連載:ECのマーケティング

第34回
2003年EC市場予測 :card wave2003.1

 



 いつもEC市場の予測をしているが、まあ5勝5敗というところだろう。今回も懲りずに2003年の予測をしてみたいと思う。だが周囲を見回すと、IT関連企業、eコマース関連企業の撤退の話ばかりで、さっぱり光明が見えてこない。おまけに、ネットビジネス業界で結構実績のあった某誌も休刊を決めたとかで、一体この先どうなってしまうのでしょう?eコマースに関わるものは、出処進退を問われるということなのだろうか?首筋がひやーっとしてくる今日この頃である。


 もっとも暗い話ばかりではない。結構元気な企業もあるし、オンラインショッピングはさておき、ウェブをマーケティング手段として利用するウエブマーケティングの方は、なかなか素晴らしい事例も出現している。要は、きちんとITの本質を理解してそれなりに戦略を組み替えた企業は成果をあげているし、口ばかりで「
新しい道具に古い器」を地で行くような企業はダメよ、ということである。9年間眺めてきたが、この現状肯定意識は本当に根強くて、ある意味で現状否定を前提とするeコマースの進展を妨げているのだ。
 さてグチはさておき、2003年の予測をすることにしましょう。

1)ハイ・バリュー・カスタマーの獲得が最重要課題に

 いきなりヘンな言葉であるが、ハイ・バリュー・カスタマー(HVC)とは文字通り「高い価値を生みだす客」のことである。アメリカのレポートを読んでいたら、これこそ大命題とのことだ。「お客様は皆神様だ」と言いたがる日本企業はあまり使いたがらないが「上客」という言葉がある。要は「上客を掴め」ということである。

 当たり前といえば当たり前だが、ネットの世界ではこれが難しい。そもそもコンバージョン率(来店者対比購入者比率)が低いから、勝利の方程式は来店者を可能な限り増やすということに集中する。集めた客が「上客」の可能性があるかどうかを考慮せずに、闇雲に来店者獲得に力を入れたのだ。これが途方もない金食い虫で相次ぐ倒産劇に引き金になったのは周知の事実である。それならば、ということで始めから「上客を狙おう」ということになったのだが、これが一筋縄ではいかないのだ。一体上客とは誰なのか?まあ常識的に考えれば

・ライフタイムバリューの高い客
・自社の様々なチャネルを使い分けてくれる客
・顧客接点での接触機会が多く、結果的にそれ収益機会の増加につながっている客(店、ウエブ、コールセンター、顧客窓口etc.)
・口コミ効果の高い客

といったところだろう。この獲得方法は1つは、自社を1度でも利用してくれた客をコツコツ顧客維持を図り、得意客にしていくことなのだが、もう1つ、「顧客獲得経路」の吟味という問題もある。つまりバナーで飛んできた客は、上客になる可能性は低い、懸賞やプレゼントで集った客はさらに低い、他社との共同ポイントシステムの利用客は意外にロイヤルティが低い、といったことである。これが次項で延べる「マーケティングツールの効率吟味」の話しにつながってくるわけだ。

 なおネタ元のアメリカのレポートによると、HVCに対しては単に「掴まえる」だけでなく「追いかけ、明らかにせよ」という命題も加わる。つまりいつも追いかけ、さらにそのプロフィールアップを忘れるな、ということだ。

2)マーケティングツールの効率性を徹底的に吟味せよ

 マーケティングツールとはまあ販促手段といった意味である。例えば集客を促すにはバナーもあるし、懸賞・プレゼントもある、特定ジャンルのポータルサイトのマネジメントもある、検索エンジンマネジメントもあるといった具合。これをきちんと吟味しなさいという話だ。これまた当たり前のようだが、これには続きがあって、1つは「オフラインのメディアとのメディアミックスの視点から総合的に吟味しなさい」という話。もう1つは、「マーケティングのステージ別に効率性をきちんと吟味し、最適手法を選択しなさい」という話が付け加わる。

 さてマーケティングのステージとは何だろうということだが、これはネットの商売には様々なステージがある、ということだ。例えば「ブランディング」「顧客獲得」「コンバージョン率向上」「客単価向上」「リピート率向上」といったものが一例で、それぞれのステージに応じた最適マーケティングツールを選択しなさいということである。確かに顧客獲得の手法と顧客維持の手法とは全く違う。自社の商売の成熟度に合わせ、どのステージを優先すべきかきちんと答えを出し、そこでの最適解を優先しなさい、ということである。これは全くもっともで、日本企業のマーケティングツールの使い方は、相当にアバウトである。折しも、マーケティングツールの中であるものは効果があまりなし、あるものは効果あり、ということも大分わかってきた。例えば、「得意客へのeメールマーケティング」や「アフィリエイトプログラム」は効果が高いが、「見込み客へのeメールマーケティング」「バナー」「ポップアップ広告」などはあまり効果なしということである。ステージ別、手法別のマトリックスをきちんと作って、マーケティングコストの集約化を図るということなのだ。

