連載:ECのマーケティング

第20回
ユーザビリティとは何か

カードウェーブ00.08



 日本のECショップもすでに3万店近くになってきた。店がこれだけ増えると、売れる店と売れない店の違いが明確になってくる。
 今回はこの中でも特にユーザビリティに焦点を当ててみよう。
●売れる店に必要な6つの要素

 ユーザビリティに入る前に、まずは「売れる店」の条件を考えてみよう。
 ここに来て大企業プロジェクトが次々に具体化した。自動車会社、総合家電メーカー、コンビニ、百貨店等、初年度から年商数十億を狙う構えである。だが実際に見てみると、その出来栄えにはかなりの疑問が残る。

 今年は今まで寝ぼけていた大企業が逆襲に転じる「大企業逆襲時代」というのが、当初の予想だったのだが、今のところそれほどすごい出来栄えのものは見つからない。鳴り物入りでこの7月からスタートしたコンビニサイトもかなり疑問が残る。
 一般論だが、売れる店とは次のような条件を備えた店だろう。

1)明確な店舗コンセンプトとポジショニング
2)インターネットらしさの十分な活用
3)ブランドの確立(アウェアネスの確保、ネット上での存在価値の確保)
4)stickyさの確保
5)高いユーザビリティ
6)充実したバックオフィス

 このうち1)はネットビジネスであろうと、なかろうと、あらゆるビジネスの基本条件だ。だがここが極めてあいまいなショップが多い。コンビニECで見てみると、従来顧客以外の吸引を狙ってのことだろうが、「大人向け」などという商品ジャンルが入っており、唐突感が否めない。マーケティングの基本であるターゲットの絞り込みがあいまいだ。一方典型的日本型大企業(自動車会社、家電メーカー等)は、自社の本業商品以外に広げたショップの展開を始めている。いわばネットで「百貨店」を開店したような形だ。これも戦略的には疑問である。Special is smartが基本のネットで、本業以外にそのサイトに消費者の期待が果たしてあるのか、という点が実に疑問だ。

 2)のインターネットらしさについては、説明はもはや不要であろう。インターネットらしいビジネスモデルであるかどうかの点だ。中小企業はモデルとしては全くインターネットらしくはないが、リアル店舗を上回る「親切、丁寧、迅速、ハイタッチ」を実現しており、これが結果的には最大の「インターネットらしさ」の表現となっている。楽天もただの商店街で、実店舗の模倣モデルだが、3千店もの途方もないテナント数は、インターネットでしかできないことだ。

 3)ブランドについては、本稿で何度も取り上げたので省略。4)のスティッキ−とは「ネバネバした」という意味だ。もう1度そのサイトに戻ってきたくなるか、という要素であり、そのためには、コマース、コミュニティ、コンテンツ(情報)の3つのCが重要であるということ。5)は後述するとして、6)のバックオフィスはこれも当然であろう。客の目に見える部分をフロントとすると、ビジネスとしての差別化点はフロントからバックに移りつつある。だがこれはアメリカの話で、日本のショップは本当にフロント部分のレベルがまだ低いのだ。

 以上6点を前提にしてみると、中小電子商店と言われるショップは、小粒ながらもこの6つの条件が満たされているところが多い。だが売れない店はこれがイビツである。
 以上の6つの要素に加え、あと1つ条件を加えるとすれば、この背後に「
おヌシ、デキルナ!」という人の影が存在することだろう。

 アメリカの専門店には、あのアマゾンを始め、「知恵者」の影が見え隠れする。日本の中小電子商店も「店のオヤジ」の存在感が前面に出る。だが多くの大企業プロジェクトではここが気迫だ。センスのない連中がよってたかって作り上げたような印象を与えてしまっている。

●ユーザビリティを考える

 ユーザビリティ(usability)という言葉自体は「使いやすさ」を意味する。これがウェブサイトの使い勝手を現すようになったのは、最近のことだ。昔はユーザーインターフェースというような言葉を使ったが、今はユーザビリティにほぼ統一されてきた。
 このユーザビリティのレベルが日本企業の店は本当に低い。例えばつぎのようなことが度々起こる。

