連載:ECのマーケティング

第16回
再びe-brandingを考える
カードウェーブ00.01


 e-brandingについては、この連載でも1度取り上げたことがある。だが、日本のEC関係者は、概してネット上のブランド戦略に無関心だ。海の向こうではネットビジネスは過激なブランド浸透競争になりつつある。今回はネット上でのブランディングについて、再び考えてみよう。
●広告費を吊り上げるドットコム企業

 かって広告代理店はウェブが登場したとき、もはやマスメディア広告の生きる道はないのか、と本気になって心配していた。だがそれは全くの杞憂に終わった。今や86%のEC企業はオフラインメディアに投資。広告業界は、あたかも神風が吹いたかのようで、ゴールドラッシュの再来だと騒いでいる。結果的にマスメディアにはドットコム企業のurl広告が溢れ、彼らは、一時の日本企業が海外不動産を買い占めたのと全く同様に、ネット広告という「不動産」の買い占めに走っている。
 なかでも関心が高いのはラジオだ。あのプライスライン以来ラジオ広告は注目の的だ。url浸透広告とは、ドメインを素直に宣伝するもの、タグライン(愛称、サービスコンセプトのキャッチコピーのようなもの)をアピールするものがある。後者が例えばプライスラインの「Name your price!」(あなたの価格を!)である。古くはヤフーの「Do you yahoo?」(あなた、ヤフーしてる?)などもこの仲間だ。この短く端的なキャッチコピーは実にラジオ向きだ。かくして30秒のラジオスポットの料金は700ドルから一気に4千ドルに跳ね上がったといわれる。業界全体でも1割アップというから、広告業界は笑いが止まらない。ちなみに、オフライン、オンライン含めた順位では、広告先は
・新聞55%
・雑誌54%
・ほかのサイトとのパートナーシップ49%
・オンラインアド47%
・テレビ・ラジオ広告35%
という結果だ〔Intermarket Group調べ)

 新聞・雑誌業界も笑いが止まらない。日本でも最近は10月一斉スタートとなったオンライントレーディング業界を始め、さまざまなネット企業のマスメディア広告が目に付くようになった。テレビでもurlだけを訴求するCMが登場。状況はやや変わり始めた。だがこんなものは序の口だ。いずれネット企業の広告で溢れ帰る時代がやってくる。

●e-brandingはなぜ重要か

 このようにブランド訴求広告が増大する背景には、あらゆるECのマーケティング課題の中で、ブランディングこそ最重要であるという認識が出てきたからだ。
ECを分解してみると、そこには次の3つのステップがある。

1)アウェアネス確保のステップ:リアルの世界の購買行動論にはAIDMA(購買行動はアテンション→インタレスト→ディザイア→メモリー→アクションというステップを取るという理論)という考え方がある。これをネットに置き換えたものだ。ネットではアテンションといわず、アウェアネス〔認知)という言葉を使うことが多い。まずは認知されなければ話にならないというステップだ。ここではいかにネットプレゼンスを高めるかが、課題となる。従ってブランドを浸透させることがこのステップでの重要課題で、ネットではこのアウェアネス確保に無茶苦茶金がかかるようになってきた。これが巷にurl広告が溢れる背景だ。

2)コンバージョン率向上のステップ:アウェアネスが喚起され、来訪者がサイトに訪れたとする。次に重要なことは、単なる来訪者を購買者に転換させることだ。これをコンバージョン率という。日本では単に「客」と総称しているが、ショッパー(来店者)とバイヤー(購買者)は厳密にわけて考えることが多い。ちなみに、このショッパー→バイヤーのコンバージョン率を見ると〔表)、自動車などは、この比率はわずか2%程度。花やコンピュータなどは比較的高いが、基本的には、ウェブとは情報探しに来る場所だと考えた方が良い。調査結果ではすぐに買う人は1割。37%は調査して「後で買う」そうだから、ウエブ=come to learnの場所であると考えるのが妥当だ。このステップで行うべきことは
単なるショッパーの満足度も高めること(調査に耐えるサイトづくりを行い、後の購買につなげる、あるいは良質な口コミの生成を期待すること)
ショッパー→バイヤーの転換率を即時に高めること(買いやすい店づくり、衝動買いを誘う各種プロモーションの展開等)
の2つであるということだ。
 後述するが、ウェブでのブランドとは単なる名前のことではなく、「良質な経験そのものである」という議論がある。結果的にこのステップでも
「良質なブランド体験」が決め手であるわけだ。

3)ロイヤルティを高めるステップ:1度購入した客をリピート客に育てるステップだ。何のことはない、実世界の商売と全く同じだが、ウェブでロイヤルティを高める手法は3つある。1つは one to one等でパーソナルな対応を行うこと。もう1つはポイントなどロイヤルティマーケティングの手法を導入すること。残りがブランドロイヤルティを高めることである。結局。このステップでもブランド戦略こそ重要であるという議論が成立する。
以上3つのステップのいずれにもかかわる重要課題。これが
e-brandingなのだ。

