連載:ECのマーケティング

第24回
Eメールマーケティングの活用と課題

カードウェーブ01.04



 eメールマーケティング(EMM)については、本稿でも取り上げたことがある。昨年あたりからやっと日本企業でもEMMに対する関心が高まってきた。
 ECのジャンルでは少なくとも「
eメールを制するものがeコマースを制する」というのはもはや常識だ。なぜなら、ネットビジネスのオキテである「打てば響くような対応」を演出するツールもeメール。実店舗をはるかにしのぐサービスレベルを演出するのもeメールであるからだ。
 だがこのEMMのレベルはまだまだ低い。事故やトラブルも相次いでいる。某金融系企業などは、重要顧客向けの特別情報をウィルス付きの添付ファイルで送ってしまい、あやうく訴訟騒ぎになりかけた。
 日々のeメール環境も悪化するばかり。eメールの重要性が認識され始めたのは結構だが、基本であるところ「
オプトイン」(了解を貰って出すメールのこと)や「パミッション」の意味すら理解していない例が多い。
 ましてアメリカではドットコム企業の倒産が相次いだ。彼らの資産で最も価値が高かったものといえばeメールリストである。これを叩き売って逃げてしまったような事例が相次いでいる。結果的に古手のネットユーザーになればなるほどジャンクメールに悩まされる事態が出現している。
 とにかく「
されどeメール、たかがeメール」なのだ。eメールを駆使したEMMをもう1度考えてみよう。

●EMMの定義とは

 EMMという言葉がやっと日本企業の口に上るようになってきた。だが内容をきちんと理解しているか、というと怪しいものだ。ただメールを送ることをEMMと思っているようだ。EMMとは、eメールのプラットフォームを利用して何らかの電子的メッセージを次のような目的で送ること、とされる。

1)ブランドの認知率を高める
2)商品やサービスに対する興味、関心を喚起する
3)情報提供者、あるいは販売業者とのコンタクトの手段を提供する
4)CRM(カストマーリレーションシップマネジメント)あるいは関連する手段を講じることにより、顧客との関係を強化する

 つまりネットで重要な「アウエアネスの確保」「サイトトラフィックの増強」「ブランディング」「顧客リテンション」のいずれの場面でも寄与することが期待される手段ということがわかる。しかも、これを効率的(コスト及び時間という意味で)、科学的(再現可能、測定可能という意味で)、かつターゲッティング(相手を特定するという意味で)を前提に行う手段というわけだ。

 これを前提に日本企業のEMMの実情を見てみると、まだまだ理解は不十分だ。例えば
・オプトインの概念の理解が進まず
・リストの相手にメールを送るのみで、ターゲティングが行われず
・上記1)〜4)のいずれの狙うのか目的が曖昧
・EMMの位置づけ自体が確立せず、結果的にシステムとして機能していない
(事故が起こるのも、個人の担当者レベルに業務が任されがちであることも影響している)

といった点があるだろう。多くのコマースサイトでは、最近は「メールによるお知らせ」を出してよいかどうかの確認項目が設けられるようになってきた。これにイエスと回答した人に出すメールがいわゆるパミッションメールなのだが、1度OKを出しても、その内容のレベルの低さにうんざりしてしまう。目的が曖昧なだけに、メール自体の内容も何を意図しているのかさっぱりわからない。ただメールをリストをベースに出すことをEMMと思っているようだ。

 メール環境は悪化するばかり。ちなみにアメリカの調査結果によれば(eMarketer)、郵便メールとeメールの発送数は1999年時点で郵便が2060億通。eメールが5360億通であるそうだ。すでに逆転どころか2倍以上の開きになっている。しかもパミッションを前提にしたeメールだけでも1人あたり1日では4.4通、1週間では31.1通。1年には1618通受け取るのだという。よほどEMMに配慮がなければ、メールはたちどころにノイズになり、マーケティングの展開を阻害する要因になってしまう。ECの最大の課題はEMMのレベル向上といっても言い過ぎではない。

●EMMはなぜ重要なのか

 おさらいだが、改めてEMMの重要性、役割を整理してみよう。

1)eメールはユビキュタス
 最近はユビキュタスという言葉が流行っていて、まあ「いつでも、どこでも」という意味で使われている。この点からすれば、eメールは職場でも家庭でも、また様々なプラットフォームで利用可能だ。おまけに日本では携帯電話等モバイルコンピューティングの爆発的な普及の結果、文字通りユビキュタスの環境が実現しつつある。eメールはあっとうう間に、人々の日常生活、日常のルーチン業務の中に入り込んでしまったということだ。先にあげたように郵便数よりメール数の方が既に多いということになれば、むしろ郵便メールの方が、非日常ということにもなりかねない。その位
浸透度が高い手段が出現したということになる。

