サイバービジネス関連寄稿

オバサン的IT生活が始まった


「ITは21世紀を切り開く力だ」、「産業革命以来の大変革期」だ、「多様な情報と個性の沸き立つ知恵の社会への飛躍」だ、なんて大上段に言われてしまうと、いささか困ってしまう。大体この不況はIT不況だと言われているし、IT産業はリストラの真っ盛り。むしろ景気の足を引っ張っている。「知恵の沸き立つ社会」はまだまだ先の話である。
 だが家庭や街角、結構身近なところで変化の兆しが出てきた。



●ITオバサン急増中!

 50代以上の中高年女性がIT分野に進出しはじめた。どうもきっかけの1つは、行政主催の「IT講習会」らしい。この話は前回も書いたので、省略するが、そもそも、この構想はe-Japan推進に向けての目玉の1つとされたもの。当初計画は「IT講習券」を配付するというものであったが、「銭湯の入浴券じゃあるまいし」と笑われ、おまけに「地域振興券」の失敗イメージもつきまとい「講習会」に形を変えた、という経緯がある。
 当初は「なんと税金のむだ遣いだろう!」と思ったものだが、なかなかどうして。行政の行うIT政策の中ではヒット商品である。

 とあるファミリーレストランで50代、60代とおぼしき中高年女性のグループと隣り合わせになった。どうやらIT講習会の帰りであったらしい。会話の内容はかなり専門的だ。「ワードは少しは使えるようになったワ。エクセルはあまり必要ないわネ」などと話していた。ワードもエクセルもビジネスマンにはなじみが深いが、中高年女性に縁が深いとはお世辞にも言えない代物だったのだ。

 かくしてIT講習会の効果もあり「普通のオバサン」が続々ITの世界に参入し始めた。
 彼女達の関心はほぼ「メール」である。「ショッピング」などは優先度がかなり低い。ボランティア、趣味の集り、等もともとあるネットワークにメールが見事にあてはまるのだ。

 ちなみに「ITオバサン急増中」の「証拠」はまだまだあって、インターネットで店を経営している人たちも、最近口々に「50代以上の女性の利用が増えている」と言い始めた。「ウチの母さんが急にメールにはまりはじめて」というヤングビジネスマンも目立つ。息子達の心配の種は尽きないようで、「ウチの64才の母さんはネットでは27才に化けている」とか「出会い系サイトに出没しているわけではないだろうけど」などと言っていた。女性の年齢詐称はIT社会でははるかに大胆になる。

 いずれにせよ、ビジネスシーン主体、若年層主体であった日本のネットユーザー地図は確実に変わり始めた。これは日本のIT社会の構図を占う上で、間違いなく良い兆しだろう。「普通の人のIT革命」がそこまで来ている気配だ。

 最近知り合いになった50代後半の主婦は、「趣味はパソコン」と言っていた。ホームページで、得意料理情報、季節の花の写真、生活の雑感等を発信中。日ごろeコマースだの、企業のウエブマーケティングがどうだ、とか偉そうなことを言っているが、こういうネットの原点みたいなホームページを見ると、思わず反省してしまう。ネットビジネスなどという言葉は、かなりまやかしかもしれない。

ITオバサンのネットワークライフスタイル

 ところでオバサン世代には共通の特徴がある。人様のことをオバサンなどとは言えないトシであるが、ワタクシにとってもかなり異文化なのだ。ビジネス世界であると、例えばメールでのアポなどはものの10分で成立してしまう。互いに常時接続環境であるから、メールには「ただちに反応する」習性がついてしまったのだ。その昔、アメリカ人から「日本へメールを出すと、実に反応が遅い」と言われたことがある。これはもう昔の話。ことビジネスシーンに関しては、「メールへの返事」に対して私たちはいささか神経症になっている。

 この点オバサンネットワーカーは全然違う。メールで連絡する。返事は「じゃあ、後で電話するわ」などという感じ。その電話は待てど暮らせど鳴らなかったりする。メールでたちどころに全てを完結しなければならない、なんて意識はあまりない。こちらの方が健全であるような気がする。もう1つオカシイのは、いわゆる「差出人」「署名」がダンナの名前のママであること。変な知らない男からメールが来てるな、と思うと、奥さんの方からであったりする。私信をダンナと共有しているなんて、意外と日本の中高年世帯は円満なのかも・・

 ただ、メールを一通り使いこなせるようになると、不満が募ってくる。「もっと役に立つことに使えないの?」という疑問が生まれたのだ。「インターネットで情報が入手できる」「ショッピングも出来る」などと一通り「効能」を説明しても満足しない。、もっと実利的なメリットを期待しているのだ。およそ考えられる限りの「効能」を説明したのが、気に入って貰えたのは2つだけだった。

 まず第一は、マイTシャツの作成だ。デジカメで子供やペットの写真を撮り、パソコンで加工し、アイロンプリントでTシャツに貼り付ける。T シャツ以外にも「買い物袋」「クッション」などにも応用可能で、市販の作成キットもある。これはかなりお気に召したようで、「上達したら知りあいに1枚千円で売れるかもしれない」なんて言っている。

 彼女が最も気に入ったのは、家の中の片づけに利用する方法だ。場所ふさぎとなっているモノを次々にパソコン内に格納していく。例えば音楽CD。子供やダンナのCDが整頓されず転がっている。かなり上級者編のノウハウだが、音楽CDをパソコン用のCDに移し替える人も出現。捨てたくとも捨てられなかった古い辞書もある。これは大胆に処分して大丈夫。今や大概の辞書はネットに載っており無料で利用できる。電話帳ももはや不要だ。電話帳などは手間とコストがかかっている割には、不遇なアイテムの1つ。配った翌日には「燃えるゴミ」として出されている。これもIT化により省資源化に役立つということである。

 専用の本棚を占拠していた百科事典も今ではたった1枚のDVDになった。パソコンによる「省スペース生活」。少なくとも女の人にはこうした目に見えるメリットが必要なようだ。ただでさえモノにあふれた日本の家庭のシーンが、ITにより省スペース化される。おまけに資源節約にも役立つ。これも立派なIT革命だ。政府も企業も難しいことばかり言わずに、こうした身近なIT革命に注目すればいいのにね。

●オバサンネットワーカー増加がもたらすもの

 オバサンネットワーカーの増加は、ヘンにいびつであったネットの世界に「健全性」をもたらしそうだ。大体彼女達は、古くは「公園デビュー」などから始まり、近所づきあい、PTAなど、「円滑な対人関係の維持」のノウハウを結構持っている。これがビジネスマンコミュニティとの違いだ。もちろんビジネスマンも「会社でのサバイバル技術」はあるが、知らない人とのコミュニケーションは結構下手だったりする。少なくともオバサンメーリングリストでは、けんかはあまり起らない。

 ネットワーク社会、IT社会などという言葉の反省にも役立ちそうだ。大体「ネットスピードは7倍」とかいう言葉に私たちはあまりに躍らされていたのではないだろうか。オバサンネットワーカーと付きあうと、「そんなに急いでどうすんの?」とハタと気づくのだ。

 オバサン世代にeコマースのサイトを見てもらうとおもしろい。名だたるeコマースの名店も「ちっとも買いたいものがナイワ」であるとか「この程度なら近所の店の方がイイワ」などと切り捨てられてしまう。私たちは難しいことばかり言って、こういう単純?な反応をそもそも置き去りにしていたのではないか、と思ってしまう。ちなみに、彼女達はあの「楽天」はお気に召さないようであった。探すのが大変、検索が面倒、ということである。オバサン世代に受ける第2の楽天とは何か、を開発した人が大金持ちになれると思う。



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