連載:ECのマーケティング

第32回
eコマースリセットの時代

 



 ネットビジネスの歴史はまだ10年もないのに、「ノウハウ」だけはもっともらしく語られる。だがよく考えてみよう。そもそもネットは従来の常識を越えるとんでもない「非常識」から出発したのだ。途方もない品揃え数。ほとんど笑ってしまうような一見ばかげたビジネスモデルの数々。

 今でこそ当たり前の「リバースオークション」だの「ギャザリング」だのは出現当時、散々笑われたものである。「物々交換モデル」なども出現し、当時「人類最古の経済行為がネットでは最先端のビジネスモデルに変貌する」などともっともらしくコメントした記憶がある。

 最近、どうもつまらない。当たり前の店ばかり。どれも似たようなノウハウを重視する。先般セクハラか何かで話題を呼んだ某教授は、セクハラ自体は頂けないが、結構いいことを言っていた。いわく「独占されていたノウハウが分散化され共有化されまた新しいビジネスが生まれることこそIT革命の本質である」。
 だがこと日本のネットビジネスに関しては、共有と分散どまり。新しいものは生まれていない。

 1度ここでリセットして考え直してみよう。折しもネットの環境は「水と空気」になってきた。誰もが普通にネットを使いこなす時代。eコマース、ウェブマーケティングのもっともらしいノウハウもここで1度ご破算にしてみた方がよい。過去の常識を否定する作業が必要だろう。いくつかの「常識」を点検してみよう。

1)常識その1:「日本のeコマースのハッピーモデルは中小オンラインショップである

 これは世間的にはあまり常識化していないが、ことワタシの頭の中では常識中の常識であった。理由は簡単である。ノウハウが店主の頭に蓄積されていくからだ。全部が全部とは言わないが、トップ1割程度のノウハウはすごい。サービスレベルも恐らくは「世界一だろう」という人もいる。ネットは彼らの存在を通じて、実店舗では得られないほどのリッチな「CS体験」を提供してきた、といっても言い過ぎでない。

 この中小オンラインショップがつまらなくなってきた。どれも似たような店ばかり。名店と言われる人たちは、自分たちのノウハウの持続にこだわる。現状肯定的で面白みがない。某教授の言う通り、ノウハウの分散と共有は進んだが、それ止まりだ。このままでは成長も頭打ちだろう。

 「わかりやすいトップページ」「店主が顔を出すフレンドリーな店づくり」「豊富なうんちく情報」「顧客の声の重視や掲載」「名物のある品揃え」等々。どれも正論で、必要条件だ。これらのことを偉そうに言ってきた身としては、誠に「ゴメンナサイ」ではあるが、これが皆満たされてしまうと、おもしろくない

 ネットでは顧客は「性急」で「わがまま」だ。単に「親切・丁寧・ハイタッチ」だけでは顧客満足や興味を得ることはできなくなっている。この「何か」が足りないのだと思う。「小粒でもキラっと光る店」が中小企業のとりえだったのに、ちっともキラリと光らない。

2)常識その2「メルマガ販促こそ勝利の方程式」

 2〜3年前位までは、eメールマーケティングなんて言葉はほとんど使われなかった。これが1年半位前から、メルマガ販促ブームだ。これは大企業、中小企業含めた動きだ。構図は単純で「関心層のメールアドレスをより多く集める」「ここにメルマガを配付する」というもの。ネットビジネスがダイレクトマーケティングである以上、極めて当たり前の動きである。「アクティブハウスリスト」を集めることが商売の基本だからだ。そこに対して関心のありそうな情報を投げ掛け、効果を期待する。ダイレクトマーケティングの商売とは別の視点からみれば「効果予測」「効果測定」である。

 ここには大きな落とし穴がある。メール環境は日に日に悪化しつつある。いずれ臨界点がくるだろう。その数は1日50通位、100を越したらもう限界だ。メールは既に「処理」しなければならない雑事である。個人的には毎日届くおよそ150通の内80通はアメリカから届くえげつないDMだ。メール総数の増加は「悪貨が良貨を駆逐する」動きを加速させる。

 加えてメルマガブームだ。売上の半分以上をメルマガで達成している店が成功例とされ、その亜流が激増。だが成功例は希有な例外で、作成には心血を注いでいる。あえて言わせて貰うと大企業含め8割は独りよがりの内容だ。しかも回を重ねるにつれレベルは低下していく。

 これも落とし穴の1つだ。メルマガの質を永久に維持することはほとんど不可能に近い。となれば、それは「ノイズ」になりかねないリスクをはらむ。事実これは出している本人が体感しているはずだ。「最近メルマガの効果が頭打ちだ」と言っているオンラインショップの店主は実は多い。メルマガ効果は漸減するからだ。

 htmlメールや動画メールの登場も相まって、メール販促への期待が一層高まっているが、個人的にはこと販促メールに関しては「いくら吟味されていてももううんざり」というのが実感である。悪貨の増加のせいでeメールマーケティングは崩壊寸前。今のうちに「脱メール」のシナリオを考えておいた方がよい。巷に公開されている「効果的メルマガ作成ノウハウ」もここ1年のイノチだろう。