2)eメールはプッシュメディア
 バナーが「待ち」を前提にするのに比べると、eメールは顧客の目前に出現し、しかもサイト自体を顧客の前に引き寄せる効果を発揮する。パミッションを前提にする限り、ということではあるが、ウエブマーケティングの世界では、プッシュはプルよりはるかに有効である。

3)コストカット
 伝統的な手段に比べ、圧倒的に安い。図1〔略)は各手段の1メッセージあたりのコストを比較したものだ。この結果ではテレマーケティングの手段、あるいは郵便のDMに比べコストメリットは明らかだ。おまけにオプトインメールとスパムメールのコスト差も歴然としている。理屈では「スパムメールは百害あって一利なし」などというが、コストから見るかぎり、スパムは永遠に増加しそうだ。

4)マーケティング所要時間の短縮
 従来のマーケティング手段に比べ、マーケティングのサイクル、所要時間の短縮化が可能だ。Digital Impact社の調査結果では、リスポンスされたメールの85%は48時間以内に戻ってきたものであるということで、伝統的なダイレクトマーケティングの手段(6〜8週間は見込む)に比べ、はるかに早い。これだけ反応が早ければ、次の手を考える速度も早い。ダイレクトマーケティングの基本はそれが伝統的なものであれ、ネット上のものであれ、「仮説を立てる」「実施する」「効果測定を行う」ことの繰り返しだ。このサイクルがネットではとんでもない早さで実施可能ということになる。

5)eメールはサイトトラフィックを生みだす
 サイトを何で見つけるのか、ということは永遠のテーマだが、大体順序は日米ともに決まっていて「サーチエンジン」「口コミ」「ランダムなネットサーフィン」「雑誌、新聞等メディア」といったあたりが上位である。eメールについてはまだまだ比率は低い。だが2年前まではわずかこのウェイトは数%程度であったものが、直近の調査結果では15%程度位までに上昇している。つまりeメール中のURLをみてクリックジャンプを行うことでサイトを訪れる比率が年々上昇しているということなのだ。バナーの効果は低減するばかり。一方で情報は増えるのに、ネットに振り向けられる時間は一定ということになれば、ネットサーフィンどころの話ではない。自ずと、メールへの依存度が高まるということなのだ。

6)ブランド強化への貢献
 これは言うまでもないこと。eメールマーケティングの基本はパミッションであり双方向であるだけに、従来の一方通行型のマスメディアによるブランド形成手段に比べれば、ブランド強化への貢献ははるかに高いことになる。

7)高いクリックスルー率の確保
 どれだけクリックするかというクリックスルー率(CTR)がウェブマーケッターの最重要関心事だ。このCTRは明らかに高い。これについてバナーとオプトインeメールを比較した調査結果が山ほど出ている。どれを見てもバナーのケースでは高くて1%前後で最高でも2%まで。一方eメールの方は10数%から20%近い数字が並んでいる。ちなみにeメールだけのCRTを比較した調査結果では最低でも5%程度。最高で16.4%程度。バナーとの違いは明らかで、CRTの水準自体がそもそも異なっている。

8)コンバージョン率の向上
 来店者を購入者に転換させる比率のこと。精密なハウスリスト(自社のアクティブ顧客の名簿のこと)は、レンタルリストに比べコンバージョン率がはるかに高いということだ。まあこれはeメールに限った話ではないが。

9)ターゲティングを可能にする
 ダイレクトマーケティングの基本は、ターゲットを明確にするということだ。これがEMMでははるかに低コストで高効率で可能になるということでもある。昨今のCRMへの関心の高まりにより、ここをいかにパーソナライズし、効果的なターゲティングを行うか、という支援システムも続々登場。従来の伝統的なダイレクトマーケティングのターゲティングの手法に比べ、はるかに進化し始めた。

10)EMMは測定可能
 EMMでは何でも測定可能だ。CTRのような基本的なものばかりではない。無効リストの数、顧客からの依頼の変更内容、コンバージョン率、リストごとの効果差、サイト訪問の深さや長さ。顧客のライフタイムバリュー。これがEMMの最大のメリットだろう。結果的にROI(リターンオンインベストメント)の指標を明確に設定することが可能だ。

11)顧客とのリレーションシップの向上
 顧客維持への貢献度が高い。BtoCの没落が言われる中、BtoCで稼ぐ道は単価が高く利益率の高いものを扱うか、顧客のライフタイムバリューを最大にするか、しかない、といわれ始めた。つまり1人の顧客にできる限り長く沢山購入してもらう、ということだ。このためにはeメールによるコミュニケーション確保、CRMの展開が不可欠だ、ということだ。

