●過去5年間は何だったのか
2000年になり、やっとインターネットビジネスが立ち上がってきた。とはいえ、アメリカであのアマゾンが店を開いたのは1995年だ。日本でも同年9月にはネット上に230の店が存在した。スタート時期は日米ともにそう差はない。だがこの5年間の成果の差は大きい。一体日本での過去5年間は何だったのかということだ。
総括してみると、次のようなことになるだろう。
・典型的日本型大企業は苦戦した
・大企業でも「変わり者」のところはそこそこ頑張った。
・中小・個人企業は水を得た魚のように生き生き活躍した。
最近日本的EC(電子商取引)ということがしきりに叫ばれる。その内容は携帯電話に代表されるモバイルとコンビニエンスストア等の高密度な拠点を活用する形態だ。だが中小企業の活躍も日本的ECの1つの特徴だ。彼らの多くはパパママストアの体制で、トップクラスで年商数億円のレベルに到達しようとしている。その成長性に目をつけ、ベンチャーキャピタルが資本投下するような事態も出現した。ネットの世界では中小企業は決して弱者ではなく、ネットの世界のルール「スモールイズスマート」(小さいことこそ賢い)を謳歌している。
一方、過去5年のECで成果をあげた大企業の多くは「変わり者」だ。そこには次のような条件がある。
・組織がフラットで、現場担当者に権限が委譲されている(ヤマト運輸等が該当する)
・愚直な顧客志向を展開する(文具オフィス用品宅配のアスクル等が該当する)
・新規事業への並々ならぬ熱意があり、そこに生き残りの道を求める(日立造船の展開している旅行サイト「旅の窓口」などが該当する)
・既存ビジネスとの「共食い」を恐れず、ネット事業の拡大と企業全体の「インターネット傾斜」を経営判断する(リクルート等が該当する)
逆に言えば、成果をあげなかった多くの大企業はこれらの条件に合致していない。少なくともこれまでは、日本的システムとインターネットビジネスとの相性は限りなく悪かったのだ。
こうした「変わり者」の企業、そして5年間コツコツ努力し、消費者の高い支持を勝ち得た中小企業の事例、そしてネットで苦戦した大企業の事例を分析すれば、おのずとネットでの成功要件は抽出される。
●条件1:インターネットらしいモデルであるか
当たり前のようだが、これが最大の条件である。過去の日本のECの歴史で、実はインターネット的なビジネスモデルは数少ない。その多くは「実店舗」のネット版(専門店、ショッピングセンター形式のモール等)に過ぎなかった。昨年後半あたりから、オークション、逆オークションといったネットならでははのモデルも登場。一方で日本最大のモールに成長した楽天も、当初はまったく「インターネット的」ではなかったが、店舗数が3000店という途方もない数になるにつれ、実店舗では生み出せない新しい価値を提供し始めた。
中小企業の「インターネットらしさ」とは「親切・丁寧・迅速・ハイタッチ」をe-mailを駆使して行うことだ。結果的に対面販売よりはるかにレベルの高い販売形態を提供できるようになり、それが顧客の圧倒的な支持を生み出した。
●条件2:ネットのオキテを理解しているか
ネットには厳然たるオキテがある。「消費者が偉い」「顧客が主導権を持つ」ということだ。1998年に顧客サイドが価格決定権を持つ「逆オークションモデル」(アメリカのpricelineが代表例)が登場したあたりから、ネットの世界は一気に顧客主導モデル(バイヤードリブンという)に突入した。
ここでは従来の常識は通用しない。価格を含め、購買プロセスのあらゆる場面で、消費者が主導権を持つ。結果的にリアルの世界の売り方や営業が実は「結構嘘っぽい」ということに消費者は気づき始めた。情報が少なく、かつサービスレベルの低い百貨店の対面販売、提案もあまりなくただハンコをもらうことだけに意欲を燃やす、金融や自動車販売のあり方。こうした売り方の弱点が顧客に見透かされるようになってしまった。結果的にEC における顧客満足度のレベルは、実店舗に比べはるかに高くなり、壮絶な顧客志向の戦いに勝たねば生き残れないようなビジネスモデルが主流となりはじめた。
●条件3:非常識を常識にする
およそネットの世界では従来の常識が通用しない。「価格まで消費者が決める」「仕入れ値以下で販売する;ビロウコストモデルという」といったおよそ非常識なビジネスモデルが続々出現。おまけに、人類最古の経済行為であるはずの「物々交換」などは、IT技術を駆使したネットでの最先端のビジネスモデルとして登場している。従来のノウハウ、常識が通用しない世界だ、ということを理解する必要がある。
●条件4:インターネット的スピードについていけるか
