デビットカードの本格展開とその対応ー

飲食店経営:00.04(D1−15)


2000年3月よりデビットカードサービスの本格展開が始まった。J-Debitという名称で、日本デビットカード協議会に加盟している金融機関が発行するキャッシュカードで、直接ショッピング等の決済が可能だ。年内には利用可能店数は10万店に広がる見込みだ。
過去1年の試行運用期間を経ての実施だが、今のところ経過は順調。取扱高も順調に伸びている。
飲食店業界として、このカードをどう理解し、どう取り組めばよいのかまとめてみた。



1 デビットカードとは

 まず定義を明らかにしておこう。デビットとは会計用語で「借方」を示す言葉である。その後「即時決済」の意味で使われるようになり、使用時点で直ちに銀行等の口座から引き落とされる形式のキャッシュレスシステムをデビットカードと総称するようになった。 欧米では既に一般的なサービスだが、日本では事実上1999年より導入が開始された。

 デビットカードは即時決済カードであるが、利用時点ではカード1枚で買い物が可能なシステムだ。他のキャッシュレスの仕組みとの違いを明確にしておく必要があるだろ)。
キャッシュレスの仕組みには次の3つの種類がある。前払い、即時払い、クレジット払い(後払い)がそれである。前払いはプリペイドカードとして普及している。一頃は全国どこでも、何の店でも使える汎用プリペイドカードの登場が喧伝されたが、結局のところ、これは鉄道、交通、書籍といった一定範囲内で利用可能な「クローズドシステム」の決済として定着した。

 一方クレジットカードは周知のとおり、昭和30年代からの普及の歴史がある。既に決済面のインフラとして定着しているといってよいだろう。カード発行枚数も2億枚を越え、国民1人1枚以上所有している計算になる。

 デビットカードは、銀行や郵貯の発行しているキャッシュカードをそのまま利用する。発行枚数は、既に3億枚に達している。これもクレジットカードと同様、加盟店であればどこでも利用できる「オープンシステム」のカードである。
 最近では、これに加え、電子マネーのシステムが登場している。これはICカードを利用したものだ。カード内に金額情報を入力し、その分の金額を利用することができる。またクレジットカードとしての利用も可能だ。電子マネーとは、3種類の決済システムを統合する役割を担うカードでもある。現在各地で実験が行われているが、今のところは芳しい成果をあげていない。

 以上の結果からみると、デビットカードとは、クレジットカードと並ぶ「汎用型」のカードであり、実験段階の電子マネーとは異なり、既に流通している3億枚のカードが、そのままキャッシュレスのツールとなる、ということなわけだ。そのインパクトは相当大きいと見ておいた方がよい。

 なお今でこそデビットカードという名称が定着したが、実は1980年代に1度実用化の試みが行われ、見事に失敗している。当時は銀行POSという妙な名称が使われ、利用に際しても、個別銀行との書面の契約が必要であった。また加盟店が支払う手数料も柔軟さに欠けており、消費者側からも加盟店側からも、すっかりそっぽを向かれたものである。 当時の反省を踏まえ、今回の動きは書面契約も不要、手数料も格段に安くなった。要するに、使いやすいシステムを目指し、それなりに変身を遂げたのが、昨年からの形でもある。

2 デビットカードの利用状

 汎用的なキャッシュレスシステムとしてはクレジットカード、デビットカード、さらには電子マネーがあるわけだが、一体この3種類をどう棲み分けさせるのか、という疑問がある。当初業界の思惑としては、高額決済はクレジット、中額決済(1万円位まで)はデビット、小額決済(数千円以下、あるいは小銭の世界)は電子マネー、といった使い分け論が存在した。

 実際にデビットカードの利用が始まってみると、思った以上に高額場面で利用されていることが明らかとなった。

 今年2月までの第1フェーズでは9つの金融機関と1万店強の加盟店が参加していたが、その間の累計利用金額は132億円に達している。この間の述べ取引件数は46万4千件であるので、平均単価は28500円ということになる。この単価は昨年1月段階では19000円程度であったが、月を追うごとに上昇し、昨年後半からはほぼ3万円を上回っている。

