さてeコマースであるが、一時的な盛り上がりも盛り下がりもあまりなくて、遅々たる歩みをこれまで続けてきた。お役所の統計は年々倍々ゲームの数字を出してくるが、これは信じない方がよい。実際にはBtoCで1兆円いったかいかないか、と見るべきだ。
遅々たる歩みとはいえ、内容的には転換期に来ている。eコマースに関しては、視点を根本的に変えるべきだろう。どちらかと言えば、これまでのステージは、「いけいけドンドン」の世界。顧客を集め、テナントを集め、もっとも早く一番になったものが、一極集中現象を呼び起こし勝者となった。これを1人勝ち理論と呼び、短距離走みたいなものであったが、これもあまり通用しなくなった。 一方中小企業のオンラインショップの方は、「ノウハウ」が1人歩きし始めた。初期のステージではこれは重要なことだが、悲しいかな、ネットのスピード、顧客の変化に「ノウハウ」が追いついていない。「脱経験則」「脱ノウハウ」が課題である。
前置きがやたらに長くなったが、今回はeコマースにおける効率性をきちんと点検してみよう。「質が問われる時代への対応策」ということで、今回は比較的真面目な話ではある。
●4つのチェックポイント
全くの私見であるが、ここでは効率性を次の4項目からチェックする。言ってみれば効率性チェックプログラムの構成要素というわけだ。
1)コストチェック:eコマースはとんでもない金食い虫だが、このコスト構造のチェックポイントは何かを検討する
2)顧客構造あるいはカスタマーマネジメントのチェック:流行語でいうとCRMということなのだが、ここではカスタマーリレーションのみならず、ターゲットマーケティングの方向性まで含めて考える。
3)効率性の指標のチェック:eコマースには効率性を表す、様々な指標が存在する。その内容を検討する
4)オンラインマーケティングの効率性のチェック:内容的にはこれがもっとも重要だ。オフラインマーケティングとの融合、最適ツールの抽出とシフト、ビジネスのステージに合わせた最適課題の抽出といったことである。
●コストチェックのポイント
効率性とくれば、まずはコスト構造のチェックだ。eコマースのコスト構造はかなりいびつ。しかも「業態差」が激しい。チェックポイントは次のような点である。
1)原価率:当たり前の話だが、これがビジネスの成否を決めてしまう。ウェブ専業のオンラインリテイラーはここがネックで、アメリカの統計では81%。これに対し、製造小売的色彩の強いカタロガーは42%。ほとんど2倍の差がある。マージンが低ければ儲からないのは当たり前だが、かといって製造小売業、あるいはカタロガー全てが勝者というわけでもない。ユニクロは製造小売の代表格だが、ユニクロのサイトで買いたいものはますます減少中。かといってユニクロブランドの野菜を買えと言われても困ってしまう。これなどは、実店舗含めたブランディングがオンライン戦略に勝る優先課題だ、ということになる。
原価率が低いはずのカタロガーも、勝ち組と低迷組の差が目立つ。ただ、これはウェブのユーザビリティ等、オンラインチャネルに対する力の入れ方の差のように見受けられる。まあ千趣会、ニッセンといったところが勝ち組代表格。米国ではランズエンドといったあたりが常連である。
2)マーケティングコスト:マーケティングコストとはほとんどが顧客獲得コスト(acquisition cost)である。ネット専業組がここに金を掛けすぎたのは周知の事実で、この反動で、専業組の獲得コストは激減した。一説には5分の1位の水準に減らしたとのことで、確かにコスト削減には貢献する。だが本来顧客獲得コストは必要不可欠な費用だ。ここでまた勝ち組と負け組の差がついてしまう。負け組は派手な広告宣伝費、それもドンブリ勘定であったものををただ圧縮。一方勝ち組の方は、原価率が低い分、その費用をマーケティングコストに逆にシフトさせる。しかもオンラインとオフラインのバランスを吟味し(もちろんオンラインのウエイトを高める)、各ツールの最適組み合わせを検討するステップに入っている。
3)その他費用:その他としては、顧客サービス費用、フルフィルメント費用等がまずあげられる。これらもマーケティングコストと同様で原価率の低い業態は、特に顧客サービス費用に相対的に投資する傾向。結果的に高いCSを獲得し、リピーターシェアが一層高まり、これまた企業間格差の背景となっている。
サイト構築費用、コンテンツ費用等は、一見成否を決めるコストのように見えるが、実態は異なる。オンラインで商売をする以上、一定割合はそもそも必要なわけで、サイトに必要以上に金をかけてもそれほど差はでない。確かにユーザビリティの視点からサイトを再構築する必要はあるが、派手なコンテンツ、無意味なフラッシュ画面、同様に意味不明なマルチメディアコンテンツ等はほとんど影響なしということである。