なかなか商品を見つけられない
・店の内部で迷子になる
・重要な情報、いつも参照したい情報(ヘルプメニューや買い物の手引き等)に好きな時にアクセスできない

 ウェブとは、ユーザーが主体的に選択したり、ナビゲートする場である。選択権はすべてユーザーの手にあると考えた方がよい。しかし、これは反面「客が働く」ことを意味しており、高い関心が持続しない限り、単なる面倒な作業に過ぎないこともある。結局この選択に残るためには、最短時間、最小労力で情報や商品を提案できるサイトが勝者になるのは当然である。
 このユーザビリティについては、日米の研究成果の差は大きく、アメリカでは「大家」が存在する。一番有名なのは、
Jacob Nielsenというオジサンで、ユーザビリティの概念を体系化し、提唱した人だ。Designing Web Usability という本を書いておりこれはアマゾンで購入できる。
 
●ECショップにおけるユーザビリティの役割

 何故ユーザビリティが重要なのか、これは書くまでもないが、次のようなことにまとめられる。

購入率を高める:来店者を購入者に転換する比率のことをコンバージョンレイトと呼ぶことは以前にも書いたと思う。このコンバージョンレイトは普通の店で2%程度だ。もちろん残りの98%の再来店や良質な口コミ生成を期待するのもウェブショップ運営のヒケツだが、2%の向上を考えるのも当然である。この2%を向上させ、購買確率を高めるために、ユーザビリティは最も重要な要因となる。多くの日本の店は、目的商品を見つけるために時間がかかりすぎ、貴重な時間を無駄にさせてしまう。
ブランディングに貢献する:ブランドの話は本稿での何度も取り上げた。それはウェブ上での「リッチな体験」から構成される。そのリッチな体験を促進させる重要な要素がうーザビリティなのだ。
チャンスロスを低減させる:アメリカにはオンラインリテイラーのアソシエーションがあるが、その最新調査(The State of Online Retailing 3.0)によれば、カートに入れられたものの内、65%は購買に至らず中止されるという。結局ショッピングプロセス、決済プロセスの不備がこの比率を押し上げてことになる。

●ウェブデザインの誤解

 日本のECショップではユーザビリティのレベルが相当に低い。例えばそこでは次のような誤解がある。
画像重視:ユーザビリティのテストでは、あるページを最初に訪れたユーザーは、画像よりテキストを見つめるケースの方が2倍の割合で高いそうだ。ECショップでは確かに画像は商品情報を具体化するものとして重要だが、画像がふんだんにあることと売り上げは全く比例しない。
ユーザーの理解を助けないマルチメディアの多用:グラフィックはミニマムに、というのが原則である。まして音、動画等のマルチメディアは、それがユーザーの理解を促進する場合に限定するのが原則だ。頭からマルチメディアを表現するためのプラグインを要求したりするのは、問題外である。
不親切な検索:アメリカ人のほとんどは「菊」であるとか、「ヒアシンス」といったスペルを書けないという。この時、花をウェブで買いたい人はどうすればよいのか、ということだ。これはgarden.comの検索を見れば、「親切な検索とは何か」がよくわかる。日本人のほとんどはアメリカ人以上に検索がキライである。このためには親切な検索が不可欠なのに、企業側の独りよがりのような検索が目立つ。

 またユーザビリティには、Opitmal Site Path(OSP:最適なサイトの動線、歩き方)という考え方がある。このOSPの重要性をそもそも理解していない店が多い。

●ECショップにおけるユーザビリティの要素

 ユーザビリティの内容には様々な要素がある。これは情報サイト、アミューズメントサイト、ECサイトによって様々に異なる。ここではECに限定してみよう。その要素は次のようなものになるだろう。

<ページデザイン面では>

・8秒ルールを満たしているか:1ページのダウンロードに要する時間は8秒以内(10秒という説もある)にしているかということ
・グラフィックはミニマムにしているか
・3秒ルールを理解しているか:トップページを眺め、そこが何のサイトか、ここでワタシはウェルカムか、を判断するのに必要な時間が3秒以内であるということ
・ユーザーの理解を促進する以外の目的でマルチメディア技術を多用していないか
・最新のテクノロジーの導入を過大評価していないか
・ナビゲーションはわかりやすいか
・テキストリンクとグラフィックリンクのバランスは吟味されているか:概してまず目に付くのはテキストであり、グラフィックリンクの多用はユーザビリティを低下させるということ
・ページ内部で現在位置の確認はできるか
・わかりやすい顧客視点に立った言葉を吟味して使用しているか
・企業サイドの言葉、分類、ナビゲーションを不用意に使用していないか
・簡潔なタイトル、サブタイトルを書いているか
・絶えず参照したいページへのアクセス手段は提供されているか


