連載マーケティングライフスタイル

新リッチマーケティング

商工ジャーナル:97.7(C1−01)


■アメリカで最近はやっているのが、「金持ちマーケティング」であるという。文字どおりリッチな人に焦点を当てた商売の方法を検討することなのだ。考えてみれば商売の原点ともいうべき手法である。金のある人をターゲットにした方が商売はやりやすい。



 ところで、アメリカの金持ちは、いくつかの層に分けられている。最近の調査結果によれば、「スーパーリッチ」(超金持ち)「ミドルリッチ」(まあまあの金持ち)、「マージナルリッチ」(底辺の金持ち)に分けることを勧めている。

 スーパーリッチとミドルリッチはまあ大体意味は分かる。マージナルリッチとはおかしな言葉だが、金持ち層の中でも、底辺層をさしているらしい。折角の金持ちもマージナルなどとネーミングされてしまうと、やや色が褪せるが、ターゲットとしてもっとも有望なのはこの底辺層なのだ。
 年収は大体10万ドル前後。もっとも大概は奥さんも仕事をもっているので、2人合わせれば20万ドル近い年収もざらであるという。スーパーリッチが功なり名を遂げた退職組が多いのに比べると、底辺リッチは現役だ。金はあるが時間はない。これが彼らの消費行動を規定している。
 今はやりのインターネットもスーパーリッチは見向きもしないが、底辺リッチは活用する。オンラインショッピング等の利用はほとんどがこの底辺リッチが支えていると言われている。


●日本の金持ちマーケティング

 この底辺リッチがアメリカでは新しい消費リーダーなのだ。これがビジネスのあり方に大きく影響を与え始めた。彼らの持つ特有の価値観は他の層への影響力があり、彼らをきちんとターゲットにすれば、他の層の吸引が可能なことに企業が気づき始めた。
 さて日本ではどうなのだろうか。日本でももちろん金持ちマーケティングは存在した。
百貨店の外商は、昔からお金持ちの家庭を対象に商売をしていたし、外車や宝石等の高額品も金持ち抜きには商売は成立しない。だが
「金はある」だけがそのマーケット攻略基準であったことも否定できず、売り手側の戦略もかなりワンパターンであったのだ。
 従来は

・単に価格の高い高級品を勧める
・金持ちの象徴としてのステータスシンボル(外車、宝石、高級ブランド・・)等を勧める

ことが基本で、特に工夫があったわけではない。

 アメリカではすでにこれでは通用しない金持ち層が台頭している。日本に波及するのも時間の問題とみるべきだろう。彼らの価値観にマッチした商売を行えば、金持ちであるだけに、実に魅力的なビジネスの展開も可能なのだ。そこで新しいリッチ層の価値観や消費行動をみてみよう。

・時間を金で買う
 とにかくこれが基本である。時間節約型の消費行動が目立ち、時間を金で買うことをいとわない。数々の代行サービス、グルメ料理の宅配、スーパーマーケットが行うオンラインショッピング等の利用は、アメリカでは底辺リッチが支持しているからこそ成長した。

・特有のレジャー行動
 スーパーリッチが豪華客船での世界一周旅行を楽しむのに比べると、底辺リッチは、都市型のレジャーの支持層でもある。ホテルでのエステティックサロンや全身療法施設等の(食事療法、運動療法等をトータルに行う施設)利用者も多い。

・消費の全てのプロセスの主導権を持ちたがる
 従来の金持ちとはここが違うところだ。鷹揚なスーパーリッチに比べ、口うるさい消費者である。購買の全てのプロセスで主導権を持ちがたがる。

 アメリカでは、車は必需品だが、その購入プロセスは決してスマートなものではない。契約を無理強いしたり、営業マンの知識も不十分なケースもあり、一説には「もっとも創造的でない買い物の1つ」であるという。ここに焦点を当て、底辺リッチにターゲットを絞った自動車販売業者が急成長している。オートバイテルというのがその名称で、インターネット等のネットワークを利用し、購入希望者は自分の好み、価格、ディーラー等を心ゆくまで自分で選ぶことができる。「スマートは消費者のためのスマートな車の販売」というのが、ここのキャッチフレーズでもある。無理矢理営業するのではなく、客側の主体的な選択の可能性をできるだけサポートすることで、ビジネスチャンスを広げているのだ。

・ワン&オンリーにこだわる
 ワン&オンリーとは、「そこでしかない商品」といった意味である。それは必ずしも有名である必要はなく、「知る人ぞ知る」といった位置づけだ。隠れたる名品、知られざる優良商品を探すのに、手間とコストをいとわない。

・「要説明」型商品にこだわる
 モノを買うのに、十分な説明を求める。ブランド品である、有名メーカーである、といった基準よりも、その商品を説明する十分な情報を求める。結果的に情報で納得すれば、例え有名ブランドでなくとも、購入する。

・通信販売の支持層でもある
 スーパーリッチが有名百貨店や専門店での買い物を楽しむのに比べ、底辺リッチの人たちは、通販の利用率が高い。とはいえ、アメリカの通販は日本とは異なり、高級品やこだわり品の通販も多いので、安物買いの通販とはややイメージが異なる。日常商圏では手に入りにくいもの、希望の時間どおりに入手できるものへのニーズが高い。テレビショッピングがどちらかといえば低収入層を主体にしているのに比べると、高級通販、ネットワーク通販等は底辺リッチが支持顧客である。


●新しい金持ちマーケティングをどう展開するか

 アメリカで既に台頭している底辺リッチに該当する日本のターゲットはまだ少ないだろう。だが一方でアメリカほど階層社会でない日本では、多くの消費者が、既にこの底辺リッチの志向をもっていると考えることもできる。
 従来の百貨店の外商、高級車や宝石の販売、高級住宅や別荘等の販売方法は従来の手法では行き詰まり始めた。単に高級さをアピールするばかりで、スマート志向が目立ってきた消費者との乖離が激しくなったからだ。
 一方で時間はないが金はあるといったライフスタイルは消費者としては実に魅力的でもある。新たな視点でのアプローチが望まれる。


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