連載:ECのマーケティング

第25回
クリック&モルタルで成功する条件とは

カードウェーブ01.06



 クリック&モルタルと呼ばれる、オンラインでもオフラインでもビジネスを展開する企業の動向は、前々回の連載でも取り上げた。
 だが、どうも日本では表面的なとらえ方しかしていないようだ。クリック&モルタルであることが、ネットビジネスの成功要件であるような受け取られ方をしている。話はそんなに簡単ではない。
 おりしも、アメリカのオンラインリテイラーの団体、Shop.Orgからオンラインリテイラーの動向を分析した最新レポートThe State of Online Retailing4.0が発表された(これは日本からでも入手可能である)。このレポートを紹介しつつ、クリック&モルタルで成功するための条件をあきらかにしてみよう。
●絶滅種扱いされるpure player

 昨年後半あたりから、アメリカのBtoCのネット専業の倒産や廃業が相次いでいる。eToysやGarden.comは本当に良い店だったと思うが、行き詰まった。あのアマゾンでさえ、同社を厳しく見ることで有名なアナリストRavi Suria氏によると、「現金資産切れによる信用不安」が指摘され、今年後半が正念場との説も登場。BtoCのネット専業小売モデルはもはや絶滅種扱いされている。まず「絶滅」の背景をあきらかにしてみよう。

1)「拡大こそ戦略」の行き詰まり

 赤字でもよい。資金が続く限り拡大する。これがドットコム企業の基本戦略であったことは周知の事実。とにかくブランドを確立し、First Mover Advantage(先行者がメリットを得る)を獲得することが、基本戦略だ。だが資金調達の状況は限りなく厳しくなる。当然金がなくなれば、ビジネスは続かない。小学生でもこのビジネスモデルは機能不全だとわかるが、拡大を続けているうちは、誰もが、幻想に取りつかれていたのだ。

2)少ない粗利益

 ネット専業企業の粗利益は実に少ない。Shop Orgの4.0レポートによれば、商品コストは73%だ。当然残りの27%が粗利益ということになる(図1:略)。この収益構造は実に示唆にとんでいる。マーケティングコストは売上げの66%、サイトデザインやシステム関係に16%、管理費に13%。となれば、利益のリの字も見当たらないのだ。まずはこの過剰なマーケティングコストがネックとなっているのは明らかである。

 あのeToysの場合も、2000年9-12月期の粗利益率は24.3%。一方この間の広告宣伝費は売上げの3割近くに達している。ギフトシーズンに需要が集中するという特殊事情もあったが、広告宣伝費の資金がショートすれば、客は減少するというこれまた単純な構造が露呈してしまった。

3)金食い虫の顧客獲得コスト

 何故かくもマーケティングに金がかかるのかはネットビジネスの構造からみれば明らかだ。ネットビジネスの構造がA(アウエアネス確保)→C(コンバージョン率向上)→R(リテンション:顧客維持)の3つのステップからなることは、以前にも取り上げた。このAのステップ、顧客獲得コストが実店舗に比べてもとにかく金くい虫だ。図表2はマーケティングコストの構造をみたものだが〔略)、ウェブリテイラーの顧客獲得コストは55ドル。平均に比べてもはるかに高い。一方ネットビジネスは、来店者を購買者に転換するコンバージョン率の水準が低い。平均すれば数%というところだ。自ずと成功要件は、来店者、つまり分母の方を巨大化し、分子(購買者)の実数を高めねばならないということになる。この「分母の巨大化」に要するコストが実店舗小売業に比べても無茶苦茶に高いのだ。

4)コンバージョン率向上に伴う特有のコスト

 分母を大きくする一方で、コンバージョン率の向上にはウェブならではのコストがかかる。サイトデザイン、データベース、客単価を向上するためのクロスセルに向けたマーケティング費用などが該当。これもネットならではの特有のコストであったのだ。

5)CSバトルの勃発

 ウェブ上のCS(顧客満足)獲得競争は実店舗以上に激烈になってしまった。結果的にこれは1つにはバックオフィスへの投資が不可欠になる。在庫切れは許されない、配送は1日も早く、ということになれば、フルフィルメントに金をかけられる企業しか存続できないことになる。一方で、対面販売以上の「親切」をウエブ上で行わないと生き残れないということになり、これまた新たなコスト負担を生みだした。

 このように見てくると、ネット専業小売モデルは、確かに「絶滅種」に見えてくる。だが一方で、ネット専業でも高い成果をあげている企業では、この構造が好転しているのも事実なのだ。図表2にあるように、「トップ・パフォーマー」では、顧客獲得コストも14ドルと低減。一方で売上げに占めるリピーター比率は55%と最高。顧客維持コストは6ドルと最低。つまり、高い顧客満足を提供し、リピーターが定着すれば、事情は好転し、クリック&モルタルに比べても高い競争力が維持できる。だがここに至るまでの体力勝負で挫折したケースが多いというわけだ。

