理由その1:ウェブライフスタイラーの比率の差
最近ウェブライフスタイルという言葉が流行っている。ウェブライフスタイルとは、ウェブを空気のように当たり前に使いこなしている生活スタイルのことだ。これを実践している人がウェブライフスタイラーということになる。アメリカではこのウェブライフスタイラーの比率が全人口の2割を越すと、市場が飛躍的に拡大するという説があった。丁度昨年がこの転換点になった。図表1は日米のマーケット構造の違いを見たものだ。市場規模やEC化比率の違いもさることながら、アメリカでは全人口対比アクティブユーザーの比率はちょうと2割となっている。一方日本は甘めに計算して約8.3%だ。問題はいつ2割を越すかだが、アメリカの成長カーブに照らし合わせて見ると、3年後位という感じだ。スタートは同じであったのに、ライフスタイルへの浸透という点では3年の差がついているのが現状だ。
もちろんこの背景には、通信料金の高さ、SOHO人口の差、オンライン型ライフスタイルの必然性等様々な問題がある。だが馬に無理やり水を飲ませようとしても無理なように、ウェブライフスタイル人口の底上げなくしてはマーケットは成長しない。この点市場が飛躍的に拡大する時期を迎えるまでにはまだ時間がかかりそうだ
理由その2;「インターネット経済」の構造の差
先般テキサス大学電子商取引研究センターより興味深いレポートが発表された(その内容については、日本インターネット協会会報IAJ NEWS Vol6. No2に掲載)。
そこではインターネットに関連するビジネスの構造を「インターネット経済」という概念で取り上げている。その内容は次の4階層に分かれるというものだ。
1)インターネットインフラストラクチュア層;技術やインフラに関連するビジネス分野
2)アプリケーションインフラストラクチュア層;インターネット関連のアプリケーションを提供する企業、あるいはインターネットコンサルティング会社、ウェブデザイン会社なども含まれる
3)電子仲介層;インターネットで仲介業を営むマッチングビジネス関連業者、オークション業者などが含まれる
4)インターネットコマース階層;いわゆるEC関連企業がここに含まれる
この調査ではこの4階層合わせた「インターネット経済」の規模は、98年推定で3014億ドルに達し、それは1国の経済に換算すると、アルゼンチンを抜きスイスに次ぐ世界第18位の規模に成長したとされる。また既にこの水準は自動車(3500億ドル)、電気通信(2700億ドル)といった伝統的産業に匹敵する規模に到達したと分析している。
驚異的なのはその成長率で、この4年間のインターネット経済の年平均経済成長率は175%。この間の国内総生産の年平均成長率はわずか2.8%であり、圧倒的な成長性の違いを見せつける結果となった。
この結果、米国ではインターネット経済に何らかの形で関わらない限り、最早生き残りの道はない、という認識が広まりつつあるというわけだ。
インターネット経済をこの視点からみると、日本では根本的な構造の差が見受けられる。 日本での同種の調査は無いが、仮に実施するとすれば、まずは「インフラストラクチュア層」の脆弱さが浮き彫りにされることだろう。日本では第4階層のインターネットコマースに話題が集中しがちだが、それを支えるインフラ面は特にアプリケーション面で米国産のノウハウが幅を利かせている。さらに第3階層である仲介層はやっとビジネスの芽が出始めた段階だ。第4階層についても、規模の差もあるが、インターネット生成期のビジネスモデルが目に付く。ECという議論だけは盛んだが、その構造を見ると、実にいびつかつ脆弱な印象は否めない。
理由その3;トップマネジメントの理解度の差
実はこれが根本的理由だったりするのだが、先般カード会社の幹部の人と話をしたのだが、そのインターネット理解のあいまいさにびっくりした経験がある。まずはビジネスモデルを理解していない。アマゾンのような単独店とカード会社が好きな「モール」形態の本質的な差も理解していない。よくこれでECの指揮が取れるものだと感心した記憶がある。
世の中には暇な会社もあるもので、世界のCEOの「オンライン化状況」を調査した結果がある(図表2)。「オンライン化状況」とは前述のウェブライフスタイラーと似たようなものだ。どの位インターネット等のネットワークが仕事や生活に馴染んでいるかをみたものだ。この結果を見ると、案の定というべきか、日本のCEOは利用率の点ではそれほど差がないが、「ウェブに慣れ親しんでいる」「オンラインショッピングに利用」等の点ではダントツの最下位である。要は体で理解せず、結果的にウェブライフスタイル度が低い日本のCEOと、仕事にも生活にも定着しているアメリカのCEO との違いが浮き彫りにされているわけだ。