結果的に、適切、かつ費用対効果を吟味した顧客獲得に金をかけられるか否か、インフラでもある顧客サービス、フルフィルメントによるCSを獲得できるかが、結局のところコスト改善の目標というわけだ。ウェブデザインに関わる企業は、これらの点への踏み込み、提案まで出来ないと、今後は商売は苦しいだろう。
●顧客構造あるいはカスタマーマネジメントのチェックポイント
1)ターゲットマーケティングの精度アップ
収益性が改善し、profitableになった企業にその理由を問うと、1つは、オンラインマーケティングにシフトしたこと、結果的にターゲットマーケティングが明確になったことをあげる。オンラインマーケティングへのシフトとは、オフラインとオンラインツールのミックスを吟味しつつも、オンラインツールへシフトさせることを意味する。本来オンラインマーケティングは、もう死語ではあるがone to oneの機能を内在しているわけで、これが結果的に「誰が顧客であるか」を明確にするというわけだ。
2)リピーターシェアの上昇と「顧客の新陳代謝システム」の構築
profitableとなる最大の条件の1つは、売上に占めるリピーターシェアを最低5割以上にアップさせること。これが収益性を向上させる理由としては
・新規客獲得に金をかけずに済む
・リピーターのプロフィールアップにより誰が「金のなる木」かが明確になる
・クロスセル、アップセルの手法が奏功しやすく、結果的に客単価が高い
・リピーターによる口コミ効果による客数アップ
等があげられる。これはオフラインの商売でも一見共通に見えるが、客単価、客数アップ、口コミ効果等はネット特有の手法が存在する。
一方「新陳代謝」の方だが、大きな声でいうと叱られるが、「上客」が永遠に良い客である保証は何もない。「お得意様」にこだわればこだわるほど、客とともに店が陳腐化していく。この割り切りが出来るかということが1つ。もう1つは、「顧客流出」(この場合は顧客価値が減った客という意味である)と「顧客獲得」のバランスを吟味すること。固定化、リテンションが重要だとは今のマーケティング理論のポイントだが、それは顧客をただストックすることではなく、「価値の減った客には出ていってもらう」「下位グレードの客はより価値の高いグレードに移行してもらう」「一定割合での新規客獲得により、顧客像をリフレッシュするとともに、将来のハイグレードカスタマー候補を確保する」の3本立てであるからだ。結果的にこの新陳代謝が促進されることが、顧客マネジメントの基本となる。
日本の今のネットの商売では、これはほとんど実現できていない。何よりも「会員数の多寡」が成果指標の1つになっていることが多く、その稼働率はさっぱり吟味されていない。新規客獲得には熱心だが、顧客を上位移行させる「ロイヤルティプログラム」もまだ発展途上である。
3)ハイバリューカスタマーの獲得:これは前回も書いたかもしれないが、「ある客は別の客より価値が高い」というルールを徹底すること。これがハイバリューカスタマーの獲得というわけだ。マルチチャネルリテイラーの場合、チャネルを複数利用する顧客の方が「価値」は高いことが多い。一方、PCチャネルと携帯チャネルも同様で、カタロガーの場合、カタログもPCも携帯も利用するハイバリューカスタマーが結構存在する。もっとも誰もがモバイルチャネルに適性があるかというと、そうでもない。笑ったのは某老舗百貨店がウェブの他に携帯通販に乗り出すとのことであったが、成功確率は限りなく低いだろう。「老舗ならではのモバイルを展開する」とのことだが、これは本来のウェブショップが成功してからの話である。見間違えかもしれないが、初年度年商モバイル分で1千万とあったが、実に謙虚な数字でこれまたおかしかった。身の程を知るということか。
なおこの原稿のネタ本となっているアメリカの資料によると、ハイバリューカスタマー獲得の成功例としてはカタロガーのウィリアムソノマがあげられていた。
●効率性指標のチェックポイント
ネットの商売と実店舗の商売では、「指標」の水準が大きく異なるケースがある。ネットの商売は本質的に「低効率」の体質を持っており、これをあらゆるノウハウを駆使して高めること、が成功要件でもあり、これが「オンライン経験」の根幹というわけだ。次のような項目が内容となる。
1)コンバージョン率:来店者対比購入者比率のこと。これは前々回位に書いたかもしれない。ことアメリカのオンラインリテイラーに関してはこの比率は上昇している。といっても2%が3%になったという程度のことだ。一方日本のリテイラーでは逆に減少し始めた店もある。来店しても購入しない比率が増えるということは、
・異なる客層が来店し始めた
・品揃えがぼやけ始めた
・ユーザビリティが悪い
・購買行動が定型化してしまっている(衝動買いが促進されないなど)
・ウエブ上でのオンラインプロモーションの効果があがらず
等の理由が想定できるが、日本では始めの2項目が特に大きな理由となっているようだ。
