金融サービスのマーケティング

困難さ増す流通チャネル政策の行方ー

保険毎日新聞:99.09(C2−21)


■モノのマーケティングには、4つのPがあることはこれまでも何度も書いてきた。プロダクト、プレイス(チャネル)、プライス、プロモーションのいわゆる4Pである。保険の世界では、従来流通チャネル政策(プレイス)がもっとも重要で、ここでの規模を競うことが、主要なマーケティング課題となっていたことも取り上げた。ビッグバン時代を迎え、本格的な製品、価格の差別化に突入したわけだが、肝心の流通チャネル政策も変わらざるを得ない。今回は流通チャネル政策を再検討してみよう。



流通チャネル政策の変化
 流通チャネル政策については以前にも取り上げたことがあるが、そこには大きく3つのスタイルがある。
)開放的チャネル政策:できるだけ多くの店と取引し、市場を広くカバーしようとする政策。最寄り品などに多い
2)選択的チャネル政策:ロイヤルティの高い店を選別し、取引を重点化することで販売努力の集中を図るもの。結果的に流通活動の効率化を促進し、店側の協力度を高めることを意図する。だが店側の方で、何社とも同様の取引関係を結び、結果的には開放的チャネル政策と変わらないケースもある。
3)専属的チャネル政策:一定地域等で独占的販売権を与えるもの。他社製品を扱わない排他的契約を結ぶ。
 こうした伝統的流通チャネル政策にはメリットも多いが、デメリットも多い。特に最近では消費者や流通構造自体の変化により、次のような弱点が表面化してきた。

1)莫大な流通チャネル維持コストがかかる:流通過程における値崩れ防止等のメリットもあるが、一方で流通チャネルの維持のために、ばく大なコストがかかる。このコスト負担が、果たして将来も維持できるのかの、検討を余儀なくされ始めた
2)過保護と自助努力の欠如:化粧品、家電流通の世界に典型的に見られるように、系列のチェーン店をさまざまな形で援助してきたが、結果的にはそれが過保護状態をもたらし、店側の自助努力を妨げてしまった。「おんぶにだっこに肩車」と言われるような、過剰なサポートが、店側の体力や特に変化対応力を低下させてしまった。一方、メーカーの方も、小売店の選別と絞り込みに乗り出し、流通チャネル政策の「リストラ」が促進された。

チャネルキャプテンという概念
 
保険の場合も事情は全く共通だが、消費財の場合と比べ、やや異なる状況がある。それが「チャネルキャプテン」という考え方だ。伝統的チャネル政策では、メーカー、卸、小売店が一体となり、誰もがほかの構成員を容認することが前提となる。結果的にこれが大きなパワーを生み出す源となるわけだ。
これを「垂直的マーケティングシステム」と呼ぶこともある。この垂直的マーケティングシステムでは必ず「リーダー」が存在する。このシステムを一定の秩序に調整する支配者というわけだ。これが「チャネルキャプテン」である。多くの消費財の流通の場合では、メーカーがこのキャプテンの地位を誇ってきた。マス広告による大量の情報の投下と強力な製品開発力を武器に、流通プロセスをコントロールすることが出来たわけだ。
だがここに来て事情は一変する。多くの消費財の場合、消費と生産を結ぶ接点として、小売段階の重要性が高まる。結果的に顧客接点の現場である「流通業」がチャネルキャプテンとしての役割を発揮するようになり、従来のメーカー主導の流通政策の効果が薄れ始めた。

 保険の場合は、流通段階の情報力、提案力の弱さ、消費者へのプレゼンスの低さも相まって、キャプテンは相変わらず保険会社だ。結果的にこれが他業界に比べた時の業界全体の変化対応力や、革新性を低下させる原因ともなっている。
だが事態は一層激変する。消費者がキャプテンとなるような状況さえ出現し始めた。サイバービジネスの最新モデルでは、いずれもキャプテンは消費者である。これを「バイヤードリブンモデル」あるいは「カスタマー・セントリックモデル」というが、価格決定権を含め、エンドユーザーがすべての決定権を持つようなモデルが台頭してきた。これが保険流通の主流になるとは思えないが、たとえば自動車流通の世界では、既に購買プロセスの支配権は消費者に移りつつあるといってもいいだろう。ディーラーの役目は、「選ばれたあとのサービスの徹底と、次回購入に向けてのリテンションマーケティングの重視」ということになり始めている。また消費者側が主導権を持てば、ディーラーの品揃えは、従来の系列を離れざるを得ない。個性を持った、あるいは選択肢の多い商品をラインアップすることで、消費者の選択に耐えようとする動きが始まっている。

 一方で従来の垂直的マーケティングシステムでは想定されなかった「仲買人」の役目がクローズアップされてきた。仲買人とは「需要」と「供給」をつなぐ、第3者の役目であり、たとえば保険流通であれば、各社の保険の見積もりや、ライフスタイルに則したシミュレーションサービスなどを提供し、最適の選択を促す役割の業者だ。すでにネットワークの世界ではこの「仲買人」こそがビジネスの主流であるとの議論も生まれ始めている。
 川上の企業がチャネルキャプテンであった時代はもはやそう長くは続かないだろう。だが、すべての点で消費者がキャプテンになりえる状況が生まれることは想定できず、川上企業としては「選択的チャネル政策」の中で、「優良チャネル」を一層強化育成する始点も一方でより必要となることが予想される。時代や技術の変化の中で、今一番難しいのは「流通チャネル政策」であることだけは確かである。



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