連載:ECのマーケティング

第13回
ウェブマーケティングとは何か―その2―
e-brandingとは
カードウェーブ99.7


 ウェブマーケティングについて、今回はブランドという側面から検討してみよう。コマースを狙うにしろ、自社のマーケティングに利用するにしろ、ウェブでは「ブランド」が生命線なのだ。最近は何でもeを付けて、e-commerce,e-retail,e-businessなどと言うが、e-brandingという言葉も出現した。
●ネットにおけるブランドとは何か

 「マーケティング競争はブランド競争(ブランドによる支配)になるだろう」と言われる位、リアルのマーケティングの世界ではブランドがホットなテーマである。
 ところがブランド研究で有名な学者の先生に聞いたら、「ブランドについてうかがいたい」とインタービューを申し入れると、外国企業は必ず社長が現われるが、日本企業は担当課長が顔を出すそうだ。アメリカのマーケティングと日本のそれとでは、こと製品開発に関しての差は少ないが、ブランドマネジメントでの差はまだまだ大きい。これがネットになると差は一層拡大している。
 リアルの世界ではブランドとは次の様に定義されることが多かった。「売り手の財またやサービスを識別し、競争相手のそれから差別化しようとする特有の(ロゴ、トレードマーク、包装デザインの様な)名前かつシンボルである」。結果的にブランドとは名前の事である、とのレベルの認識が長いこと続いたわけだ。

 最近はブランドエクイティという概念が登場している。ブランドの持つ価値を資産でみる視点である。その資産とは「ブランドロイヤルティ」「名前の認知」「知覚品質」「ブランドの連想」「パテント、トレードマークなどのブランド資産」から構成されるということになっている。つまり単なる名前やマークではなく、財あるいはサービスの価値そのものに近い概念となっているのだ。
 これがネットになるとブランドの重要性はさらに高まっている。ブランドに関する様々なセミナーが開催され、文献や調査レポートも山のようにある。ブランドこそアイデンティティであるということで、これをもじってe-dentityという言葉も登場した。

 かくもネットでブランドが重視されるのは、ネットではブランドこそが全てであるからだ。その理由はいくつかある。 まずウェブ上での最も成功したビジネスモデルは「メガブランドモデル」である。メガブランドとは、一定以上(例えば5千万人以上)に知れ渡ったブランドのことで、ヤフー、AOL、アマゾンなどがこの代表例だ。とにかく多くの人に認知してもらい、利用者の裾野を広げることが第一の成功要件であるからだ。
 例えばウェブ上での成功指標を何に求めるかという調査結果によれば(Business Week)、従来型の企業の成功指標は「利益」と「総売り上げ」「総顧客数」がそれぞれ43%ずつであるのに対し、オンライン専業企業では「総顧客数」(83%)に集中する。とにかく潜在市場含め、顧客を確保することが成功の第一の方程式なのである。これはとりもなおさず、ブランドを浸透させるということに他ならない。 

 人間の選択能力の限界を越える選択肢が提供されているウェブでは、マインドシェアが高ければ高いほど有利である。ちなみに、カテゴリー別にマインドシェアの高い店をあげてもらった調査結果では(Intelliquest)、書籍のジャンルでアマゾンをあげた人は実に56%に達する。コンピュータハードの分野でデルを上げた人が20%であるのに比べると、いかにこれがとんでもない数字がわかるだろう。
 ネットにおけるブランドの重要性を示すその他の理由としては「ネット上でのブランドビルディングには利用経験そのものが不可欠で、ここでrich experience<良い経験>をしたものは、さらにブランド依存を強める」「1度ブランドが確立してしまうと、それを追随するはほとんど困難である」という議論もある。

ネットにおけるブランドビルディング

 ネットでかくもブランドが重視される理由は前にも述べたが、ネットではブランドに関わる様々な仮説、経験則がまん延している。
代表例はつぎのようなものだ。

1)早いもの勝ちの理論;ネットでは先にブランドイメージを確立したものが勝者である、という理論だ。これは今のところ正しい理論である。何故ならウェブでの先行者は後発企業に比べ、1〜2年程度の先行経験を持っている。ドッグイヤー(1年が7年に相当する)のウェブではこの先行メリットは何にも変えがたいからだ。
 一方でネットプレゼンスの確立に膨大なコストがかかるウェブでは、先発企業は既にこの部分での初期投資が終了しはじめており、後発企業がキャッチアップするには、ばく大な投資と時間が必要になっているからである。
 もっとも例外はある。創業1年でメガブランド入りを果たした、pricelineである。ここは指し値ショッピングを可能とするベンチャー企業で、このノウハウは特許をとっている。ここの当初の戦略はラジオCMであったという。「name your price!」とラジオで連呼したことが、ブランド認知を促進したと言われている。ブランド浸透におけるオフラインメディアとの連携はよく議論されるところだが、そのインターラクティブ性を考えれば、むしろテレビよりはラジオの方が接点があるのかもしれない。

