連載:ECのマーケティング

第28回
2002年EC業界予測

 



 毎年今ごろになると、本誌で翌年のEC市場の予測をしている。予測をする人は「言い っ放し」が多く、エコノミストなどは際たる例。経済成長率の予測をしておきなが ら、結果を反省したコメントにはお目にかかったことはない。そこへいくと、筆者な どは良心的なので、少なくとも昨年の反省をしておくと、まあ5勝5敗というところ だ。何が当たらなかったかというと、個々の動きもさることながら、マーケット全体 が予想以上に「勝ち組と負け組」に劇的に分化したということであった。
 参考までに勝ち組代表例は
・本物のクリック&モルタルの専門店
・コンバージョン率(サイト来訪者対比購入者比率)の高いサービス(航空券等)
・一部の大手カタロガー(通販企業)
・トップクラスの中小企業
というところだ。
 さて2002年はどうなるのか。一言で言えば「EC業界、大リストラ時代の到来」とい うところだろう。別に人員整理の話ではなく、文字通り事業再構築が不可欠な事例が めじろ押しということだ。負け組あるいはその候補が判断を迫られるデッドラインが 早晩訪れそうだということである。反省は1年後にするとして、とにかく想定される 事態をあげてみよう。

1)激戦区における淘汰が加速する

 日本のEC激戦区の代表例は、書籍販売、旅行(ホテル予約)、オンライントレーデ ィングの3つだ。これに参入企業が多様化しているという例ではワイン販売等が付け 加わる。この激戦区での勝ち組と負け組は既に2001年に明確化した。まずは書店だ。 大体この業界はオンライン需要のマーケット自体が小さい。100億円強というところ だろう。一方何らかの形で書籍が購入できるサイトは40を越えている。既に上位集中 が明確化。撤退組も相次いだ。BOLと三省堂は事実上撤退を表明。比較的好調を伝え られるのは、紀伊国屋、アマゾン、ブックサービスの3社だ。各社の「言い分」をた し算すれば、この3社だけで100億を越えてしまう。他社は一体どうなっているの、 ということになる。紀伊国屋に関しては、恐ろしく頑固で何年経っても一向に「オン ライン書店」らしくならないが、「ファーストムーバーアドバンテージ」(先に始め たものが得をする)の典型だ。
 一方紀伊国屋を除く老舗書店は苦戦だ。丸善はそもそ もオンライン書店とは何かを理解していないようだ。文教堂はJBookを展開している が、上位企業の戦略の追随が目立ちオリジナリティもなく、オンライン書店としての 魅力に乏しい。ユーザー志向というよりシステム志向が目立つ店構えだ。結局一部を 除きクリック&モルタルといえども、ネット販売のノウハウを柔軟に吸収しない者は 負け組になるということだろう。少なくとも「オンライン総合書店」に関しては 2002年には更なる撤退・縮小が予想されそうだ。

 旅行予約の上位集中も著しい。参入サイトは優に50を越える。だが先行する「旅の 窓口」の優位はさらに加速し、下位企業との差はつくばかりだ。オンライントレーデ ィングも同様で、好調を伝えられる上位数社と下位企業との差が目立つ。70近い参入 企業があるとされるが、外資、中小・中堅証券を中心に、撤退表明が相次ぎそうな気 配。

2)Winner takes allが一層明確になる

 そもそもネットビジネスとは勝者が全てを取ってしまう構造だ。日本でもこの形が 端的に出現している。スケールメリットのあるところに「客が集中」するからだ。モ ール業界の楽天もしかり。テナント数8千店、扱い商品点数100万点という数字は驚異 的だ。ただ楽天は恐竜のように巨大化したが、動きはなかなか敏捷だ。
 さらに驚異的 なのはオークションだ。トップのヤフーの掲載商品点数は月間で300万点を越えている。一 方2位企業でやっと10数万というところだろう。オークションにおけるヤフーシェア は圧倒的なはずだ。出品点数が多ければ当然「売買成約確率」も増 加する。上位になればなるほど儲かる仕組みである。下位企業は出処進退を問われる 事態に直面するということだ。アメリカでは圧倒的に強い某外資の行方が注目点だろ う。