<商品選択面>

・2クリック、3ステップの原則は守られているか:目的商品への到達が2クリック、3ページ目で可能かどうかということ
・商品分類は、ウェブ独自の基準で設計されているか:概して従来の小売業のあソートメント体系をそのまま導入してもダメということ。わかりやすさ、選びやすさ、目的商品への最短ルートの提供という視点から、再設計されているか、ということ。
・どのページからも容易な商品選択が可能か
・親切でわかりやすい検索が提供されているか
・内部ページへの導入経路を多様化させているか:プロモーションから導入する、商品カテゴリーからたどる、検索から呼び込む等、選択肢を多様化させるということ
・商品価格の提示方法は十分検討されているか:例えばあのアマゾンの価格表示は様々な角度からしつこいほど、表現されている。単なる割引表示だけでなく、割引価格、顧客が得する額、割引%まで多角的にひょうげんすることにより、価格メリットの訴求を行うべきであるということ。
・リピーター向けのカスタマイズされた、商品絞り込みやプロセス提案はなされているか
・商品イメージは下の階層で適切な大きさで提案されているか:中分類レベルでは小さなイメージの提案、詳細イメージはアイテム画面で適切に提案するといったこと
・詳細情報、詳細画面を多用していないか:アイテム情報提案画面で意思決定が行えることが原則。不必要な詳細画面の提案は、購買中止を招くといったこと

<決済・配送面>
・購入決定からチェックアウトまでのプロセスは顧客視点にたって、設計されているか
・購買プロセスにおける必要情報の提供は十分か:カード使用における注意事項、配送に関する情報が、適切なステップでそれぞれ提案されているかということ
・決済、配送等に関する選択肢は十分提供されているか
・チェックアウト情報の入力は容易か
・リピーター向けのエクスプレスチェックアウトは提案されているか
・注文決定、キャンセルの意思表明は必要ステップで、適切に行えるか
・最終の注文確定確認画面を提示しているか

●日本のECのユーザビリティのレベルは

 これからは日本のショップにもユーザビリティテストが不可欠であろう。例えば環境を同一にしておき、モニターに1万円渡して、「この範囲で、これこれの店でこのような条件にあてはまる商品を探して注文してください」といったようなテストである。
 例えばアパレルのジャンルでのテスト結果では
・1位:landsend.com
・2位:macys.com
・3位:gap.com
といった順だ。確かにランズエンドのサイトは日米とも商品分類の設計、ナビゲーション、商品情報の提案ともによく作りこまれており、短時間で目的を達成することが可能だ。

 日本では中小電子商店のてるくにでんき、アウトドア洋品店のナチュラム、オフィス用品宅配のアスクルあたりのユーザビリテイのレベルはかなり高いものがある。

 逆にエアラインのサイト、大手商社の展開するショッピングモール、などは、利用者の視点に立ったナビゲーションがまるで無視されており、実に使いにくい。また決済プロセスにでわかりやすいのは、楽天がダントツ。わかりやすく、無駄のない設計である。

●ウェブサイトを効果的にする10の秘訣

 さてアメリカにはユーザビリティを専門に研究するサイトがたくさんある。そこから失敬してきた10のチップスを紹介しておこう。

Make it sticky:これは前述。ステッキイなウェブを作りなさいということ
・Make it
easy:とにかく目的を達成するのに最も簡単な方法を提供しなさいということ
・Make it
private:これはプライバシーポリシー等、顧客情報の漏洩に十分気を配っていることをアピールしなさいということ
・Make it
fast :目的達成に向けて、最も最短且つ最速の方法を提供しなさいということ
・Make it
personal:「ワタシにとって最適の提案があるか、ワタシにとってベストな問題解決手段が提供されているか」を提案するということ
・Make it
work:役に立つのか、問題解決に貢献するのか、確信を与えること
・Make it
strong:バックオフィスの「頑丈さ」に留意しなさい、ということ
・Make it
professional:カスタマーサービスの点で徹底的に顧客満足を高める仕組みを保持しなさいということ
・Make it
win-win: 店にも顧客にも互いにメリットのあることを考えなさいということ。要するにCRMを徹底し、顧客との良好なリレーションシップを確立しなさい、ということでもある。
・Make it
interactive:インターラクティブさの維持に絶えず留意しなさいということ。あらゆる機会、方法を駆使して、最もインターネット的な特徴であるところのinteractiveさを強調しなさいということである。



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