連載:ECのマーケティング

第23回
日本版クリック&モルタルはECの主役になれるのか?

カードウェーブ01.03



 米国のECの構造転換が進んでいる。ピュアプレイヤーと呼ばれるネット専業企業が苦 戦。店舗を持つマルチチャネル企業へのシフトが進んだ。ここにきて「マルチチャネ ル企業主役説」が台頭している。

 だがこれはアメリカの話である。日本にそのまま通用するわけではない。日本の既存の小売業者は「これからは自分たちの時代だ」などと妙に舞い上がっているが、早計 というものだ。日米の違い、日本のマルチチャネル企業のECの現状を分析してみよ う。

●ピュアプレイヤーVSマルチチャネル

 ピュアプレイヤー対マルチチャネルのどちらが有利か、といった議論はe-コマースに かかわる店が本格的に登場した1995年当時から延々と続いている。当初は圧倒的にピ ュアプレイヤー優位説がまん延した。アマゾンやe トイズが代表例。その後3年位 は、こうしたネット生まれの企業がネットビジネス界の寵児であった。例えばアマゾ ンの登場は、従来の小売業関係者からみれば、驚異的な出来事だ。そこでは店舗、什 器、店員、倉庫、駐車場は不要。それまでの書店の品そろえ数は大型店でも数十万点 といったところ。それがアマゾンは当初100万点からスタートした。品そろえが膨 大で、かつ24時間営業、立地戦略も必要なし。この「持たざる経営」がインターネッ トの初期のビジネスモデルであったことは間違いない。在庫や物流を持たない「身軽 な経営」こそe-コマースの真骨頂である、との議論がまん延した。

 さらに、フォローの風となったのが、ネットユーザーの肩入れだ。「ネットユーザー は自分たちのフィールドで生まれ育ったネットジェネ企業をひいきにする」という 「身びいき説」が有力だった。これも一理ある。初期のネットユーザーとは、パソコ ンやインターネットを熟知した、いわば「プロの消費者」であった。結果的に、ネッ トの特質を見抜いて、果敢に参入してきたネット生まれのベンチャー企業を内心応援 するような態度があったことも否定できない。

 事情が一変し始めたのが、1998年ころからである。アマゾンのライバル、バー ンズ&ノーブルは、2年遅れでネットに参入してきた典型的なマルチチャネル企業 だ。500店を越える実店舗の書店のチェーンを展開している。このB&Nは、98年 11月に、それまでアマゾンが書籍調達を依存していた、取次業、イングラム・ブック ・グループを買収してしまう。結果的にアマゾンは自前の巨大な物流センターを作ら ざるを得なくなったのだ。もちろん他にも理由はある。商品を安定的にかつ迅速に顧 客のもとに届けるには、自前の物流システムをもたざるを得ないという理由もあっ た。

 利便性を旨とするネットにおいて、物流面で自前のコントロールが利かないとい うことは、ネットの成功法則「インターネットスピード」が維持できないということ だ。注文までは迅速でも、届くのが遅ければ、顧客満足は低下し、ビジネスモデルと してはイビツなものになってしまう。いわば、ネットにおける壮絶な「顧客満足獲得 争い」が、オンライン専業企業に、方針転換を余儀なくさせたのだ。このアマゾンの 方針転換は賛否両論である。結果的にコストは膨らみ、永遠の赤字体質を余儀なくさ れている。一方で、顧客満足はさらに高まり、リピーター比率8割という途方もない 水準を維持しているのも事実なのだ。

 だがこのあたりから、オンライン専業対マルチチャネルの戦いの構図は変わってく る。ネットでの生き残りを目指す限り、専業企業といえども「地上のインターフェー スが必要」というのが、いわば常識化しはじめた。

 この構図がさらに激化したのが昨年だ。ピュアプレイヤーの多くは、株価の低迷で 金欠病に悩む。かっては優等生であったGarden.comでさえ、廃業の危機に直面。家具 販売のliving.comやペット用品のPets.comは廃業に追い込まれた。 

 危機に見舞われた多くのピュアプレイヤーの理由はマーケティングコストの高騰 だ。一昨年のeクリスマスにアメリカに行ったときは、ドットコム企業の広告でメデ ィアは溢れかえっていた。調達した資金を一斉に広告に投下する。だがこんな話は長 続きしない。株価の低迷で一斉に広告費削減に走る。その一方これまでサービス体制 が遅れていたマルチチャネル組は着々とオンラインでのサービス向上に務めた。

