金融サービスのマーケティング

21世紀型マーケッターの条件ー

保険毎日新聞:99.10(C2−22)


■ 最近のマーケティング環境の変化は著しい。本稿でも何度か取り上げたことがあるが、マーケッターに必要な資質も変わりつつある。



マーケティング環境の変化
 今、マーケティングの世界は大揺れだ。何故なら従来の手法や理論が通じなくなってきている。インターネットの場を見ると、これからのマーケティングのトレンドをかなり占うことができる。
 まず幅を利かせているのは、経験則やルールだ。ウェブが出来てたかだか5年程度という背景もあるが、理論を実証している暇に事態はどんどん変わってしまう。インターネットの世界では学者の存在価値はなかなか厳しいものになっている。さらに既存の常識が通用しない。マーケティングの世界はかなり「常識的」で、例えば、価格政策、販売促進の方法、流通チャネル政策の内容等は、そう大きく変わるものではなかった。ところがネットの世界では非常識、脱常識のビジネスモデルが横行している。小売業の癖に利益率ゼロを標榜する「バイ・コム」のような例もある。小売業とは何か、流通構造とは何か、が根本的に問われ始めた。 さらにここでは「消費者が偉い」ことが大原則だ。消費者が選択し、すべてを決める。売り手は、この選択に耐える仕組みで徹底的に競い合うことを余儀なくされている。さらにもう1つ。従来の概念プラス別の能力が問われている。例えばネットの世界の小売業の成功モデルの1つは「コミュニティ&コマース」あるいはmore than buying〔買うだけではない)というものだ。商品を販売するだけではなく、深い情報とインターラクティブなやりとりを機軸とするコミュニティ機能が問われる。ここでの「店主」の条件とはもはや小売業者の感覚ではなく「雑誌の編集者」の感覚が不可欠になっている。

21世型マーケッターの条件

1)拡散と収束の能力
 最近ナリッジマネジメント等の本が売れている。内容は様々だが、そこで共通に述べられているのが、発想法やそれをまとめる技法についてだ。そこで問われる能力が「拡散と収束」の能力だ。これは製品開発に携わったことのある人なら理解できるだろう。開発にあたっての第1ステップはアイデア出しだ。アイデアラッシュ、ブレーンストーミング、シネクティクスなどの技法もよく利用される。ここではとにかく発想を拡散させることが求められる。人のアイデアにケチをつけることなく、範囲を狭めることなく、自由かつ奔放なアイデアが重視される。だが拡散だけではモノは作れない。そこで重要なのが「収束」の技術だ。これには昔から沢山の技法がある。KJ法などはこの代表例であるし、ツリー図などを書く場合もある。シンクタンクの1部では、まずツリー図を書くことを新人に徹底的に訓練したりしている。拡散と収束のトレーニングをしているか、いないかが、マーケッターの資質の大きな要素となり始めた。

2)定量情報と定性情報の分析能力
 これは以前にも書いたことがある。マーケティングの現場では定性情報の重要性がますます高まりつつある。定性情報をデータマイニングなどの手法で分析することも増えてきた。だが基本はマーケッター個々人の「読み」が重要だ。まさに拡散型情報の代表のような定性情報から、いかにヒントを得、かつ収束させた上での体系的問題整理を行うかが、問われている。

3)創造性の6要素
 ヒラメキ、創造性ということがよく言われる。経営者の多くもこれからは創造性のある人材を重視したい・・などと口にする。だが実際に「創造性とは何から形成されるのか・・」という各論になると、ブラックボックスだ。ギルフォードという人に言わせると、創造性を構成する要素には次のようなものがある。1)問題への感受性、2)思考の「流暢さ」3)思考の柔軟さ、4)思考の独自性、5)再構成する力、6)具体化する力。れを見ると、単なる思いつきと「創造性」との違いが一目瞭然だ。

4)専門の多面性
 インターネットを見ればこれも一目瞭然だが、冴えているホームページ(クールサイト)、あるいは売れているビジネスサイトには共通の要素がある。1つは例えビジネスサイトでも前述の雑誌の編集者のような感覚が伴っていること。もう1つはインターネットという制約の多いまだまだ買いにくい場での購買心理を理解していること、さらにもう1つはページデザインに対する基本的なポリシーがあることだ。結果的にデザインしか出来ないデザイナーの作ったホームページは評価されず、デザイナーはマーケティングや心理学を理解しないと存在価値が発揮できない。結果的に専門とは何か・・の再定義が必要になってきた。

5)スペシャルイズスマートへの本質的理解
 最近金融業界は再編ラッシュで、あたかも「大きいことは良いことだ」の世界だ。
「巨大」「統合」「総合」金融機関として勝負するならこの戦略も妥当性があるが、時代はこうしたコンセプトを許容し始めなくなっている。サービスマーケティングの原則では「総合で生き残れるのは上位3社まで」という大原則があったが、ネットの世界ではこれは1社までになってしまった。 要するに、ネットの世界をこれからのマーケティングトレンドの趨勢を占う場としてとらえるなら、総合金融機関の必要性は1社で良いということにもなりかねない。
 結果的に2位以下は「正しい2番手戦略」を余儀なくされることになり、それはスペシャルイズスマートへの本質的理解ということになるだろう。



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