連載マーケティングライフスタイル

中小企業のCRM

商工ジャーナル:03.6(C1−20)



CRMという言葉が広く使われるようになってきた。「カスタマー・リレーションシップ・マネジメント」の略語で、誤解を恐れずあえて乱暴に要約すれば、「顧客の挙動は全て把握しましょう。それを販売機会の拡大につなげましょう」ということである。従来の考え方との違いは
単なる販売履歴だけでなく、クレーム、不満、点検修理、紹介等全ての「顧客の挙動」をトータルに把握すること
・単に営業部門だけでなく、マーケティング、サービス部門が一体となり、情報を共有し、顧客を起点に迅速に行動すること
ということになる。



●CRMを取り巻く誤解

  ここ数年流行語のように使われている言葉だが、そこには大きな誤解もある。まずこの用語自体が、コンピュータシステム業界のセールス用語として登場したという背景があり、CRMといえば、何か高度なIT技術を駆使したものだ、という思い込みがある。最近ではeCRM(エレクトロニック・カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)という言葉も使われ、こちらの方は文字通り顧客データベース、インターネットのウエブを活用した営業支援等様々なITシステムをパッケージ化した、「統合基幹業務システム」としての意味合いで使われている。また最近は「顧客接点」の現場が急速にインターネットに傾斜してきているので、ネットを前提にしたCRMのあり方をeCRMとみなす解釈もある。

 だがちょっと待ってほしい。実際に日米ともにCRMあるいはeCRMを導入して「大成功」という事例はまだ多くはない。導入企業の7割は失敗という説もある。その背景には、CRMあるいはeCRMを単なる「コンピュータシステム」「IT技術」としてとらえているという弱点があるからだ。

 最近では中小・中堅企業向けのeCRM商品も提案されるようになってきた。だが同じ間違いはしてほしくない。原点に戻って、「顧客を起点に商売を考え、社内の仕組みをそれに合わせ調整する」ことをCRMととらえるべきだろう。ただそれを安定的に行うためには、システムのサポートも必要だ。これをeCRMととらえ直してみよう。

●成功と失敗の事例

 以上を前提に実際の事例を見ていこう。

<ケース1:まず優良客の「顔」を見る>
 顧客情報の収集手段といえばまずカードが代表例だ。だが導入は流行だが、顧客情報をきちんと分析している事例は少ない。その中で、シンプルな手法でまず「優良客の顔を見る」ことに留意しているのがA社だ。関東地区のスーパーで、品揃えは日用雑貨中心で、現在4店舗を展開している。
 ポイントカードを導入したのは6年前。当時は食品スーパーを中心にポイントカード導入がブームの時期であった。A社のところにも各種の売り込みが舞い込む。当初は「カードでもやろう」と言う程度の問題意識で導入した。顧客にはお勧めするものの、あまり盛り上がらない。それもそのはずで、ただ「ポイントが付きます」程度の位置づけで、チラシ、タイムセール等他の販促策とは連動もしていない。これが一変したのは、実は他店の事例を目の当たりにしたことであった。ここはポイントカードを店内販促の目玉に位置づけ、あらゆる機会をとらえ、ポイントとプロモーションを連動させる。「3倍増セール」「土日倍増セール」といった具合だ。この事例をお手本にA社もカードを販促の主役に位置づける視点に転換。これが功を奏し、1年後には、利用客に占めるカードホルダーのシェアは7割にまで上昇した。
 顧客固定化、リピーターづくりには効果があがったが、問題は折角集まった顧客情報をどう料理するかだ。確かに顧客の住所氏名、購入状況などのデータは集る。だが商圏が狭いこの地域で集ったデータをベースにDMを出しても効果があるとは思えない。そこで導入したのがデシル分析だ。デシルとは「10に分ける」といった意味で、集った顧客データを購入実績順に10の区分に分類する手法である。つまり1番上位の「デシル」が最上位顧客のグループとなる。この上位グループを徹底的に調べることで、いわゆる「優良客」のプロフィールが明らかになる。結果的にその行動パターン、購買状況等が明らかになり、より下位の「デシル」との違いが見えてくる。この分析を続けることにより、例えば、前年は第1デシルに位置していた顧客が今年最下位のデシルに移動していることなどがわかる。よくよく調べてみると、家族構成の変化、引っ越し等の理由が背景にあったりする。将来的には「購入商品との連動も見ていきたい」とのことだが、当面はひたすら「優良客の顔を見る」に焦点を絞る計画だ。優良客の中からモニターになってもらい、店に対する意見を述べてもらうといったことも実施しており、それが店とのコミュニケーションを深めるきっかけづくりにも役立っている。A社の事例は、商売の基本「お得意様づくり」にひたすら焦点をあてた例というわけだ。