●クリック&モルタルは本当に有利なのか

 ここにきてクリック&モルタル優位説が一気に台頭。だがクリック&モルタルの優位性を示す指標となると、かなり曖昧である。一般論として言われていることは次のようなことである。

1)ネットと店舗の相乗作用が期待できる:店舗をネット購入者のサービス拠点としたり、ウェブへの送客拠点として活用できるといったこと

2)マルチチャネル化による顧客のライフタイムバリュー(LTV)の最大化が期待できる:ネットも実店舗も利用することにより、顧客のLTVを最大化することが可能で、1人の顧客から最大限の収益を得ることが可能となること

3)ネット活用によるコスト低減が見込める:例えばカタログビジネスでは、ネットの活用は明らかに従来のカタログビジネス展開コストの低減を生みだしている。例えば印刷コストなどは削減できるからだ。となれば、顧客をウエブに誘導することで、コストの安いチャネルシェアを拡大し、結果的にオペレーションコストの削減が図れることになる。

4)社内インフラの活用:顧客データベース、既存のフルフィルメントシステムの有効活用が可能となる。

5)ブランド資源が活用できる:既にあるブランド資源の有効活用が可能だ。アメリカの昨年のギフトシーズンのECサイトのビジット数のランキングには、実店舗小売業の大手、ウォルマート、JCPenny、kマートの子会社であるブルーライトドットコム、シアーズなどがベストテンに顔を出した。ウォルマートなどは、「本気を出したらすごい」と言われ続けて数年が経過。昨年とうとう抜本的なリユーアルを果たし、実力を発揮し始めたとの専らのウワサである。実店舗小売業が、ウェブでの失敗経験を経て、ネット上のノウハウを獲得し始めると、「強いぞ」ということなのだ。

6)社内リソースの活用:取引先とのネットワーク、バイイングパワー等の実績が、ネット専業に比べはるかに厚いということである。

7)マーケティングコストが低い:これについては、極端にタイプにより分かれる。店舗小売業とカタログビジネス企業との差が歴然としている。だがネット専業に比べれば相対的に安いということではある。

●クリック&モルタルにはタイプがある

 こう見てくると、一口にクリック&モルタルといってもいくつかのタイプがあることがわかる。成功要件は一部に集中している、と見るべきだろう。

1)統合型VS.見せかけ型
 クリック&ネットと実店舗とが融合あるいは統合された「統合型」であることが成功のための条件であることは、前掲の「クリック&モルタルの有利さ」の条件を見れば明らかだろう。単に「ネットに店を出す」だけのタイプは「見せかけ型」でしかない。こうなればもう明らかだ。日本のクリック&モルタル、とりわけ、百貨店、GMS、カタログビジネス企業の大多数は「見せかけ型」でしかない。実店舗とネットの位置づけが明確でなく、社内インフラの統合も出来ていない。ただ思いつき、あるいは乗り遅れまいとしてネットに顔を出しているに過ぎないグループなのだ。

2)ストア小売業とカタログ小売業
The State of Online Retailing4.0ではネット小売業を「ウエブを基盤とする小売業」(収益のほとんどをオンラインであげている企業)、「カタログを基盤とする企業」(カタロガーと呼ばれる)、「店舗を基盤とする小売業」(いわゆるモルタルの店を持っている企業)に分けている。ウエブ基盤型では、トップパフォーマーになればともかく、単なる専業では行き詰まるリスクが伴うこと、カタロガーはネットを最も有効に活用できるタイプであること、店舗型はカタロガーに比べ、ダイレクトマーケティングのインフラやノウハウが乏しい分、フルフィルメントコストがかかり、高利益体質でないとネットでの黒字転換には課題があること、等が明らかとなっている(図表1参照)。

3)4つの目標
 The State of Online Retailing4.0ではクリック&モルタルのネットでの目標を4つに分類している。これがなかなか示唆に富んでいる。「単にブランド浸透や店舗誘導メディアとしてウェブを位置づけている企業」「新規客獲得チャネルとして位置づけている企業」「既存顧客のLTVを最大化するためのチャネルとして位置づけている企業」「高コストのチャネルからネットのような低コストチャネルへ顧客の誘導を図ろうとする企業」だ。カタロガーの戦略は最後の低コスト化戦略を明らかに狙っていることになる。一方日本のソフマップ、オートバックス等の戦略は「ネットでも店でも買う」客こそが優良客である、との位置づけだ。従って、カード等の店舗での顧客管理ノウハウはネットとも連動している。一方、今になって方針転換したが、カタログビジネスの最大手ディノスの戦略は、当初若い男性の吸引であり、F1グッズなどを細々と売っていたものである。もちろん当初は主要顧客である「40代以上女性」の数が圧倒的にネットで少なかったことも理由としてはある。だが日本でも千趣会、セシールなどがネットで数十億円規模の売上げを達成し始めており、このきっかけは「カタログと同じものを展開」することであったのだ。
 一方百貨店等の戦略は「思いつき」あるいは「ブランド浸透や店舗誘導」の域を出ていない。

