連載:ECのマーケティング

第19回
ネット上の購買行動とプロモーション戦略

カードウェーブ00.06



 今年になってECの様々な大型案件が発表された。すでにオープンした店も多い。だが期待に反して、出来栄はイマイチであるし、また実際に売り上げもあがっていないような事例も目立つ。
この出来栄に関しては、1つは「ユーザビリティ」(店の使いやすさ)に対する理解のなさが影響している。ユーザビリティについては、次回にでも取り上げよう。今回はもう1つの理由「
ウェブ上の購買行動に関する無理解」の方をまとめてみた。
●リアルの場の行動との違いとは

 恐らく現段階で最もECの展開が下手な業種の1つは既存小売業(百貨店、専門店、GMS等)である。何ゆえ売ることに関してはプロであるはずの彼等が下手なのだろうか。理由は簡単に推測がつく。理由の1つは、ネットビジネスの多くは既存小売業の持つ「陳腐さ、ウソぽっさ、時代おくれの要素」を突くことが発展の要素となっているからだ。百貨店の行っている対面販売は、多くの場合今の消費者にとって「プレッシャーセールス」でしかない。ゆっくり選びたいときにまとわりつく、アドバイスを得たい時には的外れな対応をする、といったことが実際にはかなりのストレスになっている。ネットではこれが全て解消可能だ。これが「ストレスフリーコマース」と呼ばれるゆえんでもある。既存小売り業者は「自己否定」を行わない限り、ネットでは成功できない。

 もう1つは、既存の小売業者の多くは実店鋪での購買行動とネットでの購買行動が違うことを理解していない。例えば実店鋪では「折角来たのだから、他の売り場も回ってみよう」と思うものだ。これがネットではほとんど起らない。来ようと思えば、またすぐ来られるからだ。おまけにストレスフリーではあるが、それは顧客が自分で選択し、プロセスをコントロールすることを意味している。顧客負荷が高い場でもある。かくしてネットの場では、努力をしなければ客単価はあがらないし、目的商品のみ購入してさっさと立ち去っていく。おまけにweb=come to learnであることは前にも取り上げたと思う。買わないで店に情報だけ調べにくる。従って来店者に占める購買者の比率は恐ろしく低いことになる。

●ウェブ上の購買行動とは
ここでウェブ上の購買行動をまとめてみよう。図表1はウェブ上での購買の流れを顧客側の行動と店側の活動からまとめたものだ。
 顧客側の活動としては、まずは「ブランドに気付く」ことから始まる。これを
ブランドアウェアネスと呼ぶ。逆にこれに対する店側の活動はとにもかくにも「アウェアネスの確保」「ブランド浸透」ということになる。これをA(アウエアネス確保)のステップと言う。ブランドに気付いたのち、客は来店する。これを店側からみると、「顧客獲得」(Customer Acquisition)あるいは「トラフィックの確保」ということになる。

 さて来店したとしよう。ここでは顧客の行動は3通りだ。タイプ1は購入目的で来たもの。これは当然予定どおり購入した人と、非購入になった人に別れる。後者のケースが店としては機械損失になる。2つ目のタイプは情報探索目的で来た人だ。これもその目的を達成し満足した人、不満足であった人等が存在する。また単なる情報収集目的であったのに、衝動買いをしてしまった、ということも起こり得る。また3つ目のタイプとして、全く偶然訪れた人も存在する。初期の頃は彼等を「サーファー」と呼んでいた。このサーファーを店の内部に引きづり込むしかけも重要だ。

 この来店後のステップをCと呼ぶ。Cとはコンバージョンのことだ。つまり単なる来店者(ショッパー)を購買者(バイヤー)にする転換率のことである。このCをいかに高めるかが重要なテーマとなってくる。

 最後のステップはRのステップだ。客側の行動としては「再来店」。店側の活動としては「顧客維持」(リテンション)の施策を検討するステップだ。これをRのステップと呼ぶ。結局このA→C→Rの回転をいかにうまくするかが、ネット上の商売の全てである。
ブランドに関する話は本稿でも数回書いたが、ネットでのブランドはこのA→C→Rを体験し満足したところで形作られる。

 このA→C→Rについては、「何だ、実店鋪と変らないじゃないの!」と言わないでほしい。これはかなり異なる。まずウェブではAがとんでもなく大変かつ高コストになってしまった。一方でRについては、実店鋪ほど優先順位は高くない。なぜならウェブでの固定化率はリアルの場に比べ相対的に高い。そもそも利便性の要素を本質的に持つネットの場で、一度良い経験をすれば、店をチェンジする確率は低下する。これがインターネットの購買客が「スティッキー」(粘着質)と呼ばれる所以である。このRのステップに必要以上の労力をかける必要は今のところは見当たらない。

