金融サービスのマーケティング

ロイヤルティマーケティング

保険毎日新聞:97.11(C2−08)


■マーケティング業界ではさまざまな流行語が飛び交う。最も多いパターンは「○○マーケティング」と称する呼び名である。データベースマーケティング、リレーショナルマーケティング、one to oneマーケティング、フィールドマーケティング・・・等々その数は枚挙にいとまがない。金融サービス関係者がマーケティングを嫌う理由の1つもここにある。安定と安全を重んじる業界関係者からみれば、軽薄に見えるからであろう。
だが一見軽薄なマーケティング用語にも役立つものは多々ある。ロイヤルティマーケティングはその1つである。今回はロイヤルティマーケティングを取り上げよう。



●ロイヤルティマーケティングとは

 ロイヤルティマーケティングとは、企業に対するロイヤルティの高い顧客を育成し、固定化する手法を総称したものだ。企業ロイヤルティといえば企業忠誠心であるし、ブランドロイヤルティといえばブランド忠誠心と訳される。ロイヤルティマーケティングを直訳すれば、「忠誠心向上マーケティング」でもある。
一見単純なロイヤルティマーケティングであるが、これを実現するためには、次の前提条件が必要である。

1)自社に顧客政策が存在すること
2)自社の販売政策の中心が業界内シェアアップではなく、顧客シェアのアップに向いていること
3)ロイヤルティアップのための具体的な手法が展開可能であること


まず1)の顧客政策から説明しよう。顧客政策とは、
・顧客の意味と定義が明らかである
・顧客区分の体系を持っている
・区分した顧客との関係のあり方が明確である
・顧客との「対話」「関係強化」のシナリオを持つこと
等から構成されている。

 多くの企業は社内的に「顧客」という言葉を使うが、その顧客の定義はかなりあいまいである。既存顧客をさすのか、潜在顧客をさすのかも曖昧だ。また金融業界では、過去の顧客と現在の顧客の定義も曖昧である。カード業界では、デッドやスリープの顧客を平気で顧客にカウントしており、死んだ子の年を数えるような視点を抜けきれない。
ここでの定義が明確であるかどうかがまず問われる。

 次に必要な視点が顧客の区分体系である。
これまた金融業界では曖昧だ。保険業界のように、商品開発と販売が一体化している業界では次のような視点が必要となる。

・商品開発のためのターゲット区分(ターゲットマーケティングについては以前の連載で取り上げた)
・既存顧客に関する顧客評価区分


 ロイヤルティマーケティングに必要なのは、後者の区分である。要するに「誰がいい客か」という定義、判断基準、区分が必要なのだ。
平たくいえば「上客抽出基準」である。今はもっと進歩しているのかもしれないが、その昔保険会社の担当者に聞いたところでは保険業界における良い客とは
・黙っていても契約を更新してくれる客
・たくさんの保険に入ってくれる客
・事故のない客
との回答であった。これはこれで正しいが、当時の発想では要は「手がかからない客」「うるさくない客」を上客ととらえていたのだ。こうした後ろ向きの発想を少し前向きに進歩させたのがロイヤルティマーケティングである


●ロイヤルティマーケティングの手法

 ロイヤルティマーケティングでは上客を作り出すことに主眼が置かれる。この上客とは流通業であれば「利用額と頻度がが多く、かつアクティブ(過去半年あるいは1年以内の利用客)である顧客」である。またもっと単純にリピートオーダーカストマーを上客とみなす定義もある。良く買う客、あるいは良く利用する客を上客と定義すれば良い。
保険業界でいえば、

・利用商品の種類(生保も損保も利用するか)
・利用商品の数(多くの商品を契約しているか)
・継続率


等を掛け合わせた変数が上客の定義となるだろう。

 ロイヤルティマーケティングの手法としてはエアラインの用いるFFP,流通サービス業に多く見られる「ポイントストック」等が一般的である。なぜなら誰が良い客かシステム的に確認可能な手法は限定されているからだ。これが金融機関であれば、一定基準の取り引き顧客に対しては、貸し出し金利を下げる、あるいは預金金利をあげる等の対応が見受けられる。外銀はこのあたりの設定が実にドラスティックで、良い客と下々の客との間には天と地ほどの差があるケースが見られる。

 要するにロイヤルティマーケティングとは「お客様は神様である」という発想から「良く利用する、あるいは良く買う客が神様である」という視点に変更することであり、神様とそれ以外の客の間には、徹底的な差をつける手法でもある。これを「顧客重要性に応じたインセンティブ体系の設計」と称するが、概して日本企業はこの設計が苦手である。顧客に差をつけるのをよしとしない。

 ビッグバンとは言い換えれば「差別化戦略」と「顧客政策」の徹底でもある。その先端手法であるロイヤルティマーケティングの手法を少しは検討して置いた方がよいだろう。


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