サイバービジネス関連寄稿

―中小企業のホームページ活用―
経験と人脈、異色の熟年ベンチャーのウェブノウハウー

近代中小企業:99.8(B1−127)


■旅行は最もインターネットに適した分野だ。通産省の予想では、2003年には9000億円程度と、インターネットビジネスの中では最大のマーケットとなることが確実視されている。



旅行業界のマッチングビジネスで先行するトラベルスクェア

 だが業界を取り巻く環境は厳しい。98年4月時点で運輸省に登録している旅行業者の数は1種、2種合わせて10976。3年前のピーク時に比べると1945社も減っている。中小の旅行業者には極めて厳しい時代だ。
 一方大手も問題を抱えている。都心の一等地に店舗を抱え、海外旅行の選択に不可欠なパンフレット代には業界全体で年間1千億円もかけている。高コストなビジネスの仕組みから脱皮できず、構造不況業種に陥ろうとしている。
 インターネットを利用すれば、商品の横断的な検索や比較が随意に可能となる。高いパンフレットや都心の店舗も不要だ。ビジネスの構造が根本的に変わる可能性を秘めている。
ここに参入したベンチャー企業の例を紹介しよう。

 「トラベルスクェア」はネット上で海外ツアー情報の検索ができるホームページだ。当初は情報提供に留まっていたが、今では旅行の申し込みや支払いもホームページから可能である。扱い商品もパッケージツアー、格安航空券、海外土産物の取り扱いと広がり、ネット上の総合旅行会社の地位を獲得しつつあるベンチャー企業だ。
 このビジネスを始めたのが、加藤弘氏である。加藤氏は30年間JTBに勤め、その後独立したいわば「熟年ベンチャー」だ。インターネット界では、学生や20〜30代の起業家が目立ち、口の悪い人は「ベンチャーキッズ」と呼んでいる位だ。
 こうした中では加藤氏は異色の存在だ。この日本では若さは必ずしも社会的評価にはつながらず、資金調達には苦労することも多い。この点、経験や人脈もあり、円熟した印象を取引先にも与えることができる「熟年ベンチャー」の可能性は決して少ないものではない。加藤氏はまさにその典型で、99年3月期には売上10億に達し、今のところ順調だ。その成功要件をみてみよう。

1)早く動く;昨年になって大手旅行代理店はインターネット店舗を続々開設した。だが加藤氏が動き始めたのははるか前で、会社設立は97年2月だ。インターネット人口が全人口の1割になれば、口コミで市場は伸びていくという読みがあり、その前にビジネスを立ち上げようとする狙いがあった。
 インターネットでの成功法則の1つは「早いもの勝ち」である。何故ならネットの1年は7年に相当すると言われており、この間の経験の差は大きい。しかも早くブランドを浸透させたものが勝者となるだけに、この先行した動きがやはり大きかった。

2)大手を上手く利用する;当初誰も見向きもしなかったこのビジネス構想になぜか NTTが賛同してくれた。エンドユーザーには絶対評価されるという自信がいわばテコの原理となり、大手を動かしたわけだ。結果的に技術面、販促支援やPR面で大手のバックアップは大きな力となった。今でこそNTTとの関係は薄くなっているが、ビジネスの生成期にはその知名度は最大の武器となる。「使えるところは上手く使い、一方で自立の道を目指す」(加藤氏)ということなのだ。

3)年の功〔経験と人脈);これは加藤氏自身の言葉である。業界の強みも弱点も熟知し、一方で人脈も豊富だ。これが最大の武器となった。通常のベンチャーと異なり、同社の株主は企業ではない。加藤氏の人脈による友人・知人がいわばポケットマネーを出資している。中立の立場を保持すれば、旅行情報を提供してくれる企業も拡大する。情報の品揃えがポイントのこのビジネスではこれも大きな決め手である。

4)オープンであること;大手JTBもインターネット店舗を展開しているが、会員制でしかも入会金や会費を徴収する。これでは会員の増加には限界がある。これに対しトラベルスクェアは全くオープンだ。総顧客数の勝負となるインターネットビジネスではオープンな顧客獲得の仕組みが不可欠なのである。

5)きちんとした情報を伝える;最大の差別化はこの点だ。消費者の目からみた欲しい情報をきちんと伝える。トラベルスクエアでは、パッケージツアーで利用される1600のホテルについて、1年かかり現地から情報を集め、写真、設備、部屋、食事等全て公開している。この情報は著作権を所有しており、いわばこれが最大の財産でもある。コンテンツ面でのオリジナリティを持ち、消費者の欲しい情報をきちんと提供する。これもインターネットビジネスの成功法則の1つなのだ。

6)業者、消費者双方へのメリット還元;トラベルスクェアは既存の旅行代理店と競合するものではない。旅行業者にとっては加藤氏のホームページは新しいチャネルの1つであり、そこに情報を提供し成約すれば、通常より経費が削減された形で販売につながる。 一方で消費者にとっての利便性は明らかだ。いつでも簡単に旅行情報が検索でき、十分に比較した上で申し込むことができる。業者、消費者双方にとってのメリットがあるシステムをつなぐいわばブリッジ機能を果たしているわけだ。結局これが「社会にも役立つ大義名分」となりこのビジネスを支えている。またこうした「単なる利益追求でなく、大義名分のある仕事をすれば自然と色々な人が手伝ってくれる」(加藤氏)のだそうで、この「楽観論」も「年の功」の1つなのだろう。

 旅行等のサービス商品は特定ブランドを持つ大手企業よりも、むしろ中立的に商品を扱える企業の方がインターネットでは可能性がある。この情報収集の仕組みとエンドユーザーの支持さえかち得れば、中小企業といえども、大手企業に互してビジネスチャンスを得ることができる。そんな参考例と言えるだろう。




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