連載:ECのマーケティング

第27回
ネットビジネスにおけるチャンスロスの構造〜購買確率を高める20の要因とは〜

カードウェーブ01.10



 ことBtoCに関しては、日本でも勝ち組と負け組がはっきりしてきた。勝ち組の代表格といえば、「クリック&モルタルの本格的大型専門店」「コンバージョン率の高いサービス関係<チケット等>」「ごく一部のトップクラスの中小電子商店」「一部のカタロガー」といったところだ。書籍、旅行、オンライントレーディングなどは激戦区だが、それぞれのトップ企業も勝ち組候補だ。逆に負け組あるいはその候補は「コンビニEC」「中途半端なメーカーEC」「守旧派小売業の手がける真似事EC」「川下ビジネスにノウハウのない企業の新規参入EC」「大多数のぼんやりした中小企業」といったところだろう。
 なぜ、勝ち組と負け組に分かれたのか、観察するに、それは「熱心さ」「やる気」「試行錯誤の精神」「ネットの本質への洞察力」「センスと起業家精神」といった定性的要素が大半を占め、加えるにECを展開するにふさわしい「体制」「仕組み」が伴っていたか、ということに要約されるだろう。
 だがこの種の話は定性的な要素ばかりなので、かなり嫌がられる。そこで今回は「やる気」や「センス」は脇において、
ビジネスの効率性の観点から吟味してみよう。ネットビジネスは無策であるならば、あるいは本質を理解せず漫然と展開しているだけならば、実に効率が悪い商売の場だ。まずはチャンスロスをいかに防ぐかを厳密に検討する必要がある。

●チャンスロスの背景となる20の要因
 
 ボストンコンサルティンググループの2000年の調査では、来店者の内、「買い物に成功」したのは48%。「失敗した」人は
43%となっている。つまりこの比率はほぼ同水準だ。いかにネットがチャンスロスを招きやすい場かを示している。その要因は次の20項目に分解できそうだ。

1.スローコネクションスピード:まあこれを除くわけにはいかないだろう。現実問題として、トップページの内容を理解するのに我慢できる時間は8秒といわれるから、ここでもたもたすれば、当然客は逃げてしまう。まあBB(ブロードバンド)時代の到来で、この点は解消されそうだ。もっとも「スローダウンロード」という問題もあって、トップページの重いグラフィック、動画、音声の類も機会損失の大きな要因ではある。

2. 第一印象のレベルの低さ:最近はこの「第一印象論」が流行している。一目見た印象がその後の行動を決定づけるというもの。何を一目で見抜くかというと次の3つの要素であるという。

・clumsy site(サイトの体裁が悪い、スマートでない)
・poor presentation(表現が拙劣)
・店のにぎわいや活気のなさ

 ここでがっくりすると、次のアクションにつながらず、店を離れるというもの。商品サービスを見てもらう前に機会損失につながる大きな要素の1つということだ。

3. 業態選択のミス:日本企業のミスが目立つ。ネットではeverything to everyoneの形は本当に難易度が高い。例外は楽天位で、これもテナント数が数千を越して初めて達成されたようなものだ。ネットならではのスケールメリットを活かさねば達成できない形だ。日本企業はヘンな田舎百貨店みたいなものを作っては失敗している。結果的に「何でもありそうだが何もない」「ワタシ向きの商品がない」「ネット上の専門店に比べそれぞれのジャンルが魅力ない」といった不満を招き、これが機会損失を引き起こしている。

4. 不適切なMD:小売業としての基本である。ネットならではのMD政策がきちんと存在しているかどうかの話だ。いかにも当たり前なのだが、なぜかECではこの基本のキが軽視されている。「全て揃える」スーパーストアを展開するのでなければ、商品のセレクションは不可欠だ。例えば、「ネットスーパー」とうたっている割には、生鮮品の品揃えがプアで期待外れのケース。家電メーカーの癖に、なぜか「プラダのバッグ」を扱っているケースなど妙な事例が目立つ。その家電メーカーのサイトでわざわざプラダのバッグを買おうと思う物好きな女性はいないはずだ。ネットでの機会損失の上位には「プアなセレクション」「セレクションが限定されている」「専門店に比べ魅力ないセレクション」「望む商品が揃えられていない」といった要因が必ず上がる。機会損失の最大の要因はここにある。

5. プライシング:価格政策のこと。これはあまりに重要な要素なので別の機会に取り上げる。結局は価格が期待に沿わずに購入中止に至るわけだ。だが「ネットとは壮大なディスカウントの場だ」との議論はここにきて影を潜め、いかに「リーズナブル」「アフォーダブル<納得性のある>」な価格を設定するかが価格政策の焦点ではある。