2)ネチズンは、ウェブ上で生まれたブランドをより好む;よく議論されるブランド仮説の2番目がこれである。インターネットユーザー(ネチズン)は、ウェブ上で生まれ、育ってきたブランド(internet-born-and-bred)をより好むという説だ。何故ならネチズンの人たちは、自分たちのホームグラウンドで生まれ育ったブランドをサポートしようとする姿勢が強いからだと、解釈されている。これもある意味で真実である。
 だが別の視点からみると、これはinternet-born-and-bred型企業がウェブのリーダーとなってきた、ということでもある。ウェブ上で起業し、逃げ場がない彼らが、試行錯誤の末、今の形を築いたということでもある。
 実際、あのトイザラスのウェブショップはeToysに比べると全く精彩がない(今度てこ入れをするらしい)。あのエクセレントカンパニーのウォルマートのウェブショップもよくは出来ているが「何だ、こんなものか」という印象が強い。結局はinternet-born-and-bred型企業と従来型企業とのビジネススタイルや価値観の違いが、ウェブ上でのパフォーマンスの差を生み、それが結果的にユーザーの支持を増幅させた、というのが正しい見方だろう。
 逆に言えば、従来型企業がネットで成功を収めようとする場合には、カルチャーを変えねばならない、ということでもある。
 ちなみに、従来型メディアの代表例であるTVGuideがウェブメディアGIST TVを立ち上げた時のブランド戦略は次のようなものであったという。

1)徹底的にウェブの特性をいかす(便宜性、スピード、パーソナル化での差別化)
2)徹底的にウェブ利用者のデモグラフィック、サイコグラフィック特性にビジネスの焦点を絞る
3)素早いアクション
4)食わなければ食われることを自覚する

 4)は説明が必要だが、伝統的企業がウエブに足を踏み入れる場合、彼らはまず自分たちの既存ビジネスに影響を与えるのではないか、ということを心配する。いわば共食いになることを恐れるわけだ。だが共食いの心配をしている間に、実際には他社に食われてしまうということなのだ。

●e-brandingの成功要

 e-brandingには様々な成功要件が出てきた。多くは経験則であるものの、ネット上のブランド戦略が曖昧である日本企業にとっては参考になるものも多い。
ブランドネームに関して>

 まずブランドネームについては次のようなことが言われている。
1)わかりやすいネーミング;まずこれが基本である。あのZiff-DavisはただのZDになってしまったし、わかりやすいといえば、アマゾンもヤフーもネーミングとしては抜群だ。ひるがえって日本をみると、○○バーチャルモールとか、△△サイバープラザとか、陳腐かつ、わかりにくいネーミングが目立つ。
リクルートのイサイズは日本企業の中ではわかりやすく、かつブランドの統一感がある数少ない例の1つだ。
2)タグラインあるいはスローガンにブランドネームを含める
 タグラインとは、キャッチコピーのようなものである。自分のサイトを端的に宣伝するキャッチコピーが必要だ。例えば検索エンジンのLycosのタグラインは「Get Lycos or get lost」というものである。オフラインメディアを利用する場合もこれが統一コピーになる。
3)覚えやすいこと;単なる名前として考えるのでなく、それが「良い状態」であるかどうかを考慮しなければならない。「良い状態」とはまず覚えやすいことであるとされる。口にすぐ出せる、提供しているサービスコンセプトを内在する・・といったブランドネームが必要である。ippin!などはかなり秀逸な名前であろう。「クロネコ探検隊」もサービス内容が類推できる点がよい。
 アメリカ企業の場合は、URLを商標の1つとして考える傾向があり、その代表例がアマゾンコムやギャップコムなどの、ドットコムカンパニーだ。co.jpとなるとややこの点は不利である。
4)リアルワールドのブランド価値を活かす;ネット上の起業家でないならば、まずは既存のブランド力を何らかの形で活用するのが常套手段だ。例えば○○流通グループが手がけるチケットサービスであるなら、「○○チケットオンライン」となるのが妥当なところで、いきなり○○を省略し、「エクスプレスチケット」などというブランド名にはならない。もっともこれも賛否両論あって、手あかのついたリアルの世界のブランドネームははずした方がよいという意見もある。

 日本でウェブブランドマーケティングを気合いを入れて展開している企業は少ないが、例外はソニーで、ブランド別サイトの構築、ブランド別アフィニティクラブの構築など様々なアプローチが見受けられる。プロバイダーとしてのネーミングもソネットであり、リアルの世界との連動性が確保されている。ビッグローブだのインフォウェブといったネーミングよりはブランドビルディングの形としては、適切だ。最も後者の例は親会社のブランドイメージが希薄であるからかもしれないが。
 アコムのアコシスもブランド名としてはおもしろい。リアルの世界との連動性を確保し、かつマークのプレゼンスが増えているので、ことブランド戦略という点だけからみればクレジットカード会社よりはるかにおもしろい展開だ。