何もCEO がオンラインショッピングを利用すればよいという訳ではない。だが全く新しい発想やカルチャーが必要になってきたインターネットの世界で、本質を理解していないトップマネジメントが多いという事実は、やはり日米格差の原因の1つとなるだろう。
理由その4;伝統的企業の失敗理由
アメリカでも全ての企業がインターネットビジネスで成功しているわけではない。例えばマルチチャネル企業(銀行、百貨店、カタログビジネス企業のように、既存のチャネルやメディアを持っている企業)、伝統的カルチャーを持つ企業は苦戦しているとされる。これに対し、身軽なInternet born and bred企業(アマゾンのようなインターネット生まれ、育ちの企業)が輝いているというのが定説だ。例えばあのトイザラスはeToysにはかなわない、という具合だ。
一方大企業は相応にパフォーマンスが良いとされるが、その理由として「資金が潤沢」「人的リソースがある」「IT<インフォメーションテクノロジー>のスペシャリストがボードにいる」「ブランドパワーがある」「国内外の流通システムのインフラがある」等が指摘されている(Activmedia Report98)。
伝統的企業がダメな理由としては「共食いを恐れる<恐れている間に食われる>」(既存のチャネルがネット上の直販に侵食されるといったようなこと)、「カルチャーを変えない」「アクションが遅い」「絞りきれない」(既存顧客とネットユーザーのプロフィールギャップといったこと)、といったことが言われている。
この2つの視点は全く日本企業と共通だ。日本ではボードメンバーにITスペシャリストがいる割合は少ないが、その他の理由は全く共通。一方でダメな理由もそっくりそのまま当てはまる。要するに、日本では大企業ならではの要因が活かしきれず、逆にダメな要因がアメリカ対比ことの他ウェイトが高く、それが結果的に足を引っ張っているということなのだろう。
理由その5:リーダー不在
アメリカでのビジネスリーダーは前述のInternet born and bred企業である。では日本でEC をリードしているのは誰か。これが実に悩ましい。現存する1万数千店の店舗のほとんどは中小・個人企業だが、その内の9割はぼんやりした店だ。初期投資、ランニングコストがかからない分、てこ入れもしないし撤退もしない。だが残りのトップ数%の中小電子商店は本当に素晴らしい。ありとあらゆる試行錯誤を行い、情報交換を行い、優れたビジネスサイトの研究を行っている。一方何らかの理由でEC参入の必然性があるだけに(本業不振、業界環境の変化等)、背水の陣を引いている。これが結果的にパフォーマンスの差となって現われている。だが彼らにECのリーダーシップを求めるの体力的には酷である。
一方アメリカではモノを触らせないで売るノウハウを持っているカタログビジネスの企業などは、相応に成果をあげている。既存のカタログとオンラインメディアとの相乗作用も生まれてきた。だが日本では本家本元のはずの通販企業は、実に情けない展開をしている。理由は「顧客層の違い」ということにされているが、その理由の多くは前述の「伝統的企業がダメな理由」がそのままあてはまる。
ベンチャーもそろそろ出始めたが、まだビジネス規模はほんの微々たるものだ。結局日本ではEC を引っ張る役割のリーダーがほとんど見当たらない。
理由その6;ビジネスモデルの選択
インターネットでは次から次に新しいビジネスモデルが生まれている。その基本姿勢は次のようなことだ。
・ストレスフリーコマースであること;実店舗で消費者がよく体験するストレスが全て解消されたコマースであること(例えば情報が乏しい、欠品が多い、従業員が間の抜けた対応をする、等実店舗は結構ストレスの多い場だ)
・コンシューマー・セントリックモデルであること;消費者が決め、選択し、消費者が偉いということが基本のビジネスであること
・インターネット的であること;全く新しいビジネスモデル、購買スタイル、プロセス革新、選択肢を提供しているものであること
例えばウェブでの最近のビジネスモデルは次のように類型化される。
・バイヤードリブンモデル;消費者が価格決定権を含め、選択権を持つモデル(pricelineなど)
・サイバースーパーストア;アマゾンのように実店舗では不可能な巨大な品揃えを持つスーパーストア
・メガブランドモデル;5千万人以上の人に認知されたビジネスモデル。バイヤードリブンモデル、サイバースーパーストアモデルの中にこのメガブランド化を達成した企業が目立つ
