当時最も期待されたのが、今で言う「リッチメディア」だ。リッチメディアとは、図形、写真、音声、CG(コンピュータグラフィック〕等を駆使した情報のことで、デジタルメディアあるいはマルチメディアとも言う。音、動きなどがふんだんにある形だ。
例えば、スカートを売るのであれば、風に舞って「ヒラヒラする」情景が目に見える。バーチャル百貨店であれば、きれいなアニメのお姉さんが画面に登場し、「いらっしゃいませ」などと言ってくれる、といった具合。
当時は、これこそが「インターネットらしい」などと言われたものである。ところが、実際に消費者に見てもらうと、リアリストの多い主婦などは「馬鹿にするな」と怒っていた。どうも、技術者の考えるネットの進化方向と、消費者の求める価値には当時からギャップがあった。
もちろん、こうした試みはその後も続く。「3次元仮想空間」を実現したバーチャルモールであるとか、「3次元の広告スペース」といったものがめげることなく続々登場。ただ話題にはなったが、成果はさっぱりであった。これまた主婦に見せると、「こんな真似事の空間を歩き回るより、近所の商店街を歩いた方がはるかに楽しい」とバッサリ切り捨てられた。
これらの事実から、リッチメディア、あるいはマルチメディア技術の有望性を否定するつもりはない。だがどうもECとの相性の悪さは否定できないのだ。
一体その理由は何だろう。最も一般的な解釈は、「まだ発展途上であり、今のユーザー環境では負担が多い」というものだ。これらの立場を取る人は、ネットでの情報表現形態は、いずれリッチメディア主体になる、とかなり強く信じている。今は進化の途上というわけだ。
違う解釈をする一派もある。ネットでの情報の本質とは「言葉」あるいは「文字」でないか、という立場を取る。個人的にはこちらに賛成だ。
ネットで売れている店には共通法則がある。1つは極めて「スティッキー」であるということ。スティッキーとは「ペタペタした」という意味で、昨年のネットでの流行語である。ウェブをペタペタさせておけばユーザーはまた戻ってくる。このペタペタの構成要素は3つあって、充実したコマース、分厚いコンテンツ(情報)、楽しいコミュニティであるという「3つのC説」が広く浸透した。結果的にウェブをスティッキーにするには、文字が重要で、1度見れば飽きることが多い、リッチメディアはあまり貢献しないぞ、という経験則が広まった。
さらには「実店舗との差別化説」もある。実店舗では販売時点で得られる情報には量的な限界がある。ところがネットではそれこそ無限に提供可能だ。これこそがネットならではの付加価値だ、ということで「購買時点での分厚い情報の添付」がノウハウとして浸透する。この「分厚さの演出」には、リッチメディアは文字情報にはかなわないのだ。
さらにはユーザビリティ(使いやすさ)からの議論もある。米国でのこの分野の大家はJacob Nielsenという人だが、彼に言わせると、使いにくい店とは「グラフィック過多、3Dイメージ多用、プラグイン多用」と総括される。グラフィックはミニマムに、リッチメディア的な技術は、「ユーザーの理解を助ける場合にのみ用いよ」と主張する。彼はシンプルさこそベストという主張の持ち主なのだ。
もちろん、リッチメディアが活用できる場面も沢山有る。住宅の間取りやリフォームなどの仮想体験などは最適だ。だがそれを進化の方向ととらえるのは、リスクもある、という認識も必要だろう。
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