 最近の店の中には、コンセプトは曖昧、商品はビンボケ、その割にはポイント制(マイレージ)だけやたらに前面に出しているところがある。これは全くのお門違いだ。まずは自らの店を「スティッキー」(また戻ってきたくなる店のこと。情報コンテンツが充実していること、コミュニティ的な機能が楽しめること、充実したコマースがあることの3つのCがポイントと言われる)にすることが先決である。

 最もこれはウェブだけの勘違いではなく、日本ではポイントカードを導入すれば、売り上げがあがると思っている企業が多いので、リアルコマースのエラーをネットに持ち込んでいるに過ぎない。

●それぞれのステップで行うべきこととは

 それではこのA→C→Rの各ステップで行うべきことを具体的に見てみよう。

1)アウェアネスの確保

 ここでの必要事項は、まずはサイトに気付いてもらうこと、これが全てである。ここでの課題は


・まずブランド(名称、サービスコンセプト、期待効用、イメージ)浸透を目指す
・いち早く「メガブランド化」(一定以上の人に知れ渡ること)を目指す
・プロアクティブ(顧客化される以前の潜在顧客)な顧客の確保

ということになる。これまでは日本ではこのステップはオンライン上の活動や口コミでほぼ事足りた。だがアメリカが激烈なオフライン広告競争になっているように、もはやこの段階は卒業だ。おまけに、これだけネット上での情報が増えると、特定ブランドに関するイメージ形成は、オフラインメディアの助けを借りないと、描けない状況になりつつある。
 このアウェアネス確保のための具体的なブランド戦略は、本稿で2回取り上げいるのでそちらを参照して欲しい。

2)トラフィックの確保

 ここで考えることは2つである。1つは来店者の再来店率を高めること。もう1つは潜在顧客の店鋪誘導を図ることである。前者の方は後回しにして、ここでは潜在顧客の獲得を整理してみよう。そこには3通りの方法がある。

a:オフライン上の広告/プロモーション活動:いわゆる広告やパブリシティの徹底、URLやブランドの効果的な露出の徹底といったことだ。

b:オンライン上の広告/プロモーション活動:これが基本中の基本。ざっとあげただけでも
・サーチエンジンへの登録
・その他のディレクトリーへの登録
・リンクの要望の徹底
・相互リンクの徹底
・バナー交換等
・適切なサイトでのバナー広告
・e-mailマガジン等での広告
・コンテスト/懸賞等によるサイト吸引
等が存在する。

c:その他の手法:aとbはオンライン、オフラインを利用してのいわゆる広告/プロモーションだが、ネットにはその他のトラフィック確保の手法がある。例えばモールへの加入がその好例だ。モールの第一義的意義とは、テナントにとっては「検索から店を見つけてもらう手段」であり、その役割はトラフィックの確保である。これに「新規顧客開発」「新ターゲットの開発」等の意味が加わる。最近実績をあげた中小電子商店が続々楽天に入店している。これも自店のオリジナルサイトとは異なる新たな顧客層、あるいはビギナー層の吸引を狙ってのことだろう。またネット上での連係や協力(アメリカでは有力店が協力しあい、1つの別ブランドを作っているショッパーズコネクションの例、日本では中小電子商店の優等生の集まり逸品等が該当)、あるいはアフィリエイトプログラムの実施等が該当する。

3)再来店率の向上

 再来店が起る要素は4つしかない。

スティッキーなウェブの仕掛けが奏功して(また来たくなる3つのCの要素:前掲)
前回のリッチな体験に満足して
・蓄積された、あるいは登録した情報に基づき
パーソナルな提案、あるいは画面生成が行われることにより、購買の利便性が明らかに向上する場合(例えば登録会員に対するエクスプレスチェックアウトの仕組み等)
店側からのアプローチに応じて

 この店側からのアプローチに関しては、メリットのある顧客登録の仕組みが前提である。お知らせや情報提供、リマインダーやアラートのサービス、その他のパーソナルな提案等が展開できる。だが何を勘違いしているのか、メリットもないのに顧客登録を強要する店が急増中。今どき、お知らせ提供程度では、ノイズにこそなるが、メリットには全くならないことに気付いていない。

