●アメリカのECのトレンド
アメリカにはEC関係のレポートを発行する機関が沢山あるが、どれも一長一短である。大体EC自体の定義が異なったりしている。最大の欠点はレポートの価格がバカ高いこと。1冊ウン十万円はする。この中で、各レポートを横断的に分析し、700ドル位で提供している親切なところがある(eMarketer)。
ここのレポートには、次のシーズンを予測するシナリオが載るのだが、これが結構的確だ。まずこのトレンドを紹介しておこう。
1)ECの成長は持続し、最も積極的な予測をも凌駕するだろう:ピュアプレイヤーと呼ばれるネット専業業者の淘汰・統合があるにせよ、EC市場は少なくとも倍には成長するだろう、という予測だ。
2)各チャネルの比較検討の結果、ウェブチャネルの優位性が高まるだろう:実店舗、カタログ、ウェブ等での比較購買、情報比較が進むことは、ウェブの優位性を強調する結果をもたらすだろう、ということだ。これは全く同感で、業態比較が進めば進むほど、ウェブの優位性が強調されることになるだろう。
3)女性の席捲:リアルマーケットと同様に、女性がECの7〜8割を支配するという予測だ。
4)顧客獲得から顧客維持へ:ピュアプレイヤーのばく大な販促費を前提としての大顧客獲得競争は終焉し、質の高いサービスを前提にしたロイヤルティ獲得競争へ突入するだろうということだ。そのサービスの主役は「パーソナライズドサービス」とのことだ。
5)クリック&モルタルの優位動かず:ブランディングや「混雑するカテゴリー間大競争」で金欠病の続くピュアプレイヤーに対し、マルチチャネルのクリック&モルタルの優位動かず、といったところだ。
6)実店舗小売業への質的影響:ウエブを含めたチャネル間のサービス向上競争が続くことで、実店舗のサービスレベルやシステムも多大な影響を受けるということ。例えば実店舗での品切れなどは、今後は許される情況にはないということだ。ウェブ小売業の台頭は、実店舗小売業のあり方への影響が大きいということ。
7)「賢い」ショッピングエージェントの台頭:パーソナル対応のテクノロジーの搭載が標準化し、より賢いリコメンデーション等が当たり前のサービスになるだろう、ということだ。
8)日本的ECアメリカ版の台頭:物流等バックオフィスの整備の必然性が高まる一方、そのコスト高騰に悩むオンラインリテイラーは、「中間の戦略」(midway strategy)を選択するようになるだろう、ということだ。つまりピックアップポイントを設けるということで、何のことはない、コンビニを拠点とする日本的ECのようなものがアメリカでも台頭するという予測だ。
9)旅行とコンピュータ関連は依然2大キラーカテゴリーである:これは当然だろう。
10)「マス・カスタマイゼイション」こそ最大の差別化策に:コスト削減、CS向上双方の意味からも、よりパーソナルな対応が不可欠になるということ。
11)日用品の定期補給等の新たな差別化策も台頭:ロイヤルティ向上、ブランドアウエアネスの定着といった意味からも新たな差別化策が模索され、「日用品の定期補給」等のサービスが検討されるだろう、ということ。
12)デジタルコンテンツのダウンロードが一般化:本、音楽、ソフト等のダウンロード販売は定着するが、一方で新たな「コンテンツビジネス」の種も探さねばならない情況も予想されるということ。
13)ハッピーホリディシーズンの勝者になるには3点セットが必要:「ブランド」「顧客サービス」「素早いフルフィルメント体制」の3点セットを備えたものであるということ。
●日本市場をどう見るか
さて日本市場である。以下は全くの個人的予測だ。
1)自己過信型大企業プロジェクトの苦戦:トヨタ、松下等の日本を代表する超大企業のECサイトが昨年は続々登場した。個人的には全く納得できない。共通点は「本業以外の商品展開」「系列チャネル等拠点活用」といったところだ。トヨタはGazooを展開。本業の車以外のメディア関係、あるいは「百貨店型」のショッピングモールを展開している。車はまあ良いとしても、メディア(CD等)はネット専門店の深い情報提供の形に比べ、明らかに見劣りする。ショッピングモールに関しては、百貨店形式を標榜するものの、ジャンル別の品揃えの濃淡が見え隠れする。何よりも車メーカーのサイトでミソや米を買う理由が消費者にはわからない。ネットには立派な専門店が沢山ある。超大企業の陥りやすいワナではないか、という印象だ。