 昨年のeクリスマスでは、かってのeコマース界の寵児、eトイズが危機に直面。ギフ トシーズンの売り上げは予想の半分程度。ビジット数のランキングではアマゾンに次 いで2位を保持したが、身売り説が台頭した。

●マルチチャネル企業はなぜ有利なのか

 1999年のアメリカのe-リテイリングの成長要因について、e-リテイラーの団体であ る「Shop.org」はその最新レポート「The State of Online Retailing 3.0」で次の点 を指摘している。「ユーザー層における女性比率増大」「マルチチャネル企業の健 闘」「新しいビジネスモデルの進出」。つまりマルチチャネル企業の健闘そのもの が、e-コマースの成長を押し上げる働きをしたということなのだ。
その理由として同レポートでは次の点を指摘する。

・顧客獲得コストが低い
・物流費が安い

 例えば、顧客獲得コストは1人あたり専業企業では82ドル、一方マルチチャネルで はわずか12ドル。一方物流コストはカタログ通販を基盤とするマルチチャネル企業が 最も安く、専業企業の18%程度。店舗小売業に比べても43%程度となっている。

 今やネットでは「フロント」(客に見える部分:店がまえ、商品等)での戦いはほ ぼ終了し、よりサービス向上を目指すには「バックオフィス」(客の目には見えない が、重要な部分:決済、配送、コールセンター等)の戦いに突入し始めた。こうなっ てくると、既存のブランド、商品、顧客データベース、物流システム等インフラを当 初から持つ企業の有利さが前面に出る。

 一方で既存店舗とオンラインの複合こそ切り 札だとの議論が出始め、その理由として「複数チャネルを利用する顧客こそロイヤル ティが高い優良客である」「オンラインと店舗を連動させたMidway Strategyこそク リック&モルタルの優位性を示す」といった論調となる。

 さらに最近の調査では、ネットだけでのビジネスモデルで利益を出すことは不可能 だと結論づけBtoCのオンライン専業モデルはもはや機能不全である、との議論も台頭 した。
 例えば、EC企業は1件あたりの注文に対し、マーケティングコストやウェブ管理コ ストを除いても2〜12ドル程度の損失が出ているという(マッキンゼー調査)。結果 的にマーケティングコストや物流費をカバーするための途方もない売り上げ確保が必 要となるが、もはやそのために投下する顧客獲得コストが捻出できない。

 利益をあげるためには、高価格、高利益商品にシフトするか、1人あたりのライフタ イムバリューの高いビジネス構造にシフトするかのどちらかだと結論づけられた。

●日本のマルチチャネラーの現状

 こうしてみてくると、アメリカの論調は「マルチチャネル優位説」一辺倒だ。だが これが日本にそのまま当てはまるとは到底思えないのだ。そこで日本のマルチチャネ ラーの現状を見てみよう。

1)PCリテイラー

 日本で最も成果をあげているマルチチャネル組の1つ。先頭を行くソフマップなどは 2000年の年商を90億円と言っている。苦節5年やっと専門店の100億円国産プレーヤーが登 場し始めた。この業界は家電量販店からの参入が多いが、八王子に拠点を持つムラウチ、ヨドバシカメラなど、ユーザビリテイのレベルが高く、使いやすい店だ。いずれも サービスのレベル、品揃えの幅、深さがあるネットならではの専門店展開を行ってい る。ソフマップは商品到着後にアフタサービス案内を兼ねての確認メールを送付。顧 客対応が丁寧だ。ムラウチは抜群の品揃えとネット顧客専用の価格表示でメリットを 演出する。ユーザビリティのレベルが高い店だ。ヨドバシカメラは、手書きの領収書 を発行してくれるなど、きめ細かいサービスも行う。この他の大型店には例えばデオデオ、ビッグカメラ等があるが、品揃えが売れ筋に絞り込まれている印象が強く、ネ ット専門大型店としては少々魅力に乏しい。