3)常識その3:「深い情報提供が顧客満足をもたらす」

 これまた「コンテンツリッチ」だの「その分野でのうんちくを極める」だのあやしいことを散々言い散らかしてきた張本人としては、反省しきりだ。
 だが深い情報提供が逆に顧客不満をもたらす事例が増えている。

 代表例は化粧品業界だ。この業界のウエブはフラッシュ大好きの見本みたいだ。動きのある派手な画面のオンパレード。ブランドイメージ浸透の意味があるならそれはそれで結構だが、いささか食傷気味だ。
 一方各社が行っている「診断」だの「
シミュレーション」だののレベルは結構高い。若者に人気のメーカーのサイトはフラッシュのてんこ盛りだ。だがシミュレーションコーナーは結構楽しい。モデルの顔の上に眉だの口だのの形を選んで載せていくとその通り顔が替わっていく。ここにさらに選んだ色を載せてお絵書きをしていくというもの。理論上は億を越える単位の組み合わせが可能だという。

 問題はこの後だ。当然この最終画面に合わせた「商品提案」が伴う。だが既にネットでは顧客は「情報」と「アクション」(購買)の直結を当然視し始めたのだ。「この情報を元に、店で購入してください」では不満が募るということである。

 これは陳腐化した流通チャネルを抱えるメーカー共通の悩みだろう。深い情報、パーソナルな診断情報を提供すればするほど、顧客不満を招くという自己矛盾に陥っている。
 外国化粧品メーカーのサイトはこのあたりの判断は終了している。ほとんどは直販機能が伴う。余談ながら「サイバースペースで最もリラックスできる場所」を標榜するオリジンズのサイトは必見である。「ストレスを招かないウェブ上での配色」の見本のようだ。ここもウェブでの購入は可能。ログインすると、ショップ機能が前面に出てくる構造だ。

4)常識その4:「企業ウェブには高関心層がアクセスするから、見込み客ゲットには最適のメディアである

 この常識があるからこそ、企業はウェブマーケティングのノウハウ開発にはげんできた。古くはアートネーチャーのサイトが成功例としてもてはやされ、「高関心層のアクセス」→「ウエブ上での診断等への参加」というステップをふみ、成約率2割と噂された「見込み客リスト」がゲットできた。
 この手法は瞬く間に流行し、自動車、住宅、金融等の比較的高額商品を扱う業界では常識化した。

 ウエブが参加型メディアである以上、この「常識」はそう簡単には消滅しないだろう。
 だが真似だけで下手な企業もある。名前は秘すが、
某損保会社はヘンだ。
 大体保険会社は、ウエブ上で希望の保険について「パンフレット請求」「説明希望」「証券診断希望」等のクリックメニューがついている。多くはクリックして必要事項を記入すると本社の担当部へ送信される仕組みだ。

 だがこの保険会社はまず全国地図が出てくる。住んでいるエリアを選ぶと、近所の代理店の一覧表が出現。だがその内容やレベルを推し量る資料に乏しいのだ。あるのはほとんどは1枚程度の共通紹介情報と「アクセス数ランキング」のみ。要するにこれでは「近所から選べ」と言っているのと同じである。保険会社のチャネルマーケティングとは「住所管理」であることが露呈してしまっている。折角の「見込み客候補」リストもこれでは宝の持ち腐れだろう。まして保険に対しては「関心はあるがまだ営業マンには会いたくない」というのが本音である。ここをダイレクトにつないでしまうのもどうかと思う。

 このあたりの「つなぎの戦略」はソニー生命がなかなか上手で、「あなたの人生How Much?」といったシミュレーション参加者へのさりげないアプローチノウハウが早くから確立していた。

5)常識その5:「ブロードバンド時代はコンテンツの形を激変させる」

 つい先日、NTTのBフレッツを導入して、我が家も光ファイバー環境に突入した。最高100メガだが、実際には20M出れば御の字である。それまではCATVでまあ3Mというところだろう。それで体感速度ががらっと変わったかというと大して変化はなかった。早くなったな、と思ったのは始めの3時間程度。慣れてしまうと従来と同じである。動画コンテンツをバリバリ見ようなどという意欲はさっぱりだ。

 そこを我慢して今巷で言われている「ブロードバンド系コンテンツ」を死ぬほど見たが、何だか違うぞという感じだ。まず第一にeコマース系にはほとんど不要だろう。拘束される時間が苦痛だ。情報の表現力が広がるといっても、しょせんはバーチャルな世界の範囲のことで、それなら実店舗に行けばよい。 一方、見る側にそれなりの意思や動機がある場合は、それなりに存在感はある。言い換えると、eラーニング系や情報探索系、あるいはエッチもの、ということだ。

