」をうたい文句に250万点の品揃えを誇っていた。日本の紀伊国屋でも内外300万点を標榜している。要するに実店舗では全く不可能なとんでもない品揃え数を擁することができるのが、第2の理由なのだ。リアルの店との最大の差別化ポイントでもある。品揃えが数百万もあれば、当然専門書籍についての深さも伴う。「専門ジャンルで広くて深く、かつ安い」といういわゆるスーパーストアが展開可能である。 購買行動面でも適性はある。最もネット向きな購買行動とはsearch&buy〔検索して探す)である。「今日は三石玲子氏の<EC業界お笑いの構図>」という本を買おう」(こんな本は書いてません、ウェブには載せてます)という時にウェブは最大にその威力を発揮する。要するに品番まで指定して購入するような買い物に最も便利なチャネルなのだ。 サーチ&バイを前提とするスーパーストア。これが最もウェブ向き名ビジネスモデルでもある。 もちろん書籍の場合ドラスティックに流通在庫が軽減される点、今のネットユーザーの商品ニーズとマッチした点等も見逃せない。 以上からみれば、好条件が重なった希有なジャンルでもある。 2. 日米の書店の違い 書籍という商品の条件。あるいはネットユーザーとの商品適性に関しては、日米共通である。だが何故サイトの出来栄えがかくも違うのか、疑問に思わざるを得ない。同条件のパソコンショップに関しては、日米格差は書籍ほどは大きくない。この理由を考えてみよう。 ●Amazon.com 日本にはアマゾンウォッチャーという人がいてアマゾンの「観察」のみで商売をしている位だ。その位アマゾンの観察はおもしろい。トップページのデザインの変遷もおもしろかったし、アソシエイトプログラムという一種の委託販売のようなことを始めたときも驚いた。 これは例えば三石玲子サイトでマーケティングの本を売るようなもので、医学やマーケティングといった小さな専門サイトがその分野に関する本の批評をアマゾンのロゴとともに載せることができる。サイト訪問者がこれをクリックすると受注プロセスはアマゾン側に移行し、アソシエイツ側は15%のコミッションを貰える。 ウェブではアマゾンは1店あれば十分である。これが実店舗であれば、当然多店舗化による規模の拡大のシナリオが伴う。一体どうやって売り上げ規模の拡大を図るのだろうと思っていたら、見事にこの難問をブレークスルーしてしまった〔もう1つの拡大のシナリオは言うまでもなくCyberian Outpostが行っているような多言語展開である)。 この店は見ていてもおもしろいが、次のような点も日本企業には参考になる。 1)親切かつ柔軟なサーチプロセス 2)ブラウズ、ナビゲーションの適切さ 3)顧客の批評;他の顧客が書いた書評を見ることができる。これはプロモーションとしては有効で、実店舗では実施不可能。また本、音楽、映画、絵画等に共通するが、人がその本、あるいは映画をどうしても見たくなる最も強烈な刺激は言葉なのだ。「タイタニックでデカプリオがイカダから落ちそうになるところが何度見てもよい」などというコメントを読むと、人はビデオクリップを見るより刺激されることが多いのだ。 4)批評・書評・アウォード 同様に書評欄、批評欄、各種賞を取った本の紹介が読める 5)リコメンデーションセンター エキスパートシステムを使い、顧客にお勧めの本を紹介するシステムが7種類以上ある。 8)関連書籍の紹介;購入時点で同様の本の紹介がある。 9)トップページでのリコメンデーション;筆者はこれまでウェブマーケティングやロイヤルティマーケティングの本を購入しているので、トップページで「Reiko Mitsuishiさんへのお勧め本」が表示される。 10)フルフィルメント体制の充実;アマゾンに11/29日に注文した本は12/4に届いた。一方同日注文した日本語の本〔紀伊国屋、丸善、ブックサービスにそれぞれセミナー使用の同一本を2冊ずつ注文。)は各社とも1冊は12/10現在届いたが、後は音さたなし。 アマゾンでは本の受け取り方法を選択できるのも親切だ(まとめて受け取るか、ばらばらでも良いか等)。 