連載:ECのマーケティング

第36回
eコマース、失敗の必然: 2003.4

 



 eコマースの歴史もそろそろ10年になろうとしている。大体筆者のeコマース体験は94年のCDNowがきっかけなのだ。CDNowやアマゾンが登場した時は、本当に楽しかった記憶がある。
 ところでコンサルティング業界の人はKFSという言葉が好きである。キーファクターフォアサクセス(成功要件)というわけだが、同様に失敗要件(KFF)というのもある。10年も経つとこの
KFFが明らかになる。今回は皆様からの質問にお答えする形でこのKFFを取り上げてみましょう。

Q1.最近某ハンバーガーチェーンがeコマース事業からの撤退を表明しました。一体何が理由なのでしょうか?(ウエブデザイン業界広報担当:25才女性)

A:始めから厳しい質問ですね。これは大きな声では言えません。この場限りの情報としてください。ここは昨年2月にeコマースの事業会社を作っています。ところが1年後に事業を始めない内に清算を発表。この間の決算で損失処理をしてました。戦わずして兵を引くという意味では希有な例です。最大の敗因は「基礎ニーズがあまりに少ない」ことでしょう。仮にその企業をMocと命名しておきますが、大体私たちはハンバーガーを食べにMocへ行くのであって、物を買いたいわけではありません。ましてMocに一般の物販は期待しません。様々な買い物の選択肢がある中で「なぜMocか」という必然性に欠けます。消費者サイドからみれば極めて当たり前なこの視点が、企業内部からみると目が曇ってしまうというわけです。

 もっともこれは明らかにトップの判断ミスです。本業では実績のある経営者もeコマースになるとコロっとだまされるという事例の典型でしょう。誰にだまされたかは恐くて書けません。さらにいえば携帯電話にバーコードリーダーを付けて買い物をする、という一見ビギナーフレンドリーな仕組みも全く必然性のないものでした。「始めに端末ありき」という敗因も背後にはあるでしょう。まあ戦わずして撤退した、というこの1点に関しては、さすがMocというべきなのでしょう。

Q2. e-Bay、チャールズシュワブといった外資の撤退が相次ぎました。日本での展開に何か問題があったのでしょうか(カード会社企画担当:39才男性)

A:この敗因は様々に分析されています。e-Bayに関しては、オークション市場の「1強他弱」現象があまりに進みすぎてしまい、ASP等他の収益ルートが見込めた2番手以下日本企業に比べても存在基盤がなかったということでしょう。また日本市場でブランド力がアメリカ並に通用すると思ってしまった誤解もありました。

 一方オンライントレーディング業界の外資の撤退はあまりに多すぎますね。そもそも業界全体が不調なわけで、ブランド力の弱い外資に残されたシェアがなかったという側面もあるでしょう。もっともこれは「オンライントレーディングもしています」と体面上標榜している中堅・中小証券会社も同じことですが。

 まあ専門的な分析は識者に任せるとして、筆者の見解は「組む相手が悪かった」というものです。両者ともおよそeコマース適性の低い経営者、企業と組んでいます。日本に出る時は相手を選べ、という極めて当たり前の教訓がここから得られます。

Q3: e-Japanの予算が色々組まれています。過去も含め、いわゆる「実証実験型」のプロジェクトの成果はどうなっているのでしょうか(印刷会社企画担当:46才男性)

A:これについては、本誌の読者でもあるカード会社も結構痛い目にあっています。要するに役所が何かをぶちあげ、予算をぶんどり、それに民間が応募するという形式を取るものですが、ことeコマース、電子マネーに関しては、省庁を問わず「死体の山」というところでしょう。

 問題はここからです。なぜ「死体の山」が積み重ねられながら、それがまた「行政手法」として延々と続くのか、ということです。答えは簡単。役所が「実証実験」にまだポジティブなイメージを持っているからです。民間企業では考えられないことですが、単年度予算の中で、プロジェクトは実施することに意義がある、何らかの形を付ければ終わり、という発想。しかも担当者はくるくる変わり、その責任は問われません。かくして「実証実験」なる手法は未来永劫続いていくというわけです。一方プロジェクト実施側にとっても相当なマイナス影響があります。「実験のための実験でいいやと思う」「単年度予算のスケジュール内でのやっつけ仕事をしてしまう」「実験ゆえの甘えがある」といったことでしょうか。

 最近でこそ、「厳密な費用対効果」を求める視点に転換した、と役所は言っています。しかしこれも一皮むくと相当いい加減で、「経済効果」の算出なるチャートは鉛筆なめの素晴らしい成果。しかも新たに「費用対効果」の試算に時間を取られるため、ただでさえ苦しいスケジュール管理が一層タイトになっています。