●ネットでのブランドの定義

 ブランド戦略の重要性は理解して頂いたして、次にその中身に触れてみよう。
リアルのマーケティングの世界でもブランドは最もホットなテーマだ。マーケティングの教科書をひも解くと、「ブランドとは、競争相手との差別化を明確にするために付される名前、言葉、サイン、デザインないしはその複合」といった解釈がある。これがいわばブランドの古い解釈で、例えば「グリコのポッキー」といったものはこれに該当する。
これが付加価値化したのがブランドパワー論だ。ブランドとは単なる名前のことではなくメッセージ性を持つものだという議論だ。例えばベンツ、ベネトンといったブランドが代表例で、商品の知覚品質はもとより、消費者に対するメッセージが込められているという議論だ。
要するに乱暴に要約すれば、

製品ブランド→名前、ロゴ、デザイン
・パワーブランド→メッセージ性
・流通業のブランド→象徴するコンセプトやスタイル

といったことなわけだ。例えば流通業ではあのノードストロームが典型だ。ノードストロームといえば一定のコンセプトやスタイルが思い浮かぶ。だが日本の流通業の最大の弱点はブランドが確立していないことだ。三越、高島屋、ダイエーといってもそれは単なる店名でしかない。それは万人向きの業態ではあるが、そこには消費者に伝えるべきコンセプト、スタイルが内在しない。ノードストロームはネットでも「あのノードストローム」だ。 日本でも百貨店や通販会社がECを展開しているが、いずれも苦戦している。なぜならそこには「ネットで伝えるべきブランド」が根本的に欠けている。結果的に中元・歳暮でお茶を濁すしかない。

 ネットでのブランドとは「ソリューション」である。つまり「このサイトは私のどのような不満、不便を解消してくれるのか」「ここはどのような新しい価値を私に提案してくれるのか」である。ここでは単なる名前の浸透だけではなく、「良質の経験」(リッチイクスピアリアンス)が含まれるという解釈だ。

 あのアマゾンはブランド名としても秀逸だが、アマゾンを利用すれば、何百万という在庫から商品が選べること、日本で待っていても1週間も経たないうちに届くこと、返品やクレーム処理の体制もなかなか優れていること、次回からは「三石さん用」の書籍を勧めてくれるなどがわかる。これがすべてアマゾンというブランドを形成することになったわけだ。

 ネット上でのブランドとは消費者に対するソリューションそのものだということをきちんと理解すべきだ。従って、日本企業が大好きなモールでの例えば「V−Mall」「J-Mall」
「○○サイバープラザ」「バーチャルシテイ」といったネーミング、すなわちブランドがいかに情けないものであるかがおわかりだろう。バーチャルであること、サイバーであること、は消費者にとっては何のソリューションでもない。企業側は「我が社もバーチャルモールを行っている」ということで嬉しいかもしれないが、消費者にとっては何の意味もないということだ。あの楽天市場はさまざまな問題を内在させながらも、今では1人勝ちの状態だが、これはパブリシティの効果でもあるが、1つはブランドの勝利でもある。「何だかごちゃごちゃしてよくわからないけれど、にぎわいのある、楽しそうなショッピングの場所」といったイメージが浸透したからだ。

ネットで強いブランドとは

 それではネットでのブランドが体験を伴うもの、ソリューションを提案するものだという大前提の上で、その中身を解剖してみよう。
そこには次の4つの要素がある。

1)ブランドの違い:ブランドのdifferentiation(差異)ということである。
ヤフーとライコスはどこが異なるのかということだ。CD Nowとミュージックブルバードは長いこと、ここでの差の演出を競い合っていたが、結局違いを出せず合併してしまった。

2)ブランドの適切さ:ブランドのrelevenceという言葉を使う。このブランドは私に語りかけているのか、ということだ。ユーザーはホームページにたどりつくと、まずこれを判断する。これがいわゆる3秒ルールなのだが、3秒以内に、ここは何をしているサイトなのか、ここでは私はウェルカムなのか、などを瞬時に判断してしまう。ここで「私向きでない」と判断すればどこかに飛んでいってしまう。

3)ブランドの評価:ブランドのesteemという。このブランドはいいぞ!といった評価や知覚品質のことだ。あれはいいぞ!となれば、その情報はデジタル口コミとしてネット中をかけめぐる。