3)事業再構築を余儀なくされる事例が急増する

 2000年から2001年にかけては大企業の大規模投資が相次いだ。この投資の意味がこ こにきて問われている。大金を投じてしまったが低迷する事例が増加中。一方事業再 構築にはさらに金がかかる。この判断をどうするのか、まさに正念場だ。
 筆頭はコンビニECだろう。トップ企業は初年度100億、次年度1500億などという途 方もない事業計画を記者発表していた。筆者が社長なら、ウエブの物販機能は大幅縮 小。店内のマルチメディア端末とモバイルのみに特化する。そもそも勝ち組企業の成 功要因は「事業戦略の適切さ」「良好なユーザー経験の提供」(狭義にはウェブの使 いやすさ)「優れたバックオフィス機能」「良好なる顧客とのリレーションシップマ ーケティング」にあると見るべきだ。トップ企業のコンビニECはバックオフィスとウ エブの使いやすさはまあまあだ。となればこの敗因は「
事業戦略」そのものにあると 見るしかない。傷を負っても前進するには途方もない金がかかる。このグループは銀 行、カードと次々に新たな事業を計画しているが、必然性、市場性には疑問が残る。 高密度な情報インフラと消費者密着というイメージ、資源を活かすということだろう が、消費者側の基礎ニーズがどれだけあるのか。大きなお世話ではあるがEC事業含め 「自己過信のワナ」に陥っているような印象を持ってしまう。

 ECの鉄則は「強みを強調する」ことだが、この原則を理解せず、妙な多様化、付加 価値化を行い、行き詰まっている例もある。だが、こちらの見直しは比較的簡単だ。 余計な分を切り捨てれば良い。松下電器の展開する「ライフビット」は家電以外にな ぜかプラダのバッグを売っているが、これが意味のあることかどうかを問い直せばよ い。みずほファイナンシャルグループの展開するMタウンは金融ポータルとしてはな かなかの内容だが、これもなぜか妙なショッピングコーナーを展開している。最近で はさらにオークションを始めた。オークションコーナーは「大好評」などと書いてあ ったが、日本のECの歴史でおよそ運営者が「大好評」と銘打って好評であった事例は 存在しない。全ては消費者が決めるからだ。ショッピング、オークションともに、全 体のコンセプトから浮き上がってしまっており、ネットでのノウハウがないことから 競争力に欠ける。これなどは面子を捨てて切り捨てればよい話だろう。

4)クリック&モルタルにおける勝利の方程式が明確化する

 クリック&モルタルも勝ち組と負け組が明確化している。モルタルを持っているか ら勝ち組になるということは当然ながらありえないのだ。勝ち組の条件は

・オフラインとオンラインの店舗が融合
(顧客管理、データベース、顧客対応)
・実店舗と同等以上の商品、機能を持つオンライン店舗を展開

ということに集約される。要するにマルチチャネルを用意し、顧客に自由に選んでも らう。結果的に優良客はマルチチャネルを利用し、店へのロイヤルティが向上するこ とにつながる。このシナリオ以外のクリック&モルタルには相当限界があると見るべ きだろう。当然このシナリオが実行できる業界には制限がある。百貨店、スーパー、 コンビニ等の小売業はまず難しい。もっとも百貨店の人は「同業でECで成功している 事例はない。だからウチもうまくいかない」という言い訳を用意しているらしい。こ れって、すごくヘンな理屈だと思うのだが、問題の所在はどうやら別なところにあり そうだ。