6. confusing site:混乱したサイトといったところだろう。サイトの機能不全という見方もできる。ナビゲートが難しく、容易に目的を達成できない。この要素は大体次の2つに分解できる。

・階層構造というウェブの特徴(弱点)を見極めたデザインになっていない
・情報デザインのレベルが低く、何の情報がどこにあるのか、それはどのようなルールに基づいているのかが理解できない


7. プアな情報:ECの場として見たときのネットの最大の特質の1つが、実店舗に比べ「分厚い購買時点の情報」が添付できることだ。これがスカスカで、購買時点の参照情報のレベルが低く、結果的に購買意欲を阻害している。さらには

・メッセージがクリアでない
・比較、レイテイング、顧客意見といったネットならではの情報付与の形を活用していない
・商品以外、あるいはそれに関連した「情報コンテンツ」のレベルが低く、サイト自体の魅力を低下させている

等もチャンスロス発生要因の1つだ。

8. 拙劣なワーディング:言葉遣いのこと。トップページで商品分類を提示する言葉などが代表例。ワーディングのレベルが低く、顧客を混乱させている事例が多い。例えばあるコンビニサイトは商品カテゴリーで「電気」(電器ではない)という言葉を使っていたが、これは一体何だろうと客は悩む。ある損保企業はトップページで「拠点案内」という言葉を使っているが、客には「拠点」という意識はないだろう。なぜ「店」としないのか疑問だ。

 ここにはルールがあって
わかりやすいこと
・適切な「大きさ」「広がり」であること(例えばファッションという用語は商品分類としてはあまりに大ぐくりだ)
・良い状態にあること
(内在する商品、サービスを類推させる言葉であること)

が前提だ。ネットでの商売が登場して7年以上が経過しようとしているのに、いまだにこのレベルの問題を抱えている店が多いのが不思議といえば不思議だ。これが現実には多くのチャンスロスを招いている。

9. アイテム表示技術のレベルの低さ:販売商品をいかに適切に表示するかということ。ここでは2つの意味があって

・PCを経由してもなおかつ商品のクオリティを適切に伝えられるか
・写真、説明文等を活用して、いかにその場での購買意思決定を促進するか

といったことがポイントとなる。例えばカラーバリエーションを特徴とする商品(ユニクロ等)で現物と同等のカラーを再現できるかといった問題は前者に相当する。「詳細情報」「拡大画面」といったボタンが付いているが、これも意味を考えず同じような写真を並べている事例もある(楽天のケースはこれに近い)。ファッションに関しては、日米のサイトのレベル差はかなり大きいが、素材、組み合わせ、洗濯方法、サイズ等購買時点で確認したい情報にアイテムレベルで自在にアクセスできるか、といった要素も該当する。

10. クロスセル、アップセルへの配慮のなさ:ネットは何も工夫しなければ客単価は上がらないと考えるべきだ。クロスセル、アップセルの技術は最重要課題の1つだが、日本でこれが重視されているサイトは見たことがない。
 例えばPCを購入したいと思うとき、それにどのようなメーカーオプションがあるかは最も知りたいことの1つだ。だがこれが適切に表示されているPCサイトは本当に少ない。合格点が付くのはソフマップ位だろう。スカートを購入すればそれに合うブラウスが欲しくなる。これが選びやすく提案されているサイトもまた少ない。

 その替わりと思っているようだが、「このスカートを購入された方はこのブラウスを購入されています」といった妙なリコメンデーション情報がくっついている。これで関連購買をする消費者はまずいないだろう。

11. コンバージョン率向上への工夫のなさ:来店者対比購買者となる比率がコンバージョン率である。これは通常数%。アマゾンのような優良店で8%位だ。結果的に9割以上は来店しても購入しない利用者ということになる。これが最大かつ最重要のチャンスロス要因である。ここでの対策は次の3点である。

・数%のコンバージョン率を少しでも高めようと努力する
・来店者増を図り、結果的に購入者数アップを狙う
・買わないで買えってしまった9割の顧客の満足度を高めるような(また来店したくなるような)サイトづくりを目指す

 第一の要素は当たり前のようだが難易度が高い。結果的に数%の比率がそうそう向上することはなく、結果的にドットコム企業が狙ったのは第2の視点であったのだ。とにかく来店者を増加させれば、自ずと購買者も増加する。来店者アップに金をかけられる内はこの戦略も奏功したが、金が無くなれば来店者減、購買者減、倒産という単純な図式であったのだ。
 コンバージョン率の向上は一筋縄ではいかない。

