●オンラインとオフラインの融合
インターネット事情は今ではほとんどウェブでわかる。だが街の空気をすってみて初めてわかることもあるものだ。まず目立つのが巷に溢れるドットコムカンパニーの広告だ。年々増加してはいたものの、サンフランシスコあたりは溢れんばかり。タクシーの屋根の広告塔、市街地の立て看、バスの壁面、テレビのCM・・・。urlそのものの広告がやたらに目立つ。ネットビジネスの戦いは、最早ブランド競争だ。いち早くブランドを浸透させるためには、ネット上のPRだけでは差別化できないのは明らかだ。かくして広告代理店にとって、オンライン企業は最大のお得意様となってきた。
マーケティングでもオンラインとオフラインの融合が目立つ。一例はネットを活用した「キーアウトレットマーケティング」の展開だ。キーアウトレットマーケティングとは、既存店舗のイメージ浸透と集客を目指すものだ。当然クーポン等の集客ツールとドッキングする手法だ。これがウェブ上で相当に目立つ。外食等のフランチャイズチェーン、あるいは食品雑貨等のメーカーが小売店サポートプログラムとして行うケース等がある。必ずしもウェブ上でのECソリューションを目指さない手法だ。いわばウエブマーケティングとしての展開で、これが手法として確立してきた印象が強い。
加えて、オンラインとオフラインの融合にはもう1つの理由がある。キーワードは「プロアクティブ」な顧客の獲得なのだそうで、顧客化する以前の消費者をいかに目覚めさせるかの競争なのだという。結果的にその「覚醒手段」はオンラインからオフラインへと場を移さざるを得ないというわけだ。これが巷にurl広告の溢れるもう1つの理由でもある。
メディア面でもオンラインとオフラインの融合は重要なテーマとなりつつある。その一例がe-mailマネジメントシステムと称するもの。これはシリコンバレーのベンチャー、e-gainが提供している手法だ(www.egain.com)。ネットビジネスの拡大に伴い、ネット上での顧客接点の前線はe-mailになりつつある。だが急増するe-mailに企業内で対応していては最早不可能な状況さえ出てきている。そこで登場した一種のアウトソーシングのビジネスだ。ミソは既存のコールセンター、顧客窓口との一体化された解析が可能なことで、近々日本にも進出するとのことだ。
彼らの言葉によれば、「顧客とのインターラクションを収益につなげる」あるいは「顧客との接触機会は収入につながる」とのことで、それを実証する導入クライアントのケーススタディが彼らのウェブではいくつか公開されていた。これも考えてみれば当たり前だ。いかなるメディアを経由しようと、顧客の声にかわりがあるわけではない。どのメディアから顧客がアプローチしてこようと、その挙動を把握しておく必要はある。統合システムの登場は予想されるシナリオだ。マーケティング界の最近のテーマの1つは「定性情報の解析」だが、定性情報の代表のような顧客の声をどこまで人工知能などIT技術で解析できるのか、その中身が問われるところだ。
オフラインとオンラインの話で忘れてはならないのは、既存のオフライン企業とオンライン専業企業との相克だ。オフライン企業は次々にマルチチャネル化している。e-tradeに侵食され始めたあのメリルリンチもやっと重い腰をあげた。今からでまだ間に合うのか?と金融コンサルタントに尋ねたところ、答えはイエスでもありノーでもあるとのこと。やり方次第ということなのだろう。しばらくは従来型オフライン企業のオンライン戦略についてはお手並み拝見というところだろう。
日本でも10月からの手数料自由化に伴い証券業界のオンライントレードが事実上の、スタートを切る。オフライン企業、外資、オンライン専業企業、ソニー等異業種、ネット移行を強める中堅既存証券等、様々なプレーヤー入り乱れての乱戦模様だ。ただ事実上は10月からの「ヨイードン」だけに、どこがいち早くブランド浸透に成功するのか、実に見物である。日本におけるオンラインvs.オフライン企業の事実上の戦争の始まりだ。
今のところは口座数では既存オフライン企業が先行しているが、いつまでこれが続くのか、やじ馬としては興味津々だ。
●ネットビジネスにおけるインテグレーションの浸透
ネットビジネスのソリューションを提供する企業側では、一層のインテグレーションが進展している。つまり単なる専門化されたサービスを提供していては、生き残れないということなのだ。例えばある企業がECを目指すとしよう。ここでは次のステップが必要になる。