 つまりデビットカードは当初思われていたような「中額決済」のツールというよりも、むしろクレジットカードと同じ、あるいはそれに替わるツールとして利用されていた、ということになる。もちろん、千円、2千円といった低額の場面でも利用することは可能である。だがクレジットカードでも、抵抗なくカードを差し出す下限の金額は3〜4千円程度と言われており、利用者レベルでは、全く同様の購買心理が働いたものと推察される。
欧米でも、デビットカードがクレジットカードのシェアを侵食しているような事態が見受けられるが、上記の結果からみると、日本でもほぼ同様の事態が予想されるところだ。

 となると、加盟店サイドとしては、従来のキャッシュレスツールの主役であったクレジットカードと対比させながら、デビットカードの導入メリットを検討しておく必要がある。

3 デビットカードのメリットとデメリット

 ここでデビットカードの基本的なシステムをまとめてみよう。

・既に流通している銀行や郵貯のキャッシュカードがそのまま利用できる
・特別な手続き、入会申込等は不要
・利用に際しては、店頭でカードを出し、普段ATMで利用している4桁の暗証番号を専用のキーパッド(入力機)に打ち込む
・代金は利用者、銀行間で即時決済されるので、代金未回収のリスクが発生しない。
・加盟店側にとっても、従来のCAT(クレジットカード信用照会端末)に加え、暗証番号入力用のキーパッド程度の設備で済む
・手数料はケースバイケースだが、1〜2%程度。上限も設けられている(千円程度)。
・加盟店への入金は利用時点+3日後程度
・利用時点での残高確認は現状のクレジットカード処理と同様、20秒程度

といった状況だ。

 以上を踏まえ、まず消費者側のメリットをまとめると、次のようになる。

1)手持ちのカードがそのまま使える
2)銀行残高の範囲内でしか使えないので使いすぎの心配なし
3)新しいキャッシュレスス手段が増える(現金携帯リスクの低減、購買機会を逃さずに済む等)
4)現金を引き出す手間がなく、手数料も不要(
買いたいものが見つかり、手持ちの金がない時は、今まではわざわざATMに下しに行っていたが、その手間とコストが不要)
一方デメリットもある。

1)利用時間の制限がある(各行によって異なる:例えばシテイバンクの口座を持っている人なら24時間利用可能だ)。
2)残高がないと使えない
3)暗証番号とカードの一層厳重な管理
が必要
4)暗証番号入力を店頭で覗かれる恐れも

次に加盟店サイドのメリットを見てみよう。

)販売機会の増大
2)新たなキャッシュレス手段の提供による顧客サービス向上
3)安い手数料(クレジットカード3〜7%に比べ2%程度であるから格段に安い)
4)クレジットカードに比べ入金が早い(原則利用時点+3日後から)
5)現金ハンドリングコストの低減(シェアが高まればの話であるが)
6)クレジットカードに比べての資金繰りの好転
7)大掛かりな設備投資不要
8)新規顧客の獲得(いわゆるクレジットカード嫌い=借金嫌いの客の吸引等)
9)手数料が安い分、店独自のポイントカードシステム等との連動も可能
(例えばポイントカードで現金払いの場合は10ポイント還元、デビットカードとポイントカードを合わせて提示した場合には、5ポイント付与等)

逆にデメリットあるいは課題としては、次のようなことも想定できる。

1)店頭での暗証番号入力の安全性確保の必要性
2)現金に比べての支払いに時間がかかる
(とはいえクレジットカードと同程度だが)
3)カード利用可能時間と店舗側の営業時間とのズレの発生(顧客不満が店側に向けられることもあるだろう)
4)適性業種が限定される可能性