<ブランド浸透に関して>
 ブランド浸透に関しては、実に基本的な議論が多い。何故ならウェブでのブランド形成が、単なるイメージではなく、体験によるものだ、という主張が多いからだ。ここでは次のようなKFS(成功要件)が見受けられる。

1)買うだけではない(more than buying)
 ウェブでのブランド形成は単なるショッピング機能ではないという説。コミュニティ機能、情報機能、インターラクティブ機能が相伴ってブランドは形成される、という説だ。ウェブの成功モデルの1つが「コミュニティ&コマース」であることは、これまでにも書いてきたが、結果的に「コミュニティ&コマース」であることが、ショップとしてのブランド形成を助けるという考え方だ。
2)ユニークかつ新しい機能の提供
 そのサイトがどのような新しくかつユニークな機能を提供しているかを明確にすること。人々のライフスタイルにどのような貢献をするかを明確にすることである、とされる。
3)richな経験の提供
 これが基本であるとされる。きちんと差別化された価値を提供しているか、パーソナライズは行われているか、信頼ができ、スピーディな購買体験が行えるか、といったことである。
4)デジタル口コミの利用

 ウェブでのブランド浸透で最も重要なものの1つ。場合によってはバナー等の広告より重要であるとされる。もちろんメーリングリスト等による口コミの浸透もあるが、システムとして展開する場合もある。
 ゴルフ用品のサイトとして評判を高めたChip Shot Golfの戦略は購入客に対してディスカウントのコードを提供とするというもの。このコードを友人に教えれば友人も割引になり、さらに本人にも追加メリットがあるというものであった。
5)パートナーを厳密に選ぶ
 バナー交換やリンク交換、あるいは共同バナーといった「緩やかなパートナーシップ」には十分注意を払うようにということである。軽い気持ちで行うと、自社で折角確立したブランドパワーを損なうことがある。
6)ブランドを守る
 あのサウスウェスト航空がSouthwest.comのドメインを獲得したのはやっと昨年のことである。それまではIflyswa.com(私はswaでフライトする)というドメインを使っていた。というより使いたくても使えなかったわけだ。特にドメイン問題に関しては、機敏かつ敏感になる必要があるという。こうしたネット上のブランドアイデンティティ(e-dentity)を守ることを専門にする企業も登場している。
http://www.thomson-thomson.com他)
7)カスタマーの声に耳を傾ける
顧客の声に絶えず耳を傾け、そのフィードバックにより、ブランドを作っていくということである。
8)eを止める
 e-businessとかe-retailとか言うのを止め、eを取った世界で勝負しなさい、ということである。要するにサービスに関しては特殊性でなく、商売の普遍性で勝負しなさいということだ。逆説的だが真実だろう。

<ブランド力のない企業のために>
 リアルの世界での実績のない企業、あるいはネット上での知名度のない企業が行うべきこととして、次のような点が指摘されている。

1)わかりやすいドメインネーム、タグライン、サービス名を使うこと
2)確立されたブランド名サイトから買う以上の価値の提供;価格面、パーソナルサービス面等のことである。
3)リアルの世界の住所、電話、ファックス、地図等を明記すること。コンタクトがあった場合は速やかにリスポンスすること
4)双方向の手段を用意すること
5)商品またはサービスに対する独自のギャランティーを行うこと
6)販売商品、サービスを見つけてもらうための最短ルートを確保すること;検索エンジンでの登録法等のことである。
7)オンライン以外に様々な決済の選択肢を用意すること
8)スピーディな配送、期日指定配送が可能であることを明記すること
9)顧客対応の電話を明記し、十分な対応ができる体制を作ること
10)顧客の評判の掲載、評価サイトでの結果の引用、パブリシティ例等を明記すること
11)過去の履歴、ビジネスヒストリー等を明記すること


 日本の中小電子商店の多くはここに書かれたようなことを、既に体験として実践しているケースが多い。アメリカで麗々しくビジネスヒントとして紹介されていることが、日本で既に実践されている点からみれば、日本の中小企業のレベルはなかなかのものである。

 余談であるが、ウェブ上のブランドビルディングに熱心な某企業は最近新聞の全面広告にとてつもなく大きな顔写真つきの担当者掲載広告を載せている。e-businessのエキスパートを紹介しているのだとは思うが、必ずしも美人、美男子揃いというわけにもいかず、あまりのデカサに見るのを止めることもある。ブランドビルディングの方法としては逆効果であると思うのは、多分筆者だけであろう。





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