金融サービスのマーケティング

マーケティング業界の構造

保険毎日新聞:97.3(C2−01)


■この連載の最初の頃にも一度書いたことがあるが、金融業界の人はかなり「マーケティング」あるいは「マーケッター」に偏見を持っている。保険会社のある部長氏には「マーケティングの人って、変なカタカナばかりしゃべるから・・」と言われたものである。一方ある銀行の若手社員からは「個人的にはマーケティングには関心があるが、社内的にそんなことを言うと、白い目で見られるから・・」というコメントを頂いた。いずれのケースももっともな話である。これはこう見られるマーケティング業界の方が悪いのであり、きちんとしたイメージ形成をしていないのと、マーケティング業界にも色々なグループがあるということなのだ。そこで今回は、マーケティング業界の権力構造を暴露してみようと思う。業界関係者が本紙の愛読者であることはちょっと想定できないので、何も書いても大丈夫である。



●マーケティング学者グループ

 マーケティング界には多くの学者グループが存在する。何度か学会のようなものをのぞいてみたことがあるが、ビジネスの趨勢の3〜4年後を追い、その理論付けを行うというのが主な仕事である。例えば日産のセフィートがヒットした3年後位に「日産セフィーロのヒットの背景」などという論文が表れたりする。その論文の最後にはお経のように長い「参考文献一覧」がついており、通常はたくさん参考にすればするほど良い論文とみなされる。もちろん米国のマーケティング理論の後追いという重要な仕事もある。これなどは本屋で分厚い訳書となって出現し、役に立ったような気はするが、あまりビジネスには役に立たないのが常である。むしろ初心者の方はこういう本よりも、学生向け、新入社員向けに書かれたやさしい手引き本を読むことをお勧めする(こうした本はかなり実務経験のある非学者系の人が書いている)。

 日本ではマーケティング学者は、実際のビジネスと縁遠く、学者が理論的あるいは実務的にビジネスの成否に関わったという話は皆無である(アメリカでは結構存在する)。「理科系の学者が実際に橋を作ったりビルを作ったりすることに貢献していることに比べると俺たちはむなしい」というマーケティング学者のなげきを聞いたことがある。


●トレンドセッターグループ

 保険会社部長氏が嫌いなグループの筆頭がこれである。わけのわからないカタカナ言葉を連発し、時代のトレンドを作ると自称する。広告代理店業界や一部シンクタンクに多く、年末になると翌年の消費のキーワードを発表したりする。もっともこれが当たる確率はかなり低く、その場合は「時代は次々に変わっていく」という解釈で不問に付される。最近はカタカナキーワードやアルファベットのキーワードは陳腐化しており、ひらがな、漢字が多用される。このグループの弱点は、本人がイキのいい内は様になるが、オジサン、オバサンになってくると、今1つ説得力が欠けることだ。


●クリエイターグループ

 デザイナー、コピーライターといった純粋なクリエイティブ業務に携わる人ももちろんマーケティング業界の一翼を担う。だが存在感はかなり薄く主流ではない。そもそもマーケティングが一応リクツであることを考えれば、感性的なクリエイティブ業務との接点は薄いものだ。また一匹狼や個人事務所の人も多く、下請け構造の中に吸収されており、発言権自体も低いのが常である。


●マーケティングコンサルタントグループ

 筆者も一応これに属する。コンサルティングの成果が上がらないと訴訟をおこされる危険があるアメリカと違い立場はかなり気楽だ。
これも理論派と実務派に分かれ、医者でいうと前者は診断に強い、後者は治療に強いといった形である。両者ともに強い人は滅多に存在しない。後者の人たちはマーケティングコンサルタントを名乗ることを嫌う人もいる。
 もちろん企業所属のコンサルタントと独立自営組もいる。前者、特に外資系コンサルタント会社では2〜3年在籍すると一応メソッドが身に付くので、力がついたと錯覚し独立する人もいるが、ここでの成功確率は割と低く、筆者の友人も何人も夜逃げをした。


●企業内マーケッタ

 消費財メーカーでは一応それなりに日の当たる部門である。ただし自社流マーケティングノウハウの伝統といったものに色濃く左右される会社もあり、革新的であるべきマーケティングセクションはかなり保守的でもある。
消 費者と接点のある企業であれば、どこでもマーケティング部があると思うのは大間違いで、流通業には滅多に存在しない。某百貨店では一時創設したものの半年で消滅した。理由は「百貨店におけるマーケティングとは何か」が不明であったからだ。同様の理由は金融業界でも当てはまり、数少ないマーケティングセクション担当者は日夜頭を痛めている。という方のために本連載はかくも長く続いているわけである。


●結局は属人的ノウハウである

マーケティングとは確かにメソッドでもある。だがその目的を「ビジネスの成功確率を高める」ことに置くなら、その最大の要因はやはり人間的な能力、資質の要素であると思う。マーケット本位に考えることができ、センスのある人間をいかに抜てきし、育てるかが、最大のマーケティングであるということなのだ。


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