松下はライフビットコムを始めた。目玉はエリアの系列店を巻き込んだ家電販売だ。だがこのサイトもかなり焦点が見えにくい。女性を意識したとかで、料理、美容、などの情報メニューをちりばめているが、どれも情報の厚みに乏しい。このサイトで「ガーデニング」や「料理」情報を入手しようと思う女性がどれだけ存在するのか、疑問である。
どちらも超大企業だが、本業以外に商品や情報を展開することの、説得力ある理由が見えてこない。超大企業であるからといって、消費者が生活の諸側面において情報やサービスを期待するとは限らないということを自覚すべきだ。
2)日本的ECの真価が問われる
コンビニ活用とモバイルが日本的ECと言われたものだ。モバイルの方はともかく、コンビニECの方は疑問が残る。アメリカの予測も「ピックアップポイント」の台頭が述べられているが、これは物流のインフラとしてリアルコマースの拠点活用が進むということだ。こうした拠点活用型のECの方だが、次のような点をあげておこう。
・EC拠点としての活用は浸透する(他社サービスとして開放することによる、収益機会の増大は見込めるだろう)
・自社展開、あるいはアライアンスによるオリジナルECサイトは苦戦する(目下はアライアンスの弱点のみ強調されているようだ)
・コンビニ以外の拠点活用は苦戦しそう(駅、系列店、ガソリンスタンド、米屋、酒屋・・まで広がっているが、吸引力のあるコンビニ対比、どこまで同じコンセプトが通用するかが疑問)
3)伝統的小売業の苦戦続く:百貨店、GMS等の従来型の小売業のECは依然苦戦ではないか。かたやパパママストアの中小電子商店のトップクラスで年商数億が視野に入っているのに対し、百貨店等はトップクラスでも億には到達していない。従来の店舗販売の矛盾、消費者とのズレ、対面販売のレベルの低さ等を自覚し、自己否定から始めないと、ネットでの展開は無理なように見える。
4)ブランド小売業の善戦:2000年後半にオープンしたユニクロや無印良品のサイトはそれなりにおもしろい。理由は専門店であること、コンセプトが明確なショップであることだろう。小売業のブランドとは「スタイル」や「コンセプト」のことだが、両者ともに実店舗でこれを前提にしている。つまりブランド力のある小売業はネットのブランド戦略の基本である「事前イメージの形成」が比較的容易であり、善戦も可能でき、ブランド力のない小売業はネットで何をしても苦戦する、ということもあり得るシナリオなのだ。
5)実店舗への質的影響大:これはアメリカの予測と共通だ。人々が、実店舗、カタログ、ネットと多面的に利用し始めれば、それぞれのメリット、デメリットが明確になる。趨勢としてはネットの優位性を強調する動きになりそうだ。情報の豊富さ、比較の容易さ、対面販売をもしのぐサービスのレベルといったことに消費者が気づいてくれば、ネット小売業の本質的な価値が浸透することになるだろう。単なる「ネット通販」という場ではないという認識も広まりそうだ。「顧客がエライ」が原則のネットでは、CSのレベルはとんでもなく高いところに設定され始めている。このレベルの高さは逆に実店舗小売業の自己改革を促しそうだ。
6)新規参入環境の悪化:過去5年の日本のECのリーダーは中小・個人企業だ。背景には、参入障壁が低かったこと、プロモーションコストがかからず、デジタル口コミを主要販促手段として成長してきたこと、等の理由がある。要するに、センスや起業家精神があればそれなりに評価され、コストも相対的に安いということであったのだ。
こうしたハッピーな環境が今後も持続するとの予測は立てにくい。過去に参入した3万店と今後参入する新規店との事業環境は全く異なると見た方がよさそうだ。同一ジャンルでのブランド獲得競争が激化するだけに、コストアップも余儀なくされるだろう。
7)中小電子商店の質的変化:日本のBtoCサイトの9割は従業員50人以下の中小企業だ。彼らをひと括りに「中小電子商店」と呼んできた。だがその質的変化が進みそうだ。トップクラスは年商数億目前で、10億体制を着々整え始めたところもある。一方で規模の拡大や価格競争を前提とする「商品ジャンル間のサバイバル」を避け、オプティマムな規模での質の高い商売を志向するタイプも出現している。反面大多数の店は一目みて、月商50万にも到達していないことが歴然としている。中小企業間の格差、質的構造変化は一層進みそうだ。