3)成長率鈍化の兆し

 これは誰も大きな声では言わないが、皆気付いている話だ。一部に高い成長率を誇る企業もあるが、押し並べて、成長率は鈍化している。とりわけ、PC、書籍といったネット適性の高いジャンルでの伸び率低下が目立ち始めている。過去eコマースの牽引車の役割を果たしてきた中小ショップで前年割れの事例が増えている。新聞、雑誌を読んでいると、ITこそ21世紀を切り開く切り札とのことだが、実態は大分異る。

 理由はいくつか考えられる。1つはオンライン販売で獲得すべきパイがなくなり始めたということ。書籍などはその典型で、たかだか年150億のマーケットだが、書籍離れも相まってこれを1千億にするシナリオが見えない。おまけにネットで本を買うユーザー層をほぼ開拓し終わってしまい、画期的な潜在ユーザーが見えてこない。PCも同様で、参入が早かった分、ターゲット層の拡大が望めないのだ。もっとも最近急増中のITオバサン、ビギナー層の獲得という選択肢もあるのだが、書籍、PCショップどちらも、ビギナー相手の商売がかなり下手である。このツケが今回ってきている。

 昨年書いた2002年EC市場予測では「1極集中」を上げたが、これはかなり当たっていて、2002年の前半位までは、文字通り各業界で1人勝ちの構図が進展していた。だがこのトップ企業の伸び率が低迷し始めた事例も出てきている。

 さらに理由の2つ目として、オフラインチャネルを上回る価値を提案できなくなってきている、ということもある。例えば希少性のある食材でいえば、デパ地下もある、カタログもある、という具合。それがなかなかの充実ぶりで、これまでネットが提供してきた価値を上回るケースもある。ネットで購入する理由が消費者側で低減し始めている。
 中小オンラインショップの場合は、一目見てかっての「
輝き」を失っている店が増えている。頑張って欲しいとは思うが、輝きを失っているという事実を自分で自覚していないケースが目に付く。

4)コーポレートステートメントの発信手段としてのウェブの重要性が高まる

 先日「鉄鋼業界」のウェブを評価する機会があったが、これが結構笑える出来栄えであった。この業界も金融業界と同様で合従連衡の真っ只中。企業イメージ、理念をあらためてきちんと伝える役割がウェブに求められる。だが実態はかなりお粗末だ。経団連等経済団体の重鎮としていつも君臨する日本を代表する大企業もある。日本を代表するといえば、トヨタ、ソニーも同様だが、消費財メーカーと素材メーカーとではウェブの活用度合は天と地との開きがある。消費財の場合は狙いは「商品情報の伝達とそれを通じての顧客開拓」である。伝えるべきコーポレート情報(決算、環境経営、リクルート、プレスリリース、IR)等はボタン1つの中に押し込められていることが多い。この点素材メーカーのウェブはてんこ盛り。内部にマーケティング視点からウェブを統括するセクションがないことがばれてしまっている。IRとか立派なボタンがあるが、中を覗くと、ただPDFファイルが載っているのみ。日本企業でも、金融、メーカーの一部にはオリジナル情報含む立派なIRコーナーを作っているところがあるが、PDFだけを載せてIRと称するのはいただけない。

 肝心の商材、商売の紹介のところでは素材メーカーは「事業部紹介」「カンパニー紹介」の形が好きなようだ。だが利用者が知りたいのは事業部の話しではなく、商品、商材そのものの話しだろう。ここが全く各部まかせ。いきなり英語の頁になる事業部もあれば、バラバラ

 鉄鋼業界は概して横並びのようで、各社ヘンテコなウェブのオンパレードであったが、1社だけ結構素晴らしい企業があった。東証1部では鉄鋼欄に入れられている『日立金属」である。ここはコーポレートステートメントとして「Material Magic」という理念を提唱している。ウェブはこれをベースに作られており、一貫性があった。事業部紹介の形を取らず、商品紹介の形を取る素材メーカーにしては珍しい構成で、中身も「我が社のオリジナル、我が社の得意分野」がきちんと表示されている。問い合わせフォームも統一されており、IRもまあまあ。消費財メーカーに比べると当たり前のレベルだが、素材メーカーの中では出色の出来栄えであった。それにしても、久々にじっくり眺めたが「重厚長大」「オールドエコノミー」に属する企業のウェブは相当にレベルが低い。ウェブ製作に関わる企業にとっては大きなビジネスチャンスになりそうである。

 要するに、企業の理念、ポリシーをウエブを通じてどう伝えるか、ということなのだ。これは単なる「お客様に心からご奉仕する」であるとか「顧客満足N01企業を目指して」といったお題文句ではダメである。
 もう1つの事例は食品の石井食品で、ここは日経新聞主催のインターネットアワードの今年度の受賞企業だ。中身は実にシンプルで、てりやきハンバーグなど自社製品のすべてに品質保証番号を記載。この番号と賞味期限等を入力すると、原材料の情報が開示される。食品の安全性に対する不満が高まる中、これだけの仕組みでブランド力向上を狙い、企業の姿勢の浸透を狙う。
 コーポレートステートメントをきちんと発信する仕組みとして、ウエブをどう活用するか、この巧拙が問われそうだ。