 モルタルの持つ弱点がネットで逆に解消される事例もある。これなどもネット事業 が好調な理由だろう。「無印良品」などが好例で、実店舗は成長率が鈍化。個人的見 解だが、実店舗であるとカテゴリー間のレベル格差が一覧できてしまうのだ。例えば 無印はヤカン等の金属製品のレベルは相当に高い。だが衣料関係となると、どうして も売り場がシャビーに見えてしまう。ネットでは一覧性が逆にない分、この弱点が克 服できている。カタログ通販は「セシール」「千趣会」「ニッセン」の3社のサイト はなかなか好調だ。ニッセンなどは紙のカタログで見ると、「ロープライス、ローテ イスト」臭がつきまとうが、ネットではこれが逆に編集できる

 カタロガーはネットで最も有利な業種ということになっているが、それでも企業間 格差が目立つ。例えばディノスのサイトはユーザビリティが悪くあまり使いやすくな い。また会員登録のプロセスが難解で顧客志向でない。グループのメディアとの連携 が意図されているが、これも逆にサイトコンセプトを拡散させている。カタログでは テーマ性の訴求が上手い住商オットーのサイトは、ナビゲーションが不可解で使いに くい。だが業種適性があり、商品力がある企業が多いだけに、恐らくは「ユーザビリ ティテスト」を繰り返せば、改良可能だろう。

5)「リピーター増加時代」の対応を求められる

 2002年の大きなテーマの1つはBB(ブロードバンド)時代の到来だ。だがネットユ ーザー取り分けEC利用者の質的変化こそ大きな課題だろう。なぜならECのマーケティ ングの根本に影響するからだ。

 アメリカのデータでは既にネットユーザーの6割以上は月に1回以上利用するアク ティブユーザーだ。日本はネットユーザー実数こそまだ少ないが、オンラインショッ ピング経験率はむしろアメリカを上回る水準で、リピーター比率が急増している。リ ピーターが増えるとECの一体何が変わるのか、ということだ。まずは主戦場が変わる だろう。ウェブは新規客吸引の場、リピーター対応はEメールマーケティングの巧拙 ということになってくる。ECのCS水準もさらに増加するだろう。既に実店舗を上回る 顧客満足レベルで競い合っていると言ってよいが、このCSバトルが加速するというこ とだ。消費者向けビジネスにあまりノウハウのない企業にとっては厳しい環境が予想 される。リピーターが増えるということは、ネットの利用行動が単なる「情報収集」 から「購買等へのアクション」に連動することを意味する。そもそもネットとは come to learnの場だという話は何度も書いたが、ただのlearnでは物足りなくなって くる。自ずとその場での「購入」「予約」等の受け皿を整備せざるを得ないというこ とだ。だがこの動きは当たり前である。あのデルもシスコもこの流れの中でECを拡大 させてきたのだ。

6)BB時代の対応の中身が問われる

 ブロードバンド時代の到来がECのあり方に影響を与えるという議論があるが、問題 はその中身だ。動画等重たいコンテンツ流通の話が先行するが、恐らくはECの形は今 と変わらないはずだ。動きのある重たいコンテンツは、購買時点の情報源としては限 定的な役割しか果たさないだろう。むしろBB時代の本質とは「ネットを空気のように 当たり前に使いこなすウェブライフスタイラー」の増加にあると見るべきだ。それが何 を意味するのか、企業のホームページは一層データベース機能や情報コンテンツ力を 問われるはずであるし、情報収集の手段としてまずウェブを活用する行動が一般化す れば、その受け皿を用意できない企業は、評価を下げることになる。BB時代の到来 で、画面上でCMを流すなどと言っているが、個人的には見るのはまっぴらだ。そもそ もパソコンをベースとする限り、ネットの本質は「プル」である。利用者サイドの 「プル」行動とコンテンツ提供サイドの「プッシュ」行動とは本質的に矛盾するよう な気がしてならないのだ。むしろBB対応ECのビジネスチャンスはモバイルにあるので はないか、とも思う。

