電子マネーについての解説書は数多い。技術的な解説の目立つ類書に比べ、本書は、貨幣論からの吟味、経済秩序への影響、金融政策への影響、情報社会へのインパクト、等それぞれの立場から多岐にわたる考察を行っている。したがって本書を一読すれば電子マネーの本質や社会への影響について包括的かつ原点に立ち戻ってとらえることができる。
私たちが日常使いこなしている貨幣が、電子的なものになる。それは概念的には理解できるが、実態を理解するのはなかなか難しい。ネットワークの世界では貨幣という物理的存在は消滅し、それは数字化された情報でしかない。さらにそこでは国境が存在しないし、国家が通貨発行権を持つかどうかさえ、明らかでない。事実現在展開されている電子マネーの数々の動きは民間企業主導型で行われている。こうした素朴な疑問について、答えはまだ見えないにせよ、本書は一定の見解を明示している。この点、本書はインターネットビジネス関係者や経済専門家だけでなく、一般生活者が読んでも興味深い内容だ。
だが疑問も残る。本書は「電子マネー時代が近づきつつある」という前提で書かれたように思われる。現実的には電子マネーの数々の実験は芳しい成果を上げていない。、先駆的電子マネーとして脚光を浴びた「デジキャッシュ」は倒産した。
さらに日本ではインターネットビジネスの決済の場面で、むしろオフラインの決済が浸透し始め、コンビニを利用した決済などが「日本的ECのインフラ」として定着しつつある。市場をリードしている中小電子商店は電子マネーの使いにくさを指摘し、そのメリットには懐疑的な意見を持つものも多い。
本書では後書きでこれらの停滞現象は「過渡的現象だ」と断じているが、果たしてそうなのだろうか。
本書では電子マネーの普及条件として「消費者ニーズに即した展開の必要性」を指摘しているが、その内容は「ショッピング以外のアプリケーションの必要性」といったレベルに留まる。本書の指摘の多くは理論的には納得できるものだが、消費者やビジネスの現場との視点の差がどうしても目に付いてしまう。 |