11)ユーザーフレンドリーさ;発送されてくる本には発注書とともに、返品ポリシーやクレーム記入の用紙が同封されてくる。顧客サービスの質とレベルという点では充実ぶりが目立つ。http://www.amazon.com ●Wordsworth 米国の本屋といえばアマゾンとバーンズ&ノーブルが有名だが、Wordsworthは隠れたる名店である。もちろん世界中に発送している。アマゾンにせよ、Wordsworthにせよ、いわば「自社企画」「自主イベント」の類が充実している。Wordsworthは特にこれが売り物で ・インタビュー;著者が著作の経緯や裏話を語るコーナー ・ライターズデスク;同じく著者が情報提供するコーナー ・ウィークリーコンテスト;読者参加型の簡単なクイズのようなもの。 ・キッズコーナー ・ベストセラー ・ウィナーズサークル;賞を貰った本の紹介 ・著者とのイベントコーナー;著者がいつどこで何をするか、といったイベントの紹介。オンライン上でのお茶会〔読者と著者のチャット)の場合もある ・サーチリクェスト;「お尋ねください」といったコーナーで、本探しの手伝いをe-mailでしてくれる。「1日か2日はかかるかもしれませんが、ご容赦ください」なんて書いてあるところが心憎い。 ●紀伊国屋ブックウェブ 紀伊国屋インターネット仮想書店と銘打ったネット書店の草分けだ。日本のウェブ書店はアマゾン同様膨大な検索システムを売り物にするものと、受注窓口の性格が強いものに二分されるが、前者の代表である。日本では数々の賞も受賞し、受注も比較的順調。日本のインターネットビジネスの成功例と称されることが多い。 だが実際に利用してみると不満だらけだ。一頃の先進性はどこへやら、サイトとしては低迷気味であろう。以下はその理由である。 1)トップ頁デザインが貧困;ウェブショップの重要な要素がトップページであることは本欄でもしつこく書いている。このトップページデザインが貧困である。単なるナビゲーション指示のボタンが並んでいるに過ぎず、情報量が少なすぎる。会員制とはいえ、たまたま立ち寄った新規客を吸引する仕掛けが乏しい。イベント、提案、プロモーションといった目を引く情報が一切なく、そっけない。これをもって日本の成功例と見なすのはいささか気が引ける。 2)会員制であること;コスト回収の意味もあるだろうが、本来オープンなウェブでメンバーシップリテイラーを標榜するのは無理があるだろう。確かにリピーターの確保と継続受注にはなるが、それでは一定規模の売上にはなりにくい。まして新規客に親切なトップページでない以上、競合の動向如何ではビジネスがリピーターとともに陳腐化する可能性をはらんでいる。またページ移動の最中に思いがけない場面で会員番号等を要求されるなど、会員制を前提にした場合のナビゲーションが不親切だ。 3)仮想書棚の意味 ここの売り物は「仮想書店の書棚」というコーナーらしい。100近いジャンル表から1つクリックすると、10数点の書籍の表紙が表示される。この意味が不明である。このビジュアル画像を持って「仮想書店」と称するのであるならそれは勘違いもはなはだしいだろう。大体人は本の表紙の絵で本を買いたくなることはない。購入を刺激されるのは言葉での紹介なのである。後述するがこの点が日米の書店の最大の差でもある。 この表紙の絵をクリックすると本の紹介が文章で現れるが、それも目次をそのまま書き写したようなものだ。自店として何を主張し、何をもってこれを選んだのかの背景がさっぱりわからない。 4)インターラクティブ性の欠如 丸善、ブックサービス、アマゾン、wordsworthは注文と同時に確認メールが届いたが、紀伊国屋は届かない。発注メールは届くが、確認メールも出すべきだろう(アマゾンは両方届く)。たまたま注文日が日曜だったので、コンピューターが休んでいたのかもしれないが。 リコメンドサービスもあるが、是非ともお願いしたくなるようなものでもない。総じてインターラクティブ性が希薄で、読者と企業とのコミュニケーションがプアである。