5)モバイルコマースの定着と本格化進む

 もうこのテーマは筆者にはお手上げである。大体ターゲット層ではない。だがモバイル、とりわけ携帯をコマースの手段として活用する層は確実に増えているし、携帯通販も月1〜3億位売上げをあげる事例が急増中。PC経由で月1億がどれだけ大変かを知っているだけに、全く信じられない水準だ。ゼイヴェルが運営するガールズウォーカーは、月3億ページビューというが、あながちホラでもなさそうで、月携帯通販で1億を越す売上げをあげている。「私たちは携帯サイトのディズニーランドを目指します」とかいって威張っていた。全日空は航空券では1人勝ちで、既にネットだけで年商1千億を越えているが、その2割は携帯経由であるという。カタログ通販のニッセンも年商80億位のネット売上げの内、3〜4割は携帯経由とのことだ。

 モバイルコマースのマーケティングは割とシンプルで、ゼイヴェルなどはとにかく携帯があればPC不要といったターゲットに焦点を絞る。携帯もPCもといった層はビジネスマンに多いが、この人たちは「PCと携帯でのデータの共有」といったことにはうるさいが、すぐ反応して、モノを買うといった機動力には全く欠けるのだそうだ。となればプロフィールが絞りやすく、ビジネスの成功確率は高まる。マーケティングとしては難易度が低い。コンビニECは「日本的EC」の本命にはならなかったが、モバイルの方は、どうも「日本的EC」の真打ちになりそうだ。

6)ブロードバンド議論の本質が問われる

 過去、日本のECの発展を妨げてきた「戦犯」をあげてみると、96〜97年当時の「電子マネー議論」、その後の「実証実験」等が代表例だろう。「マルチメディア端末」、「ビジネスモデル」「アライアンス」「SIPS」「e-CRM」などという言葉もかなり罪は重い。この戦犯候補の1つが、「ブロードバンド」になりそうだ。どう考えても今のブロードバンド対応の動きはヘンである。企業はこぞってフラッシュを駆使した無意味なトップページを作りたがるし、ブロードバンドコンテンツとして注目されているのは、放送、映画、動画の類いである。だがカビの生えていそうな、何年も前のテレビの連ドラが、ブロードバンドコンテンツとなりえるとは思えない。同様にCS放送やテレビショッピング番組と同じコンテンツをウェブで垂れ流すことが「ブロードバンド対応」になるとも思えない。おまけに寅さんがネットで見られるようになるとか言っているが、寅さんならごろ寝しながら見られるテレビで十分である。「ブロードバンドが社会を変える」そうだが、どうしてブロードバンドと銘打つと、こう知恵が枯渇してしまうのかが不思議だ。博報堂の調査によれば、ブロードバンドユーザーの最も行う事とは『何でもネットで調べる」ことで、重たいコンテンツを好んで利用する話ではない。となれば企業のブロードバンド対応とは「消費者の第一選択」に耐えられるだけの情報コンテンツを自社のウェブでまず整備しておくことのはずだ。何だか議論がとてもヘンである。

7)日本型インフォメディアリーの台頭

 個別企業がウエブを駆使して行うウェブマーケティングの成果がはっきり分かれてきた。効果があがっているものは、「見込み客獲得」「ブランディング」「キャンペーン連動ウェブ限定プロモーション」といったもの。固定客づくりや顧客維持に役立てるリテンション系の活用方法は、企業によってかなり差が出てきている。

 ここ2年ほど、「消費者参加によるコミュニケーションサイト」であるとか、「消費者参加型商品開発サイト」などを立ち上げる企業が相ついだが、こちらの方は、かなり問題を抱えている。作ってみたものの持て余し撤退したところもある。理由といえば、その企業のサイトコンセプトに賛同して参加してくる消費者の質、数にマーケティング的な意味を見いだしにくいということだ。また、この種の活用には「顧客間インタラークション」(顧客同士の盛り上がり)や「定性情報」の料理が不可欠なのだが、これを十分行える体制を持っている企業も少ない。一時流行したが、早晩見直しが進みそうだ。

 一方同じ機能を第3者が担うサイトの方は結構にぎわっている。例えば商品開発については、たのみこむ、空想生活といった専門サイトがあり、顧客ニーズを企業に仲介する役割を担っている。参加数も多く、顧客間インターラクションも起りやすい。結果的にこの会員資源をベースに、個別企業との「共同開発」に踏み込んだりしていて、成果もあげている。

 化粧品メーカーやトイレタリーメーカーは、消費者とのコミュニケーションサイトを手がけたりしているが、これまた企業が期待するほどの成果はあがっていない。一方化粧品に関する口コミサイトアットコスメは、会員数17万人。総書き込み件数は60万件を越えている。かってネットによる情報仲介者のことを「インフォメディアリー」と呼んだことがあったが、この日本型として、結構しっかり根付いてきている。




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