これはこれでやらないよりはマシであるが、企業及びサイト運営者の問題意識が明確でない限り、問題は解決しないはずだ。後述するがユーザビリティ向上の目的を考えれば、それは単なるデザインの変更、ナビゲーションの改良といった話ではないからだ。企業の姿勢、エンドユーザーとの関係の考え方そのものの反映につながってくる。
今回はこのウェブユーザビリティを解剖してみよう。なお、あらかじめお断りしておくが、ユーザビリティに関するサイト、書籍の類いは山ほどある。専門的な意見はそちらを参照して頂きたい。ちなみに「ユーザビリティ」の定義、理論的背景等はusability.gr.jp(U-site)が詳しい。ついでにいえば、ウェブユーザビリティのオーソリティといえばJacob Nielsenが超有名だ。Nielsenのサイトuseit.comは一見して笑ってしまう。とにかくグラフィックというものが1つもないからだ。なおNielsenの書いているAlert boxは前掲のusability.gr.jpで正式に翻訳されている。
●ウェブのレビューとは
某誌で、毎月日本企業のホームページのレビューを連載している。よく読者、あるいは識者から怒られるのだが、「一体何をもって偉そうにレビューを行うのか」ということだ。白状すれば、全くもって規準はなし。規準とは、そのサイトは狙いどおりの成果を達成しているのか、ということに尽きる。従ってこの中には当然ユーザビリティの要素も含まれる。だが過去に見てきた印象からいえば、単なるページデザインの要素もさることながら、ウェブとは
・自社についてのセルフイメージ
・社内におけるウェブマーケティングの位置づけ
・顧客(潜在顧客含む)との関係性
・顧客起点の発想のレベル
等をそのまま反映させるメディアのように思われる。このあたりの評価は全く主観であるから、識者から怒られるのも無理はない。
ちなみにコマースサイトに関して言えば、ユーザビリティの重要度は第2位である。1位は何かといえば「売れる商品・サービスを扱っているか」ということだ。結局のところ小売業としてのパワーがあるかどうかが先決である。非の打ち所のない店づくり、顧客サービスを行っている事例で、売上げが頭打ちになっている店は数多い。逆に全くヘタクソであるが、商品の魅力で、「非の打ちどころのない店」以上の成果をあげている事例もこれまた沢山あるからだ。
●ウェブユーザビリティの目指すところ
結局のところ全くの主観ではあるが、ウェブユーザビリティの目指すところは次のようにまとめられるだろう。
1. サイトの目的を明確に伝える
2. 誰がそこでウェルカムであるかが一目瞭然である(ターゲットの明確化)
3. オリジナリティを強調する(他社との違い、自社の優位性の端的な強調)
4. 目的の容易な達成、あるいは求めるものへの容易なアクセス
5. わかりやすく、かつ整理されたコンテンツ面での情報デザイン
6. 初心者、初回訪問者へのわかりやすさへの提供と良好な(初回)ユーザー経験の提供
7. 全ての利用者に対する明確かつ容易なナビゲーションの提供
以上の点から、最近多い「デザイン面に矮小化されたウェブユーザビリティ議論」は個人的にはあまり共感を覚えない。
ついでにいえば最近は「直リンク」、メール(モバイル含む)からのダイレクトアクセス等がもてはやされており、これはこれで、サイトの効率性を高める重要な手段だ。だが一方でそればかり重視することは、サイトコンセプト、イメージ、理念、狙いを伝える効果を低減させる。日本は議論が極端なので,コマースサイトに関しては、トップページ不要論まで飛び出しているが、ダイレクトアクセスと全体イメージの訴求とのバランスをきちんと吟味すべきだろう。
●ユーザビリティエラー
ウェブが登場した初期には「2クリック、3ステップの法則」などと言われ、まず重視されたのが、最短ステップでの「目的への到達」であった。当時のユーザビリティ議論といえばこの程度。次いで「3秒ルール」「8秒ルール」といった要素で、トップページを3秒あるいは8秒以内で理解するための手がかりの提供(ここは何をするところかな?、ワタシはここでウェルカムかな?)が議論になった。このような初歩的なレベルでも大企業含めまだ達成できていない事例が目立つ。
例えば次のような点である。
1. 不明瞭なタグライン
サイトのテーマ、目的、他社との違いが一目でわからない。タグラインとはサブタイトルのような使い方をされるが、これが実に曖昧だ。大体タグラインを明確にしている事例もそれほど多くない。ある場合でも曖昧な言葉が目立つ。「お客様に心からご奉仕する」であるとか、「安心と安全の」といった言葉がウェブ上で意味があるのかは疑問だ。例えば武田薬品のサイトのタグラインは「世界の人々の健康とすこやかな生活に貢献するために」である。一方万有製薬は「全ては患者さんのために」だ。山内製薬は「もっとクスリにできること」である。個人的には万有製薬が正解だと思う。サイトコンセプト全体が大衆薬を販売していない企業なのに、「患者サポート」を中心としたコンテンツとなっているからだ。競合他社との差異を強調するためにも、わけのわからないフラッシュ画面を使うよりも、テキストレベルのタグラインを重視すべきだろう。
