●生活の規制緩和
最も大きい影響はこれだろう。ITの発展は、時空間の壁を消失させる。在宅で仕事をしようと、公園で仕事をしようと自由だ。結果的に満員電車で通勤する必要もなし。堅苦しい背広を着て都心のオフィスに向かう必要もない。ネット社会のライフスタイルのキーワードは「ゴーイング・カジュアル」(カジュアルになっていくこと)なのだ。こうした事態は仕事の場ばかりではない。学校、教育、行政サービス等の面でも、基本的には事情は同じだ。形式、物理的制約、時間的な制限といったものの意味は一層低減しそうだ。
●二面性
例えば、生活がカジュアルになっていくとファッションではジーンズとTシャツしか売れないか、というとこれがそうでもない。確かにジーンズとTシャツはネット社会の定番ファッションだ。しかし人間はそう単純ではない。たまにはドレスアップをしたい、パリっとしたスーツを着こなし、「できるビジネスマン像」を演じたい、というニーズがある。カジュアルな社会の進展は逆に相反する場面の重要性を浮き彫りにするだろう。メリハリのあるライフスタイルやオンとオフの演出が明確なライフスタイルが進展することだろう。
●働き方の多様化とオフィスの意味の変化
この行方は、一足先に働き方のスタイルが変わったアメリカの動向から占うこともできる。働き方が多様化することにより、会社の仕組みがまず変わってきた。オフィスという概念から「ホテリング」という概念に変わったケースもある。在宅勤務が進むと、物理的な拠点としての事務所の役割が変わってくるのだ。どうしても出社したい人はホテルの予約と同様に、あらかじめオフィス使用の予約を入れる。これが「ホテリングシステム」だ。社員にはその日使用する専用のデスクとコンピュータが割り当てられる。社員専用のものといえば、ロッカー1つ。ここから自分専用の私物を持ち出し、その日のデスクを飾ったりする。
では皆が皆、環境の良いところに住居を構え、在宅勤務を行うと、生産性があがるのか、というと話はそんなに簡単ではない。デザイナーといったクリエイティブな職業の人にとっては、環境としての「都会の雑踏」が不可欠だ、という議論も起こってきたのだ。さらには、在宅勤務ばかりであると、やはり意志疎通がままならない事態も出現した。結局、フェースツーフェースの場面をいかに上手く組み合わせるか、といった模索も続いている。IT社会はなかなか複雑なのだ。
●選択肢の増加
ITの代表選手はやはりインターネットなどのネットワークだ。既に人間の選択能力を越える膨大な情報がネット上に存在する。最も影響が大きいのは、商業利用の場面だろう。例えば、ネット上の書店の品揃え数は数百万点単位だ。一方実店舗の書店では大規模な店で数十万点というところだ。どこそこに大規模モールが開店したなどという記事を目にするが、テナント数は多くて100店程度。これが楽天のようなバーチャルモールでは既に4千店を越えている。IT技術のおかげで、私たちは、従来では考えられなかった規模の「選択の幅」を手にするようになったのだ。このことは基本的には消費者メリットだ。だが一方で様々な課題を生みだしている。膨大な情報からどうやって選ぶのか、ということだ。自らが、意見、選択眼を持っていなければ情報洪水の中にうずもれてしまう。IT社会とは、必然的に「意見を持つ個人」「選択眼のある生活者」でないと、少々苦しい社会でもある
●顧客主導
e-コマースがリアルのコマースに与えた影響は様々だが、最も大きいのはこれである。ネットでは客が偉いのだ。価格を含め買い手が決定権を持つようなモデルが続々登場。様々な選択肢の中から、主体的に選ぶ、というのがネットでの基本的な購買行動として定着しつつある。結果的に今ネットでは「壮絶な顧客満足獲得競争」が起こっているのだ。難しく言うと、これは「バイヤードリブン」(顧客が主導権を持つ)「コンシューマーセントリック」(消費者中心)などと呼ばれている。
●付加価値化と効率化
IT技術の果たす役割とは1つには効率化への寄与である。流通の無駄は削減され、生産性も向上するだろう。無理、無駄、矛盾、不満の低減はIT技術の得意技だ。一方で情報技術の発展は、消費者への新たな付加価値の提供を意味している。パーソナルな対応やハイタッチなサービスの提供が人間の能力に依存することなく可能となる。
●ヒューマンタッチ
e-コマースの成功法則の1つにおもしろいものがある。「ネットで生身の人間に出会うと人は感動する」というものだ。生身の人間に出会うことは無理なので、これは「ヒューマンタッチ」と置き換えることができる。その代表例がe-メールである。多くの企業は顧客からのメールの問い合わせに対し、オートリスポンダーと呼ばれる自動応答のシステムなどを使っている。注文すれば自動的にサンキューメールが届くようなシステムである。ここを「手書き」かつ「個人向け」のメールで対応すれば、印象も強く、顧客は感動する。ネットの成功店では、かなり大規模な店でも「手書きメール」にこだわっているところがあるのだ。日本の中小企業のインターネットショップで頑張っているところの共通のキーワードは「親切・丁寧・迅速・ハイタッチ」で、対面販売をしのく心のこもったサービスがモットーだ。
いくらIT社会が進展しようと、人の基本ニーズは変わらない。ビジネスの場でいえば「ヒューマンタッチ」はその根幹である。ここを間違えると、ITという言葉だけに振り回されることになりかねないのだ。
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