 ちなみに、調査会社ジュピター・メディア・マトリックスの調査によると、同一顧客のオンライン、オフライン双方の購買履歴・行動をトレースできるクリック&モルタルの事例はまだ少なく、チャネルの一元化は進んでいないこと、オンラインでの顧客サービスの一部を実店舗で補完したいと思っているのに実際には出来ていないことを指摘している。これはアメリカの結果であり、CRMが言葉だけブームになっている日本では、実施例はさらに少ないということだ。

●クリック&モルタルで成功するための条件

 最後にクリック&モルタルで成功するための条件をあげてみよう。

1)利益率の確保
 これを成功要件にするには気が引けるが、カタロガーの優位性の理由はここに尽きるのだ。例えばカタログ企業ランズエンドは生産から販売まで一切外部がタッチしない「製造小売」であり、結果的に粗利益率は46%と高い。日本でいえば話題のユニクロと共通する。構造的に利益率の低い業態であるなら、Eコマース向けの「高利益商品」の投入が不可欠ということになる。アメリカのトイザラス・ドットコムは過去の失敗の反省からアマゾンとの提携を発表したが、商品面でも10ドル以下のマージンの少ない商品の取り扱いをやめる方針とのことだ

2)ネットとリアルの一体化
 これは不可欠の条件だろう。クリック&モルタルがここに来て優位になったのは、その資源が統合され始めたからだ。顧客データベース、フルフィルメント等バックオフィスのシステムは当然のことながら、リアル店舗の対面サービスの中に、ネット顧客向けのステップが組み込まれるようになるのも、そう遠い時期ではないだろう。1人の顧客に対し、多様なチャネルとサービス、利便性を提供するというのがクリック&モルタルの取るべき視点であり、ここにきてかって盛んに指摘された「共食い説」(ネットを重視するとオフラインの商売が侵食される)との説は陰を潜め始めた。

3)体質転換
 クリック&モルタルの実際のネット上の事業展開の形を調べた調査結果をどこかで見たことがある。要するに社内の「EC推進室」レベルなのか、「事業部」なのか、「別会社」なのか、ということだ。うろ覚えでは圧倒的に「別会社」の成功確率が高かった。これは事業として本気で取り組むということと同時に、従来の小売業体質との決別を意味するからだ。従来の古い体質の企業が別会社を通じて、ネットで生まれ変わることこそが成功要件というわけである。とりわけ日本でのクリック&モルタルは極端に「守旧派」と「革新派」に分かれている。古い体質をひきづる守旧派企業は見事に成果をあげていない。彼らが「安売り屋」「新参者」と内心バカにする企業がネットでは輝いているのだ。コンビニECが不調なのも、かっては革新の象徴であったコンビニも今になっていると体質は「守旧派そのもの」になってしまったということなのだろう。

4)販売管理費削減への寄与
 今のところネットビジネスは金食い虫だ。年商100億を達成したトップ小売業でも、やっと単年度黒字に転換したような状況だ。先に紹介した、コストの安いチャネルに顧客を誘導するカタロガーの戦略は、ネットのシェアが高まれば高まるほど、企業全体の収益性を改善させる。米国ランズエンドのネットビジネスシェアは15%に達したそうだが、1割を越えるかどうかが、1つの目安になるのだろう。日本のケースではまだまだ前途遼遠である。

5)online experienceの向上
 The State of Online Retailing4.0ではonline experienceという言葉が登場するが、これが日本のクリック&モルタルの
最大の課題だろう。ネットと実店舗のビジネスの違いの理解、ネットならではのCS期待度への対応、コンバージョン率向上のノウハウ、チェックアウトプロセスにおける離脱率の低減、購買率を高めるためのサイトデザインやユーザビリティのレベル向上といったことだ。一部を除き、こうしたレベルが本当に低い。特に守旧派小売業は、実店舗の方がサービスが良いなどと思っているが、事態はすっかり逆転しているのだ。

6)トップの理解度
 結局はこれに尽きるのだ。日本のクリック&モルタルのトップ企業は例外なくトップが熱心である。これに対し守旧派の方は恐ろしくネットに関する理解度が低い。結局はインターネット問題はトップ問題であるということなのだ。



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