2. わけのわからない情報デザイン
ページ上での「情報のまとまり」「整理」が悪い事例が多い。例えば「新着情報」と「ニュース」が同じような内容で平気で隣り合わせになっていたりする。「特集」(Features)と「キャンペーン」で似たようなことを告知している。
書店を例にとれば、アマゾンやbk1はトップページの情報が整理されていて使いやすいが、JBookは似たような情報がゴチャゴチャ並んでいるだけだ。お勧め商品と特選商品の違いもわかりにくい。何だか、ウェブマスター、あるいはデザイン担当者の「頭の中身の整理の具合」、あるいは企業としての「マーケティングの混乱」が披歴されてしまっているようで、内部事情が透けて見えてしまう。 もう1つ書店でいえば、紀伊国屋は不思議なウェブ書店だ。オンラインショップで行うべきことをかたくなまでに拒否する。他店では、「滞留時間の向上」「クロスセルの促進」に気を配るが、ここの主要機能は「検索」だ。検索が済んだらとっとと用事を済ませて帰ってください、という姿勢を貫く不思議な店である。ここにきて、トップページの文字情報が異様に増えているが、これは明らかに利用者を混乱させるだけだろう。内部への誘導を図る以前に、情報の羅列に嫌気がさしてしまう。
ただ、これまた個人的視点だが、最近はオンラインショップでの「クロスセル」「滞留時間向上」には限界があると思えてきた。妙なリコメンデーションエンジンだの、お勧めだのが奏功するのは、極めて限られた事例だ。そうであれば、ウェブの原点である「Search & Buy」に特化するのは、生き残りの1つの方法ではある。紀伊国屋はひよっとしたら先端事例かもしれない。
ついでながら内部事情で思いだしたが、企業側の思っている以上に利用者は「内部事情」を敏感に察してしまう。先般の日ハム事件の当初のおわびホームページも評判は散々であったが、理由は「子会社」あるいは「関係企業」のやったこと、という内部事情を強調する姿勢が見え見えであったからだ。
3. 曖昧なカスタマイズ
「ログイン」あるいは「会員情報」の入力を要求するのであれば、それ以降の画面は誰でもアクセスできる「一般情報」とは明確に違いを設けるべきだ。これが実に曖昧で、似たような情報の羅列が続く。何をもって「カスタマイズ」と定義するのかが実に曖昧だ。せいぜい個人名が表記される程度の事例が多い。しかも会員になることのオリジナリティメリットが希薄。
ついでにいえば、ウェブで集めた「会員数」ほど当てにならないものはない。成果指標として「100万人会員」などと強調するが、
「実効会員数」は10分の1と見るべきだろう。カード会社の公表する「会員数」も死んだ子の歳を数えるようなキライが否めないが、ウェブ上の「会員数」はもっと水増しだ。半年単位のチェック体制位は連動させるべきだ。
4. 無駄な動作の強要
サイトチェックをしていて最も出現率が高いのが、この要素だ。クリックしないとリンク先の情報がわからない。しかもリンク元の表現は実に曖昧で「顧客サービス」「サポート」などと平気で書いている。どちらが何を意味するのかも不明。おまけにウェブ上で「顧客サービス」などと表記するのは禁句である。「顧客サービス」と銘打った瞬間にそれはサービスでなくなるはずで、企業側の思い込みサービス、お仕着せサービスとしか見えないからだ。
5. 「思慮深くない」グラフィック
最近は筆者の得意な「主観的レビュー」の対局ともいうべき「客観的レビュー」の様々なメソッドが増えている。だがいくらコンピュータを駆使するとはいえ、その基本的設計は人間の判断の要素が前提だ。例えば評価項目に「トップページの表示速度」「ナビゲーションの一貫性」等があがるのは当然だが、某社の評価項目には「動きのあるコンテンツがある」「スプラッシュページを設けている」といった項目がいずれもプラスの評価要因になっていた。Nilesenに言わせればスプラッシュページ(導入ページ)は「ウェブ上の邪悪な存在」である。フラッシュの多用も、「動きがある」こと以外に何の意味があるかわからないものが多い。それ自体何の意味をもたないグラフィックも慎むべきだ。
●カード会社のウェブの現状
クレジットカード会社のウェブは、金融サービス関連企業の中では、比較的レベルが高いと思う。まあ順位をつければ、銀行、カード会社、生保、損保の順であろう。カード会社と保険業界のレベル差はかなりあって、特に損保のウェブマーケティングの水準はいただけない。