・more than buying;買うだけではないという店。代表例はGarden.com。特化した専門店であることが多いが、ふんだんな情報、うんちくを傾けあったり、専門家のアドバイスを仰ぐようなコミュニティ機能が充実している店。結果的にただ来訪した非購買者でも、満足度が高まり、彼らに良質な口コミの発生を期待することができる。コミュニティ機能はインターネットの双方向性を前提にしているだけに、最もインターネットらしい店舗スタイルの1つ。
・強者連合;アメリカでは対アマゾン対策のための企業連合が始まった。既に実積のある店同士が連携し、共同販促、集客、送客等の点で連携する。日本でも実積のある中小電子商店の連携の事例がある。
・サーチ&コンペア;最もインターネット的な購買行動モデルであり、検索して比較することを基盤にショッピングを行なう。例えば品番まで指定すれば、インターネット中のショップを駆け巡り価格比較を行なってくれるサイト、特定の商品について、徹底的にスペック、消費者評価、パフォーマンス等の点で比較を行なってくれるサイト等がある。ここが起点でショッピングが発生するようなビジネスモデルだ。
・バーティカルポータル;アマゾン型のビジネス戦略だ。書店の基盤をもとに、商品面の垂直展開を目指す。アマゾンの目指すところは「地球上で最も品揃えの多い店」とのことだ。
・直販モデル;1日1300万ドル売るデルコンピュータが代表例。日本でもパソコンメーカーが直販サイトを手がけているが、価格面で既存チャネルに遠慮しており、及び腰の感が否めない
・モールモデル;「場所を設けてテナントを集める」という不動産屋発想のモデルは全滅に近いが、唯一生き残っているのが楽天市場だ。カード会社系、システム関連企業系のモールは将来の見通しが立たない状況だ。一方で特化したスペシャルモール、あるいはテーマ性のあるモールはそれなりに存在感を示している。
・ポータルショッピングチャネル;プロバイダーサイト、検索エンジンサイト等ポータル化を目指す企業が、マーチャント機能を持つケース。ソニーのソネット、松下のHIho、NECのビッグローブ等のショッピング機能が代表例。アメリカではAOL が大成功したと言われる事例だ。
・ショーケースストア;日本の中小電子商店に多い。商品を絞り込み、特徴と名物商品を持つ専門店だ。紅茶屋、コーヒー屋、Tシャツ屋、傘屋、照明器具屋、帽子屋等業種は様々。ハイタッチなサービスが売り物で、ネットであるにも関わらず事実上は対面販売を行なっているような店だ。
・非常識モデル;最近注目されている、実に非常識な店だ。代表例はBuy.Comで小売業の癖に利益率ゼロを標榜する。要するに広告収入と将来のIPO(新規株式情報)を狙う。今のところBuy.Comは月100万ドル単位の赤字をたれ流しているが、インターネット界の打ち出の小槌、ソフトバンクが資金供給している。
・マッチングモデル;オークション業者、売り手と買い手をお見合いさせる電子仲介業等のモデルだ。
こうした様々なビジネスモデルが出現している中で、日本で目立つのは、オーソドックスかつ初期のビジネスモデルだ。まずはショーケースストア型の専門店とモールモデルがいまだに目立つ。前者は中小企業の新たなビジネスチャンスとしての役割があるが、後者は余程特化しないと生き残りの道は厳しい。
一方でマッチングモデルはいくつかの事例が出現したが、アメリカ企業が本格的に進出するに連れ、身売りを図ったケースも出現した。オークションにしても、本格展開はこれからで、現状は需要と供給のニーズのずれが目立つ。
サイバースーパーストアは一見日本にもあるようだが、よくよく見ると、インターネット生まれ・インターネット育ちの事例はない。書店、パソコン店はいずれも実店舗を持つ企業のインターネット支店との位置づけだ。結果的に書店などは実につまらない出来栄えで単なる受注窓口の役割しか果たしていない。
結局のところ、非常識、脱常識の目立つネットの世界で、極めて常識的な発想でが幅を利かせているのが日本の現状だ。ビジネスモデルの選択の点で、かなりの差があるとみて良いだろう。
ところで日本でも優れたビジネスモデルがある。それを「崖っぷちモデル」という。あの杜仲茶で有名な日立造船がやっている「ホテルの窓口」(現在は旅の窓口に名称変更)は実に親切だが、本業が崖っぷちであるだけに、気合いの入り方が違う。また証券業界の松井、今川両證券もネットに生き残りの道を求めた感が強い。頑張っている中小電子商店の多くも、本業、あるいは実店舗が「崖っぷち」であったという人が多い。21世紀を切り開くはずのECで、日本的ビジネスモデルの筆頭が「崖っぷちモデル」というのでは、少々情けない気もしないではないが、これこそが日本的 ECの真骨頂である。
|