 行政の役割とはガイドラインを作ることで、妙なプロジェクトをぶちあげることではない、といつも思うんですけどね。

 もっとも成果をあげている「実証実験」も中にはあります。この理由は「自腹率」が高いこと。「もはやこれは実行案件なので、自腹を切ってでも実施したい。そのための補助として行政の援助を求める」というスタンスのものです。これからの役所の補助金事業は全てこの「自腹率の多寡」を規準に決定すべきだと思いますが。

Q4:アメリカとは異なる極めて日本的な失敗例とはどのようなものがありますか(銀行eコマース担当:35才女性)

A:こと大企業に関しては、全て「日本的失敗の構図」といっていいでしょう。そこにはいくつかのパターンがあります。

1)船頭多くして舟山を上る:ステキなコンセプトの事業に何社もが取りついて行う形。もちろん各社の強みを最大限活かした別会社を作る、というパターンです。これが成功した事例も滅多にお目にかかれません。一見「強者アライアンス」ですが、実際には烏合の衆。各社の思惑も動きも異なり、またこの事業会社のトップも指導力がないというわけです。立ち上げ段階はそれでも盛り上がりますが、事業が上手くいかないと分かってくると、出向者達は皆本社の方に顔が向いてしまう、というわけです。

2)海外ブランド導入形式:米国で成果をあげたブランドをそのまま日本に持ってくるという形です。商社などに目立ちます。まあ手軽といえば手軽な発想。eマーケットプレースの事例等がありましたが、失敗例が目立ちます。日本市場の成熟度が低いこと、eコマースへの代替の必然性が低いこと、業界慣習、習慣が根強く、eコマースへの代替が進みにくいこと、などがよく理由としてあげられています。

 ですが、敗因を市場のせいにするのはちとヘンで、「有名どころを日本に持ってくればイイヤ」と思う発想の安易さに原因があると見るべきです。また商社に関してですが、新会社の営業があまりに下手です。セミナー、パーティ等の派手派手しいものは好きですが、地道な営業資料のレベルが低かったりします。それはそうですよね。大体商社の人に「ワンツーワン」だの「これからのeメールマーケティング」だの「ネットでのライフタイムバリューを最大化するロイヤルティマーケティング」などと言われても、説得力が伴いませんものね。

3)自己過信の罠:これが最も多いパターンでしょう。「我が社は超大企業だから」「我が社の拠点数を活かせば」「我が社のブランド力を持ってすれば」と思ってしまうタイプ。前述のMocの例もこのパターンの1つ。多くは、「我が社の本業」以外のジャンルもeコマースで手がけても成功すると過信してしまうものです。これまた失敗の必然です。ネットでは客はその企業に対し「マザーカンパニーのアイデンティティ」以外のことをほとんど求めません。自動車会社のサイトでミソや米を買いたいとも思いませんし、新聞社主催のモールで商品を買いたいなんて、誰も思いませんよね。

Q5:それならば、アメリカ的失敗の構図というのもあるのですか?(印刷会社:26才女性)

A:あります。99〜2000年にかけての倒産劇の最大の理由は「マーケティングコストの高騰」によるものです。何しろ100円売上を上げるのに66円マーケティング(顧客獲得)に使っていたのですから、資金繰りは大変です。金がショートするにつれ、マーケティングコストに金がかけられない、客が来ないという単純な図式でした。

 初期の倒産劇には日米共通の要因もあります。ネットビジネスの初期の頃「インターネット的であらねばならぬ」という思い込みが蔓延し、出た結論が「3D」だの「バーチャルリアリティ」だのといった技術に頼った「売る仕組み」でした。残念なことに、初期のこれらの会社はほとんど残っていません。日本でも同様で、リッチメディアを売り物にした初期のコンセプトの事業は死に絶えています。接続環境の劣悪さが理由とされましたが、「インターネット的とは何か」の理解の甘さと見るべきでしょう。
 なお日本では初期の頃、CDロムとインターネットの連動といったことを売り物にした事業もありました。これも消滅ですが、CDロムの将来性を見誤ったというところでしょうか。

 アメリカ的といえばアメリカ的な事例に、99年の2月に創業し、10月に倒産してしまったフリーPCなんてものもありました。まあ顧客情報を収益モデルにする、という事業計画のずさんさ、フリーという言葉に敏感に反応する消費者の質の見間違え、といった背景がありました。まあ走りながら考えよう、という点ではアメリカ的ではあります。

Q6:昨年みずほ銀行主催のエムタウンでショッピング部門が閉鎖された、という報道を読みました。この原因は何ですか(保険会社企画担当:35才男性)