7)ブランド戦略の巧拙が問われる:e-ブランディングの重要性は本稿でも何度も書いてきた。EC参入企業も口々にブランド戦略の重要性を指摘するようになってきた。だが中身が根本的に異なる。e-brandingとは知名度アップのことだけではない。ネット上での存在価値を高めるということで、そこにはリッチな経験の提供が不可欠だ。日本で既に過当競争に陥っているジャンルは、オンライントレーデイングとホテル等の旅行予約サイトのジャンルだろう。いずれも50社以上のサイトが出現している。オンライントレーディング業界では、中小・中堅証券がマス広告を展開したりしているが、効果は期待できまい。単なる知名度アップのための広告費投下は広告代理店を潤すだけに終わりそうだ。ブランドとは「自社サービスの価値そのものの浸透だだ」との認識を早く確立すべきだ。
8)ctocの台頭:気の早い人はいるもので、BtoCの終焉を予測する人もいる。時代はBtoBというわけだ。だがアメリカの予測をいくら眺めても、BtoC企業の淘汰は触れられているが、BtoC自体の没落を予測する声はない。淘汰されるBtoC企業とは、コンセプト、顧客サービス、バックオフィスで弱みを持った企業であった。特に倒産が相次いだ玩具業界では、単なるディスカウンターや基盤を持たない大型店が淘汰されているに過ぎない。これをもってBtoCの終焉を述べるのは早計であろう。まして日本ではBtoCの本格展開は全くこれからである。大サバイバル競争は2年後以降位の話だろう。
だがCtoCの方は急速に進展しそうだ。大体日本人は潔癖だから、人様のオフルはいやがる、などという議論がされたものだが、オークションなどのCtoCは着実に進展しつつある。エスクローなどの中間サービスも整い始め、新たな需要層も獲得しそうだ。2001年はCtoCの本格化元年と見るがどうだろう。
9)壮絶な顧客満足獲得競争の到来:アメリカで先行した「顧客満足獲得競争」が日本にも飛び火するだろう。大体アマゾンだのプライスラインだのの、CSのレベルは相当に高い。おまけにネットのオキテは「客がエライ」わけだから、実店舗に比べてもCSのレベルは向上し始めている。これは一方で実店舗のあり方に影響を与えるだろうが、ネット企業のCS競争は一層激化するだろう。好例は書店業界。オンライン書店は95年位に開店した老舗企業も含まれれるが、競争らしい競争がなかったせいで、顧客サービスのレベルは相当に低かったのが実情だ。これが2000年に新規参入企業が増加し、競争環境は一変する。某老舗書店は、何十回購入してもオマケ1つなし。クレジットカードの利用控えみたいなものが無愛想にはさまっているだけだ。日本でオープンしたアマゾンは、きれいなオリジナルのブックカバーとしおり付きで届けている。オマケが大事なのではなく、パッケージを開いた時の印象が大事なのだ。こういうこと1つとっても、既存企業に与える影響は大きそうだ。底流としては壮絶な顧客満足獲得競争が勃発するだろう。消費者にとってはメリットだが、そもそも川下ビジネスの苦手な企業、情報システム部の発想を脱皮できないEC展開企業、顧客感度のそもそも悪い企業にとっては、厳しい環境が訪れるだろう。
10)フロントからバックへ:アメリカで先行した「フロントからバック」への動きは日本でも始まりそうだ。フロントとは、店構えや商品など顧客の目に見える部分のことだ。バックとはバックオフィスのことで、物流等のフルフィルメント体制やシステム、データベース、等の話である。とはいえ日本ではフロンと部分の企業格差が著しい。だが品切れのなさ、物流の早さ、決済方法の選択肢の整備、顧客サービス体制の整備といったバック部分での差別化を余儀なくされそうだ。結局は顧客サービスを安定的に展開するには。バックオフィスでの差別化が不可欠であるからだ。
11)コミュニティサイトの真価が問われる:ECサイトにはコミュニティや豊富なコンテンツは不可欠だとの認識は一般化した。なぜなら固定客づくりの基本は「スティッキー」(ぺたぺたした:また戻ってきたくなるという意味)なウェブを作るということで、そのためには情報やコミュニティは不可欠なのだ。一方コミュニテイ系サイトのEC展開はかなり難問である。人はコミュニティサイトにはコミュニテイ機能を求めにやってくるわけで、必ずしもECニーズが台頭しているわけではない。ECを前提とするビジネスモデルの苦戦も予想されるところだ。女性向けサイトなどが続々誕生したが、ECへの展開には難問もありそうだ。コミュニティを前面に出す限り、コマースの大原則である「アクティブハウスリスト」〔自社で買ってくれる生きた顧客名簿)の効率的な獲得には限界があるからだ
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