<ケース2:顧客ニーズを品揃えと接客に活かす>
 B社は九州地区の中堅のホームセンターで、6店を展開。そもそもホームセンターの商売は販売員の豊富な接客知識の有無が基本だ。最近では巨大な店舗面積と品揃え数の多さを武器にした大手企業の進出が目立つ。この中で生き残るには、原点である「接客」での差別化が不可欠だ。だがプロ販売員を育てるには時間もコストもかかり、誰もが即戦力になれるわけではない。この弱点を解消しようと思い立ったのが、「顧客の声」カードの収集だ。一見陳腐なこの手法が実はB社の最大の武器となる。顧客が何をほしがっているのか、どのような加工を望んでいるのかは顧客自身の要望メモや店員が記入するメモとなって蓄積されていく。この数は週100枚以上。内容は責任者がきちんと目を通し、売り場にフィードバックする。さらにはメモの収集枚数が店員の業績評価にもつながる仕組みを導入した。結果的に担当部門の品揃え、顧客ニーズにはきめ細かい対応をせざるを得ないことになる。メモの内容は一応パソコンで項目ごとにデータベース化しているが、これはあくまで保存用。傾向分析は行うが、それは参考まで。メモは「熱い内」に対応策を取ることが鉄則だ。メモという極めてアナログの仕組みでも立派なCRMが展開できるという事例でもある。

ケース3:わずか2人で6万の会員に対応

オンラインショップは、実店舗に比べても、ワンツーワンの対応が実施しやすい。そもそも本質的に「個客」への対応が前提になるからだ。これをたった2人で実施しているのがC社である。C社は地域名産品を製造する地場企業を集めて、1種の「うまいものモール」をネットで展開している。地域名産、とりわけ食品分野のこの種の商売はネットでは激戦区だが、C社は「本当にうまいものを作っている業者はITにはうとい」との見解から、あえてITに弱い業者が参加できる仕組みを作り上げた。サイトづくり、顧客対応はC社が代行するが、注文情報はファックスで業者に送られ、顧客に直送する仕組みだ。既に年商は3億近くに達しており、競争が激しい食品オンラインショップの中では勝ち組になろうとしている。
 C社の商売のコツはネットでのeCRMの徹底だ。パートはいるが社員は1人。社長含め2人体制だ。ネットの商売はまずは「顧客候補」の獲得が大前提だ。通常これは「会員化」という形を取ることが多い。会員として住所氏名等を記入してもらい、替わりに次回以降の注文に際しては、簡単入力が可能になったり、ポイントが加算される仕組みである。この会員数は既に6万人。ほとんどが「口コミ」で増えた行った数である。この6万に対するアプローチの方法がネットの商売の腕の見せ所で、基本はメールでの販促だ。最近のオンラインショップは、「市販」のパッケージソフトを利用して、店作り、データベースづくり、DM発送等が可能となるものが多いが、C社はデータベース、顧客管理はあえて自前で徹底的に検討した。メール販促にはそれなりのノウハウがある。6万の名簿から、「本当の優良客」を探しだすのがポイントだ。この試行錯誤で、今では上位2割の客が全体の8割の売上を担う形になっている。いわゆる「ニハチの法則」が適応されたわけで、この2割の優良客への個別対応がC社の成功の秘訣でもある。特別のオーダーへの対応といったハイタッチなサービスを実施中。また、利用者の特性や接続環境に合わせ、見せる画面を変える仕組みを導入し始め、利用者ニーズに即した情報提供を導入したところだ。実店舗では面倒はこうした仕組みが、ネットでは比較的手軽に導入可能だ。しかもシステムの力を利用したeメールマーケティングの仕組み等と優良客に対するハイタッチな個別対応が上手く組み合わさった事例でもある。