1)戦略構築のステップ:企業のポジショニングや資源、問題点から判断し、どのようなネット戦略を構築すべきかをまとめるステップ。当然単なるECとしてとらえるのではなく、全体の課題の中でのネット戦略の位置づけが明確であることが不可欠。いわばマネジメントあるいはマーケティングコンサルティングのステップといえる。
2)システム開発あるいは導入のステップ:いわばテクノロジーの側面で、これなしにはECは成立しない。
3)情報デザインに関するクリエイティブワークのステップ:コンセプトに基づき、ウェブをデザインしていくステップだ。
従来はこれらのステップはそれぞれ分断され一種の縦割りで行われていた。だが最早これでは最適のECソリューションは提供できないというわけだ。結果的に生まれたのがこれらを統合するSIPS(インターネット戦略プロフェッショナルサービス)ということで、代表例はこれもシリコンバレーのネットイヤーなど(www.netyear.net)。
ひるがえって日本の状況を見ると、往々にしてシンクタンク、広告代理店などが1)のステップで主導権を握りたがる。だが彼らは2)あるいは3)のステップでパワーを発揮できない。一方ECソリューションの開発に向け社内的に叱咤激励されている情報系、メーカー系企業は1)あるいは3)のステップが恐ろしく弱い。例えば最近の例だが、メーカー系情報サービス会社が手がけたある書店サイトは、戦略的には市場導入の形が差別化されていない。システムや決済、フルフィルメントの部分は後発メリットを生かしているが、一方でウェブページデザインは恐ろしく下手である。システム系、メーカ系企業が主導すると概してこういうケースになりがちなのだ。 かといってメーカー系やシステム系企業が1)について提案しても、クライント側からみればまるで説得力がない。この弱点を解消する動きとして出てきたのがSIPSなのだ。もっともシステム系、メーカ系企業がSIPSを目指す場合は、東芝など日立だの、NECだのといった既存ブランドを捨てない限り無理だろう。こうした一貫したスキルを持つ人をプロデユーサー、あるいはストラテジストと呼ぶ。ECソリューションを手がけたいと思う日本企業は3つのステップをすべて理解できるストラテジストの育成が急務なのだ。
ところで年間4千件の見学者を受け入れるシスコもお上りさんのようにのぞいてきた。(www.cisco.com)。4千件だけあって、すべてがベルトコンベアーのように効率的に処理される。だが結局は4千件のビジターはシスコはいかに素晴らしいかのプロパガンダを聞かされるている印象が強い。ただこのシスコもインテグレーションの典型のような企業だ。彼らはe-commerceとはいわずに、i-commerceと呼ぶ。単にエレクトロニックな処方せんを提供するわけではありませんよ、というわけだ。これはe-businessだのe-serviceなどといいたがる同業企業への皮肉なのかもしれないが。
もう1つの主張はインターネットビジネスのソリューションは企業の従来のシステムやインフラ、さらにはインターネットのトータルのアプリケーションの中できちんと「archiecture」(構造)を作らなければいけませんよ、ということなのだ。
私たちは「corporation of the future」であると威張っており、「corporation of the past」から来ることが多い日本人ビジターは皆しゅんとして下を向くという図式ができ上がっている。
インテグレーションといえば、日本企業の大好きな「モールモデル」で先行的なノウハウを持つi-mallも一層のインテグレーションを進めている(www.imallinc.com)。
当初はモールのディぺろっパーとしてスタートしたが、今では完全にトータルなecソリューションを他企業に提供するサービスに脱皮している。
・サイト作成ツールの提供やホスティング
・ショッピングカートやレジ等のe-commerceソリューションの提供
・マーチャント口座の設立
・ペイメントゲイトウェイの提供
・トラフィック確保等マーケティング機能の提供
の5つのサービスをパッケージとして提供する。場所と決済機能だけ提供してお茶を濁している日本のカード会社にとってはお手本になる事例だろう。
ecソリューションの提供においては、決済面のサービスは基本機能であり、それにマーケティングサービスをいかに付け加えるかが勝負なのだ、という極めて当たり前の展開が行われている。モールとしてのimallはテナント数2500とのことだ(www.imall.com)。1つのトップページから2500ものテナントへどう送客するかがヒケツだが、imallではテナントはimallへの登録と同時に一種の商品検索サイトであるstuff.comにも同時に登録される。あのエキサイトに買収されたようで、今後はエキサイトのショッピングチャネルでの露出も期待できることになり、テナントにとってはネットプレゼンス確保の手段が1つ増えることになる。