2)その他専門店

 ユニクロ、オートバックス等の本格進出が始まった。ネットでの「百貨」のシナリオ は実に難しいが、専門店であれば、品揃えの幅や深さが追及しやすい。ユニクロなど はネットも利用する、実店舗にも遊びに行く、といった「マルチチャネル利用型優良 客」を生成しやすい店だ。
 日本の専門店はほとんどが中小企業で、それでも年商2〜3億のレベルに育ってき た。彼らのオンライン販売のノウハウはすごいが、マルチチャネルの優位性を生かす という体制にはなっていないところが多い。これに対し、ユニクロ等は実店舗を展開 する大型専門店のオンライン参入であり、当初からマルチチャネル活用を意図している。事業規模の差は否めないところだ。

3)コンビニ

 セブンイレブン、ファミリーマート等一斉にECに参入した。だがはっきり言って期待 外れだ。初年度年商100億近いことを言っていたが、到底及ばないだろう。
 セブンイレブンに関しては、
サイトの商品の魅力、統一性がなさすぎる。アライアン スの弱点がそのまま出てしまっている。商品数を増やせとの大号令が出ているようだ が、問題の所在はそんなところではないだろう。売り物としている1つ1つのカテゴ リーが、ネット上の立派な専門店に比べて、差別化できていない。例えばセブンドリ ームでDVDを買う場合と、DVDの優れた専門店であるディスクステーションで買う場合 を比べてみるといい。情報量、楽しさとも後者の方が格段に優れている。結果的にセ ブンドリームでDVDを購入する理由が見つけにくい。

 ジャンル別にカテゴリーを並べ るいわゆる「総合的」「百貨店方式」の売り場の場合、売り手の期待は「ワンストッ プショッピング」にある。だがネットはこれが起こりにくい場なのだ。故に、セブン ドリームのサイトで本が気に入ったとすれば、本しか利用しないということが起こる のだ。セブンドリームファンを作り、会員化し、固定化を図るという戦略もあるが、 ここで買い続けるだけの根本的な魅力、ブランドに乏しい。サイトがスティッキーで ないのだ。

 ファミマの方は、何を狙いとしているのかよくわからない。浜崎あゆみ以外に何の メリットがあるのか理解しにくい。ここも総花的にカテゴリーが並ぶが、内容が薄 い。ユーザビリティのレベルもあまり高くなく、ページデザインとしては1世代前の 印象だ。ポイント制を導入しているが、10万円買わないと還元してくれない。自社サ イトが10万円買い続ける魅力があるかどうかのチェックがまず必要だろう。

 外部のノ ウハウに依存し、内部の戦略の一貫性がないように見える。成功サイトには必ず存在 する「オヌシ、出来るな」という人の影が見えない

 いずれにせよ、コンビニECに関しては、鳴り物入りで登場した割には相当に期待外れ だ。サンクスの行っている「おかいものネット」がコンビニらしいコンセプトで、こちらの成長に期待だ。

4)百貨店

 昨年も苦戦が続いた。試行錯誤を行っているがサイトの魅力がない。百貨店の存在意義の1つは「ちゃんとした洋服をそれなりの値段でも購入する」ことだが、このちゃんとした洋服はほとんど展開されず。それもそのはずでヒトサマの商品であるから だ。となると自社ブランド品、通販商品の展開となるが、これがほとんど魅力なし。 自社の主力商品を本格的に展開しない限りECの主役にはなりえないだろう。百貨店の トップマネジメントはECの理解が低すぎるし、さらにネットは実店舗のサービスレベ ルをはるかに上回る場だとの認識を持たないと無理だろう。

 一方アメリカの百貨店型店舗のオンライン販売はそれなりに好調だ。JCペニーは昨年 のギフトシーズンのビジット数ランキングの堂々10位に顔を出した。サイトを一新 したあのウォルマートも8位にランクイン。Kマートの「ブルーライトコム」もそれな りの評価を得ている。
 好調の理由は、ネット利用者層が一般大衆に移ってきたのに伴い、
実店舗の知名度が 功を奏し始めた、それなりに過去の痛い経験を踏まえ、ECのノウハウをマスターし始 めた、物流、在庫管理といったバックオフィスの充実に関し、既存のインフラを活用 するとともに、ネットならではのノウハウも投入した、こととされる。もちろん青息 吐息のピュアプレイヤーの情況を見て、ここが勝負どころだ、と頑張ったという理由 もある。