ネットの世界のルールは1にスピード、2にスピードだ。ドッグイヤーのネットでは1年は7年に相当する。1ヶ月の判断遅れは1年近い遅れに相当してしまう。
このことはネットビジネスの形にも影響を与えている。商品選びから注文までスムースに進み、一方で商品が3日後に届くのでは遅すぎるというわけだ。結果的に当日配送、あるいは自転車で1時間以内に配達といったサービスが続々登場。
一方日本での大企業失敗例の理由はほとんどはここになる。スピードが早いこととは結果論であり、その背景には意思決定の早さ、担当者への権限委譲、等さまざまな条件がある。おまけにECの失敗理由の1つは「内政問題」(既存事業部とネット部門とのあつれき)なのだが、ここでもたもたすればスピードダウンにつながってしまう。一方で内政問題をクリアするには、ネット事業の明確な位置づけが必要で、これはトップの判断事項だ。
もっとも最近株価低落が伝えられる「ネット企業」も「ネットスピード経営」を標榜していた。ということは単なる拙速とは異なり、顧客志向を前提としての、顧客感度のよさ、対応の早さなどが前提になるということはとは言うまでもない。
●条件5:実店舗との差別化
ネットでの売り方は実店舗とは大きく異なる。そこでは全く新しい価値が提案できる。単に商品を並べるだけでなく、分厚い情報、あるいはコミュニティ機能等の提供が可能だ。また4点セットと言われる「検索、比較、格付け、リコメンデーション」といった機能はIT 技術を駆使したネットならではの仕掛けだ。結果的に購買時点での情報は実店舗に比べはるかに充実してくる。こうした特徴を理解しているかどうかが成否の分かれ目なのだ。
●条件6:購買行動への理解
日本企業の多くはネット上の購買行動をあまり理解していない。それはリアルの世界とは大きく異なる。まず回遊性が低い。これが通常の百貨店であれば、「せっかく来たのだから食品売り場にもよっていこう」ということが起こるが、ネットではめったに起こらない。さらに、来店者対比購買者の比率が少ない。アマゾンのような優良店で8%、普通の店では2%以下だろう。ということは、この比率を高める努力も必要だが、買わないで帰ってしまう98%の人の満足度をいかに高めるか、ということがポイントになる。情報やコミュニティ等を重視する理由の1つはここにある。
●条件7:全てがブランド、ブランドが全て
ネットではブランドが重要だ。これをe-ブランディングという。これは次の2つの要素から構成される。
・ネット上での知名度を高める(アウェアネスの確保という)
・ネット上での存在価値を高める
つまりただ名前を知ってもらうということばかりでなく、実際に利用してみて「ああよかった、また利用してみよう」と思わせることも含まれる。故にネットでは全てがブランド、ブランドが全てなのだ。このブランデイングはもはや、オンラインの世界だけでは展開できなくなってきている。オフラインの従来のマスメディアの力を利用しないとブランド形成が難しい時代がやってきた。
●条件8:人の顔が見えるか
逆説的のようだが、ネットでの成功店には必ず1つの共通要因がある。「オヌシ、できるな」と思わせる人の気配があるのだ。もちろんこれが誰かはわからないが、アマゾンにしても、e-bayにしても、知恵者の影が見え隠れする。日本の中小店の評判がいいのも実はここに理由がある。店主が登場し、こだわりやうんちくを傾ける。結果的にネットでは「何をするか」でなく、「誰が何をしたいのか」ということば明確なサイトが評判を勝ち得ている。結局はITを駆使した情報技術と人間の知恵との調和が必要な世界なのだ。
●条件9:総合力があるか
ネットでは次の6条件が必要だ。
・店のコンセプト、特徴は明快か
・インターネットらしさを何で表現しているか
・ブランド価値はあるか
・ユーザビリティ(店の使いやすさ)のレベルは高いか
・バックオフィス(配送、決済、コールセンターなど顧客の目に見えないが重要な部分)は充実しているか
・マーチャンダイジング(品そろえ)方針は明快か
この6条件が満たされて初めて顧客満足度の高いサイトが形成される。日本では大企業サイトは結構イビツ、逆に中小企業サイトはこつぶながら、これらの条件を満たしていることが多い。
●条件10:トップマネジメントの理解は十分か
結局のところ最大の条件はこれである。ネットビジネスの成否は全てここにかかっている。典型的な失敗条件とは従来のドブ板営業で偉くなってきたトップがネットビジネスを管轄する場合だ。消費者が偉いネットではどぶ板営業、プレッシャーセールスのノウハウは通用しない。インターネット問題はトップ問題であるのだ。 |