連載:ECのマーケティング

第17回
2000年EC市場予測
カードウェーブ00.03


 昨年の後半位からEC市場の動きがやっと本格化してきた。2000年が事実上の元年だ。そこで今年のEC市場の動きを予測してみよう。
1)EC本格化元年の到来:

 予測の1番目はこれである。苦節五年。日本のECもやっとブレークしそうである。アメリカ対比、30分の1、3年おくれといった状況だが、少なくとも事業サイドでは、大きなプロジェクトがめじろ押しだ。昨年までは、「プロジェクトを計画してまして・・」といった話は沢山聞いたが、「予算、投資規模はどの位ですか?」と尋ねると、「3百万円です」などという答えが返ってきた。今年は2桁違うという感じである。

 1月になって、通産省が99年のEC消費者市場の規模を発表した。3360億円というのがその数字だが、これは少し反則である。大体、不動産や自動車関係が1700億円を占めている。これはウェブ上で購買意志を伝えたものではない。いわば見込み客をウェブで集め、既存チャネルで販売したものが含まれている。純粋のECとマーケティングツールとしてのウェブ利用の数字が混在していることになる。数字を大きめに言いたがる気持ちは分かるが、国際的な比較の視点からみても、純粋なECに絞るべきだろう。この点からみれば、99年の市場規模は2千億というのが妥当な数字である。郵政省は毎年の通信白書でやはり市場規模を発表するが、こちらがいくらで出してくるかミモノである。
 だが昨年実績が2千であろうと、3千であろうと、今年、飛躍的に市場が伸びることは間違いないだろう。

2)オンラインとオフラインの融合は一層進展する:

 あのアマゾンは賛否両論だが、物流センターを始め、地上のインターフェースを持ちはじめた。スターバックスとも提携し、返品拠点として利用している。ネット上で完結し、それがECの利点とされていたが、実態は変わってきた。ドットコム企業は地上のインターフェースを持たないと生き残れず、一方地上の企業はネットにインターフェースを持たないと生き残れない。「持たざる経営」を標榜しても、現実には地上に何かを「持つ」ことを余儀無くされ始めている。当初無在庫で既存流通と提携していたオンラインスーパーも、今では多くが、物流センターを保持。自ら調達機能を持つようになった
 オンとオフの融合はさらに様々な面で進展している。オンラインショップであろうとも、フリーダイアルの注文番号が明記してあるのはもはや当たり前。CRMの流行も手伝って、コールセンターはウェブと融合し始め、どのようなメディアを経由してきても「顧客とのインターフェースは収益になる」という思想が広がりはじめた。ドットコム企業の86%はオフラインメディアに広告投資を行っている
 日本ではさらにこの動きは加速するだろう。
コンビニがオンラインとオフラインを融合させるインターフェースとして、機能し始めているからだ。

3)ビジネスモデルの転換:

 日本のECに燗しては、昨年秋が事実上のスタートであった。きっかけはオンライントレーディングの一斉スタート、自動車仲介等での外資の参入などがきっかけとなった。ここでビジネスモデルは一変し始めた。
従来日本のECとは、専門店やモールが中心であった。これらはリアルコマースのネット版に過ぎない。いわば
小学生でも考えられるモデルだ。売り手、買手のそれぞれがそれこそ「蜘蛛の巣」のようにこんがらかっているウェブでは、これを仕切る人、いわば仲介人の役割が重要だ。これがマッチングビジネスだが、その本格登場が今年あたりから目立つだろう。
 ビジネスモデルといえば、従来のモデルは「既存市場」のシェアをネットで奪うものでしかない。オンライン書店が好調だといっても、それは新市場を創出しているわけではなく、既存の書籍市場の代替でしかない。オークションや多くのマッチングビジネスはいわば
「純増」に寄与する可能性がある。ここでもビジネスモデルは転換しそうだ。

 さらに収益源の多様化も進むだろう。あの楽天は、加盟店サイドからみれば、問題山積だが、ディベロッパーとしてみれば、テナント料、広告料、オークション等の手数料等収益は多角化している。アメリカのwomen.comも広告、コンテンツ販売から、EC収益と収益源を多面化させ、成功した企業の1つだ。1つのモデルが奏功してくると、結果的にそれが新たな収益を生み出す。そのターニングポイントの時期がやってきそうだ。
 さらに言えば、商圏がないことを売り物としていたウェブだが、実際には、
ローカル、グローサリーといったジャンルでの成長ビジネスが目立つようになった。一方でワールドワイドなのだが、一方では日常商圏、最寄り品で便利な機能を提供する。これが加速しそうだ。