4)ブランドの知識:ブランドのknowledgeという。ブランドの中身、そのサイトのパフォーマンスそのものだ。

 以上4つの要素の中で、優先されるものは、「適切さ」も大事だがそれ以上に大事なのは「違い」であり、また「知識」より「エスティーム」が大事だとされる。

 例えば知識とエスティームの軸でみれば、この両者の度合いが高いのが、例えばアマゾンやヤフーみたいなサイトだ。一方知識はあるが、エスティームがないのは、例えばリアルの世界でいえばマクドナルドのハンバーガーみたいなもので、どうしても価格競争に陥らざるを得ない宿命を持つ。一方でエスティ−ムはあるが、知識がないサイトはいわばウェブ上のさまざまな新興ブランドだ。まだ海のものとも山のものともわからない。だが可能性を秘めているぞ・・ということで、アメリカではいきなり金が集まったりしている。
 そこで日本のECサイトであるが、このいずれの条件にも合致しないケースが多い。並びで参入したため、違いもなく、誰に向かって語りかけているのかも明らかでない。知識は多少流布しているが、エスティームの確立には至っていない。結果的に消費者に対して何のソリューションも与えずドングリの背比べを行っているようなものなのだ。

ブランドビルディングとは

 上述の4つの要素はいわばウェブ上でのブランドビルディングの基本概念である。これを各論に直すと、次のような点への配慮が必要だ。ブランドビルディング=ウェブ上でのリッチな体験という前提の上で、必要になるものとは、次の6項目である。

コアとなるバリューはきちんと設計されているのか
・顧客サービスのレベルは十分か
・インフォメーションは十分か(前掲のウエブ=come to learnに対応しているのか)
・ナビゲーションは親切か
・顧客とのリレーションシップは十分確保できているのか
・顧客の声、評価を反映する仕組みはあるのか

 上記の点からみると、日本の特に既存大手流通業のECサイトはいずれも落第だ。まずは何をしたいかがよくわからない。ナビゲーションは不親切だし、インターラクティブ性も希薄だ。情報量は少なくただ商品は置いてあるだけ。ひやかしでも見る気がしない。

 この6条件を満たしているのは、中小電子商店の方が進んでいて、彼らはブランド力がそもそもなかっただけに、ブランドビルディングに必死の努力をしてきた。その差が今顕著に示されているというわけだ。

日本企業のすべきこと 

 先行するアメリカでも決してブランド戦略に優れたサイトばかりではない。あのウォルマートはリアルの世界では創業者サム・ウォルトンの「スマイリーフェース」がトレードマークだが、ネットの世界ではさっぱり面白みがない。あのトイザラスはネットでのソリューションが不明確であるが故にe-toysに喰われようとしている。ネットビジネスには2つの種類のマーケティング担当者が必要で、1つはブランド戦略担当者、もう1つがダイレクトマーケッターだ。だが前者はアクセス数やコンバージョン率には無関心、一方後者はアクセス数や顧客確保にはやたらに熱心だが、ブランドの印象形成には無関心だ、とのレポートを読んだことがある。日本はどちらの担当もおらず、せいぜいアクセス数管理が関心に上る程度。ブランド戦略は全くこれからの課題なのだ。その必要要件をあげておこう。

1)わかりやすいネーミング
2)
サービスコンセプトを内在させたサイト名称、スローガンを作る:例えばオンライントレーディングの例でいえば、マネックスは秀逸だ。一方DLJディレクトSFG証券となると、なんでSFG(住友ファイナンシャルグループ)が必要なの・・という感じだ。
3)
よい状態にあること:覚えやすいこと。日本の例では「旅の窓口」「クロネコ探検隊」などは好例だ。
4)
ブランドのパーソナリティに気を配ること:ブランドの名前、伝えたいメッセージ、ロゴ、タグライン等すべてをブランドマネージャーが管理すること
5)
そのサイトが提供する具体的なソリューションをブランドイメージに基づき明確に設定すること
6)
ブランド戦略にコストを投下すること:これは少々説明が必要だが、これまでの日本のECではネットプレゼンスの確保はほとんどが口コミ、あるいはパブリシティであった。だがこんなのん気な状態はもう2度とは現れない。金をかけず、ハイタッチなサービスで成長してきた中小電子商店ならいざしらず、これからのECは金がかかることを覚悟すべきだ。マーケティングコストは1つは「総顧客数の確保」に残りはブランド浸透に掛けるべきで、結果的にこれが「プロアクティブな顧客」(まだ目覚める以前の客)の確保につながることになる。

 10月一斉スタートを切ったオンライントレーディングでは、先にプレゼンスを確保したものが勝者になることは明らかであったが、意外とブランド戦略は地味であったのが残念。

 いずれにせよ、ネットでの勝敗はブランド戦略の巧拙で決まるといっても過言ではない。過去5年間は肩慣らし。99年秋からが事実上のEC元年だ。出遅れ企業もブランドにこだわれば、まだキャッチアップできる可能性はある。ネットでは「ブランドがすべて、すべてがブランド」なのだ。



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