●日米格差の認識
あるところで「日本の状況は1994年のアメリカに酷似している」といわれたのが印象的だ。確かに人口動態だけみれば、日本の女性ユーザー比率は94年のアメリカの状況と同じだ。ネットユーザーの数も似ており、いわば5年遅れといった状況だ。ただ日本市場を視野にいれたり、進出が決まっているところは楽観論。とはいえ、3年遅れとの認識は共通だ。日本を少しは知っている人たちはかなり悲観的。知れば知るほど悲観論になるということか。何でもありで自由な発想のインターネットで、日本企業は古いビジネスモデルにしがみついているという意見もあって、全く同感だ。
●日本の強みに関する認識
日本が米国に比べ圧倒的に優れている分野があるという話を聞いた。言うまでもなくモバイルの分野だ。そういえば米国の携帯電話は実に不細工だ。図体がでかくて、胸ポケットに入れるのは無理である。このモバイル分野のECに関しては、日本の先行を指摘する声が目立った。
個人的には携帯の小さな窓でimodeを利用して取引をしたり、まして小説を読むなどということはまっぴらである。だがこれはもう世代、あるいはライフスタイルの違いであって、日本にはモバイラーが確実に浸透している。かくしてモバイル型ECも市場としては確実にあるだろう。事実imodeを利用したオンライントレードは増えているし、チケット等サービス系の利用も増えそうだ。というわけで、日本的ECの形としてモバイルを視野に入れるのは、シナリオとしては確実視できそうだ。
ついでにいえば、コンビニも日本的ECのインフラであることがアメリカと比べるとよくこわかる。大体アメリカのコンビニは薄暗いし、清潔感もない。夜は怖いし、まして日本のように若者の社交場でもない。その点日本のコンビニのレベルは恐ろしく高いことが実感できる。モバイルとコンビニ。どうもオリジナリティはこのあたりに求められそうだ。
●決済システムの差
アメリカのECサイトはオープンなクレジットカードでほぼ標準化されたといっても間違いないだろう。MP3のような1ドル単位の低額決済もすでにクレジットカードで利用できる。電子決済のような仕組みも検討してます、とは言っていたが、あまり重要視している気配は見受けられない。日本人はやたらに決済の安全性の話にこだわる、と皆言っていたが、実際にはクレジットカードの安全性は確立されたものとの認識が現場では強い。
ひるがえって日本だが、大体会員制前提の決済システムなど、奇妙な決済が台頭している。ソネットのSmashやhi-ho、ニフティとインフォウェブのiRegiなどが代表例だ。ユーザー側の決済はクレジットカードであるだけに、結果的に小売店側の手数料は8〜10%にもなり、これらの電子決済比率が増えれば収益を圧迫する構造となっている。目下のところは、小売店側は直接のクレジットカード決済ができないための次善の策として、あるいは決済マークを一種のクレディビリティの証として利用しているようなものだ。大体オープンかつフリーが成功要件のインターネットでクローズドなシステムが当然視されること自体理解できない。手数料が今のままでは、小売店側からみれば、当然選別の動きが出てくる。将来性のあるシステムにはとても見えないが、これもまた日本的ECの1つの形なのだろう。クレジットカードとそれにまつわる展開の形に関してはどうひいき目に見ても日米の格差は大きい。
こうしたすき間をついてアメリカから「手数料は安い、入金は早い」ことを売り物とするサードパーティのクレジットカードのマルチマネー決済サービスが入り込みそうである。そうなると、会員制電子決済などといった需要は少なくとも小売店側にはなくなりそうな気がする。
●理想と現実あるいは光と影
サンフランシスコ空港の国内線乗り継ぎの窓口は混乱の極みであった。荷物は間違って大阪に送られそうになるし、処理は恐ろしく手際が悪い。これはアメリカン航空だったが、アメリカン航空のウェブは優良顧客へのカスタマイズされたサービスを提供するものとして褒め称えられている。だがウェブの世界のきれいごとはリアルの世界では通用していない。
さらには、ウェブを駆使してそのメリットを享受する「デジタルリッチ」と全く見向きもせず、ウェブがパブリックサービスとなるにつれ、取り残され始めた「デジタルホームレス」との格差も開きつつあるとのことであった。 |