4)マルチチャネル企業とネットジェネ企業の戦争が勃発する

 予測の4番目がこれである。マルチチャネル企業とは実店鋪を持ち、オンラインでも販売を始めた企業のこと。ネットジェネ企業とは、ネット生まれのオンライン専業企業のことだ。このテーマはアメリカ人は大好きで、各種レポートを読むと、この話題ばかり載っている。
 例えば日本の例でいえば、オンライントレーディングでは、専業であるMonexと、実店鋪を抱える野村證券といった構図である。この議論はまっ二つに分かれている。1つはネットジェネ企業優位説。ネットユーザーは自分たちのフィールドで生まれ育ったネットジェネ企業を好むという理由が背景にある。さらにはドットコム企業の多くは、カルチャーそのものが、異なり、それがマルチチャネル企業に比べ、ネットで有利に働くという説もある。
 一方で、最近台頭しているのが、
マルチチャネル企業優位説だ。既存のインフラ、データベース、ブランド力が発揮できるという説だ。事実マーケティングコスト面でも有利だという調査結果もある。

 日本では金融等を除くとマルチチャネル企業の本格的な事例は少なく、特に既存流通業(百貨店、通販企業等)の展開はかなり情けないものがある。一方アメリカでなぜマルチチャネル企業の展開が成果をあげなかったかというと、既存のカルチャーを捨てきれないトップマネジメントがオンラインビジネスを管轄したからだ、という説がある。結果的にEC業界から役員をスカウトすることで、キャッチアップした事例も多々出現した。
 ネットジェネ企業に市場を侵食され始めた実店鋪企業は、ネットで反撃に出ない限り、生き残りの道は閉ざされる。この危機感のあるアメリカと日本の違いはあるが、日本でもマルチチャネル化の動きは加速しそうだ。

5)業態間戦争の勃発

 昨年のクリスマスシーズンにはアメリカに行っていたのだが、とにかく、ドットコム企業同士の壮絶な泥試合が展開されていた。そもそもネットユーザーがギフトをネットで購入する理由は「混まないから」である。となるとネットユーザーの選択肢には、もはや実店鋪小売業は含まれていないことになる。

 玩具でいえば、e-toys、トイザラスのネットショップを始め、アマゾンの玩具部門、ウォルマート、といった選択肢がある。さらにはYahooやAOLのショッピングチャネルも存在する。おまけにsmarterkids.comといったようなかなりターゲットを絞り込んだ専門店も登場している(この店はスゴイ!)。いわば、専門店、スーパーストア,ショッピングチャネルやモール、アマゾンのようなバーティカル/ポータルといったものがそれぞれ業態に相当するようになり、ネット上での壮絶な業態間競争が始まったわけだ。ネットジェネのパソコンショップOutpostは、地球一安いスーパーストアを標榜するBuy.comを相手に、派手な比較広告を展開していた。確かにBuy.comは価格は安いが、Outpostは送料無料である。結果的に「ウチの方が安い」というわけだ。
 インターネット上の商店数が2万点しかない日本で、この状況がすぐに起るとは思えないが、ネット上での
業態の多様化は間違いない動きとなるだろう。

6)大企業の逆襲始まる

 これは日本の事態である。過去5年、日本のECで成果をあげた大企業といえば、かなり変わり者の企業だけである。新規事業に生き残りの道を求めざるを得ない、「がけっぷち企業」、あるいはヒラ社員がノコノコ社長のところに、ECプロジェクトの相談に行けるような、組織がフラットな企業といった具合だ。日本のECで一番実績をあげている企業の1つはリクルートだが、ここも変わり者の代表のようなところだ。

 従来の大企業は何をしていたかというと、ネット上で「住友グループで集まる」とか「資本系列で手を組む」といった従来的手法にこだわり、結果的に消費者からそっぽを向かれたものである。初期のモールは皆この形で、例えばNTTモールといったものがあったが、中身はNTT子会社のオンパレード。花屋でいえばNTTフローリスト(フローラだったかもしれない)といった具合。いくらNTT社員でもうんざりすろだろう、と思ったものである。こうした失敗が経験となり、大企業プロジェクトも大分消費者志向となってきた。そもそもECの場は壮絶な「顧客志向の戦い」となりつつある。そこでのオキテは、消費者が偉い、消費者が何でも決める、ということだ。

 大企業が逆襲に転じると、当然予想されるシナリオは、「ネット上での大型店問題」である。日本のECは事実上中小電子商店がリーダーとなってきた。インターネットらしさを、親切、丁寧、迅速、ハイタッチ、で表現し、事実上の対面販売を行っているようなグループだ。トップクラスで年商1億に到達。パパママストアの形態で1億であるから、これが日本のECのハッピーモデルでもあった。
 だが規模的には踊り場だ。中小電子商店と一口にくくってきたが、いくつかのタイプに分かれはじめている。ある程度の品揃え数を基盤に、1億モデルを脱皮しようとするグループ、1億を適正規模と考えるグループ、一方でどうハイタッチさを表現しても、商品適性の点で、1億円クラブには仲間入りできそうもないケースもある。こうした
中小店の層別化は今年あたり一層加速化するだろう。