<ケース4:まね事のCS調査を導入して失敗>
 CSつまり顧客満足を起点とする経営視点は中小企業にも浸透している。「顧客ニーズ」「顧客不満」「クレーム」を徹底的に洗い直し、その見直しから経営を一から組み建て直そうとするもの。もっとも大企業とはいえ、CS推進部は作るものの、単なるCS調査の実施どまりで、経営への反映は進んでいないことが多い。トップマネジメントが加わる体制になっていないことが多く、CSという掛け声やポスターだけに終わっているケースも目に付く。最近では中小・中堅企業にもこのCS調査の実施を売り込む企業も出てきている。D社もこれに乗っかった事例の1つ。東北地区で農機具の販売を行っている従業員20名の中堅の企業だ。実施したのは取引先の農家へのアンケートだ。通常は現場の営業や販売員が関与しないよう、郵送で送るケースが多いが、D社は出入りの営業担当が農家に手渡し。「会社が変なことを始めたので、スミマセンが協力して下さいヨ」といった具合である。もらった方も大弱りで、何しろ日ごろ出入りしている営業担当を目の前に、本音の不満が率直に言えるわけがない。おまけに「何とか上手く書いて下さいヨ」と頼まれれば、悪いことは書けないということになる。かくしてCS調査の結果は「顧客満足度の高い良い会社」ということになり、トップは「さすが我が社」とご満悦という結果になった。CSの情報は利用次第ではCRMの基本となるものだ。日常的なクレーム情報、営業の現場からあがってくる顧客の声をきちんと集約させる仕組み、改善をフィードバックする仕組みを作れば、これこそCRM経営の基幹システムとして稼働する。これに定期的なCS調査を加えて、体系化するのが基本でもある。こうした仕組みや発想もなしに、ただ業者のいいなりにCS調査やCS経営のまね事を行っても成果があがらないのは言うまでもない。

<ケース5:顧客の顔が見えない>
 カードを利用した顧客情報の形はケース1でも取り上げたが、この失敗例は大企業でも多い。 最大の理由は「顧客のカード化シェアが高まらず、一部の顧客の顔しか見えない」というものだ。つまり全利用者の1〜2割の顧客の情報を分析しても、それは店全体の傾向とは乖離してしまう恐れがあるということである。
 中小・中堅企業の現場にもカードが入り込んでいるがE社は中部地区の小さな都市のスッピングセンターのディベロッパーである。テナントにはアパレル等比較的高額品の商品を扱う店も多く、カードはクレジット機能付きを導入した。しか
カラー もカード利用者には一律3%割引を実施。これが敗因となった。まずはクレジット機能が付いたことで、カードホルダーの数が増えない。カードが溢れている中で新たにクレジットカードをわざわざ持つ意味が見つからない。しかも地方都市にはまだクレジット嫌いが目立つ。クレジットカード機能の付いた会員カードを導入した場合、全顧客に占めるシェアは都会の大企業でも多くて3割というところだ。E社のケースではこの割合は1割にも満たなかった。つまり折角顧客情報の入手をもくろんだのに、全体の1割弱の顧客の顔しか見えないということになる。しかも3%割引が足を引っ張ることになる。一般的にカードによる販促の鉄則とは「良い客には最大限お返しする」ことだ。誰にでも割引をしていたら、これは単にシステムコストをかけただけの新たな割引手法となってしまう。コストだけかさみ本来のCRMの効果は期待できない。カード導入が本来の役割を達せず、新たなコストアップ要因になってしまう危険性もあるということだ。

●中小・中堅企業の行うべきCRMとは

 事例を通じて得られる教訓がいくつかあるようだ。まとめてみれば次のようになるだろう。
・流行の手法に飛びつく前に、まず自社での必要性をきちんと考えること
・必ずしもシステム導入等ITから考えず、アナログで出来ること、まず第1歩として出来ることを洗いだしてみること
・CRMの原則は「顧客を起点に考える」ことを肝に銘じ、体得するステップを先に組み入れること
・トップあるいはそれに準ずる人の深い関与を前提にすること
・顧客情報分析、データマイニング等難しい手法は多々あるが、まずは「顧客の顔を見る」とりわけ「誰がお得意様か」を明確にすることを第1歩として考えること


 

 

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