サイバービジネス関連寄稿

―中小企業のホームページ活用―
商品特性を活かしたウェブページデザインで差別化を図る:サノヤ酒店ー

近代中小企業:99.7(B1−126)


■最近は優れた「中小電子商店」が目立つようになってきた。こうした実績のある中小電子商店には1つの共通のパターンがある。手作り風の親しみやすいページデザイン、一種の泥臭さのアピール、情報量の多いトップページ構成、顧客との十分な情報交流の仕組みの確立といった点である。これが結果的に大企業ホームページとの差別化効果を生み、消費者の支持をかちえている。この「成功パターン」を踏襲する例が目立つ中、あえて独自路線を歩み、群を抜いたデザインレベルで勝負している中小企業がある。今回はこの例を紹介しよう。



サノヤ酒店のウェブページノウハウ

 枚方で代々酒屋を営むサノヤ酒店がインターネットに「酒飲みの酒飲みによる酒飲みのためのホームページ」を作ったのは96年4月である。酒小売免許の規制緩和が進む中で、酒屋業界はサバイバル競争に突入した。多くの酒店はコンビニ等に業態転換をしたが、フランチャイズの仕組みに取り込まれることに抵抗感を覚えるものも多い。
 サノヤ酒店もまさにそうで、独自での生き残りの道を模索し、こうして出た結論が「地酒の店への業態転換」である。通常酒店ではビール等の販売比率が5割を越え、日本酒のシェアは15%程度である。地酒専門店として成立させるためには、多くの品揃えが必要になる。

 その販売方法には2通りあって、1つは客へのアピールとして「幻の地酒や話題の酒」を求める飲食店を顧客とする方法。もう1つが一般消費者を顧客とする方法だ。サノヤ酒店が選んだのは後者である。有名地酒や幻の酒といった名前で売る酒は売り手市場で取引が難しく、一方「無名だが良い酒」は買い手市場で取引が簡単であったという事情が背景にある。「地酒専門店」「無名の酒の販売」「一般消費者対象」となったとき、インターネットに適性があるのではないか、と考えたのが店主の佐野吾郎氏だ。

 昭和41年生まれの同氏はコンピュータソフトの開発をしており、25才の時に吟醸酒と運命的な出会いをして、サラリーマンを止め家業を継いだという経歴の持ち主だ。 
 サノヤ酒店のホームページはその優れたデザイン性に特色がある。金をかけた大企業のホームページに全くひけを取らない水準の高さだ。商品特性を考慮したデザインという点からみれば、むしろ日本でも有数のレベルであろう。

 同社のホームページにアクセスするとまずはエントランス画面があらわれる。入り口のボタンを押して中に入ると「初めての方はこちらから」という店の主張や特徴に関する前書きのページが続く。さらにクリックしてやっと商品紹介のメインページに到達する。通常の商業サイトの「常識」からすると、これはかなり変則だ。最初にアクセスするトップページにはできるだけ情報を詰め込む、商品に至るナビゲーションは最短にするというのが、売れるためのノウハウであるからだ。あのアマゾンもそうであるし、多くの日本の中小店もこの「トップページ詰め込み方式」「最短ナビゲーション方式」を踏襲している。

 佐野氏の考えは異なる。「素早く目的を果たせるデザインも重要だが、無名の地酒の場合は買いたい気を起こしてもらうためのトリックが必要である」という。まず店の紹介や買い物の仕方等の前文を読んでもらい、そこからよりリラックスした形で商品画面に進んでもらう。「先に進むのが苦」であるのではなく「次はどんな画面が出てくるのだろう」という気分で散策ができるページデザインが同氏の考える「良いホームページ」なのだ。
 黒を基調としたトーンも特徴の1つで、黒は地酒をより効果的に表現する色として高い潜在力を持っているという判断がある。「無名だがおいしい酒」を販売するためにはデザインの力は重要であるというのが佐野氏の基本的な考え方なのだ。無名というハンディを克服するために、ページデザイン面でも地酒の良さを演出する必要があるというわけだ。

 デザインは実は専門のデザイナーに一部依頼している。ウェブデザイン界でも評価の高いデザイナーだ。ウェブ上で出会い、実際に会って互いに意気投合したこと、コアとなるページ部分だけ依頼したことで、専門家の手が入っているとはいえ、当初予算の範囲内で収まったとのことだ。中小企業であっても優れたプロの手を上手に借りた事例でもある。

 同社のホームページの優れた点はデザイン面だけではない。こだわりの品揃え方針、顧客とのコミュニケーションの形、販売方法、情報提供の形等は「売れるウェブショップ」の方程式をきちんと踏襲している。それに加え、デザインレベルの高さが大きな差別化のポイントとなっているということなのだ。

 後発の中小企業に向けての佐野氏のアドバイスとは「デザインだけで売れるということはなく、奇麗なデザインである必要はないが、特殊性のある商品の場合は、特徴的なページデザインは大きな差別化のポイントになる」「多くの中小企業は初期投資、ランニングコストがかからない分、実益もなく大した出費もないというレベルに甘んじている。積極的な運営もしなければ撤退もしないという態度ではなく本腰を入れてこそ、利用者メリットになるというものだ。
 デザインへのこだわりとなると、中小企業にとっては敷居が高いように思われがちだが、良い出会いと店づくりへのこだわりがあれば、低コストで高い差別化効果を狙うことも不可能ではない。そんな参考事例と言えるだろう。



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