7)流通構造へのインパクトが多少現れる

 アメリカのオンライン小売業の22%は既にメーカーが占めているのだそうだ。ECに 占めるメーカーのプレゼンスは飛躍的に増加している。日本でも昨年最もおもしろか ったのはメーカーECの事例であった。成功云々の話ではなく、企業体質による戦略の 違い、将来への布石の形などが見え隠れした事例が増えてきた。すう勢としては「待 ったなし」というところだろう。前述のようにcome to learnでは物足りないユーザ ーは、その場での購買行動への直結を求める。何らかの形で受け皿を用意しない企業 サイトは、逆に魅力がないものとして目に映ってしまう。いかにチャネルを説得する か、いかにチャネルフリクションをミニマムにするか、という戦術段階に移行し始め たのだ。

 の事例もおもしろくなってきた。そもそもネットビジネスは流通構造を短縮さ せ、卸などは不要だとの「学説」がまん延した。だが地方の有力卸などは、この学説 の先を行っている。小売業相手の商売の低迷もあり、また消費者にダイレクトに接点 を持ちたいというニーズも相まって、BtoCに進出する事例が急増中。これが卸ならで はの商品力、情報力が活用され結構うまくいっているのだ。BtoCが好転したのを受け て、逆に得意分野であるところのBtoBに逆進出する事例なども出ている。さらにCで もBでもない「中間顧客」(個人と企業の中間の客)の需要をネットで吸引する事例 なども増えてきた。結構元気な卸が出現してきたのがおもしろい。苦節7年、日本の ECもやっと流通構造に多少なりとも影響を与えそうな事例が出てきたということだろ う。

8)ユーザーエクスペリエンス論の効用と限界が問われる

 目下ネットで最も流行っているのがこの「ユーザー経験論」だ。狭義にはウエブの 出来栄え、使い勝手こそ大事という議論で、ウェブデザインの見直し等のビジネスに 結びつく。これが重要なことは否定しないが、今の議論はチト変である。ユーザーエ クスペリエンスというなら、それはEC体験全てを含むCSで評価すべきだが、目下はビ ジネスの対象となる「ユーザビリティ」や「ページデザイン」の話ばかり。ユーザー エクスペリエンスを改良しても、顧客関係マーケティングが下手な事例はいくらでも 出ている。2002年は大リストラの年なので、この分野にビジネスチャンスがあること は明らかだが、ウエブだけ手直ししてもダメヨ、ということ位はわきまえるべきだ。 リピーター増加時代、BB時代の到来は、ECの総合力を問う動きだ。流行も結構だが、 戦略、システム、マーケティング、と並ぶ1つの条件位のとらえ方をしておくのが妥 当なところだろう。

9)商店から企業への動きが加速する

 勝ち組の1グループである中小企業のトップクラスは新たな時代を迎えそうだ。ゼ ロからスタートした彼らもトップクラスで月商1億近い実績を残す事例も現れた。と なれば当然商店から企業への体制、視点の変革が不可欠になる。投資、人材、システ ムをどうするのか、全く新しい世界へ足を踏み入れることになるわけだ。

10)決済システムの勝ち組と負け組が分化する

 最後に唐突だが、ECにおける決済方法の動きにも触れざるを得ないだろう。EC黎明 期に話題となった「電子決済」の動きはほとんど低迷し、撤退も相次ぐ。日本ならで はのモール等でのクローズドな会員限定の電子決済システムなども必然性を問われる ところだ。クレジットカード主役説は間違いないところだが、加えてこれまた日本特 有の後払いの各種システムがラインナップされるということだろう。さらにこれにオ ンラインバンクでの前払いが加わるというシナリオが常識的。一部にはEC決済を主力 業務とするネット専業バンクも出現したが目下のところバンク側の「加盟店政策」が 伴わず手当たり次第かき集めているといった状況だ。前払いで支払っても問題のない 「信用のできる店ですよ」というブランド政策との連動が不可欠だろう。



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