サイバービジネス関連寄稿

クリック&モルタルはe-コマースの勝ち組となるのか

B-161)〔Internet Magazine 00.09)



e-コマースにおける勝ち組は誰か、議論がにぎやかになってきた。この「勝ち残リレース」には2種類のプレーヤーが参加している。1つはオンライン専業グループだ。もう1つは、「クリック&モルタル」と言われる、実店舗兼業のグループだ。なお前者をピュアプレーヤー、あるいはネットジェネ企業と呼ぶこともある。ピュアプレーヤーとはネットだけを基盤とするという意味、ネットジェネとは「ネット生まれ」という意味だ。
「クリック&モルタル」とは、オンライン(クリック)と実店舗(モルタル)を差す通称で、厳密にはマルチチャネル企業と呼ばれることが多い。クリック&モルタルとしてとらえると、例えばカタログ通販企業などが対象外になってくるからだ。したがって本稿では「
オンライン専業」対「マルチチャネル」としてみていくことにする。



●ネットでの勢力争いの構図

 e-コマースにかかわる店が本格的に登場したのは、1995年あたりからだ。あのアマゾン、あるいはe-bayもこの年生まれ。その後3年位は、こうしたネット生まれの企業がネットビジネス界の寵児であった。例えばアマゾンの登場は、従来の小売業関係者からみれば、驚異的な出来事であったのだ。そこでは店舗、什器、店員、倉庫、駐車場は不要。それまでの書店の品そろえ数は大型店でも50万点といったところ。それがアマゾンは当初100万点からスタートした。品そろえが膨大で、かつ24時間営業、立地戦略も必要なし。この「持たざる経営」がインターネットの初期のビジネスモデルであったことは間違いない。在庫や物流を持たない「身軽な経営」こそe-コマースの真骨頂である、との議論がまん延した。

 さらに、フォローの風となったのが、ネットユーザーの肩入れだ。実は「ネット専業」と「マルチチャネル」のどちらが有利か、という議論は、ネットビジネスの初期段階から絶えることなく続いている。当初の解釈は「ネットユーザーは自分たちのフィールドで生まれ育ったネットジェネ企業をひいきにする」という「身びいき説」が有力だったのだ。確かにこれも一理ある。初期のネットユーザーとは、パソコンやインターネットというものを熟知した、いわば「プロの消費者」であった。結果的に、ネットの特質を見抜いて、果敢に参入してきたネット生まれのベンチャー企業を内心応援するような態度があったことも否定できない。

 ところが事情が一変し始めたのが、1998年ころからである。アマゾンのライバル、バーンズ&ノーブル(以下B&N)は、2年遅れでネットに参入してきた典型的なマルチチャネル企業だ。500店を越える実店舗の書店のチェーンを展開している。このB&Nは、98年11月に、それまでアマゾンが書籍調達を依存していた、取次業、イングラム・ブック・グループを買収してしまう。結果的にアマゾンは自前の巨大な物流センターを作らざるを得なくなったのだ。もちろん他にも理由はある。商品を安定的にかつ迅速に顧客のもとに届けるには、自前の物流システムをもたざるを得ないという理由もあった。利便性を旨とするネットにおいて、物流面で自前のコントロールが利かないということは、ネットの成功法則「インターネットスピード」が維持できないということだ。注文までは迅速でも、届くのが遅ければ、顧客満足は低下し、ビジネスモデルとしてはイビツなものになってしまう。いわば、ネットにおける壮絶な「顧客満足獲得争い」が、オンライン専業企業に、方針転換を余儀なくさせたのだ。このアマゾンの方針転換は賛否両論である。結果的にコストは膨らみ、永遠の赤字体質を余儀なくされている。一方で、顧客満足はさらに高まり、リピーター比率8割という途方もない水準を維持しているのも事実なのだ。

 だがこのあたりから、オンライン専業対マルチチャネルの戦いの構図は変わってくる。ネットでの生き残りを目指す限り、専業企業といえども「地上のインターフェースが必要」というのが、いわば常識化しはじめた。

●マルチチャネル企業はなぜ有利なのか
 ここでマルチチャネルの数々のプレーヤーが登場する。マルチチャネルの代表例は、アメリカではB&Nなどの店舗小売業、またカタログ通販の雄、ランズエンド、L.L.Beanといった企業も該当する。日本では、書店の紀伊国屋、パソコン店のソフマップなどが代表例だ。またオンライントレーディングの分野では、マネックスは専業、野村証券はマルチチャネルである。

 1999年のアメリカのe-リテイリングの成長要因について、e-リテイラーの団体である「Shop.org」はその最新レポート「The State of Online Retailing 3.0」で次の点を指摘している。「ユーザー層における女性比率増大」「マルチチャネル企業の健闘」「新しいビジネスモデルの進出」。つまりマルチチャネル企業の健闘そのものが、e-コマースの成長を押し上げる働きをしたということなのだ。

 その理由として同レポートでは次の点を指摘する。

・顧客獲得コストが低い
・物流費が安い

 例えば、顧客獲得コストは1人あたり専業企業では82ドル、一方マルチチャネルではわずか12ドル。一方物流コストはカタログ通販を基盤とするマルチチャネル企業が最も安く、専業企業の18%程度。店舗小売業に比べても43%程度となっている。
 今やネットでは「フロント」(客に見える部分:店がまえ、商品等)での戦いはほぼ終了し、よりサービス向上を目指すには「バックオフィス」(客の目には見えないが、重要な部分:決済、配送、コールセンター等)の戦いに投入し始めたのだ。こうなってくると、既存のブランド、商品、顧客データベース、物流システム等インフラを当初から持つ企業の有利さが前面に出るということなわけだ。

●日本のマルチチャネル企業の動向 
 もっともこうした状況はいずれもアメリカの話。日本ではマルチチャネル企業、とりわけ既存小売業は実に精彩のない展開をしている。唯一の例外は、カタログ通販での実績を持つアスクル、あるいは千趣会の頑張りが目立つほかは、百貨店、スーパーなどは全く微々たる売り上げしかあげていない。しかし、今後はユニクロ等の専門店のネットへの本格参入が予定されており、戦いのひぶたがやっと切られたというところだろう



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