 最後の4)については、少々解説が必要だが、例えばレジでのスピード処理が必要な業態(混雑時のドトールのようなコーヒーチェーン、ファーストフード等)、客単価が千円以下の業態(ドラッグストア、コンビニ)にはそれほど向くとも思えない。
 要は現金が優先される商売や、カード導入が特に顧客サービスにつながらない商売では、別にメリットは見当たらないというこ
となのだ。この点はクレジットカード導入検討の場合と全く共通である。

 ただ、コンビニでもローソンは導入しているし、ファーストフードチェーンでも導入検討をしているところはある。ローソンは既にクレジットカードのサインレスのシステムがあるので、これとの代替あるいは併用が狙いであろう。クレジットカードに比べ手数料が安いことは圧倒的なメリットでもあり、クレジットカード導入を検討しているような商売の人は、替わりにデビットカードの導入を検討する位のスタンスでいいだろう。

 なおよく決定的な問題点として指摘される安全性であるが、今のところは大きな問題はおきていないようだ。宣伝が利いたようで、暗証番号入力の際には、店側も消費者側もかなり気を使っている。後ろからのぞき込んで番号を盗んだにせよ、カードも取得せねばならない。問題は暗証番号がすぐわかるような形でキャッシュカードを盗まれた場合だが、今後は、泥棒側が直ちにATMに出向く替わりに、デビットカード加盟店に行き、換金性の高い商品を購入するリスクが発生するということなわけだ。

 ただ2000年3月6日より、第2フェーズがスタートした。これはいよいよ本番ということである。参加銀行も600行を越え、利用店舗も年内には10万店を越える。利用件数の増加は確実視されるが、伴いリスクが増えるということは留意しておくべきだろう。
なお、インターネットショッピングの場においても、今後はデビットカードの利用が進むものと思われる。利用方法はクレジットカードの場合と同じで、暗証番号あるいはパスワードを暗号化して送信する方式だ。
インターネットショッピングの活用も考えているような企業は、デビットカードを視野に入れておくとよいだろう。

4 利用者意識

 今のところ、デビットカード利用者は、クレジットカードの替わりに使い始めている傾向がある。日本特有の意識として「クレジットカードは借金をしているようで嫌いだ」というのあるが、こうした借金嫌いの層、あるいは備えとしてクレジットカードを保持していた層がデビットカードに移行している状況も見受けられる。
使いたい場所を調べた調を査では


・1位;百貨店
・2位:飲食店
・3位;スーパー
・4位:ホテル、旅館
・5位:病院
・6位:大型家具店
・7位:高速道路利用
・8位:コンビニエンスストア
・9位:タクシ-
・10位;ガソリンスタンド

といった、状況(日本デビットカード推進協議会調査)。

 この結果は、順位の違いはあるが、クレジットカードの利用希望場面とそう変るものではない。留意すべき点として、飲食店が2位にあがっている。利用者の潜在意識としては、飲食店での利用ニーズが高いことは、認識しておく必要あある。


5 飲食店業界における示唆

 以上から、飲食店業界の取り組み姿勢をまとめてみると、次のような視点が望まれる。
まず世界の流れ、あるいは今までの利用状況からみて、デビットカードが決済システムとして定着することは、ほぼ間違いないといってよい。従って、
消費者サイドに人気のある、決済方法となることの意味は考えておくべきだろう。

 第2にその定着の仕方だが、現在のクレジットカードのシェアを食う形で定着していく可能性も強い。従って、飲食店業界でも、クレジットカードを導入済みの企業、比較的客単価の高い企業の場合は、積極的に導入の検討をしておくべきだろう。手数料の安さ、入金の早さなどを考えれば、クレジットカードからの移行分のコストを販促費に回すことも可能になるからだ。

 一方、キャッシュレスの必然性の薄い企業、現金でのスピーディな決済が不可欠なケースでは、現金からの移行分の手数料支出をどう判断するかが問われる。これは戦略判断の問題だ。手数料を負担してまでもキャッシュレス手段を新たに備えることで、例えばイメージアップ等につながる、新たな顧客サービスにつながる、という判断があるのであれば、検討する価値はあるだろう。



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