2)SAR:ショッピングカート・アバンダンメント・レイトのこと。要するにバスケットに入れておきながら買わない率のことである。平均的には5割弱といったところ。実店舗に比べるととんでもなく高い水準である。オンライン経験の多いウェブ専業リテイラーに対し、経験の少ない実店舗小売業の方が高い傾向にある。要するに店舗小売業では、この辺のノウハウが乏しく、最も重要なチェックアウトプロセスの設計が下手だ、ということになる。
3)新規客獲得コスト:アメリカの調査資料では平均14ドルというところ。前年対比半減している。だが余裕のある黒字企業は逆にここにコストを投下。また投下コスト対比獲得売上の多寡も指標の1つ。勝ち組と負け組とでは4割近い差がついている。
4)顧客維持コスト対比リピーター売上:1人のリピーターにかけた金対比いくら売上があがったかということである。これは業態差が大きく、カタロガーの場合、本来のダイレクトマーケティングの仕組みの中でこの費用が吸収できる。一方マルチチャネルの店舗小売業の場合、実店舗顧客とオンライン顧客のデータベースは統合されていないことが多く、リテンションの費用対効果は低くなっている。
5)売上に占めるリピーターシェア:年々上昇しているのがこの比率だ、オンライン経験を積めば当然リピーターシェアは増加するが、目安は半数を越えたかどうか、という当たりで、profitable企業では6〜7割の水準に達している。
6)その他の指標:1オーダーあたりのフルフィルメントコスト、1オーダーあたりの顧客サービス費用といったものである。
●オンラインマーケティングの効率性のチェックポイント
最も重要な効率性チェックポイント項目である。コストの切り詰めは凡庸な経営者でも出来るが、本来の効率性とは「最適解」の抽出のことだ。
1)オンライン、オフラインマーケティング費用の配分のチェック:eメールマーケティング、ポータルマネジメント、SEO(サーチエンジンオプティマイゼーション:検索エンジンの最適化)、バナーといったオンラインツールと、旧来のメディアによるプロモーション、実店舗を利用したオフラインチャネルプロモーションといったオフラインツールのミックスを考えることである。ウエブ専業リテイラーはかっての反省もあり、オンラインチャネルに特化する傾向。一方カタロガーはカタログメディアとのメディアミックス、郵便のDM等の利用度が高い。かたや実店舗小売業では、オフラインの世界でのツール活用が今1つ。実店舗とウェブの連動性は低く、顧客データも分断されている場合が多い。日本では特にこの傾向が目立ち、ここを克服した大型専門店が結果として勝ち組として名乗りをあげている。
2)マーケティングツールの効率性の吟味と選択:マーケティングツール自体は、その効果差が大分明らかとなってきた。eメールマーケティングは、ケースバイケースだがこと自社のアクティブハウスリストに対しては効果大。一方「見込み客リスト」「イベント・懸賞等プロモーション応募リスト」の効果は小。バナーに関してはほとんど効果なし。重要なのは前述のSEOやポータルマネジメントである、という傾向だろう。相応に効果の高いアフィリエイトプログラムに対し、オンラインクーポン、オンライン共用ポイントはイマイチ。ポップアップ広告に至っては、「邪悪な存在」との指摘もある。オフラインでは紙媒体の雑誌メディアは新聞、テレビに対し相応に効果あり、という調査結果もある。いずれにせよ、闇雲にマーケティングツールを利用するのでなく、効果のわかってきたものをオンライン中心に活用し、オフラインツールは自社の特性に合わせ選択的に活用する、ということである。
3)顧客獲得経路の検討:2)とほぼ共通だが、どこを経由してやってきた客かということである。それぞれの「経路」が前述のハイバリューカスタマーとどのような関係があるか、ということをチェックする。当たり前だが、バナーや懸賞でゲットした「客」はほとんどハイバリューカスタマーにはなりえず、一方口コミ客、紹介客はハイバリューカスタマーになりやすい、といったことである。
4)クロスセル、アップセルの手法の吟味:商売のステージ(顧客獲得のステージ、客単価アップのステージ、リテンションのステージ等)の手法のチェックを書こうと思ったが、紙幅がなくなってきてしまった。クロスセルに関しては
・関連商品の提案
・商品バンドル手法の開発
といったことだが、かってもてはやされたリコメンデーションエンジンなどはあまり効果がないことが判明。あるにせよ書籍等一部の商品ジャンルに限定される傾向がある。
一方アップセルの手法とは
・ロイヤルティプログラムの検討
・顧客セグメントの応じたインセンティブプログラムの検討
・戦略的価格政策
等とされるが、具体的な手法についてはまた機会を改めて検討したい。
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