 日本の百貨店、GMS等はECのノウハウが蓄積されていない。また実店舗とネットとは購買行動も違い、品揃えや物流体制も違うのだ、という事実を理解しようとしてい ない。その分台頭は遅れるだろう。

5)カタロガー

 カタロガーとはカタログビジネスを展開する通販企業のことである。アメリカのマル チチャネルプレーヤーの中では最もパフォーマンスの良いグループだ。
 このカタロガーがようやく日本でも成果をあげ始めている。とはいえまだ一部企業 だ。
千趣会とセシールが先行。昨年の年商は数十億という規模になってきた。千趣会 に関しては壮絶な試行錯誤の歴史がある。若い男性に焦点を当て失敗。その後作った サイトはCallusという名前だったが、これは医学用語でウオノメの事だった。今はメ インのカタログとほぼ共通の形で展開。要するに小手先でなく、本業のメイン商品と の連動を図ることで、やっと展望が見え始めた。セシールの方も同様で、いずれも既 存のインフラ、データベースがそのまま活用できる。そもそも内在しているダイレク トマーケティングの仕組みがそのまま活用できる。これが百貨店等との大きな違い だ。百貨店等既存小売業には、商品を店舗に的確に届ける仕組みはあっても、それは 個人の客の家に的確に届ける仕組みとは異なるからだ。

 日本直販、プライムTVショッピングといったテレビショッピング展開企業のウェブ もおもしろくなっている。メディアのマルチチャネル化が順調に進んでいる。いずれ にせよ、これまでぼんやりしていた通販企業の本格展開は間違いないところだろう。

6)メーカーのマルチチャネル戦略

 家電メーカー、自動車メーカー、化粧品メーカーといったグループだ。トヨタの Gazooは当初本当に魅力がなかったが、ここにきて自動車、バイク、本、メディア、 ショッピングとそれぞれのカテゴリーの内容が充実し始めている。コンビニECサイト と同様のアライアンス体制だが、それぞれのジャンルの中身が深くなっている。とは いえ、自動車ユーザーがGazooでミソや醤油を買うという水平展開がどこまで可能か は疑問だ。

 松下電器は系列店を巻き込んだLifeVit.comを始めた。メインの家電製品を系列店 を巻き込んだ形で購入できる。だが今1つインパクトがない。売れる店の形になって いないし、暮らしに役に立つ情報だの、生活情報だの、余計なものが多すぎる。ちな みにクッキング情報を見たときには「すき焼きの作り方」の紹介があったが、誰もこ こですき焼き情報をゲットしたいとは思わないだろう。何だかチャネルに気を使いす ぎで、消費者の方を向いていない感じだ。

 ソニースタイルは松下とは正反対で、商品を売るサイトに徹している。これも既存 チャネルが弱いから出来ることだが、メーカーのマルチチャネル戦略は、今のとこ ろ、ソニーを除いては、恐る恐るといった観が強い。ただ日清食品、大塚食品といっ た食品メーカーのサイト内直販は、規模は狙えないが結構おもしろい展開だ。

7)ツタヤオンライン

 昨年、今年とオンラインショッピングの各賞を総なめにした。御存知ツタヤのオンラ イン戦略だ。日本一のクリック&モルタルを目指すと豪語するとおり、imode等モバ イルを駆使しての戦略はすでに有効に機能している。もちろんウェブもあるが、メイ ンはモバイルにシフト。店舗への送客に絞った戦略だ。imodeへの新作半額クーポン の送信など結構大胆なことを行っている。ここは結構理論的な会社で、様々なマーケ ティングデータを活用し、当初「共食い」を恐れた実店舗経営者を説得する材料を揃 えている。

・マルチチャネル利用者は優良客だ
・モバイルでの店舗送客が実際にメリットになる

といった数字を具体的に示し、店舗の説得にあたったという。フランチャイズビジネ スには不可欠な視点を展開した。

 こう見てくると、
日本のマルチチャネラーが急速に輝くという予測は一部企業を除い ては立てにくい。一方でオンラインだけのピュアプレイヤーは今のところ楽天程度し か育っていない。これまで市場をリードしてきた中小電子商店の人たちは、新たな拡 大を目指して、次のステップに踏み出し始めた。ことBtoCに関しては日米の事情は相 当異なる、と見るべきだろう。



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