4)良質なデジタル口コミの生成

 デジタル口コミはA→C→Rの全てのステップで重要だが、とりわけCのステップでは重要な役割を果たす。なぜならそもそもコンバージョン率の低いウェブでは、単なる来店者の満足度を高め、良質なデジタル口コミを発生させてもらうこと、要するに「あそこの店は何か良さそうよ」という情報を発信してもらうことが重要だからだ。ここの方法は5つである。

・思わず語りたくなるリッチなコンテンツを備える
・思わず語りたくなる意外な体験を提供する
・思わず語りたくなるエンターテイメント性を提供する
・思わず伝えたくなるリッチな購買体験を提供する
・デジタル口コミ生成システムを活用する
(「tell your friend」の導入、あるいは「tell your friend」に応じたポイントシステムの導入等)

 こう書くと、日本の大企業ショップはすぐに口コミ生成システムの方に興味を示すが、基本は「思わず語りたくなる内容や体験」である。

5)コンバージョン率の向上

 このコンバージョン率の向上が最大の難関である。おまけにここが実店鋪とは全く異なるところだ。このコンバージョン率は一般論では2%位、あのアマゾン等の優良店で8%位と言われる。このコンバージョン率を高めるにあたっては、Cのステップにおいては4つのパターンがあることを理解しておかねばならない。

・当初から購入予定→そのまま購入(タイプAとする)。
・購入予定はないが結果的に購入(タイプB)
・購入予定はあったが非購入(タイプC)
・購入予定はなくそのまま非購入(タイプD)

 web=come to learnであることは何度も書いたが、このタイプの中ではDが圧倒的に多く、結果的にこれらの層の満足度を高めることが最大の成功要件であるわけだ。結果的にインターネットビジネスとは、特にショップでは「more than buying」(買うだけではない、売るだけではないスティキーな店づくり)がポイントなのである。
さてタイプAの客に対しては、予定購入を円滑に遂行してもらうことが課題である。従って

・ユーザビリティの向上
・購買プロセスの利便性の向上
・購買支援サービスの徹底
・パーソナル対応

 等がポイントだ。いわゆる各種のone to oneを基本とするエンジンが活躍する場でもある。

 タイプBの客に対しては、トップページプロモーションや内部誘導へのアイキャッチ、等が重要だ。ウェブの場では何も対策を講じなければ、衝動買いや予定外購入は発生しない。この点は実店鋪には逆立ちをしてもかなわない要素でもある。
タイプCの客が発生する要因は1つには店鋪コンセプトと顧客層とのミスマッチ等もある。また品切れ等もあるだろう。だが日本では圧倒的にユーザビリティの要因が大きい。とにかく日本のショップは優良中小電子商店を除くと、ユーザビリティのレベルが低い。

目的商品までの経路が延々と長い
・中で迷子になる
・今どこの階層にいるか理解できない
・必要情報が十分に提供されていない
・商品カテゴリー間の移動が自由にできない
・必要情報、重要情報(ヘルプメニュー等)に随意にアクセスできない
・チェックアウトのプロセスが顧客本位に設計されていない

等々、店としての買いやすさの設計に根本的な欠陥がある。またサービスの場合でも、例えばエアラインのサイトなどは、ウェブ上で予約から決済まで可能で、おまけに最近ではネット専用割り引きまで登場し、ユーザーメリットや市場性はバラ色に見える。だがこれまたユーザビリティのレベルが本当に低い。ある後発エアラインでもネット上で予約や決済が可能だが、予約ボタンを押すとまず「ご一読ください」の画面が現われる。この後に「注意書き」の画面が延々と続き、最後に同意ボタンを押さないと予約画面には移らない仕組みだ。これでは「予約するな」といっているのと同じである。

6)客単価の向上

 図表1でははぶいたが、Cと同じくらい重要な項目は客単価の向上である。いわゆるクロセル、アップセルの要素だ。これも何も手を打たなければ、ウェブ上では客単価はあがらないと認識すべきである。

・画面での関連商品の確実な提案
・関連商品ページへの容易な移動の確保
・パーソナルなクロスセル、アップセルの提案

等が基本だ。例えばパソコン店はすでに激選区で、ウェブ上の売れ筋商品でもある。当然パソコンを購入した時、オプションやアクセサリーが同時購入できる仕組みになっていると思いきや、これが徹底している店はわずか2店位だ。

7)リテンションの確保

 最後がRのステップだ。ここで検討すべきは

・顧客の特定化による固定化促進
・固定化をベースにした優良客の効率的創造

の2点である。ただ実店鋪に比べ本来的に固定化率は高いことから、現段階でこのステップに過剰に投資することは得策ではない。AとCのステップの見直しを優先すべきだろう。



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