A:これは理由があまりに沢山あって、書ききれません。

・実施主体の小売業ノウハウがあまりに低かった
・楽天のようなものならウチでも出来る、と思い上がった
・決済方法を具備してテナントを集めるという手法が既に死に絶えたものであった
・ネットならではの付加価値が全くといっていいほど見られなかった
・そもそも銀行主催のショッピングモールに客が期待する、と勘違いした

 といったところでしょうか。多少目の肥えた客なら一見して笑ってしまうような出来栄えでした。それに気付かなかったところが「さすが、銀行!」というべきでしょうか。

Q7:ネットの商売は「1強他弱」と言いますが、「他弱」組の方はもう可能性はないということなのですか?(出版関係:42才男性)

A:ケースバイケースです。それはマーケットのパイの大きさ、「1強他弱」の構造次第ということでしょう。典型的な1強他弱市場は、モール、オークション、旅行予約、オフィス用品宅配、といったところです。一方、PC、書店、オンライントレーディング、チケット予約等は、確かに格差が付き始めてはいますが、目立った「1強現象」はありません。またPC、書店などは数店の使い分けをしている人が多いですから、それなりに市場シェアは分配されるでしょう。もっとも、「1強他弱」のさらに下の方に位置している企業は、これはもう無理、とみていいでしょう。例えばオンライントレーディングなどが典型です。また書店業界の紀伊国屋以外の「クリック&モルタル」は、アマゾンと同じ土俵で勝負するのはもはや無理でしょう。

 「他弱」には「他弱」なりの戦略が残されている場合もあります。つまり専門性に特化する、収益源をASP等に求めるといったシナリオです。一番手とのけんかはあきらめて、独自路線を探すというのは正解でしょう。もっとも世の中にはあきらめの悪い人も多いので、まだモール事業にしがみついたりしているところもありますが、もうそろそろ持ちこたえられない時期が来ています。

Q8:オンラインスーパーなどは最もネットらしい事業だと思いますが、実際に上手く行っている例は少ないようです。理由は何でしょう(食品会社:49才男性)

A:確かにネットの初期の頃から、オンラインスーパーは登場しています。Peapodなどが典型で、その後WebVanなども出てきましたが、行き詰まってしまいました。「重たいものでも家にいながらにして買い物ができる」「雨の日もラクチン」がセールストークでしたが、まあ電話でも注文は出来ますからね。

 在庫管理、商品調達、倉庫業務なんてところにウェブ専業企業が踏み込めば踏み込むほど、インフラ投資にベラボーに金がかかることも言うまでもありません。

 一方日本ですが、西友などは結構いいと思いますよ。まさに「雨の日でも」「「重たいものでも」の典型で、結構重宝しています。もっとも西友のオンラインスーパーだけで「今日の焼き肉の材料を全て調達」なんてことは無理があります。肝心の生鮮の品揃えがイマイチですからね。一方伊勢丹系の高級オンラインスーパーも利用していますが、こちらはイマイチだと思います。肝心の「雨の日」「重たいもの」ニーズが満たされず、妙に高級そうな品揃えばかり。今は高級食材の調達ルートが店含め増えていますから、なぜネットでという理由が訴求できていません。またいくら買おうと配送料が無料にならないことも、価格にシビアな主婦層には嫌われています。クリック&モルタルが手がける、という前提付きですが、オンラインスーパーはこれから伸びる、と思いますよ。ただ同様な展開をコンビニが手がけても恐らくは無理でしょう。事実撤退例もありました。

Q9:他に典型的な失敗例はありますか(カード会社:39才女性)

A:直接的な販売以外の事例での撤退例は沢山あります。例えば商社の人が思いついて始めた「女性の声を活かす商品開発サイト」などは、コンセプトが2周遅れ位で、すぐに撤退してしまいました。また家電メーカーが手がけていた同様の「消費者との共同商品開発サイト」も昨年サイトを閉鎖しています。

 ネットらしいビジネスモデルではありましたが「商品比較サイト」の撤退例もあります。収益源をどこに求めるか、といった理由もありますが、結局「比較してどうするのか」「店舗ロイヤルティとどう結びつけるのか」といった内容が詰められていなかったように思います。第3者型のこれらの情報仲介サイトはもっともネットらしいモデルではありますが、それでも成功例は数えるほどといっていいでしょう。

Q10:結局のところ成功要件、失敗要件とは何なのでしょうか(アパレルメーカー:53才男性)

A:これについては図表1(略)をみてください。4つの要素に分けています。最も重要なものはAの「戦略・マーケティング」です。失敗例の多くはこの基本を間違えています。あとはケースバイケースですがCのネット理解が低いという事例も散見されます。また大企業特有の失敗の構図としてはBの「体質・カルチャー」Dの「人材」といったところなのでしょう。結局失敗にネット特有の理由もありますが、ビジネスの本質は変わらない、という一面を忘れてはいけません。



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