大変センエツだとは思うが、各社のウェブページの一口レビューを書かせて頂こうと思う。主観であるから、あまり気にしないでお読み頂きたい。
1. 三井住友VISAカード:これは全くの個人的見解であるが、銀行を中心とした合従連衡が進む中、ブランディングという面では、後世に残る失敗例が目に付く。わけのわからない、無意味語を冠した企業名の採用により被ったデメリットはかなり多いはずだ。
その中で、「三井住友」は正解であろう。ウェブ自体は、カード会社の中では最もレベルが高い。トップページは「ルーティングページ」(振り分け頁)の意味合いが強いが、それぞれのターゲットのナビゲートの役割をきちんと行っている。個人会員用のトップ画面の構成も使いやすい。「目的」先の内容がクリックせずとも表示され、ナビゲートのロスを最小限にしている。いわゆる会員サービス案内、利用案内・手続きのカテゴリーの整理がイマイチの印象もあるが、まあ許容範囲だろう。だがトップページからアクセスできる「優待ショップ情報」「V-mall」はかなり使いにくい。それほど使いやすい検索とは思えないし、V-mallはただの店舗紹介のリンク集のような意味合いにしては、他の頁に比べ一覧性もなくユーザビリティレベルが低い。カード会社全体の課題だが、加盟店への誘導、送客の方法はもう少しきちんと設計すべきだ。
2. JCB:カード会社としての必要情報はきちんと盛り込まれているが、ユーザビリティだけで評価すれば、三井住友の方が使いやすい。こと会員サービスメニューに冠しては、リンク先内容が一覧できるが、例えば「わくわくするね!目的別にクイックアクセス」というコーナーは、羊頭狗肉で、たいしてワクワクしないし、会員サービスメニュー紹介欄とのダブりが目立ち、利用者を混乱させる。ここも不思議なのは、「商品検索&情報サイト」Atta!の位置づけだ。会員の店への送客機能を担っているとは思うが、類似サイトが多い中、ここからわざわざ検索をして店を選択することに価値を覚える「会員数」に限界がありそうだ。商品分類からたどって表示される商品も唐突感が否めず。店舗紹介も一面的で、決済方法の選択肢等の羅列にすぎず。店舗選定の手がかりになるとは思えなかった。
3. ダイナース:あまり情報整理が上手くない。What's Newの画面の中の情報は羅列に過ぎず、アミューズ、スマートキャンペーンなどとカテゴリーが表記されているが、中をのぞかないと何がNewなのかわからない。What's Newの利用法としてはNielsenに叱られそうだ。会員サービスの紹介の大分類程度のカテゴリーメニューのみ。「保険」とあるがこのページでリンク先の内容を知らせておくべきだろう。Advertisement欄がやけに目立つが、まあシティバンクは仕方がないにしても、ただでさえ、コンテンツリッチの印象を与えていない中で、広告欄をこのように目立たせることの意味が問われるだろう。
4. UCカード:本稿執筆時点の特殊事情かもしれないが、フラッシュを利用したキャンペーンが目立ち過ぎだ。大体フラッシュのプラグインをダウンロードしろという姿勢が気に入らない。「ご入会をお考えの皆様へ」「UCカードをお持ちの皆様へ」との項目が並ぶが、その中身がゴチャゴチャで利用しにくい。何だか整理整頓が下手な人の机の上を見たような印象で、見るものを落ち着かなくさせる。総じて、カテゴリーメニューのタイトルと中身とが吟味されておらず、ニュースキャンペーンのコーナーに再び「新着情報」が載っていたりする。情報デザインの基本から設計し直すべきだろう。
5.セゾンカード:折角だが、セゾンカードトップページのヘニャヘニャ動き回るメニュー欄は使いにくい。動きを付けることで何を意味したいのかが不明だ。これだけで疲れて内部を見る気が減少する。例えば「お勧め加盟店紹介」というコーナーをクリックすると、内部の情報も整理が悪い。ここでまず行うべきこと、提供すべきことは何かの「編集」が済まされていない印象だ。セゾンカードの前のホームの画面の意味もイマイチだ。振り分けページの意味が大きいが、タグラインや折角の社長挨拶がイマイチインパクトなし。「お客様にご満足頂けるよう」などという曖昧な表現はウエブでは禁句である。
6. イオンカードネットブランチ
これはこれでわかりやすいサイト。目的は明確だが、情報デザインは未整理だ。What's Newとトピックは明確に分けるべきだし、意味不明のグラフィックが多すぎる。女性客が多いからもしれないが、占いコーナーは不要だろう。「おすすめサイト」コーナーも何をもってお勧めするかの情報が伴わず。ただ名称が表記されているのみ。グループ企業へのバナーが目立つが、この種のものの許容件数は多くて3つというのが常識だ。これのお陰で全体的にコンテンツプアの印象を招いてしまっている。
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