●EMMの限界

 さてよいことばかり並べたが、EMMには限界もある。次のような点だ。
1)メール総数が増大すればするほど、いかにオプトインメールであっても、効果は逓減する
2)メール総数が増加すればするほど、オプトインが持続しにくくなる(一時はOKしたがすぐ気が変わり、オプトインメールもスパム視されかねない)
3)メールがユビキュタス化すればするほど、商業メールへの期待、効果は低下する

 今のところは成功例であっても、それが将来いつまでも持続する可能性は少ないかもしれない、ということだ。もっともHTMLメールやリッチメディアを駆使したメールなど、技術的な開発も一方で進む。だが表現力が高まれば、効果が高まる、というそう簡単な図式でもなさそうだ。

 さらにいえば、今のところのEMMのノウハウとは極めて手法的なことばかりが先行している。メールを出すタイミングはどうか?サブジェクトの効果的なタイトルの書き方は?URLは文中のどこにはさみこむ?といったノウハウばかり重要視される。一方で効果的なコンテンツの作成法といった「文章講座」的なノウハウばかり重視されている。果たしてこれがEMMかは個人的には疑問である。売り手と買い手のコミュニケーションや関係性を維持するメディアとしての、心理学的アプローチも必要だろう。

●eメールコミュニケーションセールスの新しい動き

 日本でもeメールを駆使して成果をあげている事例は多々ある。だがそれはかなり「属人的努力」によるものが多い。売れている中小電子商店の特徴はメールマガジンが充実していることがあげられる。彼らは文字通り手作りか、あるいは一部アウトソーシングを行っている程度だ。
 ここをシステム化し、誰が行っても均一のレベルでかつ高い効果を狙っている事例がある。これが自動車直販のクイックだ。経済産業省の調査によると、2000年の日本のBtoCで自動車はすでに2千億円近い市場規模ということにされている。だがこれは定義の違いで、実際に直販されている額をカウントしているものではない。ウェブ上で見込み客を集め、それを従来のチャネルがアプローチして成約に至った分である。この流れの中で、自動車直販を手がけ、すでに20億円近い年商をあげているのがクイックだ。

 だが誰もが疑問に思うように、ウェブでクリックし、ショッピングバスケットにその場で車を入れるような購買行動は起こりにくい。つまりクイックの行っている直販とはウェブで見込み客をゲットし、それを成約に至らしめるプロセスに特徴があるということになる。ここのプロセスがeメールコミュニケーションセールスというわけだ。1台の車を売るに当たっての、平均メール数は17通とのこと。所要時間は17通合計で30分程度とのことだ。これをいちいち「手書き」のようなメール対応していてはとても30分に1台は車は売れない。従ってCRMのノウハウをもとに、パッケージ化、システム化、カスタマイズ化されている。車の購入にはそれぞれプロセスがある。このプロセスに沿って、メールで商談を進める仕組みだ。クイックではウェブのアクセス数より、メールのトランズアクション数を重視するとのこと。時間軸をずらしながら、大量の顧客とコミュニケーションを維持し、成約に結びつけるシステムだ。

 この手法は実は汎用性がある。例えば次のような商売には最適である。

1)従来の対面型の販売方法がプレッシャーセールスの要素が強いこと(わずらわしい、うっとうしい、うっかりサインしてしまいそう、等のイメージを顧客サイドが営業に対して思っているビジネス:住宅、金融、車等)
2)営業ノウハウが営業マンに属人化しており、均一性がない営業スタイルの場合
3)関心、興味の段階から購買意思決定までの時間が長期化するビジネスの場合
4)3)のプロセスごとにそれぞれ商談のステップ、内容が異なり、それぞれに応じたアプローチが必要なビジネスの場合

 つまり、住宅、金融商品、百貨店等の外商、車、その他コンプレックス商品(対面で顔を合わせたくない商品サービス)には最適だ、というわけだ。
 このeメールコミュニケーションセールスには多くの利点がある。つまり
営業行為のモニタリングが可能だということ。誰が今どの客に対して何を行っているか、トップマネジメントやマネージャーが確認可能であるということだ。さらには、ベテランでない営業マンでもそれなりに営業プロセスの遂行が可能で、結果的にレベルの均一化が進むということもある。
 ここをいかに効率化し、システム化がポイントで、さらにはメールコミュニケーションの持つ、パーソナルなハイタッチさを維持することがミソというわけだ。

 ウェブ上に客を引き寄せ、その場で購買意思決定を促すだけがECではない。このケースでは購買率(コンバージョン率)の向上が主要課題で、その手法はサイトのフロント部分の巧拙に関わることが多い。
 
見込み客を購買客に転換させる。このプロセスをeメールを駆使してシステム的に行う。ここへの関心がもっと高まってもよさそうだ。昨今はCRMブームで、購入後のフォローについては大分様々な手法が浸透したが、見込み客を「その気にさせる」肝心なところはまだブラックボックスだ。このあたりのノウハウ確立がECのヒケツになりそうな気配だ。



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