 ネット上での大型店の登場は、先発の中小電子商店に当然影響を与える。だが、昨年11月に鳴りもの入りで登場した、我が国初のネットジェネの書籍/玩具店の出来などを見ると、実際には杞憂に終わる可能性もある。かなり不出来である。店の個性やコンセプトが曖昧で、単に品数を誇る大型店の登場といった様相だ。だが中小電子商店の人たちには、大型店や外資参入の事態を予測し、生き残りのシナリオを早めに構築してもらいたいものだ。

7)Winner takes allの兆し

 これまでのECには「早いもの勝ち理論」「Winner takes all」という経験則がある。後者に関しては、一極集中、勝者が全部取ってしまうという意味だ。すでにモールでは、楽天に集中し始め、店の増加がさらに店の集中を生むといった事態を招いている。他の集積では、せいぜい300〜800店が最大規模だから、2千店近い集合になった、楽天との差はつくばかりだ。モールについては、個人的には大しておもしろいモデルだとは思わないが、2千店近くになってくると、インターネットらしいメリットが生まれてくる。となるとモール事業とは、今後は正しい2番手戦略を模索する、ということにならざるを得ない。Winner takes allの現象は、オンライントレーディング、自動車、オークションといったジャンルでも想定されるシナリオだ。

8)リアルコマースへの質的影響が加速する

 ネットのショッピングに慣れてくると、実店鋪の諸側面が、間抜けに見えてくることがある。例えば百貨店の対面販売と称するものは、サービスレベルの点でかなりレベルが低く、リコメンデーションも不十分。場合によっては単なるプレッシャーセールスに過ぎないこともある。商工ローンで「腎臓を売れ」とどう喝した企業が話題になったが、反社会的であるかどうかを別にすれば、リアルコマースには、限り無く「腎臓」的要素が含まれているのだ。壮絶な消費者志向の戦いを経たECショップに馴染んでくると、リアルコマースの持つ、潜在的な嘘っぽさ、間抜けさが様々な側面で眼に付きはじめる。購買時点での情報は乏しく、一方でネット販売の4点セット「リコメンデーション」「比較」「レイティング」「検索」といった機能はリアルコマースではほとんど提供されない。

 この点にどこまで実店鋪小売業が危機感を持つか、今年はトップの意識が問われるだろう。現状では、多くの小売業はネット通販としての意識しか持たず、中元歳暮を細々展開することをECと称している。量的にはともかく、質的にはECのインパクトは限り無く大きい。
 自らの従来の機能を1度自己否定する位の事態が迫っていることに既存流通業のトップは気付くべきだろう。

9)ブランドが全て、全てがブランド

 EC関係者は口々にブランドという言葉を表明するようになった。だが中身を聞いてみると、かなり解釈は曖昧だ。すでにアメリカのECは初期の段階からブランド競争に突入している。ネットの業態が増えるにつれ、それは加速し、今やドットコム企業の広告投資が広告費全体を吊り上げている。

 このブランド競争は間違いなく日本にも飛び火する。今後の新規参入プロジェクトは、いずれもまずネットでのブランドビルディングに多額のコストを要求されるようになる。だがブランドとは

・名前でもあるが、名前だけではない
・キャッチフレーズでもあるがそれだけではない
・ブランドはネットの世界だけでは作れない
・ネット上のブランドとは「ソリューション」であり「リッチな体験の提供」である
・ブランドの認知、つまりアウェアネスの確保は重要だが、e-brandingとはそれだけではない

ことにどれだけのEC企業関係者が気付いているか疑問である。

10)コンビニECの行方

 これは予測ではないが、この点に触れないわけにはいかないだろう。確かにモバイルとコンビニは日本的ECのインフラだ。今年になってコンビニを拠点とするECプロジェクトがどっと発表された。大きくわければ、セブンイレブン、ローソン、ファミリーマート等の5社連合の3つだ。全く興味本位の予測だが、個人的にはセブンイレブンの一人勝ちを予測する。マーケティングの世界には「競争的マーケティング」という考え方がある。新しい市場を創出する時、リーダー企業(シェアトップ企業)が正しく、かつ素早く動くなら、創出された市場の利益はほとんどリーダー企業が握ってしまうという考え方だ。この点からみれば、コンセプトが煮詰まっており、スケジュールで先行しているリーダー企業の優位は動かないところだ。5社連合などは、行き掛り上記者発表を行ったが、中身は全く白紙のようにも見える。競争的マーケティングではライバルに無駄な(過重な)投資をさせるということが鉄則だ。恐らくはこの原則も適応されることだろう。

 だたこのコンビニEC構想がこれで完結するうのであれば、これは実に詰まらない印象を受ける。確かにマルチメディア端末は重要だが、それはコンビニECの主役になるものではない。使う人は使うし、使わない人は使わない。となれば、サービスやコンテンツ販売中心の今の構想に、本格的な、かつブランドを持つ「物販機能」あるいは「流通業ブランド」が上乗せされてこない限り、面白みはない。恐らくはセブンイレブンブランドのファッション商品を好んで買う人はいないだろう。この次の手をどう打つのか、野次馬としては興味津々である。



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