 結局のところ1台のパソコンをラジオ化することで、落ち着いた。
 これは何度も書いていることだが、ブロードバンド時代の本質とはネットが「水や空気と同じ」になるということだ。重たいコンテンツがバンバン流通する話は二の次である。結局のところ、ことeコマースやウエブマーケティングに関してコンテンツが激変するというシナリオは描きにくい。
 その昔流行った「仮想都市」だの「3次元ショッピングモール」だのの構想がごっそり登場しているが、まあ
9割の確率で失敗するでしょう、というのがワタシの予測。人間はそんなに暇じゃないし、ネットでは人は性急になるからだ。

6)常識その6:「顧客間インターラクションの効果的活用がeコマースを制する」

 顧客間インターラクションとは顧客同士が盛り上がって、その企業の業績やCSを規定してしまうという現象だ。企業側はなかなかこれをコントロールできない。一方これを上手く使えば、「販促」に役立つということで、ネットの登場当初から数々の試行錯誤が行われてきた。

 例えば本屋の「読者書評」、店のアイテム紹介での「顧客の声」や「顧客のつけた★印」等である。顧客の評価や人気度、ランキング等も一種のインターラクション期待型コンテンツだ。登場当初は「何てインターネットらしいの!」と思ったものだが、猫も杓子も「顧客の声欄」を設けるようになってみると、陳腐化は著しい。某大手家電量販店では早くからアイテム別に「この商品に関するお客様の声」欄を設け、★印とともに表記してた。だが実際には「声」の集りは悪いし、「声」自体もたいした内容ではない。ネットは一見大衆民主主義の世界だが、「大衆の意見」に情報価値を求めるのは難しい世界でもある。

 結局のところ、当初もてはやされたインターネットらしいもの、目新しい手法等も時間が経てば陳腐化するということなのだ。このスピードはけたはずれに早い

 顧客の声を購買時点の参考にするのであれば、それなりの質、量が必要になる。そうでなければこれまたノイズになってきた、ということである。ここを理解せず1周遅れで「顧客の声」コンテンツを盛り込んだりするサイトもあるが、時は既に遅し、という感じだ。

7)常識その7:「客が店を盛り立てる」

 日本の中小オンラインショップが育ってきた最大の理由はこれである。サービスレベルの高さ、CSレベルの高さに客が感動し、客がまた客を呼ぶ。客と店との間に一種の「協力関係」「協働関係」が生まれるというもの。

 だが、ネットユーザーの質が今激変している。「店を盛り立てる」行動に出たのは、ある程度のネット経験者で、全くの初心者ではなかったはずだ。今増えているのはそれこそ「ITオバサン」で、これまでのノウハウが全く通用しない人たちである。常識否定を呼びかけているのも、彼女達の影響力が無視できないからだ。ITオバサンには「店を盛り立てよう」なんて意識はさらさらないはずである。

 もう1つ、ベテランユーザーとビギナーとの決定的違いは「検索」である。大体日本人は検索嫌いだが、オンラインショッピングのベテランになると、検索型に移行するのは確かである。楽天などは大体店というより商品で選ぶ場だから、「ペットフード シニア」でえさを探したりする。加えてメルマガ販促ブームで内部ページへのダイレクトアクセスが進み、店の作り方も大分変わってきた。

 中にはトップページ重視主義はもう古いという人も。個人的にはこれには反対だ。大体トップページはファサード(正面の姿形)である。店のイメージ、格、主義主張、レベルを端的に表現するものだ。内部へのダイレクトアクセスも重要な集客だが、まずは「店構え」にこだわるべきだろう。

8)常識その8:「サイバースペースで生身の人間に出会うと人は感動する」

 こんなことを言った覚えもある。一見無機質なウエブの世界で、限りなくハイタッチなサービスや対応を受けたりすることが、驚きを招いた時期もあったのだ。確かに売れない店のサービスは対面販売以下。eコマースの本質は実店舗以上のCSの提供である。

 だがその「生身の人間」がどうもイマイチぴんとこない。ピントがずれている。たいした個性やこだわりのない店の癖に、店主が偉そうに登場する。「顔の見える店」がいいとなると、軒並みウェブマスターの写真が掲載される。レベルの低い店の店主の顔など誰も見たくないのに。中には大企業パソコンショップの癖に、中小企業の真似をして、店長が存在感を示すところも。大体「東芝」だの「日立」といったビッグネームに「個性」や「顔」は誰も求めない。 

 それであれば、「生身の人間」の登場のさせ方を原点に戻って再検討すべきだ。それこそブロードバンド対応の顧客サポートシステム等新しい方法はいくらでもある。

 eコマースはその時々の時代に合わせて柔軟に形を変えていくものだと思う。この視点でみると、日本のeコマースはことごとく「
現状肯定的」だ。せいぜいリニューアルどまり。今必要なのは、過去のノウハウの否定とリセットだろう。



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