書籍というジャンルではいかようにでも演出できるはずなのに、折角のチャンスを見逃している。 5)消費者志向の薄さ インターラクティブ性、利用法、発送方法の説明、等米国書店に比べフレンドリーさにかなり欠ける。総じて説明のための情報量が少なく、「仮想書店」とは言うものの、単なる検索用のデータベースと受注窓口を運営しているに過ぎない。 ●丸善 紀伊国屋と同様会員制である。レベルとしては似たり寄ったりで特筆すべきオリジナリティはない。トップページは紀伊国屋よりは少しはレベルが高いが、出版社各社のマークが目立ち過ぎだ。ランキング等もそれなりに掲示されているが、それがプロモーションに貢献し、購買意欲を刺激するような出来ではない。インターラクティブ性に乏しいのは紀伊国屋と同様で、要するにどちらも人、モノ、カネをこれ以上掛けられない状況なのだろう。 ●ブックサービス 受注窓口としての性格が強いのがヤマト運輸の運営するブックサービスと八重洲ブックセンターのケースである。ブックサービスはこれはこれで性格が一貫している。 紀伊国屋や丸善は発注画面は検索と連動しており、検索をぜずに既に買う本が決まっているような人にとっては使いにくいインターフェースである。この点ブックサービスは書評を切り抜いて購入するような人にとっては最も使いやすい画面である。複数冊の注文を1頁で記入できるようになっており、本の注文としてはこれが最も自然である。だが入力が面倒で全角の指定が煩雑。もっとも自らこの使いにくさを認めており、画面上であやまっていた。書籍販売のポテンシャルとしては既存書店にはないシナリオが期待できる。 3. 日米書店の視点の違い 以上日米の書店の内容をざっと見てきたが、何も日本の書店の悪口を書きたいのではない。だがそこには「ウェブ書店」についての根本的な思想の違いがあるように見受けられる。 1)「バーチャル書店」の理解の違い 紀伊国屋は本の表紙をビジュアルで示すことをバーチャル書店と理解しているようだ。これに対し、アマゾンやWordsworthは実店舗の本屋と同じく、用もなく眺めたり、歩き回ったり、思わず手に取ったりする環境の再現を志向している。この差が歴然としている。これがいわばオリジナリティで、自社企画、イベントの類いがこれでもか、というほど実施されている。日米とも受注に至るプロセスは1つは検索から、もう1つは各種の企画メニューからである。だが日本の場合後者の内容が圧倒的に少ない分、書店としての購買確率は低くなり、本屋でのぶらぶら歩き、ウィンドウショッピングを楽しむ層にとっては使いにくい形態である。バーチャル書店の本質とは何かの理解度、洞察力の違いが現れている。 2)企画力の差 この点はひるがえってみれば、書店運営における企画力の差でもある。人、モノ、カネが投入されていないと言ってしまえばそれまでだが、これまでに投入してきたシステム開発のプロセスを考えれば更なる発展があってしかるべきで、それがオリジナルの企画コーナーであろう。概して日本の書店は主張のある本屋が少ないが、それがそのままウェブに反映されている。 3)競争環境の差 紀伊国屋に関しては厳しい言い方だが、各種の賞を受賞以降パタリと進歩が止まってしまった。インターフェースも改善されず、ただ300万点の検索のみが売り物になってしまっている。リコメンドサービスも数少ない日本でのone to oneの事例であるだけに、更なる充実が望まれる。競争環境がアメリカほど厳しくないだけに、またウェブ上で起業したわけではないだけに、背水の陣であるようにも見受けられない。それがそのまま反映しているのだろう。 4)脆弱なフルフィルメント体制 日米のウェブ書店の最大の違いがここである。配送をスピーディに行うにはオリジナル在庫をもたねばならない。そのコストをかけているアマゾンとの違いが歴然としている。構造的に無理だと言われればそれまでだが、商品選択〜発注プロセスがスピーディであるのに比べると商品受け取りの遅さは従来の書店発注のケースとほとんど変らない。ウェブリテイリングの魅力がこの点だけで低減されてしまっている。 |
|
|
|