●正しい顧客に関する経験則
一般論でいえば、「正しい顧客」とは「少なくとも一定期間、安定したキャッシュフローと企業の投資に対する有益な見返りを提供する人々」のことである。結果的にロイヤルティを獲得、維持できる人のことだ。
日本のマーケティング界では、「この正しい顧客」議論を心情的に嫌う風潮がある。特に顧客を「区別」することへの抵抗感が大きい。だが現実的には顧客を区別あるいは選別しない限り、ロイヤルティマーケティングは事実上展開できない。アメリカ流のロイヤルティマーケティングはこの点はドラスティックだ。以前にも書いたが、最下位顧客については「BZ」(ビロウゼロ」と命名し、「どうぞ他社へお移りください」という姿勢を明らかにする。日本で抵抗が大きいのはこのBZ問題だ。だがこの問題を除けば、「正しい顧客」を明らかにするのには別に支障はないだろう。
そこで「正しい顧客」議論をいくつか紹介しておこう。まずは経験則から出てくる「正しい顧客」議論というものがある。ここでは正しい顧客を次のように分類する。
・消極的だが重要な顧客:取り引き相手に左右されることがないロイヤルティの高い顧客のこと。彼らはただ取り引きが安定し、その関係が長期化することを望んでいるだけだ。現状企業に対しては積極的評価というわけではないが、ライバルに変えるほどのこともないという人たちだ。それなりに安定して入るが、影響力(口コミ効果など)は少ない。
・歓迎すべき顧客:より多くの金を使い、支払いも早い。おまけに口うるさいことも言わず、大したサービスも要求しない。それなりに現状取り引きへの満足度が高い。品質面というより、その利便性、便宜性に恐らくは満足度を感じている人たちだ。
・積極的顧客:その企業の製品やサービスの方が、ライバル企業に比べ、優れていると考えている顧客のことだ。いわゆる「○○ファン」と呼ばれる人たち。「ソニーファン」「アップルファン」などが代表だ。その製品ブランドの価値観に共鳴している場合が多い。
自ずと、製品面の差別化が相対的に少ない保険業界の場合は、現状では前2者が「正しい顧客」であり、積極的顧客の創造は将来的課題ということでもある。
●マーケティングコストからみた「正しい顧客」
一方マーケティングコストからみた「正しい顧客」議論もある。ここではマトリックスをイメージして欲しい。横軸は販売価格の軸だ。右側は定価販売、左側はバーゲン販売を意味する。つまり企業にもたらされる利益の多寡を規定する軸だ。一方縦軸はマーケティングコストの軸だ。上は高い、下は低いと理解すればよい。これで4つの象限が出来上がることになる。第1象限(右上)は定価で購入してくれるが、一方マーケティングコストも相対的に高い顧客のことだ。これを「上客」と呼ぶことがある。第2象限(左上)はバーゲン志向が強く、一方マーケティングコストがかかる客のことだ。これを攻撃的客と呼ぶ。これは百貨店が行っている5%割り引きカードなどを想定すればよい。あれはシステムコストをかけ、5%割り引きという言葉に敏感な「攻撃的客」を創出しているに過ぎない。
一方第3象限(左下)は、マーケティングコストはたいしてかからないが、バーゲン価格でしか反応しない客。これは文字どおり「バーゲンハンター」である。最後の第4象限がマーケティングコストもかからず、一方で企業にもたらす利益も大きい客だ。これは消極的顧客ではあるが、歓迎すべき顧客である。
この4つのマトリックスからみれば、どれが「正しい顧客」であるかは明らかだろう。「上客」と「消極的顧客」ということになる。ただし、新製品浸透時、競合他者とのシェア争い時等においては、「攻撃的客」の獲得を余儀無くされることもあるということなのだ。
さて「正しい顧客」にフォーカスを絞ることが、なぜ重要なのか、なぜ「正しい顧客」が企業に収益をもたらすのか、ということだが、これは顧客がもたらす利益構造を分析してみればよい。費用としては「顧客獲得費」がかかるが、もたらされる利益としては「基準利益」「購入増による利益」「オペレーティングコスト低下による利益」「クチコミ紹介による利益」等が想定できる。先のマトリックスによる「上客」の場合は、それなりに顧客維持コストはかかるが、もたらされる「購入増」や「口コミ紹介」が期待できるということであり、一方で「消極的顧客」については、オペレーションコストの低減が見込め、一方で、対応次第では購入増も期待できるということになる。
この利益構造は当然、顧客としての継続年数により大きく異なる。基準利益こそ一定だが、その他の利益は原則増加が見込める。これがロイヤルティマーケティングの前提でもある。
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