・購買意思のある来店者を集める(ターゲット、アウェアネス確保方法の見直し)
・予定外購入の促進を目指す(サイト上のプロモーション)
・予定購入者の購入確率をより向上させる

といったことで、店のコンセプト、MD方針、在庫管理、ユーザビリティ全てにからんでくる問題なのだ。

12. サイト・スティッキネスのレベルの低さ:スティッキーとはぺたぺたしたという意味。もう1度戻ってきたくなる内容、魅力を持ったサイトであるかどうかということだ。結果的にこのレベルが低ければ、固定客創出の確率が低下し、また来店者アップの効率も低下する。

13. 妙なパーソナライゼーション:当然のようにID、パスワードを要求する店が増えているが、一体誰のためなのか、疑問が残る。顧客のID化が適切なパーソナライゼーションや購買プロセスの短縮化につながっている事例は実に少なく、逆にIDやパスワード管理が面倒、あるいは忘れてしまい購買を諦めるケースが増加している。
 肝心のパーソナライゼーションにしても「大きなお世話」の域を出ていない。

14. プアな顧客サービス:オンラインショッパーが最も重要な問題だと思っていることの筆頭は「プアな顧客サービス」という調査結果がある(Business2.0)。また「顧客サービスのレベルは十分に高い」と評価する比率はわずか23%(Primus調査)。本来は実店舗に比べてもCSのレベルは高くて当然なのに、トップクラスの一部を除いては相対的なレベルは低いと見るべきだろう。逆に日本のトップクラスの中小企業はこのレベルが著しく高く、これが結果的に大企業に伍して顧客支持を受ける大きな基盤となっている。

15. 問い合わせへの対応の速さ:ネットのオキテは「打てば響く」で少なくともメールの問い合わせには1時間以内に答えるのが常識だ。そのためにはそれなりのe-mail management systemが必要だが、日本企業のメール対応は本当に遅い。いつ回答が来るかわからず、結果的によその店で買ってしまうというケースが続出。顧客とのインターラクションは収益機会の増強につながるという認識が乏しいからだろう。
 今のところはメールが主要手段だが、カスタマーセンター、コールセンターの充実も不可欠。その場でのインターラクティブな顧客対応もチャンスロス低減の重要手段になりそうだ。

16. クレディビリティの確保:いわゆる「信用確保」問題だ。この店は安心できる店なのか、という印象形成をどう行うか、ということだ。この基本は「顧客満足をかちえる商売」だが、加えて

・世の中の評価を利用する(オンラインマーク、各種エンブレム等)
・顧客評価を利用する(顧客意見、評価等)
・店の情報の公開(履歴、日記、写真、実店舗の地図等)する

といった手法が一般的。もちろん訪問販売法通販規定の表示は常識だ。

17. カート問題:cart abandonmentという。カートに入れておきながら、チェックアウトしない比率は調査により様々だが、最低でも3割、最高で80%にも達している。優良店でも45%程度は非購入となっている。理由は

・要求される(記入する)情報が膨大
・チェックアウトプロセスのデザインが悪い
・ID、パスワードを覚えていない
・カード情報記入への不安

といったところだ。

18. 配送問題:配送料の高さ、配送時間の長さがチャンスロスにつながるということ。この点は中小企業の方が工夫が進んでいて、配送時間は在庫があれば翌日だ。むしろ通販企業、百貨店等の方が到着が遅いくらい。配送料に関しては、「おためしセット」等セットメニューの工夫で配送料をインクルードする工夫が多く見られる。ネット上の銀行振り込みの普及を見越して、先払いの場合の配送料割引の動きも増えてきた。これは工夫次第で解消可能な課題だろう。

19. リピーター対策:固定客への対応が稚拙なケースが多い。日本でも新規客開発から「顧客維持」が主要課題になりそうだが、その対応策が伴っていない。この主戦場はウェブというよりもe-mailマーケティングの巧拙なのだが、今後の課題というところだろう。

20. LTVへの対応:ライフタイムバリューのこと。その商品の生涯需要をいかに安定的に確保するかということだ。戦術的には「定期購入」「頒布会」等が有効で、結果的に客単価が低くネット向きでないと言われていた商品がネットで売れ始めている。これもリピーター対策の1つで、ネットビジネスの効率を向上させるには不可欠の施策だ。

 以上20項目をあげたが、勝ち組と負け組の差は、これらの点に気づいているかどうかの違いだろう。



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